表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
入学試験と旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/222

医学大学入学試験(2)

久し振りに学校の様子を書いてみました。

 冒険者になる手続きを終えた3人は、イツキが戻って来るまで、受付のリーサから注意事項や様々な説明を受けていた。


「よろしいですか、新人冒険者は決して中級魔獣と戦ったりしてはいけません」

「そんな……し、死にますよね普通」(ヤスト)


「そうです、普通は死にますね……でも、あなた方を連れて来た()()新人は、何人もの人を食い殺した人食い魔獣を倒してしまいました。はっきり言います。見習ってはいけません!そして、一緒に冒険に出たら危険です。命を大切にしてください」


リーサはイツキがロームズ辺境伯であることを知らなかったが、冒険者登録した時は子爵家当主で、凄い貧乏貴族だったと記憶していた。

 いつも店長や副店長が、常識外のとんでもない冒険者だと愚痴をこぼしているので、3人にはくれぐれも魔獣を相手にしないよう注意する。

 そこは新人担当受付として、絶対に言っておかねばならないところだった。


『ああ、夏大会の時のあれかぁ……まあ、あのメンバーでも死に掛けたみたいだから、今後は気を付けてくれるだろう……きっと……たぶん?……でもレガート大峡谷が……』

 パルテノンはちょっとだけ、自分の将来が不安になった。夏休みは未開のレガート大峡谷で、植物採集する予定だ。魔獣に出会わないことを祈ろう。


「でも、薬草採取は天才的です。()()人と同じパーティーに入れば、3ヶ月で家が買えるでしょう。ですから、薬草採取は頑張ってくださいね。しっかり勉強して、たくさん納入してください。待っている間に依頼票を見て、大体の依頼料などを頭に入れておいてください」


今度は笑顔で説明するリーサである。いつも薬草担当のホームズさんが、金貨をポンポン支払っているのを知っていた。しかも、他の冒険者では考えられないことだが、いつも店長室で面談するという特別待遇を受けていた。



「自分の生活費は自分で稼ぐか……それにしても、ロームズ辺境伯様って本当に冒険者をしてたんだ。でも人食い魔獣を倒すって……」


薬材店で働いているヤストは、依頼表に書かれている薬草名と報酬をメモしながら小声で呟く。3人はイツキが領主であると絶対に知られないようにと指示されていた。


「俺は今年の上級学校対抗武術大会で、槍の団体決勝戦を観戦していた。決勝はキシ対ラミルで俺の親友が大将だった。昨日の面接の時は気付かなかったが、領主様はラミルの大将で、俺の親友に勝ち団体戦を勝利に導かれた。……でも親友は、個人戦で優勝したんだ。領主様は手首を痛めたとかで個人戦を棄権され、親友はリベンジできなくて残念そうだった。あんなに小柄なのに凄いよ。だから俺は、領主様が中級魔獣を倒したと聞いても納得できる」


キシ上級学校のダンも小声で意見を言う。ダンはガッシリ体型で、剣と体術の選抜選手として大会に参加していたので、イツキの鮮やかな戦いぶりを覚えていたのである。


「今年のラミルは強かったよ。剣の団体決勝戦ではなんとか勝てたけど、個人戦は決勝にも進めなかった」


「ダン、剣の個人戦で優勝したのは3年のエンターと言うんだが、イツキ君……ロームズ辺境伯と一緒に冒険者のパーティーを組んでいる。ちなみに、3位だったヤンも同じパーティーだ。当然これは極秘情報ということで。でも、そのエンターに先日ロームズ辺境伯は剣で勝っていたぞ」


パルテノンも小声で、さらりとイツキとエンターとヤンの秘密を暴露する。ロームズ辺境伯様は、頭脳明晰で武術も最強だからと、ちょっと自慢してみたりする。


「本当に凄い人だなぁ。俺はロームズ辺境伯枠で入学できて本当に幸運だな」

「そうですねヤストさん。バイトでも稼げそうだし、俺は下僕でもいいかな」


文武両道のダンを以てしても、ロームズ辺境伯は憧れ尊敬出来る領主様のようである。

 イツキ君が医師資格と薬剤師資格を持っていると知ったら、もっと驚くだろうなとパルテノンは思ったが、それは大学に行ってから驚いて貰うことにした。


「お待たせ、登録は済んだ?」

「「「はい、済みました!」」」と、凄くいい笑顔で3人はイツキに返事をした。


 イツキはダンとヤストを、キシ領に向かう馬車乗り場まで送り、パルテノンと一緒に上級学校まで帰った。





 上級学校に到着したのは、ちょうど昼食時間だった。

 パルテノンは学校の直前で馬車を降り、徒歩で正門から学校に入り、イツキは教員室棟の前で馬車から降りた。


「お帰りイツキ君、お疲れさま。何だか毎日忙しいね」(イースター)

「最近学校に居る方が少ないよね。午後はずっと居るの?」(インダス)

「インダス先輩、今日は久し振りに部活にも出ますよ。当然ですが、部活中はミリダ語以外禁止です」


イツキはほかほかと湯気の立つ、美味しそうなシチューを食べながら笑顔で応える。

 専門スキル修得コースで開発コースを講義で取っている学生は、今年から隣国ミリダに在る、ミリダ王立先進学院とミリダ王立工業学院に、1人ずつ国費留学出来ることになった。

 しかし留学する為には、専門スキル修得コースの認定試験に合格し、ミリダ語でAを取るという条件が付いていた。その為イツキは、9月から部活中はミリダ語で会話することにしたのだった。


 そこに昼食のトレイを持った、パルテノンが帰って来た。

 ちょっと疲れたパルテノンの顔を見て、クレタ以外のイツキ組に緊張が走った。

 今日がパルテノンの合格発表だと知っているイツキ組のメンバーは、もしかしてダメだったのではと、不安になってしまったのだ。


 就職試験や進学試験のシーズンに入り、イツキ組や校内では暗黙の了解として、ある約束事が浸透していた。それはイツキに対して、就職試験や医学大学の受験に関する話をしないという約束だった。


「お帰りパルテノン。何だ疲れた顔をして……」

「ああクレタ、ちょっと自分の将来に漠然とした不安を覚えてな……」


パルテノンは「は~っ」と大きく息を吐きながら、いつもの自分の席に座る。その様子を見た3年のインカやエンターやピドルは厳しい顔をする。


「俺は来年レガート大峡谷に行って植物採集をする。もしも魔獣に襲われたらと思うと不安なんだ。まあ、学費も下宿代もタダだから文句は言えないけど……」


「えっ?じゃあ合格したんだなパルテノン!」


インカ隊長は椅子から立ち上がり、身を乗り出すようにして顔をパルテノンに近付けて確認する。

 するとパルテノンは、ニカッと笑い右手の親指を立てた。そして嬉しそうにイツキ組の3年生から順に、全員と拳を合わせていく。最後はイツキだった。


「これでイツキ組の3年生は全員進路が決定した。今夜は俺の部屋に集まらないか?」


エンター部長が笑顔で誘ったので、全員が同意し夕食後集まることが決定した。



 4時限目は武術の時間で、今日のイツキは槍だった。

 卒業間近の3年生は、イツキと対戦したいと顧問のカイン先生にお願いする。

 剣だけでなく槍の講義でも指導員に選ばれているイツキは、笑顔で了承し3年生と稽古というか対戦をしていく。対戦後は1人1人に、ここをこうした方が良いですよとか、今の踏み込みは良かったですと丁寧に指導し、領主と判明してからも指導員に指名されてからも、先輩には敬語を使い礼儀正しく接していた。

 そんなところが、先輩方のみならず全員に好感を持たれているのだろう。一部過激なイツキファンの先輩もいたが、一番強い3年のガイガー先輩が、しっかり睨みを効かせてくれていた。



 5時限目は専門スキル修得コースで、医療コースの講義を受けようとイツキが教室移動をしていると、教頭から呼び止められた。


「イツキ君、すまないが薬草学のポート先生が、急に王宮に呼ばれて出掛けたので、代わりに講義をお願いしてもいいだろうか?勿論学生の君に頼むのは可笑しいと分かっている。しかし、ポート先生が今日の予定は毒草についてだから、絶対に教えておかねばならないと言うんだ……」


「僕は構いませんが……学生達が何と言うか……」


イツキがどうしたものかと思案していると、後ろからパルテノンが声を掛けた。


「イツキ君、きっとみんな喜ぶよ。1年生で認定試験に受かったし、俺の他に認定試験に合格している3年の5人は、医学大学の受験に向け殆ど休んでいる。俺が教えてもいいが、きっとイツキ君の方が詳しく教えられる……そうだろう?」


パルテノンはニヤリと笑い、教頭先生が持ってきた教材を受け取りイツキに渡した。


「パルテノン君、合格おめでとう。すまないが、後は任せたよ」

「はい教頭先生。俺もイツキ先生に教わるのが楽しみです!」


イツキを無視して教頭とパルテノンは話を決めてしまった。イツキはやれやれと肩をすぼめてみせるが、まんざらでもない表情で教科書をパラパラと捲り始める。



 カランカランと鐘が鳴り、医療コース16人の学生の内、イツキ以外の12人が席に座って先生を待っていた。

 今日教えることになっているページに目を通したイツキは、ガラリと戸を開け教室に入ると、スタスタと教壇に向かって歩いていく。

 リーダーであるパルテノンが「起立!」と号令を掛けた。


 久し振りにイツキの顔を見た気がするクラスメート達は、ン?と首を捻りながらも起立し、「礼!」という号令で頭を……半分だけ下げた。


「今日はポート先生に代わり、僕が毒草についての講義をします。終了15分前に小テストをやるので、きちんと聞いていてくださいね。きっと全員が満点を取ってくださると僕は信じています」


イツキがそう言ってにっこり極上の笑顔を向けたので、急に皆は姿勢を正しノートを広げペンを持った。

 自分が教えることに誰か異議を唱えるかと思っていたが、文句を言うどころか「オオーッ!」と声を上げ喜んでいる?ようだった。


「それでは教科書は閉じてください。重要な毒草の説明の前に、毒草の定義についてお話しします。毒草には、人体に害にしかならない物と、毒があっても薬になる物があり、大きく2つに分けられます」


イツキは教材など一切見ないで、スラスラと講義を進めていく。今日習うはずだった7種類の毒草の他に、イツキは最近解明された毒草3種類についても教えていく。

 既に全ての毒草について学び終えていた3年生は、イツキが話した3種類について、驚きながらも懸命にノートをとっていく。

 イツキはその新しい毒草の絵を、特徴を捉えて分かりやすく黒板に描いた。

 教科書にも載っていない毒草の情報を、何の資料も見ずに迷いなく書いていく。


「以上の毒草は、来年開校するロームズ医学大学の薬学部教授から、僕が教えて貰った情報なので最新です。さあ、10分後にテストをしますので、しっかり覚えてください。特に毒草は葉や花の特徴を覚えることが大切です」


イツキはそう言うと、黒板に書いた絵や情報を消し始めた。

 10分後、12人は死に物狂いで暗記した内容を、忘れないよう弾丸の如く一気に書いていく。ちょっと血走った感じの受験前の3年生2人は、全て書き終え安堵の息を吐き、1年や2年生は、尊敬の眼差しでイツキを見る。


 次の日パルテノンから講義のノートを見せて貰い、イツキから小テストを受け取った教師のポートは、少し自信を失いそうになった。

 しかし、来年から新しく開設される【農業技術開発部】に移動が決まったポートは、「教え子には負けてはいられないな」と呟いたとか・・・



 夕食後、久し振りにエンターの部屋にイツキ組の全員が集合した。

 1年のトロイも最近正式にイツキ組の一員になっており、総勢16人の大所帯で、3年生全員の合格祝いを楽しく始め、門限ギリギリまで盛り上がった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ