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[Web版] 新米錬金術師の店舗経営  作者: いつきみずほ
第二章 商売をしよう
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010 氷牙コウモリ (2)

前回のあらすじ ----------------------------------

冷蔵庫を作るため、氷牙コウモリの利用を検討する。

「サラサちゃん、来たぜ!」


「あ、アンドレさん。それにギルさんにグレイさんも。わざわざご足労、ありがとうございます」


 お礼を言った私に、アンドレさんは苦笑を浮かべる。


「今この村にいる採集者で、サラサちゃんに呼ばれて足を運ばねぇ奴はいねぇよ」


「そうそう。錬成薬ポーションで世話になってることもあるけど、先の戦闘で、実力まで証明されたからなぁ」


「それじゃ、まるで私が怖い人みたいじゃないですか」


 怖い人に呼び出されたから来ました、みたいな言い方は止めて欲しい。

 私は可愛くてか弱い女の子なのだから。

 ……ちょっと言いすぎ?


「怖くは無いが、一番の実力者である事は間違いないな」

「グレイさんまで……。私なんて、少し戦えるってレベルですよ?」


 師匠なら騎士相手でも十分に対抗できると思うけど、私程度ならたぶん、文字通りに子供扱い。


 学校の戦闘術関連の先生も強かったし、やっぱりプロには全然敵わないよね。


 私がそんな事を主張すると、アンドレさんたちは揃って呆れたような表情を浮かべた。


「サラサちゃんが少しなら俺たちは何だよ。全然戦えないになっちまうぜ」

「でも、採集者は戦う事が仕事じゃないじゃないですか」


 色々な物を採集するのが仕事で、その過程で戦う事があっても、それは手段。目的じゃない。


 一部の素材は生き物を斃して取る必要があるけど、大半の物はそうじゃないのだから。


「……いや、一般的に見たら、採集者は戦う職業だぞ?」


「なるほど、店長殿は基準が違うんだな。少なくとも、私はそれなりに戦える……つもりだったな。先日までは」


 苦笑して肩を落とすアイリスさんに、アンドレさんは首を振る。


「いや、アイリスの嬢ちゃんは十分戦えてるだろ?」


「あぁ、アイリスの腕はなかなかだ。誇って良い」


「俺たち、ヘル・フレイム・グリズリーの討伐数、アイリスちゃんとケイトちゃんに負けてるよな?」


「あれは皆さんで協力した結果でしょう。私なんて、基本的に援護しかできていませんし」


「いやいや、ケイト嬢ちゃんの弓はすげぇぜ? あそこまでの腕はそうそういねぇよ」


 う~ん、どうなんだろう?


 私は一人で斃しているから別として、他のヘル・フレイム・グリズリーに対しては、複数人で当たっていたからねぇ。


 アイリスさんとケイトさんが、かなり有効な攻撃をしていた事は間違いないと思うけど……。


「おっと、話がずれたな。それで、サラサちゃん、なんか訊きたい事があるって話だったが?」


「そうでした。アンドレさんたちは、氷牙コウモリって知ってますか?」


「氷牙コウモリ……?」


 私の問いに、アンドレさんたちは顔を見合わせて首を捻り、しばらく考え込んでいたが、ギルさんが何か思い出したのか、指をパチンと鳴らしてアンドレさんを指さした。


「アンドレ、あれじゃないか? ほら、昔、ドレイクさんに聞いた事があるだろ」

「ドレイクさんに……あぁ! あれか! 北の洞窟に生息しているっつぅ」


 ギルさんに指摘され、アンドレさんはポンと手を叩く。


「心当たり、ありますか? 一応、これなんですが……」


 そう言って私は、先ほど貼ったばかりのチラシを示す。


 アンドレさんたちは頭を寄せ合ってそのチラシをしばらく読んでいたが、やがて深く頷く。


「これだ、これ。俺たちは狩った事ねぇんだが……」


「そうなんですか? 氷牙コウモリって、素材も取りやすいですし、加工しなくても品質が劣化しにくいですから、狙い目だと思うんですが」


 不思議そうに言う私に、アンドレさんは苦い表情になって首を振る。


「いや、昔の話なんだが、狩ってきた奴が買い叩かれたんだよ。コレじゃ使えねぇ、とか言われて。一応、基準はあるみてぇなんだが、俺たちじゃ区別が付かねぇし、その時の買い取り金額じゃ割が合わねぇって、誰も取りにいかねぇんだ」


「えっと、それってもしかして、コイツ、ですか?」


 そう言って私が指さしたのは、ボッタクリ錬金術師のチラシ。

 それを見て、ハッとしたようにアンドレさんが目を見開き、口元を歪める。


「その時は意識してなかったから判らねぇ。だが、可能性は高いな。この村からだと、そっちの店の方が近いし。……もしかして、それも騙されたのか?」


 段々と獰猛な表情になってくるアンドレさんを落ち着かせるように私が手を上げると、ギルさんとグレイさんもまた、アンドレさんの肩を叩く。


 アイリスさんたちはともかく、ロレアちゃんが怖がるから、あんまり殺気を漂わせないで欲しい。


「私としては『そうです』と言いたいところですが……必ずしもそうとは言えないんですよね」


「そうなのか?」


 私の言葉に、少し拍子抜けした様な表情を見せるアンドレさんに、私は頷く。


「えっと、サラサさん、話に割り込む様で申し訳ないんですが、そもそも氷牙コウモリってどんなコウモリなんですか? 私、見た事無いんですけど」


「私も無いわね。良かったら、説明してくれない?」


「あぁ、ロレアちゃんは知らないかもね。村に飛んでくる事は、普通無いし。ケイトさんたちも知ってて損は無いと思うから……じゃあ、簡単に」


 氷牙コウモリは一般的に洞窟を住処とするコウモリの一種で、少し特殊な生態をしている。


 何が特殊かと言えば、名前にもなっている“氷牙”。

 これである。

 この牙で咬み付く事で、対象を凍らせる事ができるのだ。

 と言っても、氷牙コウモリの主食は果物で、基本的に人や動物を襲う事は無い。

 凍らせるのは果物。

 凍り付かせたその果物を貯蔵し、それを餌に冬を越すという生態をしているのだ。


 なので、無害と言えば無害なのだが、増えすぎると森の果物が無くなって他の動物に影響が出るし、果物の栽培を行っている地域などでは明確な害獣として嫌われている。


「そして、凍らせる能力、その強さによって買い取り価格は変化します。簡単に言うと、五歳未満の氷牙コウモリはあまり価値がないです」


「つまり、買い叩かれた奴が取ってきたのは、五歳未満のヤツだった?」


「判りません。もしレオノーラさんの所に持ち込んだのなら、そうだと思いますが、こっちだと……」


 そう言って私が指さすのは、やはりあのチラシ。


「う~む。決めつけるわけにもいかねぇか」


 アンドレさんは微妙に納得のいかないような表情ながらも、気を落ち着けるように、腕を組んで大きく息を吐く。


「それで、店長さん。その年齢を見分ける方法はあるの? 無いのなら、適当に狩ってくるしかなくて、効率が悪いんだけど……」


「えぇ、もちろん。じゃないと、買い取れないですから。見分け方は……せっかくですから、実地でレクチャーしましょうか」


「え? 店長殿が狩りに行くのか? 実力は申し分ないとは思うが……」


「はい。必要ですからね」


 アイリスさんたちに見分け方を教えて取ってきてもらう方法もあるけど、私が行った方が早い。


 幸い、店番をしてくれるロレアちゃんがいるし。

 やっぱり雇って良かったね。私が比較的自由に店を空けられるのは、大きい。


「もし良ければ、アンドレさん、洞窟まで案内してくれませんか? 特に依頼料は出ませんが、氷牙コウモリの見分け方はお教えできますよ?」


「そりゃ、俺たちにも利があるし、サラサちゃんの頼みなら嫌とは言わねぇが、危険……な、わけねぇな。つい、サラサちゃんの外見に引きずられちまう」


 途中から呆れたような表情になって、肩をすくめるアンドレさん。


「私、そんなに戦えそうに見えませんか?」

「「「見えない(ません)」」」


 お、おう。全員の言葉が揃った。

 これでもそれなりに鍛えてるんだけど。


 腕をグイッと曲げて、チラリとアンドレさんたちを窺うと……浮かんでいるのは微笑み。


 どんな微笑みかは、敢えて言わないけれど。


「むぅ」


 今のところ問題は起きてないけど、新しい人が増えてきた時のため、剣とかぶら下げて歩いた方が良いのかな?


 村の人とはそれなりに距離を縮められたと思うし、舐められて変なトラブルを引き寄せるより、新しい人には少し敬遠される方が良いかもしれないし……。


「ま、いいじゃねぇか、そんな事。それより、必要な物はあるか?」


 ギルさんに軽い口調で訊ねられ、少し考え込んでいた私は顔を上げて頷く。


「そうですね。傘があった方が良い、とは聞きますね」


「傘?」


「はい。ほら、洞窟の天井にはコウモリが大量にぶら下がっているんですよ? 落ちてきますよね、()()と」


 私の言葉に、想像が追いついたのか、アイリスさんたちが一斉に顔をしかめる。

 氷牙コウモリは夜行性で、私たちが狩りに行く昼間は洞窟の中で眠っている。

 そして眠りながら、用を足す。

 つまり、()()が降ってくるわけだ。頭上から。


「だが、私は傘など持っていないのだが」

「そうよね。雨が降ったら外套を被るだけだし」


 困ったように言うのはアイリスさんとケイトさん。

 アンドレさんの方に視線を向ければ、こちらも当然という表情で頷いている。


「傘なんて上品なもん、俺らが持ってるわけねぇだろ?」

「そんなの持ってんのなんて、町暮らしの商人とか、貴族ぐらいじゃねぇ?」


 そういうものか。

 かく言う私も持ってないんだけど。


「今回は大丈夫ですよ。私が『風壁エア・ウォール』を使いますから」

「俺たちにもか?」

「一緒に来られるのなら、もちろん」


 さすがに私だけ『風壁エア・ウォール』で守り、アンドレさんたちは知らない、なんて事はやらない。


 だって、『風壁エア・ウォール』って、飛んで来る矢とかを風で弾き飛ばす魔法だからね。


 今回のような場面で使ったら、私は良いけど、周囲にいる人は大惨事ですよ?

 “色々”が飛び散って。


「ただ、今後も行くのであれば、何か用意した方が良いと思いますよ? 傘じゃなくても、専用の外套とか……」


「そうだな、なんか用意すべきだろうな。俺たちだってクソは被りたくねぇし」


 あ、言っちゃった。

 せっかく私が“色々”とぼかしていたのに。


「ボロいヤツがあっただろ? あれを使おうぜ?」

「あ、それを着てウチのお店には来ないでくださいね? 出入り禁止にしますから」


 ギルさんの提案に、私は即座に予防線を張る。


 仕事上、採集者が多少汚れてるのは仕方ないけど、もろに被っているのは、ちょっと……。


「解ってるよ。つぅか、どっちにしろ、洗わなきゃならねぇんだよなぁ。なんか良い方法はねぇかな?」


「そのへんは、今日行ってみて、考えてはどうですか? 洞窟の状況次第で変わってくると思いますし」


「そうだな。今日のところは、サラサちゃんの魔法で対処してもらえるんだしな」


「はい。それじゃ、行きましょうか。――ロレアちゃん、店番よろしく。対処できない人の場合は、追い返して良いからね」


「解りました。サラサさんもお気を付けて」

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