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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
怒濤の後期スタート
8/222

イツキ、友と語らう

クレタ達を乗せた馬車は、パトモス衣装店の角を曲がった。


「えっ、ここ?うちのすぐ近くじゃないか」


馬車に乗って5分足らず、歩いてきた方が近かったと思うエンターが呟いた。


「さあ皆、降りてくれ、ここは僕の身内が働いている屋敷だ。静かに入れよ」


クレタは皆を案内して玄関の前に立つ。全員キョロキョロと辺りを見回し、屋敷を値踏みするように観察する。

 領主の子息であるインカとヨシノリは、レガート城の直ぐ近くの屋敷であり大商人の家が多いことから、店は派手だが屋敷は地味な商家の可能性が高いのではと思った。

 ナスカとヤンは男爵家の子息なので、立地条件と外見地味でパッとしない屋敷から、地方の侯爵家か伯爵家、又は古くからの商家ではないかと思った。

 平民であるパルにとっては、ただ大きくて凄い屋敷にしか見えない。

 エンターにとってはご近所である。こんな近くにイツキ君が居るなら、エントン秘書官が知らない筈がない。どうして自分に知らせてくれなかったのだろう……そう言えば、リンダも午後から居なかった……と不安を募らせていた。


 クレタが呼鈴を鳴らすと、ドアを開けたのは事務長のティーラだった。


「皆様ようこそいらっしゃいました。出来るだけ静かにお入りになり、あちらでお名前とご身分、学校でのイツキ様との関係をご記入ください。全員が記入されましたらご案内いたします。さあ、どうぞ、お入りください」


事務長は丁寧に挨拶をして、エントランスホールに設置された小さなテーブルの、その上に置かれている来客名簿のようなノートを右手で指し、横に置いてあったペンを、息子のクレタに渡した。

 玄関の中に入ってきた6人は驚いた。地味な外見からは想像できない豪華なエントランスホールに。

 そしてエンターとヨシノリは、クレタの家に行ったことがあるので、クレタの母が対応に出てきたことに驚いた。そう言えば身内が働いている屋敷だと言っていた。


 クレタは神妙な顔をして、自分から名前を記入していく。


◎ クレタ・ハッフ・ゴールトン 17歳 ラミル出身 男爵家次男 ラミル上級学校3年 イツキ組 化学部部長 イツキ親衛隊隊長 


◎ ナスカ・マナヤ・ホリス 15歳 カイ出身 男爵家長男 ラミル上級学校1年 イツキ組 執行部書記 クラスメート


◎ パル・ギラス 16歳 ミノス出身 平民 ラミル上級学校2年 イツキ組 風紀部2年隊長


◎ ヤン・マセス・バラン 16歳 ラミル出身 男爵家次男 ラミル上級学校2年 イツキ組 風紀部副隊長


◎ ヨシノリ・ビ・マサキ 15歳 マサキ出身 公爵家次男 ラミル上級学校2年 イツキ組 執行部副部長


◎ インカ・デル・ラシード 17歳 カイ出身 侯爵家次男 ラミル上級学校3年 イツキ組 風紀部隊長


◎ エルビス・バヌ・エンター 17歳 ラミル出身 伯爵 ラミル上級学校3年 イツキ組 執行部部長


 以上7人は名簿に記入し終わると、事務長の言葉を待つ。


「私はこの屋敷で働くティーラと申します。此処に居るクレタの母です。ご縁がありこちらの屋敷で働いています。本日は当家の主が、重大な話を伝えるため皆様に集まっていただきました。まずはお部屋の方にご案内いたします」


ニコリともせず、事務長は右手のドアを開け、全員をリビングに案内する。

『何だここは!』とクレタ以外の6人は再び驚いた。公爵家のヨシノリであっても、豪華に(しつ)らえてあるリビングには「ほ~っ」と感嘆の声をあげた。


 壁際のコーナーには、やや広目の革張りのスツールが11脚並べて置いてあり、窓際には豪華な布張りの長椅子が2脚、1つは窓の外を向き、1つは部屋の中央を向いていた。中央には3人掛けと1人掛のソファー2脚が対面で置かれている。同じようなソファーセットがもう1つ、それと、各々に贅を尽くした装飾入りのテーブルが5台、美しい刺繍の入ったクッション多数……照明はキラキラと輝くシャンデリアもあるが、背の低い間接照明が部屋を大人の雰囲気にしていた。

 部屋の角には、大きな花瓶一杯に白い花が生けてあり、花台も美しい細工が施されていた。


「いったい誰のお屋敷だろう?」(ヨシノリ)

「この贅沢な内装と広さを考えると、明らかに社交的な貴族の屋敷だろう」


インカはヨシノリの問いにそう答えたが、それらしい貴族に心当たりが無かった。


「でも、この屋敷とイツキ君の関係は何だ?」(ヤン)

「イツキ君は無事なんだろうか?」(パル)

「おいクレタ、どうなっているんだ!イツキ君はこの屋敷の中に居るのか?」


エンターは豪華なリビングよりも、イツキのことが気になってならない。連れてきたクレタに詰め寄り、早くイツキの安否が確認したかった。

 クレタはとりあえず全員に好きな席に座って待つように言い、間もなく屋敷の主が来る筈だからと、エンターの厳しい追及をかわそうとする。


「皆様、間もなく当屋敷の主、ロームズ辺境伯が参ります。領主様ですのでくれぐれも失礼のなきよう、心静かにお待ちください」


事務長のティーラは、クレタ以上に堂々と役に成りきり、それだけ言うと何処かへ行ってしまった。 


「おい、ロームズ辺境伯って……イツキ君が行っていたロームズの新しい領主様だ」


「そうだエンター、俺の父が昨日、ロームズから戻ってきた新しい領主に会ったと言っていた!」


「うちもですインカ先輩、うちの父上もロームズ辺境伯は凄い人物だと言ってました」


ヨシノリはそう言いながら長椅子から立ち上がった。ロームズという名前を聞いて皆が色めき立つ。ようやくイツキと繋がったのである。


「やはりロームズで何かあったんだ!」(ナスカ)

「ハキ神国と戦争になったが、勝利したと父から聞いている。それも圧勝したと……なのに何故?どうして……」(ヤン)

「きっと何かに巻き込まれたんだ!」(パル)


 皆はどんどん不安になっていく。ロームズの領主から大事な話がある……それは……いったいどんな話なんだろう……全員顔色が青ざめ、呼吸が激しくなる。

 クレタも別の意味で顔色が悪くなっていく……これは相当文句を言われてしまいそうだと覚悟する。



 皆の不安が(クレタ以外)ピークに達した時、再びドアが開き事務長が現れた。


「皆様、ロームズ辺境伯様です。礼をおとりください」と言って、事務長もその場で正式な礼をとった。


 全員慌てて深く頭を下げ礼をとる。緊張のあまり喉がカラカラになり、妙な汗が背中を伝う。特に平民であるパルや、日頃領主様にお会いする機会などないヤンは、体が震える思いだった。


「皆さん礼をお解きください。お待たせしました。ロームズ辺境伯キアフ・ルバ・イツキ・ロームズです」


いつもの爽やかで透き通る声が、リビングの中に静かに響いた。


『 えっ??? 』

『 イツキ???? 』


この声は・・・その名前は・・・もしやイツキ君?と、バッと全員が顔を上げた。

 

 そこには、黒蝶真珠のように大きく輝く瞳、ちょっと伸びた黒い髪、涼やかな眉、美しく整った顔立ちの少年が、貴族っぽい服装で嬉しそうに微笑んで立っていた。


「「アーッ、イツキ君!!」」全員がイツキを指差し一斉に叫んだ。

 そして、頭の上に?マークを浮かべ、情報を整理しようとする。


「皆さん、本日は、我らの友でありリーダーであるイツキ君の、領主就任を祝う会へようこそお出でくださいました。いろいろ仰りたいことはおありでしょうが、本日は祝賀会でございます。ロームズ辺境伯様の領主就任の経緯や、ロームズでの活躍の話などを聞きながら、夜通し祝おうではありませんか!隣の部屋に食事の準備も出来たようです。席について領主様からのお言葉を頂きましょう」


クレタは皆の前に出て、ここぞとばかりに考えていた口上を述べる。大真面目に、貴族らしく、親衛隊隊長として当然だという顔をして、さらりと、ちょっぴり予防線を張りながら、今日の緊急召集の目的を告げた。


「ええぇ~っ!!!!」


再び驚きの声があがる。そして自分達は騙されていたのだと気付き、安堵して涙を浮かべるやら腹が立つやら・・・色々叫びたい気持ちはあるが、ヤンがグ~ッと盛大にお腹を鳴らしたので、全員プッと吹き出し、緊張が解けたところで一斉にイツキに駆け寄った。


「お帰りイツキ君!」「無事で良かった!」と皆は声を掛け、イツキに抱きついていく。ヤンとエンターは我慢できず泣いている。

 隣のダイニングルームから「皆様、乾杯の準備が整いました」とリンダが嬉しそうに声を掛けたので、抱きつきまくるのを諦め、ダイニングルームに移動する。



「皆さん、ご心配をお掛けしました。昨日無事ラミルに戻って来ました。急に決まったロームズ領主のせいで、忙し過ぎて目が回りそうですが、こうして皆に会えて、帰って来たんだと実感できました。今日は僕のために集まってくれて、本当にありがとう。領主になると深く頭も下げられない……何だかなぁと思いますが、今日は完全無礼講で、上級学校と同じように盛り上がりましょう」


イツキは極上の笑顔で挨拶した。事務長とリンダが全員にワインを注いでいく。

 イツキの指名で、エンターが乾杯の音頭をとることになった。


「イツキ君、領主就任おめでとう!我々イツキ組は、この先もイツキ君に従い、イツキ君を支えていくだろう。これからのロームズ領の繁栄を願い、永遠の友情を誓ってグラスを掲げる。乾杯!」


「「「「 乾杯! 」」」」


 そこからは、食べる……質問する、食べる……驚くを交互に繰り返しながら、夏大会の途中から今日までの出来事を、イツキは順を追って話していく。勿論教会の活動や軍事的機密事項は話さないが、仲間に会って気が緩んだのか、つい女装してロームズに潜入したと言ってしまった。


「なんだって!女装!!」


と、ヤンとパルが大声で叫び、是非見てみたいと言い出した。ワインは1本しかなかったが、日頃飲まない2人は2杯のワインで機嫌よく酔っていた。

 嬉しい酒である。全員ほろ酔いだが、どの顔も笑顔で喜びに満ちている。

 テーブルの上にあったご馳走も、あっという間に無くなってしまった。事務長ティーラは、食後のお茶をリビングに用意したので、場所を移動するように言う。


「はいみんな、リビングに移動よ。お茶とお菓子を用意したから後は自分達でお願いね!朝まで語り明かすのもいいけど、寝る場所だけは決めておかなきゃ。クレタ、先に寝室とお風呂とトイレを案内しておきなさい。寝室で寝れるのは3人だから」


ティーラの口調は息子の友達に話すような口調だった。学友として騒いでいる子供達の雰囲気を、出来るだけ壊さないように明るく言った。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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