表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[Web版] 新米錬金術師の店舗経営  作者: いつきみずほ
第三章 お金が無い?
66/166

014 薬草畑 (2)

前回のあらすじ ----------------------------------

サラサが家に帰ると、隣には薬草畑が作られていた。

ロレアから、そこで働く人の紹介を受ける。

「ところで、この畑を管理するのは、マイケルさんとイズーさんという事で、いいんですよね?」


「はい。兄は、“畑”になるまでの間、手伝いに来てくれているだけなので……。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、ご指導のほど、よろしくお願いします」


「私も頑張ります。農作業はこれが初めてだけど!」


 頭を下げるマイケルさんと、手をぎゅっと握って気合いを入れるイズーさん。

 言動やその外見から想像は付いていたけど――。


「イズーさんは、農村出身じゃないんですね?」


「うん、私はサウス・ストラグ産まれのサウス・ストラグ育ち。農村で生活するのは、これが初めてなの」


「マイケルさんは、多少は農業をした事があるんです、よね……?」


 ガットさんの弟なんだから、少なくともこの村にいた間は家の手伝いをしていたはずで。


 でも、日にも焼けていないし、体格的にも農家には全く見えない。


 町で何の仕事をしていたのか知らないけど、筋力にも乏しそうだし、少々不安を感じなくもない。


 栽培方法自体は指導できても、私も農業の専門家というわけじゃないし、小規模に育てる錬金術師の薬草栽培と農業的な大量栽培。違うところも多くあると思う。


 そんな私の心情を察したのか、ガットさんが少し困ったように口を開いた。


「あ~、成人してすぐに村を出ちまったからなぁ……。だが、そのへんは俺も手助けするし、こいつもちょっと要領はわりぃが、愚直に言われた仕事をするだけならできるやつなんだ。サラサちゃん、すまねぇが、長い目で見てくれねぇか?」


「あ、はい、それは別に構いませんが……」


 私自身は錬金術師がメインの仕事。最低限必要な薬草は採集者から買い取ればいいだけだし、一応、裏庭にある自前の畑もしばらくは維持する予定である。


 最初に薬草の種や苗を手に入れるのに投資は必要だけど、仮に失敗して収穫が無かったところで、生活に困ったりはしない。


 でも、マイケルさんたちの方は……。


「薬草栽培が上手くいかなくても、生活は大丈夫なんですか? 日々の生活費とか、住む場所とか……」


「今は兄さんのところで部屋を借りて住んでいます。生活費の方は、しばらくはエリンさんから給料が出ますので……」


「居候って事だな。ゆくゆくはあの辺に新居を建てられたら良いんだが……。子供ができりゃ、居候ってわけにもいかねぇしな」


 そう言ってガットさんが指さすのは、私の家から見て畑の反対側。


 これまでは私の家が村の端だったから、もしマイケルさんが家を建てれば、少し村の範囲が広がるって事になるのかな?


 エリンさんも、『上手くいけば、薬草畑を増やしたい』みたいな事は言っていたし、村人が増える要因になるのかも?


「これは、責任重大ですね」


「いや、気にしなくていいぜ? サラサちゃんは、ちゃんと栽培できてんだろ? 失敗したとすりゃ、その責任はマイケルにある。おめぇ、安定して稼げるまで、子供をつくんじゃねぇぞ?」


「に、兄さん!」


 にやりと笑って肩をパシンと叩くガットさんに、マイケルさんが焦ったように言い返し、イズーさんも少し頬を染める。


 でも、そっか。

 結婚したんだもんね。子供もできるよね。


「ははは……、でも、完全に任せてしまうのも申し訳ないですから、少しお手伝いしますね?」


 できるだけ早く結果が出るに越した事はないと思うし、新婚さんを色々我慢させるのはきっと可哀想。よく判んないけど。


 私、恋人がいたこと、無いし!


「土起こしさえしてしまえば、楽になりますよね?」


 開墾作業で一番大変なのは、固い地面を掘り起こす事。

 幸い、ここに生えていたのは灌木程度で、喬木は無かったはず。


 根っこに苦労させられる事は少なかったと思うけど、それでも地面を掘り起こして柔らかくするのは大変。


 ここだけでも魔法で対処しておけば、ずっと早く畑ができるんじゃないかな?


「そりゃ、ありがてぇが……」


 だよね? 良かった。

 やや困惑気味に私を見るガットさんに頷き、私は魔法を行使しようと、手を上げる。


「じゃあ、早速――」


「サラサさん? もし魔法で藪や草が一掃できても、土を吹き飛ばしてしまうと、畑としては使いづらくなりますよ?」


「……ロレアちゃん、私の事、何だと思ってるの?」


 まさか、『面倒だから全部吹き飛ばしちゃえ!』みたいな、雑な人間だと思われているのだろーか?


 少々心外な言葉に、私がジト目を向けると、ロレアちゃんからも似たような視線が返ってきた。


「あそこを思い出してから、もう一度言ってください」


 そう言ってロレアちゃんが指さした先にあるのは、裏庭から続く森。


 しばらく前までは森だったそこは、今では草の生えていない地面が露出し、アイリスさんたちの戦闘訓練に最適な場所になっている。


 そうなった原因を思い起こし、私はつぃと視線を逸らす。


「あ、あれは、攻撃魔法の練習だったからっ」

「……今回使うのは違うんですか?」

「それの一種ではあるけど――ま、まぁ、見てて!」


 ロレアちゃんの言葉で少し不安そうな表情を浮かべ始めた三人に、私は背を向け、ゆっくりと地面に手をついた。


    ◇    ◇    ◇


「それで、ちゃんとできたのか? 店長殿」


 エリンさんの所から戻ってきたアイリスさんにそう訊ねられ、私は当然と頷く。


「もちろんですよ。私、失敗しないので!」


 最近はね!


 師匠に弟子入りした頃は、それなりに――いや、正直に言うと、毎日のように失敗して、迷惑をかけていたけど。


 でも、今回は本当。

 ロレアちゃんも同意するように頷いているしね。


「ガットさんも褒めていましたね。『開墾を仕事にしても食っていける』って」

「ほう、それほどか」

「農地の拡大は、多くの領地で懸案事項だものね」


 私の顔を見て、アイリスさんとケイトさんが感心したような声を上げた。


 私は商人の娘だったので話に聞いただけだけど、人力でやる開墾作業というのは本当に重労働、らしい。


 当然、領民を駆り出してそんな事をすれば、領主の人気は無くなる。


 でも、自分の畑の農作業に加えて、それ以上にキツい開墾作業をさせられるとなれば、凄く大変そうと言うのは、想像力が乏しくても簡単に理解できる。


 農地の多さは力の強さでもあるので、領主は開墾をして、より多くの農地を確保したいが、あまり無理をさせれば領民が不満を持ち、作業効率も上がらない。


 一応、領地が豊かになれば領民にも恩恵はあるんだろうけど、それを実感できるまではしばらくの期間が必要なわけで。


 今目の前にある重労働という現実を受け入れて、未来に目を向けさせるのはなかなか難しそう。


 そのあたりのバランスを如何に取るかが、領主の腕の見せ所、なのかもしれない。


「でも、サラサさん。あの魔法は何だったんですか? 私は知りませんでしたけど、開墾に使うような魔法も存在するんですか?」


「あの魔法? あれも一応は攻撃魔法なんだよ。『地槍アース・ニードル』の応用だから」


 土を固めて、地面から敵を突き刺す攻撃魔法。


 これをちょこっと改変して、土を固めないように、そして地面からほとんど飛び出さないようにして使ったのが今回の魔法。


 速度や強度という、魔力消費が大きい効果を省略してあるので、実はとても効率が良い。


 だからこそ、普通は敵の数体を相手に使う魔法を、畑一面にかける事ができたんだけどね。


「そうなんですか? でも、やっぱり凄いですよね、魔法って。農家の人が何日もかかってする作業が、一瞬で終わるんですから」


「そんなにか? ならば、その魔法を覚えて開墾専門の魔法使いにでもなれば、生活に困らないな。……難しい魔法、なのか?」


 まさか覚えるつもりなのか、アイリスさんがそんな事を訊く。

 特別難しいとは思わないけど、できるかどうかは……。

 私は少し考えて、首を振った。


「そんなに簡単ではない、かも? 威力を考えなければ、『地槍アース・ニードル』自体は、そんなに難しくないんですが、それを改変するなら、精密な魔力操作が必要だから」


 そして、そんな精密な魔力操作ができるなら、開墾魔法使いなんかしなくても、錬金術師への道が開けるわけで。


 もちろん、魔力操作だけで錬金術師になれるわけじゃないけど、努力次第でなり得るだけの素地はあると言える。


「そんな魔法使いの存在を聞いた事が無いだけの理由はある、ってわけなのね」


「もちろん、錬金術師の道を進まなかった人がそっち方面に進む可能性はありますが……地味ですからね。普通なら、一般的な魔法使いを目指しますよね」


「やはり、魔法使いといえば高威力な攻撃魔法、というイメージだからな。若者には人気が無いだろうな」


 訳知り顔で頷くアイリスさんもまた、そういった魔法使いに憧れた口なのかもしれない。


 その隣で少し呆れたような視線を向けている、ケイトさんの表情を見るに。

 でも解る。私も子供の頃はちょっと思ってたから!


「……サラサさん、私がその魔法だけを頑張って練習すれば、使えるようになったりしますか?」


「なに? 覚えたいの? それなら教える事はできるよ。できるようになるかはロレアちゃんの頑張り次第だけど……ドッカン、バッコン、じゃなくてもいいの? 一応、そっち方面も教える事はできるよ?」


「そんなの覚えても、私、使う機会が無いですから」


 ロレアちゃんぐらいの年齢なら、と思って提案した私の言葉を、ロレアちゃんが苦笑と共に否定する。


「それより、村の人の役に立つ魔法の方が良いかと」

「大人っ!? 私なら絶対、攻撃魔法を選んでたよ! ロレアちゃんの年齢なら」

「えぇ? そうですか? でも、サラサさん、私と同じ年齢の時、何してました?」

「学校で勉強に明け暮れていたけど――でも、それは、私が孤児だったからね」


 もし両親が健在なら、また違っていたと思う。


 それに、町の間を行き来する事が多かった両親の後を継ぐのなら、むしろ攻撃魔法の方が役に立ったと思うので、必ずしもそれが間違いとも言えない、よね?


 ――私の趣味も、多分に入っているけどねっ。


「ま、良いよ。教えるのは。簡単ではないと思うけど、この村なら役に立つ事は間違いないしね」


 ロレアちゃんぐらいなら、村の事より自分の事を考えて欲しい気もするけど、反対する理由も無いので、私はこくりと頷く。


 ……それとも、将来的な事を考えているのかな?


 アイリスさんじゃないけど、覚えておけば、飢える事が無さそうな魔法である事は間違いないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ファンタジア文庫より書籍化しました

新米錬金術師の店舗経営 7巻 書影

新米錬金術師の店舗経営 コミック6巻 書影

コミックヴァルキリーにてコミカライズ版が連載中です。


以下のような作品も投稿しています。よろしくお願いします。

『異世界転移、地雷付き。』

異世界転移、地雷付き。 11巻 書影
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ