表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
入学試験と旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/222

イツキ、仲間と過ごす

嵐の3日間の記述の中で、警備隊本部で働いていたギラ新教徒のユダを、エイベリック伯爵の息子と間違って記載していました。

正しくは、ユダはボンドン男爵とエイベリック伯爵に騙された古美術商の息子で、エイベリックの命令で軍本部で働いていました。現在、訂正済みです。


 爵位授与式を終え王様が退出されると、イツキは後でキシ公爵の執務室に顔を出すと約束し、ヤマノ侯爵と暫し閑談する。


「イツキ君、2週間前に無事カピラが男の子を出産したよ」

「おめでとうございますエルト様。何より嬉しい知らせです」

「未だ早いと言ったんだが、母上とカピラがどうしてもイツキ君に息子のイエンを見てもらいたいと、昨日ラミルに一緒に来たんだ。領主会議の翌日、20日まではラミルに滞在しているから、屋敷に寄って貰えると嬉しいんだが、予定はどうだろう?」


父親になったヤマノ侯爵は、本当に嬉しそうにイツキの予定を聞いてきた。

 臣下であり領主仲間であるイツキとしては、なにがしかのお祝いの品も準備しなければならないので、18日の卒業式の日にお邪魔すると答えた。


「ああそうだ、こちらはシンバス子爵だ。今回ヤマノ領で担当することになった、ポム弾製造の責任者を任せている。先日技術開発部から指導を受けた工場も完成した。完成品のチェックはイツキ君がすると聞いているので、申し訳ないが今月中か来月の初旬にでも、ヤマノに帰ってこれるだろうか?」


「う~ん……実はロームズ医学大学の開校の準備があって、学校が終わる20日には旅立たねばなりません。1月20日までロームズに居ますので・・・試作品が出来ていれば、今月20日までに屋敷に届けて頂ければ助かります」


イツキは目一杯詰まっているスケジュールを思い出しながら、『しまった!』と心の中で呟き反省する。すっかり特産品とポム弾の製造のことを忘れていた。


「ロームズ辺境伯様、見本品は2つだけ持参して来ました。18日にヤマノ侯爵邸で検品していただいても宜しいでしょうか?」


シンバス子爵は、目の前の領主は本当にまだ15歳の学生なのだと実感する。そして医学大学を開校させる医者でもあると聞いていたが、確かに聡明な顔つきだし、王の御前でも全く物怖じすることなく、放っているオーラが普通ではないと感じた。


「はい、シンバス子爵、それで構いません。ご子息ルビン君は、僕の前の席なんですよ。入学した時から仲良くさせていただいています。僕は飛び級で3年に進級しますが、ポム弾でお世話になるとは、きっと僕達はご縁が深いのでしょう。これからもよろしくお願いいたします」


イツキはそう答えて、自分から笑顔で握手を求めていく。

 イツキは全く意識していなかったが今の挨拶の仕方だと、ルビンをずっと自分の下で面倒みますと言ったも同然だった。貴族の慣例など知らないイツキは、自分が格上の貴族であるという自覚が無かった。

 シンバス子爵からしたら次男であるルビンの将来は、イツキ伯爵、又は、ロームズ辺境伯が世話をすると言ってくれたことになり、満面の笑顔で握手に応じる。

 この瞬間から、ルビン坊っちゃんとお付きのホリーは、ヤマノ領内ではイツキ伯爵の派閥に入ることが決定した。



 

 午前10時、イツキはキシ公爵の執務室に寄り、今後のことについて、ヨム指揮官を含めた3人で打合せをする。

 ちなみにフィリップは、ソウタ指揮官を連れマキ領の温泉保養地で身を隠している。

 段取りをしてくれたのは、マキ領に本店を置くランカー商会である。

 あまりにイツキの人使い……ならぬ商会使いが荒いので、イツキのクラスメートのトロイの兄アトスが、毎日のようにロームズ辺境伯邸に通っていた。


 イツキは12月20日にロームズに旅立つので、戻ってくる1月22日以降に【奇跡の世代】を召集したいとアルダスに頼んだ。


「その後、警備隊本部も軍本部も落ち着きましたか?」


「イツキ君……警備隊本部の上官達は、イツキ君の復帰を強く切望している。先日の襲撃事件でイツキ君の指揮者としての能力を目の当たりにし、これまで学生のイツキ君が指揮官補佐であることに反発していた者も、あっさりとねじ伏せられた。もちろん俺は、領主の仕事と両立は無理だと言ってある」


先日イツキに頭を下げたばかりのヨム指揮官は、これから警備隊全員を鍛え直すから心配しないで欲しいと約束してくれた。


「まあ、問題は王様と秘書官だな……元々2人はイツキ君が治安部隊の仕事をするのを反対していたから、今更続けて欲しいとは言えないし、今回ボンドンを逃がしたのは明らかに2人の判断ミスだ。そもそもギラ新教徒であると判っていながら、泳がせ続けたのは王様の判断でもある。ギニ司令官に至っては、よく今日の爵位授与式に顔を出したなと俺は思ったほどだ」


アルダスは自分がケガ人を装うことになった原因を作ったギニ司令官に、心底腹を立てていた。

 2年半前の軍学校で、初めてイツキ君からリース様だと打ち明けられた時、リース様であるイツキ君に忠誠を誓った筈なのに、王子であると知ってから、イツキ君をこの国を継ぐ者にしたいと欲を出したのだ。


「僕が学校を卒業するまでは、レガート国以外の仕事は入らないと思いますが、如何なる時も、僕は教会の仕事を優先します。これからもお2人を信じて、表向きは領主としての仕事に専念させて頂きます。ソウタ指揮官とフィリップさんは僕に任せてください。それからアルダス様、ヨム指揮官に僕の名前を話すかどうかは、アルダス様の判断に任せます」


イツキはそう言うと、何のこと?という顔をしているヨム指揮官とアルダス様に向かって微笑み、執務室を出ていった。



 イツキが出ていった後、当然ヨム指揮官はアルダスに何のことだと問い詰めた。


「な、何だって!王子?王子様なのか……」と叫んで、ヨム指揮官は口を閉ざした。

 今回の件で、ずっとモヤモヤしていたヨムは、ようやく納得する回答を得た。が、ますます混乱することになるのだった。




 イツキは久し振りに王宮から徒歩で屋敷に帰る。

 正直、馬車より徒歩の方が早いくらいなので、やっと領主だと覚えてもらった門番達に「ご苦労様」と声を掛け、寒空を見上げて気持ちを切り替える。

 10時集合のイツキの領主就任祝いに、主人公が遅刻している。そんなことを考えると、イツキはなんだか楽しくなってきた。

 

 ここのところ緊張することが多く、自分でも知らない間に能力(ちから)を使って倒れたりして、疲れが溜まっていたことは間違いない。

 医学大学の入試が終わり、進級試験が終わり、治安部隊指揮官補佐を辞め、自分の抱えていたものから解放された。それだけで、こんなにも軽く感じる。

 ボンドン親子とその一団が、レガート国を去ったことは、この国にとって幸運なのかもしれない。間違いなく暫くの猶予は与えられた。


 それならば、今の内にロームズ領と医学大学の基礎を、しっかりさせておくことが必要である。かと言って、必要なのはお金である。それは間違いない・・・


 イツキが屋敷に到着すると、待ち兼ねたイツキ組のメンバー達に囲まれる。

 今日は、イツキのため?に、王宮の侍女長が応援を寄越してくれた。

 先日お見合い大作戦その2について昼食を食べながら話をしたが、候補者選定をした侍女長が、事務長のティーラにそのリストを届けに来たらしい。その時、今日のパーティーのことを話したら、是非とも候補者を見て欲しいと懇願され、今日は手伝いの女性が5人来ている。


 昼食まで時間があるので、イツキは皆に今日頂いた爵位授与証を見せたり、新しく作った新型ペンを使って貰ったりして、その間にも領主としての仕事に目を通す。


「そう言えば、俺の所に19日のパーティーの招待状が来た」


そう言いながら、執行部部長エンターが皆に招待状を開いて見せた。

 どうやらそれは、領主会議の後で行われるイツキの、ロームズ辺境伯の任命式と就任式への招待状のようだった。


「ああ就任式か……ラミルに居る子爵家以上の当主と、地方の伯爵家以上の貴族に配られたはずだ。だが、あまりに急なので、地方の者は出席できないだろう。どうしてこんなに急に決まったんだ?」


「インカ先輩、僕だって昨日の夕方聞いたので……準備だって何も出来ていません」


イツキは迷惑そうな顔をして、嫌そうにインカに答えた。


「イツキ様、実は今月6日に王宮に呼ばれまして、1月13日頃に就任式をすると秘書官様から言われたのですが、主は1月22日まではロームズに居ると伝えました。それで急遽決まったのではないでしょうか?」


イツキは5日~8日まで倒れていたので、代わりにティーラが登城し秘書官と話をしていた。その時の話だと、日程が決まったら事前に知らせるとのことだったのだが、ティーラ(ロームズ辺境伯邸)に知らせが届いたのも昨夜だった。


「こんなこと普通では考えられないが、ソウタ指揮官やフィリップ秘書官補佐の件があったので、急がれたのではないかと父上が言っていた」


昨夜のうちから屋敷に帰っていた、マサキ公爵家の子息であるヨシノリが、法務大臣である公爵の意見として話をする。


「ああ、それから父上が、就任式では出席者からお祝いを貰うので、全員に御返しを用意しなくてはならないと言っていたけど、大丈夫イツキ君?」


「ええっ!何にも聞いてなかった。は~っ……トロイ、悪いけどうちの馬車に乗ってアトスさんを呼んできてくれないか?ヨシノリ先輩、今日は家令のギレムさんはいらっしゃいますか?午後からティーラさんに、就任式での貴族の付き合い方とか返礼品などの指導をお願いしたいのですが」


「ギレムなら屋敷に居るよ。それなら僕が手紙を書くから、ギレムをこの屋敷に呼んだ方がいい。イツキ君も話を聞いておいた方がいいだろう?トロイ君、ついでにうちの屋敷に寄ってくれ」


イツキとティーラは、これは座っている場合ではないと、ちょっと仕事をすると皆に告げ、バタバタと走り回ることになった。

 パーティーを主催しているクレタは、「いつものことだから気にしないで、しっかりと準備をしてくれ」とイツキに言って、話題を3年生の謝恩会に切り替える。


 昼食前に到着したランカー商会のアトスと、マサキ公爵邸の家令ギレムは、イツキの執務室で返礼品の話から決めることにした。

 もちろん昼食はロームズ辺境伯邸で食べてもらう。何せ今日はお祝いの上、妙に張り切っているお見合い候補の女性たちが、腕によりをかけた豪華な食事が沢山あった。

 ティーラとアトスとギレムは、この後もティーラの執務室で打ち合わせをしながらの会食をする予定である。



 正午になり、屋敷にいる全員がリビングに集まってきた。


「それでは、イツキ君のロームズ領主就任を祝って乾杯したいと思います。乾杯の音頭をとるのは、来年からロームズ医学大学でイツキ君の下僕として働く……ゴホン、学生としてロームズ辺境伯屋敷に住むことになったパルテノンにお願いします」


司会進行役のクレタは、親友のパルテノンを指名し、パルテノンは「ええ~っ!」と驚きながらも、まんざらでもない顔をして、イツキの隣に並び祝辞を述べる。


「イツキ君、ロームズ領主就任おめでとう。イツキ君と初めて会ったのは、実験室で染色実験をしている時だった。あの時から、イツキ君のたぐいまれな才能に、僕とクレタはすっかり魅了された。いつの間にか遠い世界に羽ばたこうとしているけど、我等イツキ組の友情は、未来永劫揺らぐことはない。我等イツキ組は、これからも新しいメンバーを迎え、ますます発展していくだろう。卒業して社会に出ても、我等の心はいつもイツキ君と共にある。我等の希望であり光であるイツキ君の、ロームズ辺境伯としての活躍を祈って、乾杯!」


「「「乾杯!」」」


イツキ組だけではなく、ティーラもランカー商会のアトスも家令のギレムも、お見合い候補の女性5人もリビングに集まり、全員で祝杯を上げる。


「おめでとうイツキ君」「おめでとうございますロームズ辺境伯様」と、皆がイツキに祝辞を述べる。


「ありがとうございます皆さん。若輩の領主を助けてくれる沢山の仲間に支えられ、僕はこれ迄やってきました。そしてこれからも、皆さんのご協力を頂きながら歩いていくと思います。ロームズ領は遠いですが、レガート国で1番行ってみたい領地と言われるよう頑張りますので、ぜひ1度ロームズに足をお運びください。どうぞこれからも、良き友、良き仲間としてご指導頂きますようお願いいたします」


イツキはにっこりと極上の笑顔で挨拶を終え、全員から大きな拍手を貰った。当然イツキの笑顔に皆は癒され、お姉さま方からは熱い視線が向けられた。

 主役のイツキがワインに口をつけたので、それを合図に皆は料理を皿にとっていく。

 その後は、リビングでイツキ組のメンバー16人が祝宴を楽しみ、ダイニングではお見合い候補の女性たちが女子会?をし、ティーラの執務室では打合せを兼ねた食事会をすることになった。

 なんだか落ち着かないが、イツキは3つの部屋を行ったり来たりしながら、全員が自分の為に集まってくれていることに感謝しながら、笑顔を絶やすことはなかった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ