イツキ、面接をする
昨日は予定外のトラブルはあったが、なんとか筆記試験と実技試験を終えることができた。
あの後、警備隊長から捕らえた偽試験官の2人について説明を受けた。
商業部所属の事務官であることは間違いなかった。しかし、当然のことながら商業大臣や事務次官には許可も得ておらず、そもそも受付時間外に、人事部の試験官だと名乗り入校していた。
2人の言動や態度から、ギラ新教徒の可能性があるため、じっくりと治安部隊が取り調べを行うとのこと。
今回の件で、商業部には治安部隊と【王の目】の調査が入ることになった。
調査方法は、表向きの調査と潜入調査の両面で行い、ギラ新教徒や疑わしい者が居るかどうかを調べる。
表向きの調査とは、治安部隊が上司の聴取と他の職員との面接を行うもので、潜入調査は、解雇される2人の穴埋めとして、次の人員が正式に補充されるまでの間、人事部から応援を送るものである。
当然その2人は、人事部の人間を装った王宮内の【王の目】の者である。
軍や警備隊や治安部隊に所属する【王の目】はキシ公爵の管轄だが、王宮内の【王の目】は、秘書官直轄の事務職員専門の捜査部隊だった。
今日は面接だけなので、午前中は事務職員と警備職員のグループ面接を行う。
午後からは、中級学校の教員と医学大学の研究助手の面接を行う。
「イツキ君大丈夫かね?随分とやつれているようだが」
「すみませんラシード人事部長(側室エバ様の兄)、教員と研究助手の受験者の、昨日行われた実技試験結果を考察していたら、寝る時間が無くなりまして……」
これから一緒に面接する人事部長と、風紀部室でお茶を飲みながら、付箋をたくさん付けた答案用紙を見ながらイツキは答えた。
ラシード人事部長は、真面目過ぎる領主に尊敬の眼差しを向けつつ、無理をしているイツキを心配する。
イツキがリース様であると知っているからこそ、最大限の協力をしているつもりだったが、どうやら考えが甘かったようだと反省する。
イツキ君の妥協とか適当を許さない性格は、天性のものなのかも知れないと思いながら、今回の試験に合格する人材が、どのような者達なのか興味が湧いてくる。
午前の受験者の控え室は、特別教室棟2階の大教室で、面接は同じ2階の実習室で行われる。
事務職員の面接は、午前8時から8グループで行い、警備職員の面接は、午前10時半から同じく8グループで行う。
各グループの持ち時間は約15分で、12時半には終了する予定である。
昼食後は、上級学校の専門スキル修得コースの授業が行われる為、受験者の控え室は図書室で、面接は風紀部室で行われる。
教師のグループ面接で2時間、研究助手の面接に2時間を予定している。
ちなみに各グループ分けは、昨日の昼食後には特別教室棟の前に設置された掲示板に貼り出されていた。
午前8時前になり、イツキとラシード人事部長は面接会場に向かう。
1グループ15分、質問するテーマは決まっている。しかし、15分の時間で面接をするという現実は、そんなに甘くはなかった。
番狂わせは最初の事務職員の面接から始まった。
面接が始まってからラシード人事部長は思った。まるで憧れの人を見るようなキラキラした視線は何だ?と。嬉しそうに問に答える姿、少しでもロームズ辺境伯様と話がしたくて喋り続けようとする姿。遂にはロームズ領の住民になることは出来るかと質問する者まで現れた。
昨日ラシード人事部長は、偽試験官の件をイツキに一任し、顛末の報告だけを受けていた。だから、どういう状況でイツキが偽試験官を懲らしめたのか知らなかった。
このキラキラ視線も(特に女性受験者)、憧れや尊敬の眼差しも(主に男子学生)、絶対に就職しようと意気込む熱気も(主に一般受験者の男女)、イツキの蒔いた種が原因だった。
何だか気合いの入った事務職員の面接が終了した時点で、30分の遅れを出していた。
イツキとラシード人事部長は休憩時間を10分にし、警備職員の面接を始めた。
ここでもまた、軍学校の学生達を始めとする、ロームズ辺境伯杯に参加していた学生や、ロームズ辺境伯杯での活躍の噂を聞いていた学生達の、キラキラ・ギラギラした視線がイツキに向けられた。
特に上級学校のポルムゴールの代表選手は運動神経抜群で、軍や警備隊も受験している者が多かったが、あの時のイツキの大活躍が忘れられず、ロームズ医学大学の警備職員の願書を、たまたま又は取り合えず出していて良かったと、心から思っていた。
そして昨夜、同じ学校の事務職員の受験者から、新たなイツキ伝説……ロームズ辺境伯様の大活躍?の話を聞き、軍や警備隊よりも合格するのが難しそうな今回の就職試験に、絶対に合格しようと頑張ったのだった。
結局イツキとラシード人事部長が昼食を食べたのは、午後1時半だった。
昼食を急いで掻き込み、なんとか午後の面接時間を30分遅れで始めたが、ここからが本当の地獄・・・いや、昼食後だというのに、眠気さえ起こらない質問攻めが待っていた。
午後は中級学校の教師の面接からである。
「学生はロームズ領の子供だけですか?」
「優秀な子供がたくさん居るのですか?」
「授業はカルート語以外にも必要ですか?」
「すみません、スーパー進学コースって、ラミル上級学校を受験させる為のコースって本当ですか?」
イツキの質問に答えるはずの面接が、何故か質問の時間に費やされてしまう。
とうとう途中から、時間の関係で質問は受け付けず、合格した者には後日詳しい説明をすることとし、質問にだけ答えさせた。
それでも上級学校の受験者達は、憧れのロームズ辺境伯様に認められたくて、気合いの入った受け答えをしたので、やはり時間が30分オーバーした。
「イツキ君すまないな。私はここまでだから、先に執行部室で休ん……待たせて貰うよ。大丈夫かい?顔色が悪いが・・・」
「大丈夫ですラシード人事部長。皆の遣る気が伝わってくるので・・・医学大学の助手の面接は、1人ずつだったのを3人と4人に変更して行います。1時間以上開始が遅れているので問題ないでしょう」
イツキはハハハとやつれた顔で笑いながら、これは嬉しい誤算だったと思うことにして、ラシード人事部長にお礼を言う。ラシード人事部長も相当顔に疲れが出ていた。
「失礼します。ロームズ辺境伯様、昨日の午前中に行われた医学大学助手の試験結果を持ってきましたが、如何いたしましょうか?」
ラシード人事部長が風紀部室を出ていって直ぐ、昨日もお世話になったアンジュラが、採点結果を持って来てくれた。
本来なら3日くらい掛けて採点するのだが、イツキが急遽医学大学の助手の筆記試験だけ採点して欲しいと、教育部の皆さんに無理を言ったのだった。
「ありがとう。いただきます。無理を言ってすみませんでした」
「いいえロームズ辺境伯様、教育部の全員、お役に立てて嬉しいのです」
アンジュラはそう言いながら、本当に嬉しそうに笑ってイツキに採点結果を渡した。
そして一緒に入室してきたイシリアが、いい香りのハーブティーを目の前で淹れてくれた。
実はイツキ、この2人をロームズ医学大学の事務職員の指導者として、ロームズに期限付きで派遣して貰うよう教育大臣に頼んでいた。
イツキは2人に礼を言うと、22人の受験者を3人組のグループ2と4人組のグループ4とに分け、その組分けを紙に書いて渡し、図書室で待っている受験者に面接の変更を伝えて欲しいと頼んだ。
今回1番力を入れたかった医学大学の助手の面接だったが、イツキは心を鬼にして、合格させようと考えている者に時間を割くことにした。
受験者数22人に対し、合格者は12人である。昨日の実技試験の結果は、6人を除けば皆が優秀だった。
そして思っていた通り筆記試験の結果も、同じ6人を除いてほぼ横並びで16人は合格点に達していた。
必然的に合格ラインに達していない6人から面接し、残りの16人とゆっくり面接することにした。
その16人の中にラミル上級学校の学生が2人居て、イツキは昨日に引き続き驚いたが、受験に於いて身内贔屓することはない。
イツキが残した16人は、学生が7人で一般が9人だった。
求人には学生の採用枠が10人で、一般が2人と記入されていたが、学生の受験者の内4人は、専門スキル修得コースの医療コースに合格したのを疑うくらいの実力だった。
イツキが望む助手とは、医療コースの認定試験に合格し、勉強熱心で医学を学ぶ気のある者。文章力が高く資料作りが出来る者。そして、イントラ連合語でAを取得している者だった。
一般応募者の中に、イントラ連合語でAを取得していた者が4人居た。
イツキの予想が当たっていれば、この4人は過去にイントラ高学院の医学部か薬学部を受験した……若しくは受験しようとしていたはずである。
受験したけど不合格だったか、金銭的な理由等から受験を断念した者に違いないとイツキは考えていた。それほどに優秀だったのだ。
この成績なら、ロームズ医学大学の薬学部であれば、合格出来るかもしれない。
イツキは「うん……そうしよう」と頷いて、何かを決めた。
始めの4人は上級学校の学生で、その中の1人はラミル上級学校の植物部の先輩だった。先輩の名前はレグルといいパルテノン先輩と仲が良く、もしかしたらパルテノン先輩が、薬学部(ロームズ辺境伯枠)を受験することを知っているのかもしれない。
この4人は全員が貴族の家の子息だが、次男や三男なので家督は継げない。だから、自分の力で自立しなければならない。
「質問します。助手としてずっと医学大学で頑張るのと、4年間薬草園で薬草栽培の仕事をすることで、薬剤師の資格取得試験を受けるチャンスが貰えるとしたら、どちらを選びますか?」
イツキは受験者の予想もしていなかったことを質問した。考える時間は2分。イツキは「もしもの話ですが」と笑いながら付け加えた。
レグル先輩は薬剤師の資格を取りたいと即答し、他の3人は医学が学びたいので助手がいいと答えた。
2番目の4人は、学生が2人と一般が2人で全員が女性だった。
女学院でも医療コースを学んでいて、これまではイントラ高学院の医師助手コース(内科)か看護師コースに進学していた。就職するなら看護師か医師や薬剤師の助手として働いていた。
女性にとって医学大学で教授の助手として働けるチャンスなど、これまでの常識では有り得ないことだった。だから彼女達は必死の覚悟で、今回の就職試験に挑んだことだろう。
イツキは先程と同じ質問をする。
すると2人は薬剤師を目指したいと答え、2人は助手がいいと言った。
「すみません。薬草園で働く場合は……お給料はどうなるのでしょうか?」
薬草園で働く方を望んだピアラという一般受験者が、恥ずかしそうにしながらイツキに質問してきた。
「ピアラさんは現在の仕事で、1ヶ月いくら貰っていますか?」
「は、はい。金貨1枚です。私には12歳の妹が居るのですが、妹を女学院に入学させたいので……申し訳ありません。勝手な質問をしました」
ピアラは自分の質問と答えが急に恥ずかしくなり、イツキと他の3人に謝罪した。
「願書には家族は妹さんだけと書いてありますが、一緒にロームズ領に?」
「いえ……はい!合格したら連れて行きたいと思っています」
何やら訳有りのようだとイツキは思ったが、ここでこれ以上ピアラに時間を掛ける訳にはいかず、イツキは他の質問に切り替えた。
3番目の4人は全員が貴族ではなく、学生時代は奨学生として上級学校を卒業、又は在学していた。
その中の1人であるラミル上級学校のモービル先輩は化学部で、クレタ先輩の親友のような人だった。モービル先輩の実力であれば、医学大学の受験もあり得ると思っていたイツキは、とても残念な気がしたが、この4人は全てが同じような境遇なのだろう。
イツキは4人に向かって再び同じ質問をした。
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