攻撃と反撃(1)
エンターは副教頭が貼り出した北寮の規則について、真っ向から異議を唱えた。
「副教頭、他の寮にもない規則を、北寮にだけ課すことは完全に差別であり、到底認められません。風紀部隊長として断固抗議し、本日の持ち物検査を拒否します」
遅れてやって来たインカ隊長は、異様な雰囲気の元凶であるを掲示板を見て、風紀部隊長として冷静に抗議する。
「君は領主の子息だから、何でも意見が通るとでも思っているのか!」
「いいえ、とんでもありません。私は風紀部隊長として認められないと言いましたが?それとも副教頭は、私が領主の子息だから何でも意見が通るとでも思っていらっしゃるのでしょうか?」
相手はギラ新教徒である。感情的になるより冷静な対応の方が、相手の理性を欠くことが出来るとインカは知っていた。
違法には正攻法で対処し、権力には正義で立ち向かうべきだとイツキは常日頃から皆に話していた。インカは今、それを実践しようとしていた。
「領主の家に生まれたというだけで・・・フン!だが所詮は次男・・・全員集まったようだな。では、3階から始めるぞ!」
「副教頭、執行部部長としても、今日の持ち物検査は認められません。そのような承認も受けていないような規則は無効です。どうしてもと仰るのであれば、校長か教頭の同行をお願いします」
学生の話など聞く気が無さそうな副教頭に向かい、エンターも前に出てきっぱりと受け入れられないと言う。
「なんだと生意気な!伯爵であることがそんなに自慢なのかエンター?」
「はあ?大丈夫ですか副教頭?」(エンター)
「「そうだ、そうだ、副教頭の横暴だ!」」(北寮の学生達)
「副教頭、まるで高位の貴族やその子息に、個人的な敵意があるように聞こえますが、まさか高位の貴族を守る目的である北寮に住む副教頭が、学生を攻撃するのですか?」
執行部副部長のヨシノリは、副教頭の後ろからボルダン校長が近付いてくるの確認し、大きな声で逆に問い質す。
「どう言うことだねヨシノリ君!北寮の学生を攻撃するだと?」
ボルダン校長はヨシノリに対して、厳しい口調で問う。
「ボルダン校長……何故ここに……?」
副教頭は途端に顔色を変え、何故校長が来たのかと問う。そして掲示板に視線を向け、都合が悪そうに口許を引きつらせ下を向く。
「ルイス君に重要な仕事を頼もうとしたら、北寮の持ち物検査を手伝わなければならないと言うから、私が代わりにやって来たのだがね。しかし、北寮に関係のないルイス君が何故呼ばれたのか、副教頭に確認する必要もあったのでな。それで、何故大声で揉めているのだ?学生を攻撃するとは?」
校長はおっとりと話しているようで、その瞳には怒りの色が滲んでおり、副教頭が視線を向けた先の掲示板を確認するように見た。
「この【寮の規則について】という貼り紙は何かな副教頭?それに、この監督責任者とは何だね?君は寮の管理責任者でもないし、こんな権限を私は与えた覚えもないが」
「そ、それは・・・実は、ある学生から気になる通報がありまして、執行部や風紀部の学生が定期的に会議と称して酒盛りをしているとか、一部の学生が、複数の学生達と不適切な関係にあり、毎晩のように淫らな行為に及んでいると・・・ですから北寮を預かる者として、その実態を確認するために持ち物検査と、部屋の中を確認する必要があったのです」
副教頭は自分の行動を正当化するように、言い訳のような目的を告げる。
「そういう通報があったのであれば、何故私に報告しないのだ!これは、副教頭の権限を逸脱している。君に通報した学生の話は私が改めて聴くことにする」
「校長はそうやって不正を揉み消すおつもりですか!」
副教頭は校長に向かって全く悪びれる様子もなく、自分の方が正しいと思っているのか意見をする。
「なんだと!」
校長は信じられないという表情で副教頭を睨むが、イツキがニヤリと笑うのを見て、ふーっと息を吐き呼吸を整える。
「校長先生、アレクト副教頭の遣り方には問題があると思いますが、北寮の学生に対し酒盛りをしているとか、淫らな行為をしている等と疑われたままでは、北寮の寮生として引き下がる訳にはいきません。副教頭は全学生を敵に回してでも検査を実行すると言われているのです。どうぞ検査を実施してください。ただし、公正を期すために、他の教師や北寮の学生以外の立ち合いをお願いします」
イツキは不機嫌を装いながら、挑戦的に副教頭を見ながら言う。
「いや、それは出来ない!こんな不当な検査を許可することは出来ない!」
「では、副教頭が作った【寮の規則として】は無視しては如何ですか?不名誉な疑いを掛けられたままでは、我々北寮の学生は安心して寮で生活出来ません」
「そうだ、安心して眠れない!」(クレタ)
「「そうだそうだ!!」」(残りの全員)
イツキの提案を聞いて、寮生達は大声で抗議する。
その頃には北寮の騒動を聞き付けた、学生や数人の教師が集まってきていた。集まってきた学生や教師の数人は、あらかじめ来るよう依頼された者達だった。
「風紀部のイツキ君がそう言うのなら、俺達で良ければ立ち会います」
そう言って前に出てきたのは、東寮(1年生)の寮監であるトロイだった。西寮と南寮の寮監2人も前に出て自分達も立ち会うと申し出る。
「では、我々も立ち会いましょう」
東寮の管理責任者であるフォース先生と、西寮と南寮の管理責任者の2人の教師も立ち合いを申し出た。
「アレクト副教頭、北寮の管理責任者は私だったと思いますが、何故私に相談もなく勝手に持ち物検査をなさるのですか?」
1年生の学年主任であり、少し前に副教頭や教師のルイスに洗脳されかけた、ダリル教授が不機嫌そうに問う。
「ダリル君、君なら分かるだろう?それに私は監督責任者として行動しているのだ」
ダリル教授を味方だと思っている副教頭は、ニヤリと笑って校長に向かってイツキの申し入れを受けると答えた。
それから約1時間、念入りに持ち物検査が行われ、残る部屋はイツキの部屋だけになっていた。
検査の終わった学生達は夕食に行くよう校長が指示を出したので、学生で残っているのは執行部部長のエンターと風紀部隊長のインカと、東西南の寮監とイツキだけだった。
「どうしてイツキ君の部屋が、最後でなければならなかったのかね?」
「ボルダン校長、北寮内で風紀を乱し淫らな行為をしていると通報があったのが、イツキ君だからですよ。この部屋は念入りに調べる必要がありますから。そして私は副教頭として厳しい罰を与えるつもりです」
校長の問いに我こそが正義だと思って答える副教頭である。何か確証でも掴んでいるのか、悪人面でニヤニヤ笑う。
「成る程、僕を名指しで通報したのであれば、何も出てこなかった時は、その学生に厳しい罰を与えると言うことですね?」
イツキはここでにっこりと笑った。黒く黒く・・・でも美しく。
「なんだと!通報者に罰を与えるだと?」
「それは当然でしょう。もしもイツキ君の部屋から、酒瓶や淫らなことをしたという証拠が出てこなければ、その通報者は嘘を言ったことになる。明らかに副教頭を騙し、イツキ君を陥れようとしたことになりますから。ですから、その通報者の名前を事前に聞いておく必要があります」
フォース先生は、校長を含めた教師だけに、その学生の名前を言うように迫る。
副教頭は意外だったようで戸惑うが、自信があるのかその学生の名前を告げる。
その名前を聞いた校長は首を捻り、困ったような顔をしてイツキを見た。聞き出した名前がルビンではなかったのだ。
「校長先生、副教頭が告げた名前が真実かどうかは、誰が立証するのでしょうか?もしもその学生が、他の学生に聞いたと言い、その学生もまた他の学生から聞いたと言ったらどうするのですか?」
「イツキ君、その時はその全員にペナルティー3を与えることにする。そして言い出した者には、副教頭がイツキ君に与えようとしている罰と同じ罰を与えることにする」
校長はイツキの瞳を見ながら、イツキの意図することを考えながら話をする。
「分かりました。それでいいです。でも・・・今更申し訳ないのですが、夕食の時間が終わってしまうので、僕の部屋の検査は明日にして頂けませんでしょうか?」
イツキは申し訳なさそうに、副教頭の汚らわしい者を見るような視線から顔を逸らして、何処かオドオドした感じで校長に申し出た。そして後ろに居るエンターに、こっそり指で合図を送った。
「イツキ君、それは出来ないよ!ここまで来てそれは出来ない。夕食ならきっと残して貰えてるから、早く検査して貰おう。それで副教頭、イツキ君の部屋から酒瓶や淫らなことをした証拠が出てきたら、どんな罰を与える予定なのでしょう?」
「さすが執行部部長だ。イツキ君、今更逃げようとするとは、フッフッフ、自分の罪を認めたようなものだな。そうだな……酒・学生に相応しくない書物・武器が見付かった場合の罰ならペナルティー3、淫らなことをした痕跡があれば停学処分、大金を持っていたら退学だ。金で体を売っていた証拠になる」
副教頭はイツキの言動や態度にニヤリと右口角を上げ、やはり何か有るのだと自信を持った。遂に追い詰めたのだと気持ちが高揚し、教師にあるまじき金で体を売っていた等と言ってしまった。
「それでは副教頭は、イツキ君が学生達にお金で体を売っていると疑って、いや、そう思っているのですね。それも通報者が言ったのですか」
ダリル教授は吐き気がするのを我慢し、副教頭に念を押すように確認する。
「通報者は淫らな行為をしていると言っただけだが、ダリル教授、少し考えれば分かることだ。領地もない子爵が突然伯爵になったんだ。金が必要になるだろう。体を使って爵位を得たのと同じ方法で、伝統ある北寮を穢したのだ」
勝ち誇ったような顔をして副教頭は断言した。その醜く笑う表情も言動も、他の教師や学生には常軌を逸した狂人のように見えた。
「は~っ、今夜の夕食は何だろう?」
緊張感が漂う中、イツキは全く空気を読まない発言をして空気を換えようとする。
そして上着のポケットから鍵を取り出すと、わざとらしく「仕方ない」と言いながら鍵穴に鍵を差し込んだ。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
いったいいつロームズ辺境伯杯を始めるの?と、イライラされている皆様、次の次から始まりますので、もう少しお待ちください。
そしてサクサクと進む……?予定で頑張ります。




