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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
領主の仕事と試験
62/222

国賓会談(1)

新章スタートしました。

 ロームズ辺境伯杯終了後、イツキは校長と共に体育館で説明しようとしたが、片付け作業が残っていたので、夕食時間に食堂でロームズ辺境伯に任命された報告をすることに変更した。


「1年は並木道の掃除だ!2年は看板や案内板の撤去、3年は武道場と体育館の掃除を始めてくれ。執行部と風紀部の指示に従いきっちり最後まで頑張れば、夕食時間にイツキ君がゆっくりとロームズ辺境伯の話をしてくれるだろう」


エンター部長が大声で指示を出していく。


「今夜はポルムゴール優勝と、アタックイン準優勝の祝賀会を兼ねた打ち上げだ!騒ぐのは乾杯の後にして、とっとと片付けを終わらせるぞー!」


「オオーッ!」


インカ隊長の掛け声に、学生達は嬉しそうに腕を振り上げ叫んだ。



 午後7時前に始まった祝賀会は、優勝したポルムゴールとアタックインの選手が前に出て、再び優勝旗と優勝杯、準優勝杯をイツキから貰うという演出から始まった。

 司会進行は風紀部副隊長のヤンが、ノリノリでやっている。

 学生は勿論だが、教師も全員同じ時間に集まったので、補助机まで出し食堂内は大入り満員となった。


 イツキは恥ずかしそうに前に出て、フーッと大きく息を吐いてから、覚悟を決めて皆の期待に応えた。

 そして校長が前に出て来て乾杯の音頭をとり、教師はワインで、学生はジュースで乾杯する。料理も豪華でデザートまで付いていた。

 乾杯して5分が過ぎた頃、皆さんお待ちかねの、イツキがロームズ辺境伯になった経緯を説明する時間がやって来た。

 任命の理由を話すのは、打合せ通りに校長の役目で、イツキは任命後の状況を話す。


「イツキ君がロームズ辺境伯に任命された理由は、イツキ君がレガート国に大きく貢献したからである。その1つは、夏大会を利用した、薬草不足を解決する為の方法を考え、秘書官に提案したことだ。その結果、ブルーノア教会や全上級学校が協力し、住民を巻き込み薬草採取させることに成功した。またイツキ君自らが、行商人に薬草を卸させるために特産品を作った」


「ええーっ!あれってイツキ君が考えたことなのか?」

「そうだったんだ!どうりで上級学校の学生に王命が下ったわけだ」

「特産品を考えたのは凄いよな!」

「ポルムゴールもアタックインもイツキ君の発明だもんな!」

「でも、領主って……それくらいで成れるのか?イツキ君は学生だぞ?」


校長の話に賛否両論の意見が飛び交う。当然領主になったイツキへのやっかみもある。特に準男爵やナイトの爵位の家の子息や教師は、面白くない顔をする。

 子爵から伯爵に成った時でさえ、なんで?どうして?と、陰で色々言われたりしていたのだ。


「静かに!それと、最もこの国に貢献した事実を皆に伝える。驚いてコップを倒さないよう気を付けてくれ」


校長の口振りに何を大袈裟なと思う者、どんな話なんだろうとワクワクする者、早く話せよ!とイライラする者……大半がごくりと唾を呑み込み耳を澄ます。


「イツキ君……ロームズ辺境伯は2年前の12歳の時、レガート式ボーガンを考案し、技術開発部に持ち込んだ」


「エエエェーッ!!!!」

「なんだって!!!」


半数の教師は立ち上がり、数人はコップを倒しながら叫んだ。学生も同じように半数以上が立ち上がり、信じられないという顔で校長を見てから、視線をイツキに向ける。


「皆も知っていると思うが、昨年の戦争でレガート国が勝利したのは、レガート式ボーガンのお陰だ。ハキ神国軍とレガート軍では、矢の飛距離が大きく違った」


「・・・・・」(殆どの人)


驚きが大き過ぎて、皆は言葉にならない。

 エンターやインカやナスカたち執行部や風紀部、発明部の皆さんは、その光景を懐かしそうに眺めながら、まるで遠い昔のことのように感じる。


「さすがイツキ様です。どうりでポルムやアタックインという発明が可能なのですね」


イツキ親衛隊隊長のクレタが、立ち上がって拍手しながらイツキを称える。

 すると他のイツキ親衛隊の皆さんやクラスメートも立ち上がり拍手をおくる。

 それでも未だ半数以上の教師や学生は放心状態だった。 


 その様子を見た校長は、イツキが領主になってからの話は、追々話した方が良さそうだと判断した。




◇ ◇ ◇


 翌10月21日は、久し振りに外出可能な休日だった。

 学生も教師も昨日のテンションのまま、ラミルの街に繰り出して行く。

 イツキは早朝から従者のパルとクレタを伴って、何時ものように自分の屋敷に向かう。今日から正門の中に、堂々と屋敷の馬車が入れるようになり、ドッターさんが7時に迎えに来てくれた。

 時間が早かったので、派手な馬車を学生に見られなくてホッとするイツキだった。


「イツキ様、今日のご予定は?」


「今日はカルート国のシルバ皇太子と、お城で昼食会をする。11時には出るから準備してくれパル。それからクレタ先輩、すみませんが同席してください」


「ええっ!僕が?僕が隣国の皇太子と会うの?」


クレタは突然自分に振られた話に、驚いた顔でイツキに確認する。


「そうです。昨日のロームズ辺境伯杯で、カルート国の産業大臣の付き人として同席されていたのは、お忍びのシルバ皇太子でした。僕は昨年の戦争の時、シルバ皇太子が同国の大臣から、殺されそうになっていたところを助けました。そして今カルート国は、ギラ新教徒の大臣を一掃し改革を進めています」


「自国の大臣から殺されそうになったのか?……ギラ新教って怖いな……」


クレタは険しい顔をしてそう言い、パルは思わず顔を歪めた。


「ロームズ領はカルート国の中に在るので、絶対に連携をとらねばなりません。僕はこれから大学病院を建設しようと考えていますが、それをシルバ皇太子と共同で出来たらと思っています。そこで、大学病院設立の窓口……というか担当者の1人として、クレタ先輩にご協力いただこうかと・・・」


イツキは何時ものように、既に決まったことですから……的な微笑みでクレタを見た。


「いやいやいや、僕には無理だよ!だって技術開発部の仕事をしながら、大学生として勉強もしなくちゃならない。どこにも余裕なんてないよ」


「そこは大丈夫ですクレタ先輩。技術開発部の仕事は、1日1時間くらいでOKですから。それに・・・もしかしたら、シルバ皇太子も学友になられるかも知れません。実際に動くのは、うちに居る軍医のベルガの予定ですし、先輩にはシルバ皇太子の友達になって欲しいのです」


「友達?・・・皇太子様の?」


イツキの無茶振りには慣れてきたつもりのクレタだったが、今回ばかりは「分かったよ」とは言えないクレタである。

 確かにレガート国の貴族の家には生まれた。だが、領地なし男爵家の……しかも次男だ。それが隣国の皇太子と友達……?

 いや待てよ……ハキ神国の第2王子も入学する予定だ。その王子を守ってくれって言われていたような気もする。

 いやいや、本当に無理だから!っと、クレタは馬車の窓から外を見ている振りを装い、思考をぐるぐるさせながら心底困った顔をした。


 その隣に居たパルは、そんな無理難題を押し付けられている、苦労の絶えない先輩に大いに同情した。

 そんなこんなの会話をしていたら、馬車はロームズ辺境伯邸に到着してしまった。




 午前11時30分、魂が抜けたような顔をしたクレタと、緊張ですっかり固くなっている軍医のベルガを乗せた馬車は、ゆっくりとレガート城の通用門を通過する。

 イツキの用事でレガート城に来る機会も増えてきたベルガだが、それは医学大学の打合せに教育大臣と会ったり、建設大臣に会ったりするためであり、パーティー用の大広間を兼ね備えた貴賓室棟になど、足を踏み入れたことなどないし、踏み入れる可能性がある等とは考えたこともなかった。

 一応ベルガもクレタと同じで男爵家の次男で貴族だが、軍医として働くはずだった人生は180度変わり……どうして国賓と会食するなんてことになったんだと頭を抱える。



 貴賓室棟の1階は大ホールで、パーティーや祝賀会などに使われる。それはそれは贅を尽くした造りで、調度品から絨毯、カーテンに至るまで、キラキラしているか凝っているか……まあ、一般人が目にする機会などない代物で埋め尽くされている。

 イツキ達が向かったのは2階に在る迎賓室で、イツキだって来たことはなかった。


「さすが大国の迎賓館と呼ばれる建物だよね。絨毯もフカフカだし窓枠だって装飾入り。照明のキラキラを見ていると目が眩むね。でもまあ、神様がいらっしゃる訳でもないし、豪華な昼食に期待しよう」


イツキは田舎者の平民的視点で、入館してからずっと「凄いよねー」とか「贅沢だよねー」とか「流石だねー」と小さく呟く……なんてことはなく、普通に大きな声で喋りながら歩いている。

 普通の貴族なら見栄を張って、決して口にしないことをイツキは平気で言う。なので、クレタとベルガの方が恥ずかしそうにしている。


 案内をしてくれる侍女長は、懸命に笑うのを堪えているが、時々肩が微妙に震えている。侍女長は、クレタの母でありロームズ辺境伯邸の事務長であるティーラの知り合いで、ティーラからイツキの、ロームズ辺境伯の話はよく聞いていた。


「ロームズ辺境伯様、先日は侍女の結婚に御尽力くださり、ありがとうございました。どうぞお時間が取れましたら、あと20人ほど待っておりますので、よろしくお願いいたします」


目的の部屋に近付いた所で、侍女長はイツキに礼を言い、次のお願いをしながら美しい所作で礼をとった。


「こちらこそお世話になります侍女長。医学大学の受験が終わったら時間を作りましょう。20人ですか・・・取り合えず7人くらいでお願いします」


イツキは少し考えた後、笑顔で侍女長にそう答えると、緊張感の欠片も無い感じで目的の部屋の前に立った。

侍女長は、豪華な花の装飾が施されたドアをノックし「失礼いたします。ロームズ辺境伯様とお連れの方がおみえになりました」と告げた。


「どうぞお入りください」と中から声がして、侍女長はゆっくりとドアを開いた。


 ドアを開けると、そこにはバルファー王にエントン秘書官、カルート国のガウル産業大臣とシルバ皇太子が座っていた。

 カルート国の皇太子と産業大臣と一緒に、会食しながら大学病院の話をするとだけ聞いていたクレタとベルガは、部屋の中のメンバーを見て『ギャーッ!やめてー!』と心の中で叫んだが、逃げることも出来ず、なんとか踏ん張った。

 そしてイツキの挨拶に続き、クレタとベルガもロームズ辺境伯の後ろで正式な礼をとった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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