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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ロームズ辺境伯杯

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ロームズ辺境伯杯(2)

◇◇ ラミル上級学校 ◇◇


「エンター部長、午前中は何事もなく順調でしたね」(副部長ミノル)


「ああ、しかしイツキ君は、必ずギラ新教徒が何かを仕掛けてくる筈だと言っていた。副教頭にイツキ君を殺すよう命じたのは、1年のルシフではなかった・・・もっと前から何かの指示を受けていた可能性もあるが、指示を出す存在が他に居るということだ」


「それは学校内ですか?」(書記ナスカ)


「まだ分からない。だから気を抜くな。特にヨシノリの護衛は気を付けろ!」


「「了解です部長!」」


マサキ公爵の次男であるヨシノリの護衛担当であるミノルとモンサンが、緊張した顔でエンターに返事をする。ヨシノリが狙われる可能性が1番高いのだ。

 軍本部に居るイツキ組の風紀部とクレタ、パルテノン以外の8人は、屋台から少し離れた工作棟の中で、昼食を食べながら打ち合わせをしていた。


 体育館と武道場に近い工作棟が、本日の本部席になっていた。

 本来なら校長か教頭が詰めているのだが、昼食時間になり領主や高位貴族をもてなしている為、執行部が代わりに詰めていた。


「おーい、行商人に発行する登録用紙と仮予約証、それから、イツキ君の作った薬材テスト用紙が足らなくなりそうだ」


本日行商人の登録窓口の責任者である経済学の教師カインが、不足しそうな手続き用紙を取りにやって来た。カインは化学部の顧問であり、武術で槍を教えている。


「ええッ?もう不足しそうなのですかカイン先生?」


「そうなんだよエンター部長、招待状を持っている行商人は、行商人仲間を1人だけ連れて来ても良いことになっているんだが、これが思ったより多くて……中には薬草を取り扱ったことのない行商人を連れて来る者も居て・・・」


カインはやや疲れた顔をしてフーッと息を吐き、やれやれと首を左右に振った。


「はい?それではテストに合格出来ませんよね?」


「そうなんだよヨシノリ君、薬草を扱う行商人なら解けるテストに、10点とか5点しか取れない行商人が居た。これから薬草を扱うから許可してくれと、土下座までして頼み込まれて・・・」


「紹介者は招待状を読んでいなかったのですか?」


執行部庶務のイースターは、招待状に簡単な試験ありと書いていたのにと、怪訝そうな顔をしてカイン先生に問う。


「いや、どうやら他の商品の納入先に無理やり頼まれて、断りきれなかったようだ。まあ当然脚下したし、ごねる者は直ぐ様警備隊に連行されて行ったが、本物の薬草の行商人でも70点代が半数以上だった。イツキ君の作ったテストは……かなり難しいようだ」


イツキがテストに合格した者しか登録させないと力説した理由が、ここに来てようやく納得できたカインである。

 その辺の薬屋から薬草を買ったり仕入れて薬種問屋に卸せばいいだけなら、他の商人達だって販売権利が得られる。それは、ただ単に特産品で儲けたいだけの商人であり、薬草が増える訳ではない。


「イツキ君は1年半も商団と諸国を旅してたから、学生の俺達では考え付かないことを学んでいる。そういう奴の中にギラ新教徒が居るかもしれない。カイン先生、充分気を付けてください」


「分かったエンター部長。怪しい奴は警備隊につき出して、しっかりと身元を調べさせよう。警備隊も遣る気満々だし」


カインはそう言って不足分の用紙を手に取ると、君達も気を付けろ!と手を振って持ち場に戻って行った。





 昼食時間も終わりに近付いた頃、午後から始まる試合の招待券を持った、一際目を引く豪華な馬車が正門を潜ってやって来た。

 その豪華な馬車には、隣国ミリダと同じく隣国カルートの国旗が掲げられていた。当然他の招待客の馬車は道を明け、2台の馬車を先に通してゆく。

 やって来たのは、ミリダ国の教育大臣と産業大臣、そしてカルート国は産業大臣と、御忍びの皇太子シルバだった。シルバは産業大臣のお供の者を装っていた。


 そしてその2台後方の馬車には、貴族枠で招待された伯爵が乗っていた。

 今回ロームズ辺境伯杯に招待されたのは、国内の伯爵以上の貴族だけだった。伯爵以上の貴族の招待客には2人分の招待券を送っていた。それは多くの者が従者を伴っているからだった。

 しかし、結婚している殆どの貴族が、今回の大会に夫人を伴って来ていた。


 その馬車には、エイベリックという伯爵が乗っており、従者としてある男爵を連れてきていた。

 貴族の身元が明らかであれば、従者の身分までは確認しない・・・それはレガート国の慣例のようなもので、従者の男はフルネームではなく、従者ホガースとだけ受付で記帳した。


 そして、その馬車の御者をしていた男は、黒い帽子を深くかぶり、御者用の黒いマントを着ていた。その黒ずくめの男は、警備隊の誘導でグラウンドの所定の位置に馬車を停めると、いつの間にか姿を消した。

 その直後、馬車の中から全く同じ帽子に同じマントを着た別人の男が出てきて、何事も無かったかのように御者台に座った。何故別人だと分かるのかと言うと、新しく御者台に座った男の頬には、大きな傷跡が無かったからである。





 上級学校の体育館で行われているポルムゴールで勝ち上がっていたのは、カイ領(軍)、マキ領(学生)、ラミル上級学校の3チームだった。

 アタックインで勝ち上がっていたのは、キシ領(貴族)、マサキ領(貴族)、ラミル上級学校の3チームだった。

 ラミル上級学校は2つの種目とも1回戦を勝ち上がっていた。

 アタックインで学生が残っているのは、ラミル上級学校だけになってしまった。


 執行部のメンバーは進行役なので、イースターとナスカの1年生コンビを本部に残し、それぞれの持ち場に戻って行く。

 校長や教頭は、隣国の来賓をもてなす為に戻ってこない。その代わりに本部にやって来たのは、警備隊本部でイツキが出会った、法務部事務次官補佐のネイゼス46歳と、治安部隊ギラ新教担当のイノ中佐32歳だった。

 2人は所属部署と名前を名乗り、よろしくとナスカとイースターに声を掛けた。


「お疲れ様です。よろしくお願いします」とイースターとナスカは立ち上がり、はじめて会う2人の上官に緊張しながら挨拶をする。


「執行部書記、1年のナスカです。イツキ組です」

「執行部庶務、1年のイースターです。同じくイツキ組です」

「よろしくな、イツキ組ってことは……イツキ君の正体は知ってるんだな?」 

「「はいイノ中佐」」


ナスカとイースターは仲良くハモリながら答える。

 ナスカはこれ迄の状況を報告し、先程ミリダとカルートから国賓が来たと伝えた。


「決勝戦は、招待客は入れず全選手と関係者だけで観戦するのだな?」


「はいネイゼスさん。決勝戦には王様、秘書官様、領主様が来られるので、招待客が全て帰らないと王様の馬車は入場出来ないことになっています」


ナスカはそう答えて、招待客を全て上級学校から出すのが、1番大変な作業になると思いますと付け加えた。

 イースターが2人の上官にお茶を出していると、同じクラスでヤマノ領出身のホリーが、青い顔をして本部にやって来た。


「ナスカ、大変だ!ルシフの父親、ボンドン男爵が来ている。俺の知らない伯爵……?のような人物と一緒だった」


ホリーは他の3人には聞こえないように、ナスカの耳元で緊急報告をした。


「なんだって!ありがとうホリー。君にはずっと見張りをさせて申し訳なかったが、お陰で助かったよ」


ナスカはホリーに礼を言うと、直ぐにイノ中佐の前に行きそのことを報告する。


「イノ中佐大変です。ボンドン男爵が潜入しました。クラスメートのホリーです。ホリーはヤマノ領の出身でボンドン男爵の顔を知っているので、ずっと受付の後ろで見張って貰っていました」


「なに!やはり来たか・・・ホリー君、すまないが俺と一緒に来てくれ。影からボンドンがどの男か教えてくれ」


イノ中佐は厳しい顔をして、ホリーに面通しを頼んだ。

 キョトンとしているホリーに、ナスカはイノ中佐は治安部隊の人だと教えた。それがどういう意味なのか理解したホリーは、直ぐに「分かりました」と答えて一緒に体育館と武道場へと向かった。




 実は3日前のこと、ルビン坊っちゃんのお付きであるホリーは、突然1人だけ執行部部長に呼び出された。

 何事だろうかと不安になりながらも、直ぐ後ろの席に座っているナスカに連れられて、放課後執行部室にやって来た。


「君がホリー君だね。執行部部長のエンターだ。よろしく。実は君にしか出来ないことを頼みたいんだが」


エンター部長は、にこにこしながらホリーと握手して、いきなりお願い事をする。

 ホリーは執行部室の中にずらりと並んで座っていた、執行部と風紀部のメンバーを見て、すっかり畏縮してしまう。そんなホリーの様子を見て、つい最近まで自分もホリーと同じ感覚だったのにとイースターは思いながら、遠い昔のことのようにも感じて、なんだかなぁ……と遠い目をした。


「実は1年B組のルシフだが、彼は間違いなくギラ新教徒だ。ブルーニやドエルは捕まったが、ルシフは父親のボンドン男爵同様、犯罪行為の尻尾を捕まれてはいない。しかし、前回のヤマノ領の件以来、治安部隊はボンドン男爵をずっとマークしている」


「えっ?ギラ新教徒・・・」


エンター部長の話を聞いたホリーは、そんなバカな……とも言わず、何かをじっと考えるように黙ってしまった。


「ルシフは後期から、ヤマノ領ではなくラミルに住居を移した。ということは、ボンドン男爵もラミルに居る。ギラ新教徒である男爵は、ロームズ辺境伯杯に招待されていないが、何らかの方法で必ず上級学校にやって来るだろう。我々執行部と風紀部は、領主の子息であるインカ隊長とヨシノリ副部長を守らなければならない。しかし残念ながら、誰もボンドン男爵の顔を知らないので、当日守れるかどうか心配なんだ」


「では、マサキ公爵の子息が襲われた事件は、ギラ新教徒の仕業なのですか?」


風紀部ヤン副隊長の話に、ホリーは驚いたような顔をしてヨシノリの方を向いた。


「そうだよ。兄を襲撃し従者であった従兄弟を殺したのは、マサキ領の元貴族のギラ新教徒だ。後期から来ていないカイ領2年のニコルもギラ新教徒で、夏休みの間に逃げた。君も知っていると思うが、夏休みに治安部隊はカイ領とマサキ領のギラ新教徒を捕らえた。しかし、数人の子息が逃げたままだ。だから、ロームズ辺境伯杯で襲ってくる可能性がある。命が懸かっているんだ」


ヨシノリは苦しそうな表情で話し始め、ギラ新教徒の活動に大きく関わっているボンドン男爵は、要注意人物なのだとはっきりと言った。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

仕事が忙しくて、少し更新が遅れ気味です。

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