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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
領主の仕事と試験

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イツキ、戸惑う

 早朝ロームズを発ったイツキは、途中ルナ湖畔で薬草採取をして昼食をとった。

 そしてギニ司令官の領地ソボエに到着したのは、午後6時前だった。

 予定より1日早く到着してしまったのは、モンタンがロームズからソボエまで、僅か10時間で飛行出来たからである。しかも途中薬草採取を2回した。


「モンタンありがとう。これからはもっとたくさん会えると思うよ。だから、ソボエの近くにも巣を作っておいてね」


イツキはそう言うと、甘えん坊のモンタンの頬を何度も擦りながら、モンタンに出逢えたことを神様に感謝するのだった。




「それでは、モンタンだと10時間でロームズに行けると?」

「はいギニ司令官。途中で薬草採取もしました。これは、つわりに効く薬草です。薬として煎じるのではなく、お茶としてフローズさんに飲ませてあげてください」


モンタンの飛行時間に驚いて口を開けたままのギニ司令官に、お茶として飲む場合の分量をメモして渡した。


「ロームズ辺境伯様、何から何までお世話になりっぱなしで、このご恩を、どうやってお返しすれば良いのか……ロームズに戻られる際は、何時でもお寄りください」


出来る家令のボイヤーさんは、薬草を受け取り礼を言うと、夕食が出来たと知らせてくれた。溜まっていた書類整理は終わったのだろうかと気になったが、イツキは触れないことにした。

 夕食中はギニ司令官と、軍や国内外の情勢やギラ新教の動き、軍にあったら良いなと思う便利品のことなど、ゆっくり楽しく話すことが出来た。

 その話の中で、軍学校を軍コースと警備隊コースに分ける話が出ていると聞いた。

 それはイツキが前々から提案していたことであり、前期は同じ授業をして、後期からコース分けで学ぶ案が出ているようだった。



 17日の朝、予定より早くイツキはギニ司令官の馬車で王都ラミルに向かった。

 ラミルから10キロの地点で、イツキを迎えに来ようとしていたフィリップの馬車に出会い、イツキは乗り換えてドゴル不死鳥に向かうことにした。


「イツキ様、医学大学の件は無事に解決したのでしょうか?」


「ああ、なんとかね。入試問題は随分手直しされたけど、どうやら良い人材に恵まれたようだ。来月の終了式後、僕はモンタンでロームズに向かうけど、フィリップさんには一足早く、カルート国の王都ヘサに寄って、シルバ皇太子と打合せをしてきて欲しいんだけど大丈夫かな?」


「はい、大丈夫だと思います。ロームズで何かありましたか?」


フィリップはイツキのお願いを聞いて、ロームズで何か起こったのかと心配する。

 イツキはウエノ村での出来事を説明し、シルバ皇太子に親書と条約書を渡して来てくれと頼んだ。





 昼頃到着したドゴル不死鳥で、イツキはニコニコしながら掲示板を見て、3枚の依頼書を取ると、買い取り窓口で身分証を取り出した。すると初めて見る受付の男性が、慌てて何処かへ走っていった。


 5分後、「ワシは昼飯を食っていたんじゃ……もう少し時間を考えろ」と、薬草担当のホームズさんが文句を言いながらカウンターにやって来た。他の人でも良かったのにとイツキが言おうとしたら、「お前さんの薬草はレア物が多いから、ワシじゃないと受付できん」と、心を読んだように叱られた。


「僕も実物を見たのは初めてなので、自信のない薬草?もありますが、依頼が出ているのはこの3つです」


イツキはそう言いながら、鞄の中から3つの薬草を取り出し、カウンターの上に置いた。

 ホームズは驚いたような呆れたような顔をして、何も言わずに金貨4枚を置く。

 次に取り出した薬草は、葉ではなくキノコと独特の匂いを放つ香木だった。


「なんじゃこりゃ!お前さんルナ湖に行っておったんか?」 

「そうです。さすがホームズさんですね。香木は焚くことによって出る煙に、催眠作用があったと思うのですが……」


イツキはちょっと自信無さそうに、香木の甘い香りを嗅いでみる。


「間違いない。これは王族や貴族から何年も依頼が出ているが、誰も採取出来なかった【眠りの香木】と言われている香木じゃ。それにこのキノコは・・・幻の【子宝ダケ】。おいおい、こんなお宝、いったい何処で採取したんじゃ?いやいや、そんなことは聞いてはいけなかったな……じゃが……こりゃ誰に売ったもんか……」


ホームズさんは香木とキノコを別々の袋に大事そうに入れると、ちょっと来てくれと言って、イツキは奥の店長室に引き摺られていく。


「店長大変じゃ!飯なんか食っている場合じゃないぞ!」

「何事ですかホームズさん、おや、これはロームズ辺境伯様……いったい何が?」


のんびり昼食のサンドイッチを食べていた店長は、イツキの姿を見て驚いて立ち上がり、礼をとろうとするが、お構いなしにホームズがイツキを椅子に座らせる。

 イツキは何が何だか分からず、ハハハと笑いながらされるがまま座るしかない。


「店長これを、これを見てくれ!」と言って、先程の袋から香木を取り出す。

「いったいどうしたんです?」と言いながら、店長はテーブルの上に出された香木をじっと見る。そしてもうひとつの袋にも視線を向ける。


「これは……まさか【眠りの香木】・・・それに……それは・・・ワーッ!!」


店長は叫びながら椅子から飛び退き、キノコを指さしながら口をパクパクさせる。


「子宝ダケじゃ・・・大変な物を持ってきおった。どうする店長?数は4つじゃ」

「ホ、ホ、ホームズさん、今、依頼は何件くらいあったかな?」

「50件は下るまい。皆、金に糸目はつけんと言っておる。じゃが、誰に知らせるかが問題じゃろう……ふーっ」


ホームズは大きなため息をつき、店長は頭を抱えて何やらブツブツ呟き始めた。


「あの~、依頼書は出てなかったですが……持ち込みはダメだったのでしょうか?」


イツキは目の前の混沌とした状況の原因が分からず、持ち込み禁止の素材だったのかと首を捻る。


「何を寝惚けたことを言っている!依頼書を出しても誰も採って来れんから出してないだけじゃ!お前さん、この2つの価値を知らんのか!」


「え~っと、図鑑と教科書でしか見たことが無かったので……価値までは知りません」


確かに珍しい素材だとは思ったが、何がこれ程のため息をつかせているのだろう?


「は~っ、新人冒険者に文句を言っても仕方ないですよホームズさん。それに、イツキ君は領主様です。もう少し言葉に気を付けてください」


店長はイツキが新人冒険者だったことを思い出し、ことの重大さが分からないのも仕方ないと諦め、領主様だと言いながらも、店長自身も結構礼を欠いていた。


「すまんが、この2つは預からせてくれ。直ぐに値段がつけられない。預かり書を渡すから、売れたら屋敷に知らせておく。は~っ……大変なことになった」


店長は、困り果てた表情でイツキに預り書を渡した。

 ドゴル不死鳥のロームズ出店の話も出来ないまま、イツキは取り合えず報告の為に王宮へと向かった。




 フィリップと一緒にエントン秘書官の執務室を訪れると、疲れた顔をした秘書官が、高く積まれた書類を眺めてため息をついていた。


「ただ今帰りました。ご心配をお掛けしましたが、無事に解決出来ました」

「ああ、お帰りイツキ君。本当に早かったね。……ふーっ……」


秘書官は何か困っていることでもあるのか、これまでとは違う重いため息をついた。イツキは重要な問題でも発生したのだろうかと心配になる。


「・・・え~っ、イツキ君は結婚とか考えたりすることはあるかな?」

「ありますよ。取り合えず侍女長さんから20人程頼まれていますし……」

「ええっ!じゃあ、これよりも先に話があったのか?しかも侍女長?それに20人も?」


秘書官はとてもショックを受けたような表情をして、イツキの顔をまじまじと見る。


「じゃあイツキ君は、その20人と会うつもりなのかい?」

「もちろんです。会わなければどんな女性か分かりませんし、希望も聞かなければ上手くいかないでしょう?」


「そ、そうだね。……結婚を考えているんだったら問題ないんだが……そうか……」


秘書官はそう言うと、再びため息をついて机の上の書類を手に取り開いていく。それは美しい花の絵等が描かれた厚紙の表紙の書類?で、中を開くと左のページにはプロフィールが書いてあり、右のページには女性の自画像のような絵が描かれていた。


「そうだ!秘書官は独身でしたよね。この機会にぜひ結婚してください。20人もいれば、きっと素敵な方もいらっしゃるはずです」


イツキは目の前の伯父を結婚させるという、とても良いことを思い付き、これで自分が居なくなっても寂しくないだろうと考えた。

 忙しくなりそうだな……入試が終わったら直ぐに女性と面接するとして、卒業式までに会わせられたら……いや、来年の方がゆっくりと出来るかも知れない……と、イツキは自分が作った予定表を思い出し、次のお見合い大作戦の日程を考える。


「イツキ君、君にそのつもりが有るのなら、王様にもお伝えしよう。でも、教会の仕事は大丈夫なのかい?まあ、結婚するとしても5年くらい先になると思うが、婚約という形だけでもとっていれば、今後うるさくならないだろう」


どこか上の空の秘書官は、イツキの話をさらっとスルーし、再び机の上の書類の山に目をやり、またため息をついた。


「はぁ?5年後?何を呑気なことを言われているのです?来年直ぐにでも結婚すべきです。僕に任せてください。必ず理想のお相手を見付けてみせます」


「でも結婚は、成人式と正式な領主就任式をしてから、ゆっくりと考えた方がいいと思うんだが……そうか……そんなに早くしたいのか……」


秘書官の歯切れはよくない。秘書官はそんなに結婚したくないのだろうかとイツキは首を捻る。それに僕の成人式を待つ必要など無いだろうと思うのだった。


「秘書官、イツキ君、私が思うに、お2人の会話は噛み合っていないようですが?イツキ君は秘書官を結婚させようと思っているのですよね?」


フィリップは淹れたてのお茶を秘書官の机の上に置き、何だか可笑しそうにクスクスと笑う。そして応接テーブルの上にイツキと自分のお茶を置いた。


「そうですよ。侍女長から誰か良い相手をと、お見合いの世話を頼まれているので、きっと秘書官に合う女性が居ると思うんです。ギニ司令官でさえ結婚されて、来年には父親になるのですから、次は秘書官の番でしょう!」


イツキは当然だという顔をして、秘書官の方を向いて文句?を言う。


「えっ?俺はイツキ君に来た見合いの話をしていたんだが?この机の上に有るのは、全てロームズ辺境伯と見合いをしたがっている、貴族の令嬢の身上書だが……」


「はあ?・・・」

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

少し話が遠回りしています。

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