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[Web版] 新米錬金術師の店舗経営  作者: いつきみずほ
第二章 商売をしよう
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033 エピローグ

 ヨク・バールが村から退去して一週間ほど。


 色々と後始末を終えて落ち着いた私は、ロレアちゃんたちとゆっくりと、午後のお茶を楽しんでいた。


 師匠から送られてきた物と一緒に入っていた、マリアさんお手製のお茶菓子と共に。


 このあたりでは手に入らない、とても美味しいお菓子はロレアちゃんたちにも大好評である。


 でも、ちょっとぐらい遠慮してくれても良いんですよ?

 滅多に食べられない物なんですから。


「これでやっと、のんびり過ごせる様になるね」


「ですね~。でも、サラサさん」


「はい?」


「あの商人が来る前も、結構バタバタしてましたよね? ヘル・フレイム・グリズリーが森から出てきたのも、サラサさんが来て間もない頃でしたし」


「……否定できないね。私は錬金術ができればそれで良いのに」


 私がふぅ、とため息をつくと、アイリスさんがお茶菓子をまた一つ、パクリと口に放り込み、笑みを浮かべつつ指摘する。


「あの商人との対決を決めたのは店長殿だろう?」


「だって、三人とも対決に手を上げるんですもん」


「確かにそうだけど……後悔はしてないんじゃない?」


「してませんね。トータルで見れば、利益の方が大きいですし」


「大きいというか……店長さんは今回の事でかなり儲けてない? 牙もあの商人に言っていたような使い方、しないんでしょ?」


 ちょっとわざとらしく笑みを浮かべて言うケイトさんに、素直なロレアちゃんは目を丸くする。


「え、あれって嘘だったんですか?」

「嘘じゃないよ。魔晶石に加工する方法ってのは、確かにあるからね」


 ただし、とても効率は悪い。


 冷やす事に特化した氷牙コウモリの牙から、その一番の利点、“冷やす”の部分を取り除いて汎用的な魔晶石に変えるのだから、言うなれば、“水が必要だから氷を溶かして水を作る”みたいなもの。


 溶かすためのコストが必要だし、この魔晶石を使って冷却帽子の様な錬成具アーティファクトを作ったりすれば、倍率ドン。とんでもない無駄遣いである。


 だから、氷牙コウモリの牙はそのまま使うのが基本。


 問題はそんなに使い道も無ければ、売り先も無いことなんだけど、今回はかなりの部分を師匠に押しつけちゃいました。


 ここから遠く離れた王都なら、かなりの数が捌けるからね。


 そんなわけで氷牙コウモリの牙を送りつけるのに便乗して、氷牙コウモリの果物も大半を送りつけておいた。


 そして、しばらくして返送されてきたのが、大量のお酒と金貨、おまけでマリアさんのお菓子。


 お酒の方は既にアンドレさんたちが大喜びで持ち帰っている。


「つまり、かなりの稼ぎになったのよね?」

「否定はしません」


 氷牙コウモリの乱獲、プライスレス。

 牙の売却、相場の何割か増しでお金がジャラジャラ。

 牙の買い取り、圧倒的安値で買い叩き。

 買い叩いた牙の売却、相場よりも数割値引きして師匠に押しつける。

 ハッキリ言って、見たことの無い量の金貨が積み上がりました。


「えーっと、どうするの、そのお金」


「私、錬金術師ですから、色々と素材を買い込む予定ではありますが、大半は貸し付けですね」


「貸し付け?」


「一つはディラルさんに。ほら、ディラルさんの宿屋、建て増しを始めたじゃないですか」


「そうだな……ん? あれの原資は店長殿か!?」


「はい。今回は採集者の人たちにも協力してもらいましたから、一部還元です」


 直接協力してくれた人たちには、ちゃんと日当と手数料を払っているから、それ以外の面での貢献、それが宿の拡張。


 宿の部屋は満室、食堂にも入れなくて困っている採集者は結構な数がいた様なので、それを解消するために投資を行ったのだ。


 本当は、私がお金を出して建てようかな、とも思ったんだけど、ディラルさんが『さすがにそれは受け取れないよ!』と固辞したので、融資。


 利息無しで貸し付け、新しく建てた建物で出た利益で少しずつ返してもらう事にした。


「他は、ヨクの被害に遭っていた錬金術師たちですね」


 さすがに私が直接は動きにくいので、私同様に今回のことで利益を上げたレオノーラさんと共同でお金を出し合い、ヨクの持っている債権を買い叩いた。


 彼も死にたくはなかったのだろう。


 タイムリミットが迫る中、かなり阿漕に叩きまくり、すべての債権を買い取った……らしい。


 同席してないから知らないけど、交渉から帰って来たレオノーラさんとフィリオーネさんは、すごく良い笑顔を浮かべていたから。


 その結果、彼が無事に生き延びられたかは……どうなんだろうね?

 レオノーラさんは『少し足りないかもね~』とか言っていたけど。


「そうですか。では、もうこのお店にはそんなにお金、無いんですね? 安心しました。床が抜けるかと思いましたよ」


 ロレアちゃんとしては、“お金を使った”という方が重要だったようで、安堵の表情を浮かべて深く息を吐く。


「ロレアちゃん、そんな、大げさな――」


「大げさじゃないです! 私、お金が置いてある部屋に近づかないようにしてましたもん!」


 ロレアちゃんは一部でも倒れかけたもんね。

 ……一番たくさんお金があった時を見たら、どうなったんだろ?


「店長さんは優しいわね。その人たちは確かに可哀想だけど、別に店長さんが私財を投じることでもないでしょうに」


「あー、新人の錬金術師でしたからね。他人事ひとごととは思えなくて」


 想定よりも人数が多かったのは、意外だったけど。


「でもその“新人”って、全員店長さんより年上なんでしょ?」

「まぁ、そうですね。ケイトさんよりも年上ですね。店を構えているわけですから」


 学校を出てすぐ店を構える私が例外。

 普通は数年、他のお店で修行して、お金を貯めてから店を構える。


「でも、別に損したわけじゃないですよ? これでそれらの錬金術師、私とレオノーラさんの紐付きですから。フフフ……」


「あ、また悪い笑みを……」


「大丈夫だ、ロレア。あれはそんなに悪い事を考えてないから」


「そうよね、店長さんだもんね」


 ロレアちゃんの言葉に、アイリスさんとケイトさんが苦笑を浮かべて肩をすくめる。


「えー、そんな事無いですよ? きちんと借金は返してもらいますし、場合によっては色々と無理を聞いてもらうつもりですから」


「そうなの? 利子はどれぐらいの予定?」


「……今のところ、考えてませんけど」


 お金が無くてピーピー言ってるのに取れないよね?

 これまで、散々苦労してるんだから。


「そもそも、そのへんの未熟な錬金術師に無理を聞いてもらう必要があるのか? 店長殿が。困った時には師匠がいるだろう?」


「……そうですけど」


 そもそもそのへんの錬金術師には負けない様に、努力しているし。私。


「良かった。やっぱりサラサさんですね」


 ロレアちゃんのまぶしい笑顔に、私はそれ以上何も言わず、ティーカップをあおって顔を隠したのだった。

今回で二章は終了です。

三章は少し休んで開始の予定です。

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ファンタジア文庫より書籍化しました

新米錬金術師の店舗経営 7巻 書影

新米錬金術師の店舗経営 コミック6巻 書影

コミックヴァルキリーにてコミカライズ版が連載中です。


以下のような作品も投稿しています。よろしくお願いします。

『異世界転移、地雷付き。』

異世界転移、地雷付き。 11巻 書影
― 新着の感想 ―
[良い点] チャンと死人が出るところと主人公が悪い奴を葬る所。 いるんだよ、主人公には人殺しをさせたくないって作者。 殺しに来た奴を同じ目に合わせてなぜ悪いと思うのですが。
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