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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
領主の仕事と試験

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イツキ、ロームズに帰る(2)

「ロームズ辺境伯様、どうぞお気を付けて。貴方様は本当に神様のようなお方です。へたれの主を結婚させ・・・そ、その上双子まで・・・なんとお礼を言ったら良いのか・・・これからは、ご自分の屋敷だと思って何時でもお使いください。町の者に聖獣のことは知らせましたので、どうぞご安心ください」


ギニ司令官の屋敷の家令ボイヤーさんは、喜びの涙と感謝の涙を溢しながら、イツキを見送ってくれる。


「イツキ君・・・本当に大丈夫なのか?落ちたりしないのか?」


ギニ司令官は、モンタンを少し離れた場所から眺めながら、不安そうに声を掛ける。


「モンタン、イツキ様を頼んだぞ。お前はブルーノア教会の聖獣なんだからな」


〈〈 モン モン 〉〉


モンタンはフィリップの言葉に、任せろとばかりに胸を張る。そしてフィリップに頬を撫でられて、嬉しそうに尾を左右に振っている。


「モンタン……また少し大きくなったね。ロームズまで遠いけどよろしくね。途中レガートの森で仮眠を取ろう。それから、長旅で落ちないように背中に鞍のような物を取り付けてもいい?」


〈〈 モンモンモン 〉〉


イツキはモンタンの首に抱き付くように体を寄せてお願いする。

 するとモンタンは嬉しそうに「いいよ」と鳴いて、頭を下げてイツキに甘える。

 端から見ると完全に、空飛ぶ最強魔獣が子供を襲っている風にしか見えないのだが、実際はイツキに頬を撫でて貰いたくてすり寄っているだけである。


 2年前に初めてロームズへ行った時と比べると、モンタンの身長は50センチ伸びて3.5メートル位になっているし、体も全体的に大きくなっていた。体長は4メートルから5メートル位になっているので、ほぼ成鳥まで育ったたと思われる。

 羽根は茶色と赤のストライプだったが、所々黒い羽根も見える。頭頂には魔獣の象徴とも言える、キラキラと輝く濃紺の冠羽根を戴いている。元々愛嬌のある顔だったが、成鳥になりちょっとだけ引き締まった……ような気もする。


「それでは行きます」


イツキはモンタンの羽根を伝って背に登る。用意した鞍のような固定具に座ると「モンタンお願い」と声を掛けた。モンタンは〈〈 モンモーン 〉〉と鳴いて羽根を羽ばたかせる。大きな風が起こり砂や小石が飛ぶ。

 少し離れた場所から見送っていたフィリップ達は、思わず目を瞑ってしまう。風が和らいで辺りを見ると、既にイツキとモンタンは頭上高く舞い上がっていた。




◇  ◇  ◇


 昨夜はレガートの森を抜けた、カルート国のルナ湖の畔で泊まった。

 ルナ湖は名前の通り、レガート国のミノスからレガートの森を抜けた場所に在る、カルート国の街ルナの北に位置している湖で、ルナの街がすっぽり2つは入るくらいの大きさがあった。

 ランドル山脈から流れ出る水が、地下水脈を通って涌き出ることによって作られている。街に近い東側や南側には村や小さな町も在るが、レガートの森の側である西側には人は住んでいないので、イツキとモンタンはゆっくりと休めた。

 勿論魔獣がたくさん生息していたが、最高上位種であるビッグバラディスのモンタンに、近付こうとする命知らずな魔獸などいなかった。


「やっぱりモンタンは早いなぁ。予定時間より早く昼前には到着できそうだ。でも、どこで降りようかな・・・ロームズの近くの山がいいんだけど、誰かが狩りや薬草採取をしていたら、驚いて大変なことになりそうだ。でも、時間もないから少し上空を旋回して……誰も居なかったら降りればいいか」


イツキは独りで呟きながら、モンタンに少しずつ高度を下げるようにお願いする。

 眼下にロームズの街が見えてきたところで、誰も山に居ないか確認するが、木々が邪魔ではっきりと確認はできない。

 イツキは低い山の中腹に在る水呑場の広場に向かってモンタンを降下させる。

 付近に居た小さな魔獸や獣たちが、モンタンの気配に気付き一斉に逃げ惑う。


「お疲れさまモンタン。ありがとうね。帰る時はミムを呼びに行かせるから、山の上で待っていてくれる?」


〈〈 モン モン 〉〉


モンタンは「いいよ~」と答えながら、イツキに頬を撫でて貰おうと顔を寄せる。

 イツキは何度も頬を撫でやってから、水呑場で水を飲む。ミムもモンタンも水を飲むと、それぞれ別々に飛び立って行った。

 モンタンは、そびえ立つランドル山脈の人の入り込めない場所を目指し、ミムは手紙を持ってロームズ辺境伯邸に向かう。



 イツキは4ヶ月振りのロームズの町を山の中腹から眺めると、旅立った時には無かった建物が増えていた。どうやら職員アパートや学生アパート、ホテルの建築は順調に進んでいるようだった。

 ハキ神国のオリ王子が建てていた屋敷は、現在医学大学の本校舎として、3階まで全て完成し屋根まできちんと出来上がっており、実習棟も2階の途中まで工事が進んでいるのが見える。


「どうやら建設部隊も町の人も、カイ領の職人さん達も、必死で頑張ってくれているようだ。これだけの資材を運んでくれた、インカ先輩の父親であるラシード侯爵様には、本当に感謝しなければ。それに、クーデル不動産商会のクーデルさんの弟さんのマイスさんも、そうとう無理して資材を調達してくれたのだろう。有り難いことだ」


イツキは自分の領地となったロームズの町が、どんどん発展していく姿を見て、感謝の気持ちで呟きながら、責任の重さを改めて感じる。

 領民は医学大学が出来ることを喜んでくれた。だから、精一杯協力してくれているに違いない。その期待に応えられるよう、何がなんでも教授達にはロームズ医学大学で働いて貰わねばならない。

 イツキは「ヨシッ!」と声に出して自分に気合いを入れた。



 山を下りると町に入るための山脈側の門の前まで来た。


「すみませーん。誰かいますかー?門を開けてくださーい」


イツキが大きな声で叫ぶと、19歳くらいの警備隊の制服を着た若い男が門を開けてくれた。


「お前は誰だ?何処から来た。俺は朝から門番をしているが、お前が町から出ていった記憶はない。そもそも貴族のような身形が怪しい……まさか、カルート国の者か?それともハキ神国の者か?」


警備隊員は、町の者が着る服装とは違う、貴族風の服を着た少年のイツキを、怪訝そうにジロジロ見ながら問い質そうとする。


「ご苦労様。君は新しくロームズに来た警備隊員のようだね。僕はキアフ・ルバ・ロームズだ。今、誰か山に入ってるのか?」


「はあ?ロームズ?いい加減なことを言うな!領主様が山から来られるはずがない!領主様なら馬車に乗って町に入られる。嘘を言うと為にならないぞ!」


警備隊員はそんなバカな……と、イツキの言うことを信じようとしない。

 まあ考えてみれば無理もない。何処の領主が魔獸や獣が居る山から登場すると言うのだろうか……


「じゃあ君が警備隊員であるという証拠は何処にある?制服を着ているからか?そんな物は盗めばいいだけだ。もしかしたら、警備隊員を装って、門を通行する者を襲ったり、金銭を要求したりするかもしれない。ロームズの住民は、ほんの半年前にそういう目に遭ったんだ」


イツキは出来るだけ穏やかに、そして辛い過去を思い出しながら隊員に問う。


「バ、バカなことを言うな!俺は正真正銘の警備隊員だ!」


警備隊員は予想もしないことを言われ腹を立てる。しかし、目の前の少年の妙に落ち着いた態度や偉そうな物言いに、段々と不安になる。そう言えば……ロームズ辺境伯様は今年15歳だと聞いた……そして、黒い髪に黒い瞳をしているとか……?……??ええっ!まさか?そ、そんなはずはない……ぐるぐると思考を巡らせ、どんどん顔色が悪くなる。


 そこへ領主屋敷の馬車が凄い勢いで走ってきた。そして門の前で止まると、馬車の中から家令のオールズ23歳が、御者台からは警備隊のセブル25歳が降りてきた。


「ご主人様、お帰りなさいませ。良い時にお帰りくださいました。ところで、どうして山から?」


家令のオールズは嬉しそうにイツキに駆け寄り礼をとると、どうしてこんな所へ迎えを寄越したのだろうかと首を捻る。


「ご領主様お帰りなさいませ。他の方々は?今回はフィリップ秘書官補佐様はご一緒ではないのですか?」


イツキを崇拝しているセブルは深く礼をとると、辺りをキョロキョロと見回し、何故供の者が居ないのだろうかと探し始める。


「セブル、今回は1人で帰ってきた。供は誰もいないよ」

「「はあ?御一人で帰られたのですか?」」


オールズとセブルは驚いて声を上げ、お互い顔を見合わせて、もう一度確認するようにイツキを見た。


「う、うん……まあ、それは後で説明するよ。それでオールズ、教授達はまだロームズに居るのか?」


「はい、居りますが……どうしてご主人様はそのことを?」


「それも屋敷に帰ってから説明するよ。ああ君、もしも山に住民が入っていたら、きっと巨大な空飛ぶ魔獸が出たと言うだろうから、それは魔獸ではなく、教会の聖獣だと説明しておいてくれ」


青い顔をして立っている門番の隊員に、イツキは指示を出し馬車に乗ろうとする。

 隊員は慌てて「も、も、申し訳ありません。た、大変失礼いたしました」と言って平伏す。領主様に不敬を働いたと分かりガタガタと震えている。


「門番は怪しい者を疑うのも仕事だ。気にすることはないよ。伝言よろしくね」


イツキは笑顔でそう言うと、さっさと馬車に乗り込み屋敷へと向かった。




「工事関係者が流入しているので、町の人口は一時的にかなり増えていると思うが、揉め事やトラブルなどは起きていないか?」


「はいご主人様。警備隊もしっかり見回りしていますし、カイ領の者達は、侯爵様の代理でご子息クスコ様が指揮を執られています。ミノス領の者達も、真面目な職人たちばかりで、大きな問題等は起こっておりません」


「それで、クスコ様はうちの屋敷に逗留されているのか?」


「はい今は。始めは安いホテルにお泊まりでしたが、お願いして客室にお泊まりいただいております」


良く出来る家令のオールズはそう言いながら、インカ先輩の兄上の話を始めた。


「クスコ様は、ロームズを乗っ取ったサイシスとヒブロが、命の泉で神の審判を受け、西海の島の塩田へ流されてから、カイ領を出発されたようです。今回のことはカイ領の責任が重いのに、その責任を問われることもなく、建設資材と職人の提供だけで済んだのは、全てロームズ辺境伯様のお陰だと感謝されているようでした。しかも、建設資材の料金は少しの値引きだけであり、労働者の賃金もロームズ辺境伯持ちであることが、心苦しいと仰っています」


オールズからクスコの人物像を聞いている内に、馬車はロームズ辺境伯邸に到着した。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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