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[Web版] 新米錬金術師の店舗経営  作者: いつきみずほ
第二章 商売をしよう
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021 商売敵? (2)

前回のあらすじ ----------------------------------

アイリスたちから、氷牙コウモリの牙の買い取りをしている商人の話を聞く。

「……とりあえず、本当に三割高いのか、調べてみよっか。アイリスさん、今度取ってきた牙、一度私が鑑定してから、売りに行ってもらえます?」


「ああ、構わないぞ」


「アンドレさんのお話も、この事ですか?」


「あぁ、そうだ。サラサちゃんには世話になっているから、古参はこの店で売っているが、サラサちゃん的にはそのへん、どうなのかと思ってな」


「お気遣いありがとうございます」


 なるほど、より高く買い取るところがあっても、ウチで売る人がいたのはそのせいか。


 やっぱり商売をするには、人と良い関係を保つ事が重要だね。


「ですが、先ほど言ったとおり、もし本当にその商人が高く買い取っているのなら、そちらで売られても構いませんよ? 私はあまり困りませんから。ケイトさんたちも、あっちで売っても良いですからね?」


「良いのか? 無くなると困らないか? それに、店長殿に不義理な事をするなんて……」


「しばらくは在庫で大丈夫ですから。それに、必要があれば、自分で取りに行けば良いですからね」


「サラサちゃんにはそれができるもんなぁ。下手すりゃ、村にいる採集者全員が集めるよりも多く、一人で取ってこれるもんな」


「運んでくれる人がいれば、ですけどね」


 いくら私が身体強化を使えるとは言っても、持てる量には限界がある。

 具体的には、革袋の強度的問題で。


 なので、もし取りに行く時には、前回同様、アイリスさんたちを連れて行きたいところ。


「良し解った。その時には俺たちにも声を掛けてくれ。そして、本当にその商人が高く買い取っていることが判ったら、古参の連中にも、そちらで売って良いとサラサちゃんが言っていたと伝えておくぜ?」


「えぇ、そうしてください。ガッツリお金を稼いで、その分、村にお金を落としてくれれば言う事ありません」


「おう! 心配しなくても、新参連中も、食堂で毎日酒盛りしてるぜ?」


「そういえばお父さんも、最近は高めのお酒を、多く仕入れるようになったと言っていました。家を借りる人も増えてきましたから、お酒の他にも、おつまみなどが売れているみたいです」


 最近この村は、氷牙コウモリの牙フィーバー。


 悪臭さえ我慢すれば、案外簡単に採取できて、比較的高いため、金遣いが荒くなっている採集者が増えているらしい。


 そんな採集者で、ディラルさんの宿は既に満室。


 必然的に食堂の利用者も多くなり、テーブルの確保が難しくなった食堂を避け、借りた家などで酒盛りをする採集者も結構増えているらしい。


 ちなみに、ウチの店でも、そんな採集者向けに制嗅薬と柔軟グローブを並べているんだけど、それなりに売れるグローブに対して、薬の方はイマイチ。


 我慢できるから、という事なんだろうね、やっぱり。


「ははぁ、やっぱり食堂はいっぱいになったかぁ。ロレアちゃんの言うとおり、台所をきちんと整備して正解だったね。ありがとうね」


「ロレアの料理には、私たちも助けられている。最近は前を通るだけだが……」


「そうね。あそこには入って行きづらいわね。ありがとう」


「いえいえ、私も楽しんで料理してますから!」


 私たちから感謝の言葉を贈られ、ロレアちゃんが照れたように首を振る。


 けど最近、オーブンも使いこなし始めたロレアちゃんは、パン焼きまでしてくれるようになり、本当に助かっているんだよね。


 現状、ディラルさんの所に買いに行くのは、ちょっと避けたい感じだし。


「ま、女が入るには、ちょいきついよなぁ、今は」


「やっぱり、そんな状況なんですか?」


「あぁ。氷牙コウモリの牙は楽に稼げるからな。新人も結構集まってるぜ? けど、新人は情報も集めず、準備せずに行って、臭ぇまま食堂に戻ってくるバカもいるからなぁ」


 アンドレさんは顔をしかめ、吐き捨てるように言う。


「うわ……それは、空いていても、食堂に行きたくないですね」


「もっとも、そういう奴はディラルが追い出して、水をぶっかけてるぜ? 臭いが落ちるまで、戻ってくるな! って」


 さすがはディラルさん、容赦ない。


 暑い時期だから、水を掛けられても風邪をひいたりはしないだろうけど……一応、お客さん相手に良くやる。


「だが、準備して行ったところで、どうしても臭いが残るだけに、今の食堂は……」


 深いため息をつくアンドレさんに同意するように、アイリスさんとケイトさんもまた、深く頷く。


「採集者なんて、不潔な奴も多いからなぁ」

「そうよね。その点、ここは本当に助かるわ。毎日、お風呂には入れるし」

「まぁ、私が入りますからね。ついでです」


 せっかくお風呂を沸かすのだから、一緒に住んでいるアイリスさんたちにも入ってもらった方が、無駄が無いし、私も彼女たちが清潔な方が気持ちが良い。


 ちなみに、ロレアちゃんは一緒には住んでいないけど、最低でも二日に一回ぐらいは使っている。


 錬成薬ポーションなんかも扱うわけだから、店番を任せるなら、やっぱり清潔じゃないとね。


「しかし、今の食堂はそんな感じなんですね……」


 原因の一端を担っている私としては、ディラルさんに対して、少し申し訳なくなってしまう。


 商売繁盛、なのかもしれないけど、その代償として悪臭の中で仕事する事になるのは……。


「消臭薬でも売り出しましょうか?」


「お、店長殿、そんな良い物があるのか?」


「はい。ただ……消臭薬自体はそこまで高くないんですが、霧状に吹き付ける入れ物が少し高いんですよね」


 もちろん、そのままバシャバシャと掛けても良いんだけど、そんな事をしていたらすぐに無くなってしまうので、霧状にして使うのが普通の使い方。


「ならば、錬成薬ポーションの様に、詰め替え式にすれば良いのではないか?」


「そうよね。正直、それは私も欲しいし。最初に入れ物を売って、中身は量り売りにすればどうかしら?」


 やはり女性。アイリスさんたち二人が食いついた。


 傷や毒などを癒やす錬成薬ポーションの場合、瓶を回収して洗浄などを行った上で再利用しているんだけど、消臭薬の場合、もう少し雑な扱いでも問題ないので、ケイトさんの提案は結構悪くない、かも?


「うーん、そうしよう、かな? ロレアちゃん、ちょっと手間が掛かるけど、良い?」

「はい、それはまったく問題ありません」

「ありがと。アンドレさんはどう思います?」


 ベテラン勢の意見はと、アンドレさんに訊いてみれば、彼は腕を組んで唸った。


「そうだなぁ、俺たちなら買うと思うが……新参の奴らはどうだか……」

「そうなんですか? 臭いに困っているのでは?」

「困ってるってぇ言えば、そうなんだが――」


 簡単に言えば、不潔に慣れている採集者は結構多いという事らしい。

 自分たちが常に臭いものだから、周囲が臭くても気にならない。


 古参の人たちは、村の人への迷惑、つまりディラルさんたちへの配慮もあって、多少のコストを掛けても関係を良好に保とうとするが、長期滞在する気のない採集者の場合、そのあたりを考えない。


 故に、ケチれるところはケチる。

 周囲が迷惑しても、自分が問題ないなら、金は出さない。


「そんな奴らだから、新参連中の中には指を無くした奴もいるが……自業自得だな」


「え、そう、なんですか?」


「あぁ。一応、同業者のよしみで忠告はしてやるんだが、そんなところの金までケチって、まともなグローブも持たずにやろうとする奴もいるからなぁ。サラサちゃんの所で、柔軟グローブを買っておけば心配ねぇってのに」


 牙の折り取りに失敗して指が凍結、そのまま失う事になってしまったらしい。


「あぁ、そういえばいたな、そんな奴も」

「同情できないタイプの奴だったけどね。ナンパとかしてきたし」


 アイリスさんたちにも心当たりがあったようで、ため息をついたアンドレさんに対し、彼女たちは苦笑を浮かべる。


 自業自得と言いつつも、まだ同情心がありそうなアンドレさんに比べると、アイリスさんたちにはそんな様子は見えず……そんなに嫌な奴だったのかな?


 二人とも美人だし、しつこいナンパだったのかも。


「皆さんは心配ないとは思いますが、万が一、指が凍結してしまった場合は、そのまま急いでウチに来てくださいね? 残っていれば、比較的安く治療ができますから」


 失われた指を生やす錬成薬ポーションはとても高価なのに対し、凍結しただけならもう少し安い錬成薬ポーションで直せるのだから。


「おう、その時は頼むぜ。ま、そいつが指を無くした後は、ほぼ全員、柔軟グローブを付けるようになったけどな。反面教師って奴だな」


「そういえば、一度に沢山柔軟グローブが売れた日がありました。その時ですか?」


「だろうな。一気に買いに走ったから」


 ロレアちゃんの言葉に、アンドレさんが頷く。

 柔軟グローブの在庫が急に減ったのは、そのせいだったのかぁ。


「消臭剤の方はディラルさんの食堂に入る人に使って欲しいところだけど……ディラルさんに売り込もうかな? 入口に設置して、一回何レアみたいなやり方で」


「店に入る奴は必須、ってわけか。悪くねぇと思うぞ? 今じゃ、村人はほとんど来てねぇが、その原因、やっぱり臭いがあると思うしな」


「だが、それが解消されたところで、入れないんだろ? 席が無くて」


「そこなんだよなぁ……店、広げてくれねぇかな?」


「そこはディラルさん――いえ、ダッドリーさん次第だと思いますが……、今なら可能性はあるかもしれませんね」


 ヘル・フレイム・グリズリーで稼いだお金は、魔導コンロに消えたかもしれないけど、それだけお客が入っているなら、それなりには稼げているはず。


 先日、私がサウス・ストラグで発注してきた木材も、かなりの量があったから、今なら増築に必要な木材の在庫もありそうだし、食堂が広くなれば、雇用も増える。


 結果的に、お金を持つ村人が増えて良い感じ?


「そうだな、軽く話をしてみるわ。村人が使えねぇのも悪いし、サラサちゃんの消臭剤があれば、問題点は多少解消するわけだしな」


「はい。私も折を見て、話をしてみようと思います。――まずは、氷牙コウモリの牙ですね。とりあえず、今日、アイリスさんたちが取ってきた物を見積もってみましょう」


「あぁ、頼む」


「おっ、何だったら、俺も協力しようか? 比較対象は多い方が良いだろう?」


「そうですか? では、お願いします」


 先ほどアンドレさんが持ち込んだ物を返却し、アイリスさんたちの物も鑑定して、その額を記録しておく。


 さて、これらを一体いくらで買い取るのか……ちょっと興味深いかも?

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