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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
入学試験と旅立ち

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92/222

嵐の3日間(9)

 12月4日、イツキの手紙がフィリップに届く少し前、昼食を終えイツキとクレタとパルが、上級学校に帰る為に屋敷の前で馬車に乗ろうとしていると、火急の報せを告げる早馬が駆け込んできた。


「ロームズ辺境伯様、大変です!ソウタ指揮官が、ソウタ指揮官が刺されました!」


報せに来た伝令係りの男は顔面蒼白で、すがるような瞳でイツキに報告する。


「なんだと!」と大きな声を上げたのは、ソウタ指揮官の直属の部下になっているハモンド23歳だった。


「午前10時頃、昨日捕らえたカイ領主屋敷襲撃犯の尋問をしようと牢に向かったところ、犯人は何者かに殺されており、見張りの兵士も殺されていました。知らせを聞いたソウタ指揮官は、獄舎棟の入り口に出来た人垣の中を……人垣の中を歩行中……何者かが、何者かが後ろから指揮官を刺しました」


がくりとその場に膝をついたレガート軍の伝令係りは、悔しそうに拳を握り締めた。


「それで、容態はどうなんだ?」

「はいロームズ辺境伯様、軍医の手に負えず、教会病院に運ばれました。病院長が、至急ロームズ辺境伯様を呼ぶようにと……お願いでございます。どうか、どうか指揮官をお助けください」


イツキの問いに、伝令係りは必死の形相でイツキに頭を下げ懇願する。


「直ぐ行く。ベルガ付いて来い。ハモンド、お前は軍に行き詳しい状況を調べてこい。レクス御者を頼む。僕とベルガを教会病院で降ろしたら、クレタ先輩とパルと一緒に上級学校へ行き、教育部長にことの次第を伝え、論文を屋敷に運んで貰うよう頼んでくれ。3分後に出発する。パル、お前はクレタ先輩と一緒に学校に戻れ」


「承知しました」5人は直ぐに返事をして、準備に取り掛かる。

 イツキは自分の寝室に急いで駆け上がると、クローゼットの中からリース(聖人)エルドラ様と同じくリースのメルダが創ってくれた聖水を取り出す。


 イツキは、フィリップのことばかり心配していた自分を悔いた。

 アルダス様とフィリップが狙われたのだから、次はソウタ指揮官やヨム指揮官が狙われる可能性は充分にあったはずなのだ。

 ソウタ指揮官を刺したのは、恐らく()()殺し屋に違いない。アイツは気配を消しレガート軍の兵士の制服を着ていたのだろう。

 昨日が警備隊本部で、今日はレガート軍本部とアルダス様とフィリップ……これだけ大掛かりに暗殺を実行するとは……自分が思っていた以上にギラ新教徒は力をつけていたのだ。


 馬車で教会まで移動する間、イツキは頭をフル稼働させ考える。

 これは宣戦布告なのか……?明らかにギラ新教徒の仕業だと分かっているのに?

 敵の狙いは何だ……キシ組の暗殺?そして同時に暗殺を行うメリットは何だ?


 イツキが黙り込んで考えているので、誰も言葉を発することが出来ないまま、馬車は教会病院に到着した。


「レクス、ボルダン校長に会って警備隊本部の襲撃と、レガート軍本部の襲撃の状況を伝えてくれ。そして、1年B組のルシフが学校を辞めていないか確認してくれ。もしもルシフが退学していたら、奴等はレガート国を出るか拠点を変える可能性が高い。直ぐにヨム指揮官に知らせて、治安部隊に確認させてくれ。・・・それから、明日の午後まで、お前はヨム指揮官の護衛をしてくれ。絶対に守り抜け!」


「はいイツキ先生!上級学校で確認後、必ずヨム指揮官に張り付いて護ります!」


レクスは緊張すると、イツキのことをイツキ先生と呼ぶ。レクスはヨム指揮官の直属の部下になっている。上司の大ケガに真っ青になっていたハモンドを思い出し、何がなんでも護るとイツキに誓い、上級学校に向け出発した。





 ソウタ指揮官は、手術室でパル院長の手術を受けていた。


「犯人は人の体をよく知っているようだ。ソウタ指揮官は……命が助かっても立てないかも知れない。刺す場所を狙い定めて……ご丁寧に毒まで仕込んでいく用意周到さだ」


パル院長は憎々しそうに言いながら、縫合作業に取り掛かろうとする。


「毒!やっぱりアイツか・・・でも、どうして毒だと分かったのですか?」


イツキは首を捻りながらパル院長に質問する。自分が斬られて毒にヤられた時は、2日目になって分かったはずだ。


「これを見てくれ。既に赤黒く患部の色が変わっている。これは恐らくダッタの実を使った毒だ。これだけ出血して血の臭いがするのに、独特の強く甘い臭いがする。傷口周辺の皮膚は、毒にヤられているから出来るだけ取り除いた」


 麻酔が効いて意識の無いソウタ指揮官の、腰よりほんの少しだけ上の部分から、確かに甘い臭いがする。イツキはその臭いを嗅ぎながら頭を抱えた。

 ダッタの実は、ダルーン王国にしか分布していない。花は咲かないのに実がなる不思議な木だと思われていたが、近年それは木の実ではなく、樹液が少しずつ固まって実のようになっているのだと解明された。

 その樹液には強い毒性があり、口から体に入ると2日以内に心臓が止まり、傷口から入ると皮膚を壊死させたり、全身に麻痺が残り神経をヤられることが判っている。


 そして解毒薬は見付かっていない。


「パル医師(せんせい)、ソウタ指揮官は僕の剣の師であり、一緒にカルート国にも旅をしました。レガート国にとっても大切な人ですが、僕にとっても失いたくない大事な(ひと)です。どうか助けてください。毒に関しては方法を考えていますが、明日の午前9時までに遣らねばならないことがあります。ですから、明日の10時まで保たせてください」


イツキはそう言うと、鞄の中から緑色と白色の瓶の聖水を取り出した。緑色の瓶の聖水は傷を治す。白色の瓶の聖水は臭いを消す。

 イツキは始めに白色の瓶の聖水を2滴傷口に()らし、次に緑色の瓶の聖水を、瓶の半分の量垂らした。

 そしてイツキは、パル院長の縫合を手伝った後、自分の左手に数滴聖水を滴し、閉じた傷口の周辺を優しく撫でるようにして広げた。


「あとはソウタ指揮官の生命力に懸けるしかない……イツキ君、確認するが、明日の10時になったら何をするつもりだ?まさか……赤い瓶を使うつもりじゃないのか?」


半分泣きそうな顔をして、ソウタ指揮官の傷口を撫でているイツキに向かって、パル院長は問い質すような視線を向ける。


「はい、そのつもりです。今回は青い瓶もあります」


「青い瓶は毒を消すんだろう?それなら始めからそれを使えばいいんじゃないのか?それにダッタの実は魔獣の毒ではない。毒を以て毒を制す必要はないだろう」


「いいえパル医師(せんせい)、青い瓶は僕とフィリップにしか効きません。僕が毒にヤられた時にだけ有効なのです。ダッタの木は、ダルーン王国で唯一魔獣の居るハリブの森にだけ分布しています。そして、ダッタの木には、多くの魔鳥が巣を作っています。昨年僕は旅の途中でダルーン王国に行き、この目で直接確認しました。ダッタの木の毒は、魔鳥と大きく関わっていると思います」


「魔鳥・・・」


イツキの話を聞いたパル院長は言葉が続かなかった。

 イツキの見識の深さに驚き、全てを予測した上で行動しようとしている姿に、これがリース(聖人)様というものなのかと考える。自分のことより常に他者を思いやり救おうとする……でも、多くの使命を持って生まれた【予言の子】でもあるイツキ君は、自分を犠牲に……我が身を危険に曝してまで助けなければならないのか?


 ここは止めるべきなのではないか?

 いや、イツキ君はやると言ったら必ずやる。俺では止められない。唯一父親的なサイリス(教導神父)のハビテ様なら……いや、ハビテ様でも無理だろう・・・


「分かりました。最善を尽くして明日の午前10時まで、ソウタ指揮官の命を繋ぎます」


パル院長は教え子としてのイツキではなく、リースとしてのイツキ様に頭を下げた。




 午後3時、イツキは軍医のベルガを病院に残し、教会の馬車で王宮までやって来た。

 そしてアポイントも無しに、王の執務室のドアをノックする。


「誰だ!今、重要な話し合いの最中だ。誰も来るなと言っただろう!」


バルファー王は不機嫌そうに、王宮警備隊の隊員だと思って声を荒らげる。

 イツキはお構い無しに「イツキです」と名乗りながら勝手にドアを開けた。


「「・・・?イツキ君?」」


バルファー王とエントン秘書官は、イツキの登場に驚き目をぱちぱちさせる。


「今、ソウタ指揮官の容態を見てきました。ヨム指揮官は何処ですか?警備隊本部に居ますか?」


イツキは無表情で、国王に向かって礼もとらず質問する。


「誰がイツキ君に知らせたんだ?」


今回の件にも、イツキを関わらせたくなかったバルファー王は、どうしてイツキがソウタ指揮官のことを知ったのか、腹立たしそうに質問する。


「パル院長です。ソウタ指揮官の容態が悪いので、手術の手伝いをしてきました」


怒っているのはイツキも同じである。何故こんな重大な事件が、王宮や軍からではなく、病院から伝えられるのか納得できなかった。


「ヨムは警備隊本部で指揮を執っているはずだ。それで、ソウタの容態はどうなんだイツキ君?そんなに悪いのか?」


何となく不機嫌な表情のイツキに戸惑いながら、エントン秘書官は答えた。


「この件()僕には関係ないということですか?それならソウタ指揮官の容態を答える義務はありません。僕は医師として善意で協力したに過ぎませんから」


イツキは本気で怒っていた。王様にも秘書官にも視線すら合わせようとしない。

 王様も秘書官も、自分を危険に巻き込みたくないと思っているのは分かる。医学大学の入学試験の仕事に集中して欲しいのだろう。そして、学生として……とかなんとか、2人は僕のことを王子として見ているのだ。


「僕は誰でしょう?学生ですか?治安部隊指揮官補佐ですか?ロームズの領主ですか?お2人は、僕をリースだとは思っていないようだ!そしてレガート国は、ブルーノア教会との協力体制をとりたくないようだ。僕の使命を分かっていて情報を伝えない。すなわち、都合の悪い情報は伝えたくないということだ。レガート国が平和ボケしている原因は、どうやらお2人にあったようです」


イツキはそう言うと、2人を睨み付けるようにして執務室を出ていった。


 イツキが最も優先すべきことは、リースとしての務めである。

 そのリースとしての使命を果たすため、これまで共に戦ってきた。しかし、ロームズ辺境伯としての仕事が、リースの仕事を妨げているのだ。

 イツキの1番の使命はギラ新教と戦うことである。ロームズ医学大学もリースとして取り組みたい仕事で()ある。領主として領民も幸せにしたい。でも、自分の体はひとつしかないのだ。


 王と秘書官がイツキに対して情報を隠すことで、ルシフの父親であるボンドン男爵や殺し屋を、取り逃がすことになるかもしれない……そう思うとやりきれない気持ちになる。もどかしくて……思わず涙が溢れてくる。

 敵がギラ新教徒であるということを、王も秘書官も甘く考えている。

 イツキはハーッと深く息を吐きながら、レガート城の裏門から警備隊本部に歩いて移動する。



警備隊本部に到着したら、屋敷に馬車を置いて歩いてきたレクスと、正門の前でバッタリ出会った。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次回の更新は、1月3日の予定です、

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