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[Web版] 新米錬金術師の店舗経営  作者: いつきみずほ
第二章 商売をしよう
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023 商売敵? (4)

前回のあらすじ ----------------------------------

商人は三割までいかずとも、高く買い取りをしていた。

サラサの師匠がマスタークラスであることを話す。

「では、私はその方に感謝すべきですね。おかげで雇ってもらえたわけですし。――マスタークラスというのは?」


「“マスタークラス”は、錬金術師の最高峰。この国でも数えるほどしかいない高位の錬金術師よ。錬金術に多少興味があれば知っている知識ね」


「そ、そうなんですか……私、知りませんでした」


「この村だと、話題になることも無いでしょうしね。そもそも、店長さんが来るまで、この村、錬金術師がいなかったんでしょ? なら仕方ないわよ」


 ま、誰がマスタークラスだろうと、一般人にはあんまり関係ないからねぇ。

 私自身、師匠の事を知ったのは、バイトで入った後だったし……。

 それも、先輩に教えてもらって。


 もし先輩たちと仲良くなってなかったら、下手をすると、今もって知らなかった可能性すらある。


「オフィーリア・ミリスという方については……店長さん、弟子としてそのへんは?」


「え、師匠の世間的評価については、私もあまり知らないんですが……錬金術師の中ではそれなりに有名?」


「バカッ! 店長殿、バカッ!」


 えぇ!? いきなりアイリスさんに罵倒された!?


「オフィーリア様は“それなりに有名”とか、そんな次元ではない! あの方はな、あの方はなぁ!!」


「はいはい、アイリスは落ち着きましょうね。ごめんなさい、店長さん。でも、アイリスの反応は極端だけど、錬金術師以外にも、かなり有名、ってレベルの人よ」


「なんですか」


「なんです」


 私、普通にバイト募集に応募して、半ば流れで弟子扱いになったんだけど……。

 実は、すっごい幸運?

 いや、確かに、先輩たちには凄くうらやましがられたけど。


「ま、まぁ、師匠の話は措いておいて。その後、向こうが対抗して更に買い取り価格を上げてくるか、それとも諦めるか」


「諦めるなら、終わりよね。問題解決」


「だな。問題は、対抗して上げてきた場合だが」


「その時は氷牙コウモリの牙の供給量を増やします。ガッツリと」


「どうやって?」


「私が連日洞窟に潜って、狩り続けます。相手の資金がショートするまで」


 私が本気で狩りに勤しみ、アイリスさんやケイトさんの手も借りられるのであれば、一日数百は堅い。アンドレさんたちも巻き込めば、更にだろう。


 氷牙コウモリの牙、一匹あたり二本取れ、五歳物の一本の最低買い取り価格がおよそ一千レア。


 年齢が上がるにつれて価格も上がり、更に相手は三割増し以上で買い取るわけだから、頑張れば一日数百万レアを吸収できるはず。


 かなり大量の現金を持ち込んでいなければ、あっさりショートするだろう。


「フフフ……後は、洞窟の氷牙コウモリが消えるのが早いか、相手の資金が消えるのが早いか」


 ――うん、採集者には大迷惑だね。

 これを実行した場合、何らかの還元セールでもしないと、ヤバいかもね。


「さすが店長殿! 容赦ないな!?」


「私としては穏便に行きたいところなんですけどね。まぁ、最初に喧嘩を売ってきたのは向こうですし」


 何が『さすが』なのか、アイリスさんとは私に対する認識について、小一時間ほどお話しをしたいところだけど、話が逸れるので、今は措いておこう。


「サラサさん、やっぱり、あの商人のやり方ってマズいんですか? お父さんも素材の買い取りをしてましたけど……」


「ダルナさんは、私が来る前から、だから。でも、ちゃんと錬金術師がいる村で横紙破りをやられると、ちょっと困る部分はあるんだよね。特に、新人の錬金術師の場合、余裕が無いから」


 こういった小さな村で、商人が素材を仕入れる場合、まずはそこの錬金術師に話を通すのがマナーとされている。


 何故なら、その地域の錬金術師には、その周辺で採れる素材のバランス調整の役目も求められているから。


 例えば、需要が多く利益が出やすい素材と、需要は少ないけれど、もしもの時には必要な素材。


 錬金術師が前者しか扱わなければ、“もしも”の時に困る事になる。

 もしくは、よく売れるからと、完全に取り尽くしてしまったら?


 それに対応するため、買い取り価格の調整や買い取り制限などを設けたりするのが、その地域の錬金術師の役目でもあるのだ。


 そこに商人がやって来て、ルールを無視してしまえば……?

 特に市場が小さいこんな村だと、その影響がとても大きくなる。


 氷牙コウモリに関しては、比較的生息地が多い動物だし、取り尽くすという点での心配は無いけれど、やっぱり、ルール違反はダメだよね?


「まぁ、法的には問題ないから、やる事自体は自由なんだけどね」

「そうなんですか? 錬金術師の人、やられたら困るのに?」

「まともな商人はやらないから。錬金術師を敵に回すリスクの方が大きいからね」


 錬金術関連の素材を扱うのであれば、主な顧客は錬金術師。


 ルールを破れば、その周辺の錬金術師からはそっぽを向かれ、商売する事が難しくなる。


 だからこそ、彼のやっている事の意味が解らない。


「それで、店長殿。どちらにするのだ? 放置か、対決か」

「う~ん、どっちが良いかな?」


 面倒が無いのは放置。

 利益は減るけど、困るほどでは無い。


 問題は、私が舐められる事――いや、こんな事をやってるんだから、既に舐められているんだろうけど、氷牙コウモリの牙程度ならともかく、今後も好き勝手にやられるようだと困る。


 利益だけを考えるなら、対決の方。

 難点は、私が頑張って働かないといけないところ。

 あ、働くのが嫌とかそういう話じゃないよ?


 洞窟に籠もって狩りなんかしてたら、錬金術に使う時間が無くなっちゃうのが問題って事ね。


「……うん、多数決にしましょう。まずは、対決が良い人!」


 三本の手が上がる。

 いきなり決まった。


「店長殿の邪魔をするなんて許せないな!」

「そうよね。商売をするなら、自分だけじゃなくて関わる人の事も考えないと」

「ロレアちゃんも?」

「はい、お父さんと……その、グレッツお兄ちゃんには昔、お世話になったので」


 ロレアちゃん、『気付かなかった』とか、色々とキツい言葉を投げかけてたみたいだけど、一応、情はあったのか。


 そういえば、グレッツさんは『一緒に遊んでた』とか言ってたよね。

 ――実はロレアちゃん、照れ隠し……?


 そんな事を思って、ロレアちゃんの表情を窺うけど、不思議そうな表情で小首を傾げるだけ。


 年上のお兄さんに対する仄かな恋心とか……無いか。うん。

 『放蕩息子』とか言ってたし。


「解りました。それじゃ、その方向でいきましょう。アイリスさん、ケイトさん、協力してくれますか?」


「ああ、任せてくれ!」


「アンドレさんたちにも頼んで、情報を流しておくわね!」


「はい、お願いします」


 何故か、私以上に生き生きとした様子を見せるアイリスさんたちに、頼もしさと共に戸惑いも感じながら、私たちの作戦は始まったのだった。


    ◇    ◇    ◇


 私が商人と同水準で買い取るという噂を流した後、アンドレさんたちに根回しをされた古参の採集者は、こぞって私の方へ氷牙コウモリの牙を持ち込むようになっていた。


 私に恩を感じてくれていたり、アンドレさんとの義理もあるだろうけど、やっぱり一番の理由は、同じ額で買い取るからだろうね。


 そして、それに釣られるように新参の採集者でも、私の方へ持ち込む人が増えた頃――。




「店長殿! 対抗して値上げしてきた!」

「おやおや。存外、先を見通す力が無かったようですね。フフフ……」


 店に飛び込んできたアイリスさんに、私はちょっぴり黒幕っぽく、カウンターの上に肘を付いて低く笑う。


 今の私、カッコイイ。


「……店長さん、似合わないわよ?」

「あれ、そうですか? じゃあ、止めます」


 まだ私には貫禄が足りなかったか。


「それで、どの程度上げてきましたか?」


 肘を付くのを止めて訊ねると、アイリスさんは少し考えながら答える。


「五割増しと言っているな。だが実際には、これまでの価格から一割増えたかどうか、って感じだな。私の感覚だから、正確には判らないが」


「その価格でも、かなりキツいと思いますが……そこまでして集める必要があるんでしょうか?」


 それぐらいのお金を出すのなら、他の町から運んできた方がまだ安く手に入りそうな気がする。


 それとも、周辺都市では在庫が払底しているとか?


「いや、それが、店長殿を話題にして、『やっと苦しくなったか。もう少しだな』とか言ってたらしいぞ?」


「はて? 苦しく?」


 何のことやら?


「店長さん、きっと商人は、店長さんが氷牙コウモリの牙が仕入れられなくなって困ってる、と思ってるんだと思うわよ?」


「最近は私たちも商人に売っているからな。まさか必要なら自分で取りに行けるとは思ってもいないだろうし」


 ふむ……。実は私がターゲット?

 やっぱり、恨みを買うような覚えは無いんだけど。

 ――あ、でも、逆恨みならあり得るかも。

 例えば、サウス・ストラグの悪徳錬金術師。


 きっと今頃、この村の採集者から買い叩いていた素材が手に入らなくなって、困っている――と、良いな?


 それなら、私の注意喚起が上手く機能したという事だからね。


 彼と今回の商人が繋がっている確率はゼロじゃないけど、単なる報復にしては、リスクが高いと思うんだけどなぁ……。


 私以外の錬金術師も敵に回す行為だし。

 ――ま、いっか。

 問題なし。

 作戦続行。


「では、アイリスさん、ケイトさん、明日から例の作戦を始めますので、ご協力、お願いします」


「了解だ」


「えぇ。アンドレさんたちにも、頼んでおきましょうか?」


「そうですね、どのぐらいの人数が必要になるか次第ですが、まずはアンドレさんたち三人に頼みましょう」


 荷物運び要員と牙の回収要員。

 後は……死体の数が数だけに、そちらの処理要員も必要かな?

 そのあたりは実際にやってみてから考えよう。


「ロレアちゃんには、しばらく一人で店番を任せる事になるけど、お願いね」

「はい。大丈夫です。判らない物が持ち込まれた場合は、断れば良いんですよね?」

「うん。常連さん以外はね」


 ここ最近、常連さんの持ち込む素材に関しては、信用取引を行っている。


 具体的には、私が留守にしている時にはロレアちゃんが素材を預かり、私が査定して次回来店時に代金を支払う方法。


 もちろん、一見さんや新参の採集者は対象外。


 ロレアちゃんが判る範囲で、種類や状態を書いた引換証を発行しているけど、『もっと良い状態で渡した』とか、何とか、いちゃもんをつけられたら面倒だからね。


「それでは、明日から頑張りましょう!」

「「「はい!」」」

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