表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
入学試験と旅立ち
86/222

嵐の3日間(3)

ギラ新教の動きが活発化してきました。

今回フィリップは側に居ません……

 次にイツキとリブルスは演習場に向かった。

 演習場では制服組の隊員が、訓練の道具を片付けているところだった。

 隊員達は、治安部隊の黒い制服を着ている人物が近付いて来るのに気付き、それがロームズ辺境伯だと分かると、慌てて駆け寄り整列する。


「治安部隊指揮官補佐、ご苦労様です」


イツキが見知っている副隊長が、代表でイツキに挨拶をし軍礼をとると、他の隊員達(約30人)も合わせて軍礼をとった。


「隊長は休みか?」


イツキはこの中に悪意ある者が居ないのを確認して、副隊長に訊ねた。


「いえ指揮官補佐、小隊を連れヨム指揮官の指揮下にあります」


隊長達は、カイ領主屋敷の警護や、エイベリック伯爵邸に突入しているはずだと副隊長は告げた。

 イツキは事件勃発から現在までの様子を、副隊長から詳しく聴くことにした。

 死者3名、重傷者2名、軽傷者3名。亡くなった者は全て事務官で、重傷者は教育課長のボグと、見回りをしていた隊員である。軽傷者の3人と重傷者の隊員は、副隊長と同じ部隊の隊員だった。


 警備隊本部には、2つの部隊が常駐しており、現在本部内を見回りしているのは、イツキが先程会ったボーエン大尉が指揮する部隊だった。

 ゴウテス中佐に聞いていた人数が違うのは、それだけ現場が混乱していたからだと思われる。


「副隊長、5人を連れ付いてこい。まだ残党が残っている可能性がある。たった今、実践施設の会議室に居た残党を捕らえたばかりだ。他の隊員は捕らえた犯人を敵に殺されないよう、教育棟の出入り口を固めろ!」


「えっ!まだ犯人の仲間が居たのですか指揮官補佐?」


「そうだ。しかも、制服を着ていやがった!」


副隊長の問いに答えたのはリブルスである。リブルスは実践施設での出来事を簡単に説明し(指揮官補佐の神業のような剣さばきで、犯人を動けなくしたと自慢気に)、またもや制服を着ていたことに憤慨しながら言う。

 副隊長も隊員達も怒りに顔を歪めながらも、イツキの指示に従い腕のたつ5人を残して、残りは教育棟に向かって全速力で走っていく。


「よし移動するぞ。まだ残っている犯人が居たら、その狙いは治安部隊の情報収集と、日頃の隊員数や警備体制を調べることだろう。突入部隊は囮だ!本当の黒幕は、何食わぬ顔をして情報を集めている」


イツキはリブルスと、副隊長、隊員5人の計7人に残っている犯人の目的を告げる。

 そして7人を連れ演習場をぐるりと回り、裏門から本部棟までの間を、隈無く捜査しながら急いで歩いた。





 結局怪しい者は見当たらず、イツキ達は裁判関連棟前広場まで戻ってきた。

 時刻は午後5時である。冬の日暮れは早い。

 イツキは各部署毎に整列して待っている全職員と隊員の前に出ると、ゴウテス中佐の耳元で何やら囁き、自分は後ろに下がっていく。


「其々の部署の上官は、見掛けない顔の者や10日以内に移動してきた者を、全て前に並ばせろ。受付の者は、今日たまたま用事で警備隊本部に来ていた者を探し前に出せ!」


ゴウテス中佐は大きな声で叫ぶと、「急げ!」と緊迫感を出し怒鳴った。

 本部棟からは1人の事務官と隊員1名、裁判関連棟からは2名の事務官、教育棟は無し。今日たまたま警備隊本部に来ていた者は12人居て、既に帰った10人を除き2人が前に出る。

 ゴウテス中佐は、前に出た6人以外に面識のない者が居れば、前に出すよう命令しながら、全体の様子を探るように見ていく。


「今日の襲撃は、ギラ新教徒の仕業だと判明した。真面目に働く事務官を3人も殺し、他にも多数のケガ人を出してしまった。いいか!今回のことで分かっただろう。平和ボケしている時代は終わったんだ!・・・だが、今回の襲撃でも分かるように、奴等はバカだ!恐らく間抜けな指導者が作戦を立てたのだろう。結局犯人は全員死んだ。ギラ新教徒は洗脳された哀れな奴等で、善悪の判断も出来ず暴挙に出る。ギラ新教徒とは、洗脳されギラ新教に利用されている駒に過ぎない!」


ゴウテスはイツキの指示通り、ギラ新教徒を煽るような言葉を選び皆に伝える。

 イツキは整列している者を後ろから確認しながら、ゆっくりと前方に移動を始める。

 何処かに悪意を放つ者が居るかもしれないと、決して気を緩めることなく、並んでいる300人近い職員に視線を向ける。

 普通に部署毎に整列している者の中には、黒い悪意を放っている者は居なかった。


 イツキは前に並ばされた6人の前に立つと、右から順に所属と名前を確認する。


「お前達4人は、新しく所属になった者に違いないな?」

「「「はい、間違いありません」」」


前に出されていた3人の事務官と1人の隊員は、姿勢を正して返事を返した。


「よし、4人は自分の部署の列に戻れ!」


イツキは4人に後ろの列に戻るよう命令した。

 残ったのは来客として警備隊本部に来ていた2人だけである。

 来客の1人は一見人の良さそうな商人風で、護衛のような男を連れていた。


「お前達は来客だな?一応何の用で来たのか聞いておこう」


イツキは残った2人の前に立ち、先程までの厳しい感じではなく普通に質問する。


「はい、私は商人のエドスと申します。こ、こちらは私の護衛でゲルト。ほ、ほ、本日は文房具や紙の商談で……参りました」


如何にもイツキが怖いという風に、おどおどした返答をしペコペコと頭を下げた。


「何故その護衛は剣を帯刀しているのかな?」


「は、はい。ちょうど帰ろうと思いまして、受付で預けた剣を返して頂いたところで、隊員の方に整列するよう命令を受けました」


商人と名乗るエドスは、代表して事情を説明する。

 イツキの隣に立っていた副隊長は、護衛のゲルトを睨み付けながら、念のため警戒し間合いをとった。


「あのー、急いで帰りたいのですが……私はただの商人でございます」


「いいだろう!帰りたければ、その剣を渡して貰おう。門の外で返してやる。さあ、死にたくなければ剣を渡せ!」


護衛のゲルトに向かって、少し間合いをとっていた副隊長が命令する。


「どうした?早く渡せ。それとも……渡せない事情でもあるのか?ギラ新教徒だとバレると不味いとか、治安部隊の人間は殺せと、命令でも受けているのか?」


治安部隊の黒い制服を着たイツキは、何故か穏やかな顔をして、まるでそれを冗談で言っているかのような雰囲気で、無防備に右手を差し出した。


「…………」


商人エドスと護衛のゲルトはチラリと顔を見合わせ、どうする?と瞳で会話する。

 その時2人は、普通の商人等とは思えない、素面に戻った鋭い視線のやり取りをした。普通の者では気付かない……いや、気付けないだろうが、イツキには2人の体を覆う黒い悪意が見えていた。


「ギ、ギラ新教徒だなんて……とんでもないことでございます。ご命令に従います。おい、早く剣をお渡ししろ!」


商人エドスは思った。目の前の妙に若い治安部隊の隊員は、自分達がギラ新教徒だとは気付いていないと。もしも本当に気付いていたら、これだけ大勢の人間を危険に曝すような真似をするはずがないと。

 取り合えず今日のところは引き揚げた方が良さそうだと、エドスは判断し剣を渡すことにした。


 イツキが商人エドスと剣のやり取りを始めると、副隊長はスッと2人の男の後ろに移動し、並んでいた300人の方を向き、人差し指を口の前に当て、喋るな!という厳しい視線を向けながら、両手で後ろに下がれと合図をし全員を下がらせる。

 流石に300人が後ろに下がると、足音も気配も感じる。


「さあ、取り調べはこれで終了だ。今日は大変だった。時刻も5時を過ぎたから、早く剣を渡してくれ。今から病院にも行かねばならない」


イツキはニコニコしながらそう言うと、警護のゲルトから剣を受け取った。


 そして裁きの能力【銀色のオーラ】を、10秒ほど全開で放つ。


「動くな!懐のナイフも出して貰おうか」


イツキは2人を睨みながら低い声で命令する。先程までとは別人のような殺気を放ちながら、奪った剣を構えて戦闘体勢に入る。

 イツキの大きな声に合わせて、ゴウテス中佐や副隊長、リブルス、制服組の5人が剣を抜き2人を取り囲んでいく。

 後ろに下げられた者達は、慌ててもっと遠くまで下がっていく。


「な、何を仰るのでしょうか……私は……」


商人エドスは息苦しさを感じながらも、この場を逃れる術を考える。しかし隣に居た護衛のゲルトが、既に隠し持っていた短刀を取り出し構えていた。



「チッ!お前ごときガキが偉そうに・・・死ね!」


商人エドス、いやギラ新教徒であり暗殺者のエドスは、素早くナイフを取り出しイツキに向かって投げた。

 しかし、イツキに【銀色のオーラ】を放たれていたエドスは、上手くイツキに命中させることが出来ない。

 このままでは殺られると思ったエドスは、1番弱そうな警備隊員に2本目のナイフを投げると、素早く剣を奪う。


 その間リブルスは、警護のゲルトと向かい合って対戦していた。

 リブルスは、合図を出したら殺しても構わないとイツキに指示されていた。その指示とは「動くな!」とイツキが叫ぶことだった。

 敵は殺し屋として訓練された者らしく、短刀だがリブルスと互角に戦っていた。

 それでもリブルスは、イツキの前で負ける訳にはいかなかった。自分を信じて供に指名してくれた指揮官補佐であるイツキに、成長した自分を見せる為に奮起する。


 そしてリブルスの剣は、殺し屋ゲルトの体を見事に貫いた。



「皆下がれ、ケガ人の手当てを優先しろ!この私が負けることはない!」


イツキはそう言うと、剣を奪って目の前のイツキを殺す気満々のエドスに、ニヤリと笑って見せた。


「ガキが!治安部隊は余程人材不足のようだ。剣でこの俺に勝てるとでも?ハッ、笑わせるな!お前を殺し上官達を殺し、この場を血の海にしてやる。警備隊本部は、間抜けな弱い奴ばかりだと世間に知らしめてやろう」


エドスは負け惜しみではなく、本当にそう思って自信満々で剣を構えた。

 エドスはボンドン男爵(同級生ルシフの父)から剣の才能を買われ、殺し屋を育てているボンドンの片腕グラフにも、まあまあだと認められた剣豪であった。


 対戦しているイツキも、警備隊員から剣を奪った早業を見て、敵はかなりの腕を持っていると察していた。だからこそ全員を下がらせたのである。


イツキは剣を構えると、意識を集中していく。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ