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[Web版] 新米錬金術師の店舗経営  作者: いつきみずほ
第二章 商売をしよう
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018 新たな商品 (4)

前回のあらすじ ----------------------------------

村長の娘、エリンと相談。帽子作りが受け入れられる。

 カラン、コロン。


「あ、いらっしゃいませー」


 ロレアちゃんとそんな話をしていると、朝一のお客さんがやって来た。


「お邪魔します」


 入ってきたのは、見た事の無い男の人。

 年齢は二〇歳そこそこで、姿格好は採集者とは少し異なる。

 でも、村の人の格好ともまた違う。

 少し優男風で、あまり鍛えられているようには見えない。

 この辺りでは、ちょっと珍しいタイプの人だけど……。

 そんな私の訝しげな視線を受けて、男の人は慌てたように手を振って口を開いた。


「あ、そ、その、僕はグレッツと言います! 隣の、猟師のジャスパーの息子です!」


 その言葉に、私は以前、エルズさんに聞いた話を思い出した。


「……あぁ、猟師にならずに行商人になったという?」

「うっ。そ、そうです……」


 その事に少し引け目があるのか、少し言葉に詰まりつつ、肯定するグレッツさん。

 けど……仕方ないかも?

 ジャスパーさんと比べると、弱々しさすら感じるような体格だし。


「あ、グレッツお兄ちゃんかぁ。気付かなかったよ」

「ひ、酷いな、ロレアちゃん。昔は一緒に遊んでたのに……」


 ポンと手を叩いて言ったロレアちゃんの言葉に、グレッツさんは眉を下げて情けない表情になる。


 そんな彼の様子にも、ロレアちゃんは気にした様子も無くハッキリと応える。


「だって、村を出て行ったのはもう何年も前だし、滅多に帰ってこないし。忘れられたくなければ、頻繁に顔を出さないと」


「うぅ、だってこの村って、仕入れる物も無いし、ダルナさんがいるから、商品を持ってきても売れないし」


「あ、持ってこなくて良いから。お父さんのお仕事が無くなっちゃうから」


「酷い! 頻繁に帰って来いと言っておきながら!?」


「来いとは言ってないよ? 来ないと忘れるってだけで」


 うん。結構酷いね。

 ロレアちゃんの言葉に、私も苦笑を浮かべざるを得ない。

 幼馴染み(?)故の気安さなんだろうけど。


「で、なんで帰ってきたの? あ、行商に失敗しちゃった? ジャスパーさんにしごかれる決心が付いた?」


「違うよ!? そもそも僕、父さんに扱かれるのが嫌で逃げ出したわけじゃないからね!? この村がヘル・フレイム・グリズリーに襲われたって噂を聞いて、慌てて戻ってきたんだよ」


「あー、それは遅かったね。もう過去の話だよ、それは」


 ウンウンと頷きながらロレアちゃんが応えると、グレッツさんもため息をつきつつ、頷いた。


「みたいだね、被害も出てないし……。あ、そうだった」


 グレッツさんはハッとしたように私の方を見ると、姿勢を正し、とても丁寧に頭を下げた。


「サラサさん、あなたのおかげで村が守られたと聞きました。もしあなたがいなければ、僕の両親も、村の人もきっと死んでいたと思います。ありがとうございました」


「あぁ、いえいえ、私もこの村に住んでいますから、お手伝いするのは当然のことです。お気になさらないでください」


 私も慌てて手を振って、頭を上げてもらう。

 年上の男性に、こんな風に頭を下げられると、ちょっと気後れしてしまうから。


「でも、グレッツお兄ちゃん、村のこと忘れてなかったんだね」


「忘れるわけないじゃないか。話を聞いて、どれだけ驚いたか。大慌てで戻ってきたんだけど……」


 なるほどね。


 でも、ヘル・フレイム・グリズリー襲来の噂を聞いて戻って来るとは、なかなかの郷土愛? それとも親子愛?


 逃げ出した採集者も多かったのに、わざわざ危険な場所に戻ってこようとしてるんだから。


 少し頼りなくは見えるけど、悪い人では無いみたい。

 ――が、ロレアちゃんは手厳しかった。


「全然、まったく間に合わなかったよね」

「うっ……」

「それに、間に合っていても、そもそも、グレッツお兄ちゃんがいてもあんまり……」

「解ってるよ! 僕は父さんとは違うからね!」


 さすが幼馴染み。

 本当に容赦なし。

 普段のロレアちゃんの、私たちへの対応とは全然違う。


 ただ、微妙に涙目になっているグレッツさんが、さすがに可哀想なので、私は苦笑しつつ、ロレアちゃんを宥めることにする。


「まぁまぁ。せっかく、心配して戻ってきてくれたんだから。ね?」

「そうですけど……」


 少し言い足りなさそうなロレアちゃんではあったけど、再度私が、ポンポンと肩を叩くと、ふぅ、と息を吐いて、少し表情を緩めた。


「それで、グレッツお兄ちゃんは、サラサさんにお礼を言いに来ただけなの?」


「もちろんそれが一番なんだけど……実は母さんに、サラサさんのお店なら、良い物が仕入れられるかも、と聞きまして……」


 グレッツさんは少しばつが悪そうに、私のことを見ながらそんな事を言う。


 けど確かに、この村で仕入れられそうな物って、ウチのお店ぐらいにしか無いというのは間違いない。


 村の農作物はダルナさんが売りに行っているわけだし、何か特産品があるわけじゃないのだから。


「そうですね、ここで素材を仕入れて、サウス・ストラグの錬金術師に売れば、多少は利益が出るとは思いますが……」


 もちろん、レオノーラさんね。

 もう一人の方だと、確実に損失が出る。

 でも、レオノーラさんであっても、輸送費に少し色が付くぐらい。

 あまり割は良くない。


「グレッツさんは、行商人なんですよね? 確実なのは、そこの冷却帽子を仕入れて、売ることでしょうね」


「冷却帽子、ですか? この時季なら、確かに売れるでしょうが、利益は……あれ? これって安くないですか?」


 訝しげに私が指さした棚を見たグレッツさんは、そこに付いている値段を見て首を傾げる。


「この時季の相場に比べると、三割ぐらいは安いですよ。輸送費や利益を加算しても、相場よりも少し安い値段が付けられるでしょうから、売りやすいでしょうね」


「い、良いんですか? これって、サラサさんは損しているんじゃ……」


「利益はほとんど出ませんが、損というほどじゃないですから、大丈夫ですよ」


 氷牙コウモリの牙を別の所から仕入れていたら厳しいけど、採集者から直接買い取ってるからね。


 今のところ、それなりに売れていて、在庫が積み上がったりはしていないので、何とかなっている。


「でしたら是非!」

「むむっ。お父さんの商売敵になるわけですか?」


 嬉しそうに言ったグレッツさんに、ロレアちゃんが再び厳しい視線を向ける。

 そんなロレアちゃんに、グレッツさんは慌てて手を振った。


「だ、大丈夫だよ! 僕が売りに行くのはサウス・ストラグじゃないから! ね?」

「まぁ、それなら……」


 ロレアちゃんは少しだけ不満そうながらも、矛を収めたけど、必ずしも商売敵にならないとも言えないんだよねぇ。


 サウス・ストラグに、近隣の町や村から買い物に来る人ってのもいるだろうし……。


 まぁ、村全体のことを考えたら、サウス・ストラグ以外でも売る方が良いと思うから、ここは堪えてもらおう。


「ただ、今あるのは、そこに並べている物だけなんです。帽子自体は、村の人が作っているので……」


 私はそう言って、冷却帽子の売り方をグレッツさんに説明する。


 さすがに商売をやっているだけはあり、その仕組みをすぐに理解したようで、感心したように頷いた。


「なるほど、良い方法ですね。それなら、村の人も努力するでしょうし……解りました! 僕に任せてください!」


 そう力強く言ったグレッツさんは、確かに商人だった。

 私のお店を後にした彼は、即座に動き出した。

 この村出身という強みを生かし、各戸を直接訪問、帽子の作製を依頼。

 出来上がった帽子も、その場で現金買い取り。

 それらをまとめて私の所に持ち込んだのだ。


 また、依頼する時にどんな帽子が良いかも注文していたらしく、町で人気がありそうなオシャレな帽子は少なめ。


 大半は、農村部で売りやすそうな、実用性重視で安めの物が多い。


 本来であれば、村の住民以外が、しかも買い集めてきた帽子を持ち込むなんて事は、私的に認められないのだが、相手はお世話になっているエルズさんの息子で、帽子も村で買った物。


 その事を加味して、そして村に流通するお金を増やしたいという、私の目的には適っている事から、引き受けることに。


 更に行商で多くの村を回る事から、頻繁に訪れる事ができない彼のために、代金の半額は後払いを認めた。


 金額が金額だけに、彼自身の信用と言うよりも、完全にエルズさんの顔である。


 その事で、かなりの数の冷却帽子を仕入れる事ができたグレッツさんは、しばらく後に、ホクホク顔で旅立っていったのだった。


 ロレアちゃんには、『サラサさん、甘過ぎです!』と言われたけど、村にお金を持ってきてくれる、貴重な人材だからね、グレッツさんは。


 その程度の優遇はしても良いんじゃないかな?

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