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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ロームズ辺境伯杯
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ロームズ辺境伯杯(7)

次話から新章スタートです。

 いよいよロームズ辺境伯様から、優勝旗と優勝杯、準優勝杯が贈られる。


 そう言えば大会が始まってから、主催者であるロームズ辺境伯様を1度も見ていない……開会式にもいらっしゃらなかったと皆は気付いた。

 軍や警備隊の関係者は知っている者も居たが、殆どの者がロームズ辺境伯様がどの様な方なのか、全く知らなかった。

 ヨム指揮官が合図を出すと、エンター部長とインカ隊長が優勝旗を、執行部のヨシノリとミノルが優勝杯を、風紀部のヤンとエンドが準優勝杯を持って、ステージの左側に並び、ステージ上の右側に居る来賓の方々に礼をとった。


 そこに、体操服から制服に着替えたイツキが登場してきた。

 本日一番の見せ場を作ったヒーローの登場に声援が飛ぶ。でも、一部の者以外、誰もイツキがロームズ辺境伯だとは思っていない。

 イツキはやんややんやの喝采に、いつもの癒しの笑顔で右手を振って答える。

 せっかくこれぞ貴族というような服を用意していたのに、ポルムゴールで汗をかいたイツキは、新しい服を汚すのが勿体無い気がして制服に着替えてしまったのだ。


 イツキはステージ中央の演台の前に立つと、挨拶を後回しにして表彰を始めた。

 始めは準優勝チームからで、ヤンから準優勝杯を受け取ると、ポルムゴールで準優勝だった軍本部の代表者に、「おめでとうございます」と言ってイツキは準優勝杯を手渡した。

 代表者はイツキをロームズ辺境伯様だと知っていたので、礼をとった後で、嬉しそうに準優勝杯を受け取り、仲間達に見せるように準優勝杯を掲げた。

 軍関係者から大きな拍手と祝福の言葉が掛けられる。


 次にエンドから準優勝杯を受け取ると、アタックインで準優勝だった、ラミル上級学校文学部部長ロードスに「さすがロードス先輩です。おめでとうございます」と言って準優勝杯を手渡した。

 ロードスは頭の上に【?】マークを浮かべながらも、他校を含む上級学校の学生達に向かって、準優勝杯を高く掲げて見せる。

 強豪の貴族チームを圧倒的な技術で負かしてきたロードスとそのチームに、皆は惜しみない拍手を贈った。




 この辺りから、次第に会場内がざわざわし始める。


「ロームズ辺境伯様はどうされたのだ?」

「何故上級学校の学生が表彰しているんだ?」

「ロームズ辺境伯がご不在なら、王様から頂いた方が嬉しいよな……」

「イツキ君がロームズ辺境伯様の代理なのか?」


あちらこちらで、何故、どうしてと、ヒソヒソ囁く声が聞こえてくる。


 皆のざわめきに、王様も秘書官も苦笑いする。

 最初に名乗らなかったのは意図してなのか、それともうっかりなのか・・・

 


 次はアタックインで優勝したマキ領の番だが、マキ公爵はニヤニヤとイツキを見ながらゆっくりと立ち上がった。そして、王様や他の領主の方を向いて笑顔で頷いた。


 イツキは会場内のざわめきを無視して、インカ隊長から優勝旗を受け取る。

 優勝旗は紫を基調とした織物に、中心部分にはロームズ辺境伯の家紋を黒い糸で、下部にアタックインの3個の玉を赤・緑・黄色の糸で、棒は紺色の糸で、そして上部にはロームズ辺境伯杯優勝と金糸で刺繍してあった。

 イツキは会場内の全員に見えるよう、優勝旗を広げて見せる。

 その豪華さに皆は「ほうっ」と見とれながら熱い息を吐いた。


 皆の優勝旗に注がれる熱い眼差を見て、イツキはランカー商会に注文して良かったと心から思った。

 優勝杯は王様が用意してくださったので、イツキは優勝旗を作ったのだった。


 相変わらずザワザワする会場内だが、ラミル上級学校の学生であるイツキが表彰していることを、王様も秘書官も領主達も何も言わないので、そういう予定だったのだろうかと、参列者の多くは首を捻りながらも、そう考えるようにした。

 

 イツキは優勝旗を手にし、マキ領代表の貴族に向かって祝辞を述べ始めた。


「種目、アタックイン。優勝、マキ領代表貴族チーム。貴チームは、ロームズ辺境伯杯において、レガート国民の手本となる腕前を披露し、見事に優勝を果たしました。よって、ロームズ辺境伯より優勝旗を授けます。優勝おめでとうございます」


イツキは一段と大きな声で言い、にっこりと笑顔で優勝旗を渡そうとする。するとマキ公爵様が現れて、ご自分で優勝旗を受け取られた。

 確かにマキ公爵自身が大会に出場し大活躍をしていたので、参列者は一段と大きな拍手でマキ公爵様を祝福する。

 優勝旗には、【第1回優勝 マキ領貴族チーム】と書かれた白いリボンが付けられていた。優勝旗はこれから何代にも渡って、優勝チームを巡ることになる。

 そしてイツキは、隣に居たもう1人の代表者に優勝杯を手渡した。


「ロームズ辺境伯、まさか優勝出来るとは思わなかったが、記念すべき第1回の優勝旗を、イツキ君、いや、ロームズ辺境伯から受け取れて、本当に嬉しいよ」


マキ公爵様は大きな声でそう言って、優勝旗を本来受け取る予定だった貴族に手渡した。そして笑顔でイツキと握手を交わした。


「・・・?」

「・・・??」

「・・・???」

「えええぇーっ!ロームズ辺境伯様!!!!」


主にラミル上級学校の学生と教師の叫び声が、最も大きく体育館内に響いた。

 勿論、ロームズ辺境伯の正体を知らなかった参列者も、あの、ポルムゴールで神業を見せていた上級学校の学生が、話題のロームズ辺境伯様だったのだと分かり、びっくりするやら驚くやら……

 皆の驚きの叫び声や、大きく目を見開いた表情、パカリと開かれた口を見て、マキ公爵は満足そうに「ハッハッハっ」と上機嫌で笑った。


 やっとイツキは、自分がロームズ辺境伯であると、きちんと皆に認識されていなかったのだと理解した。

 どうりで自分が登場した時、会場内が大騒ぎにならなかった筈だと、ちょっとはにかむようにイツキは頬を赤らめた。



 凄い動揺の中(主にラミル上級学校の皆さん)、表彰式は続けられた。


「種目、ポルムゴール。優勝、ラミル上級学校チーム。貴上級学校は、ロームズ辺境伯杯に於いて、ポルム開発者としての責務を果たし見事優勝した。その栄誉を称え優勝旗を授ける。おめでとう!」


イツキは極上の笑顔で嬉しそうに祝辞を述べ、優勝旗をピドルに渡した。

 満面の笑顔で優勝旗を受け取ったピドルは、領主に対し深い礼をとった後、会場の仲間達(ラミル上級学校の学生と他校の学生達)に向かって優勝旗を掲げ大きく振った。


「ワーッ!」と大歓声が起こり、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

 そして、体育部でありイツキ第2親衛隊の副隊長であり、イツキの為に個室を譲ってくれたネロスが、嬉し涙と感動の涙を溢しながら、イツキから優勝杯を受け取る。


 表彰された選手達は、イツキと来賓の方々に再び深く礼をとってから、ステージを下りていく。



「皆さん名乗るのが遅くなりました。ロームズ辺境伯キアフ・ルバ・イツキ・ロームズです。今回ロームズ辺境伯杯開催を許可くださった王様、ありがとうございました。そして、各会場で選手や関係者、観客の安全を守るためにご尽力くださいました軍本部の皆さん、警備隊本部の皆さん、本当にお世話になりました」


イツキはそこまで言うと、改めて王様の方に近付き深い礼をとった。

 その礼をとる姿も、領主様だと思うと何だかカッコいい。多くの学生はそう思った。

 自分達と同じ上級学校の学生が領主様なのだ。しかも、あの神業でラミル上級学校を勝利に導いたヒーローなのだ。憧れずにはいられないだろう。


 他の参列者でイツキの正体を知らなかった、選手、関係者(引率者・教師他)、軍関係者、警備隊関係者は、ロームズ辺境伯について聞いていた様々な噂・・・例えば【ハキ神国の王子軍を、完膚なきまでに叩きのめした軍神】とか【国王の出した不可能な条件を呑んだ大物】とか【ロームズに医学大学を設立する教育者】とか、まあ……色々言われていたが、まさか……本当に?学生なのか……?と、パニックになりながらも、ロームズ辺境伯様の話を聞く。


「そして全力で戦い、皆に感動を与えてくれた選手の皆さんお疲れ様でした。僕は昼過ぎまで軍本部の会場で仕事を……ラミル上級学校の学生として進行の仕事をしていたのですが、観戦に来ていた人々の楽しそうな顔を見て、アタックインとポルムゴールが受け入れて貰えたという手応えを感じました。今はレガート国で始まったばかりの2つの競技ですが、来年には他国にも広がり、2年後にはロームズ領で世界大会を開催したいと考えています。ですから、2年後の優勝チームには、レガート国を代表して世界大会に出場していただきたいと思います」


「ウォー!」「スゲー!世界大会」「行くぞ世界大会!」と会場内から声が上がる。


 イツキは右手を上げ、騒ぎ始めそうな雰囲気の皆さんを押さえて続ける。


「ですがその前に、我々は手を取り合って薬草不足を解消しなければなりません。ギラ新教はこれからも様々なことを仕掛けてくるでしょう。しかし今回、軍、警備隊、貴族の皆さん、そして学生が一同に会すことが出来ました。これを機会に我々が協力し合えば、どんな困難も必ず越えてゆけると僕は信じています。今日のこの日を忘れず、共に戦う同志として頑張っていきましょう。そしてまた来年、ここでお会いしましょう」


イツキはロームズ辺境伯杯の目的とギラ新教のことを盛り込みながら、笑顔でそう締め括った。

 すると驚いたことに、王様と秘書官が立ち上がり拍手を始められた。続いて領主も立ち上がり、ロームズ辺境伯に向かって拍手をおくった。

 それを見た全ての参列者も力一杯の拍手をおくる。会場内は割れんばかりの拍手と「頑張ろう!」「負けるもんか!」と誓う声で溢れた。



「これを持ちまして、ロームズ辺境伯杯を終了いたします。王様が退場されますので、礼をとりお見送りください」


司会者のヨム指揮官が閉会を宣言し、最後に全員で王様を見送るよう指示を出した。

 皆が礼をとる中、王様と秘書官はソウタ指揮官と治安部隊に守られながら、体育館を後にされた。

 イツキと校長と教頭は急いで外に出て、体育館前に横付けされた馬車に乗り込まれる王様一行を見送る。続いて来賓の方々を見送り、領主達も見送った。


 見送った国賓の中に居た、隣国カルートの皇太子シルバが、イツキの側に来て挨拶と握手を交わしながら、「明日、レガート城でお会いできませんか」と小さな声で聴いてきた。

 イツキは笑顔で「お久し振りですシルバ様。では明日の昼に」と、シルバの耳元で囁いた。

 

 

 大物のお客様が帰ったところで、執行部と風紀部は体育館前に並び、選手や関係者をお見送りする。

 学生や教師達は、馬車の置いてあるグラウンドまでズラリと並び、各地の選手団を「また来年」とか「お疲れ様でした」とか「お気を付けて」と声を掛けながら見送る。


 各地の選手団は、ラミル上級学校の暖かい見送りに感激し、「来年も来るぞ」とか「お疲れ様」とか「ありがとう」と返事しながら、名残惜しそうに手を振って馬車に乗り込んでいった。



「お疲れ様でした校長、教頭。いろいろありがとうございました」


「いやいやイツキ君、殺し屋が潜入し、警備隊員が犠牲になったとか……しかも直接犯人と戦ったそうじゃないか……ケガは無かったのかね?」


「はい校長、残念ながら取り逃がしました。北寮に侵入したようなので、これからの警備は気を付けねばなりません」


イツキは2人にお礼を言いながら、困った表情で北寮の心配をする。


「イツキ君、その前にほら・・・あの視線・・・学生達への説明が・・・ロームズ辺境伯様の話を聞きたくてウズウズしている皆をどうするんだ?」


教頭は、少し離れた場所からイツキに向かって熱く熱く注がれている視線を見て、頭を抱えながらイツキに質問する。


「よし、覚悟を決めて体育館に戻るぞ!そうすれば、全員確実についてくる」


「はい校長……先生、僕からみんなに説明します」


これからが大変だと、3人は溜め息をつきながら、体育館に向かって歩き始めた。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

長かったロームズ辺境伯杯が、やっと終わりました。

いよいよ次話から、新章スタートします。応援よろしくお願いします。

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