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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ロームズ辺境伯杯
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求人情報

 9月30日、遠征班は事故や事件に巻き込まれることなく、全員無事にラミル上級学校へと戻ってきた。

 各領地の上級学校と親睦を深め、レガート軍で鍛えたり鍛えられたり、貴族の皆さんの自慢話に耳を傾けつつ、有意義にポルムゴールとアタックインの指導を終え、課題も提出していた。


 作製班(居残り組)も予定の工程を全てこなし、余った時間で、予定に無かった中級学校や軍学校でも指導していた。

 当然軍学校には、イツキ組の選りすぐりのメンバーで出掛けていった。

 それはもう当然ながら、お坊っちゃん学校の奴等を痛い目に遭わせてやろうと、軍学校の暴れん坊達は頑張った。しかし、腕のケガもすっかり回復したイツキ先生は容赦なかった。

 悔しかったら勉強し、上級学校に入学してリベンジしろとイツキは発破を掛けた。


 ゴールは簡易的な物だったが、10月中には中級学校にも軍学校にもゴールが設置されることになった。

 技術開発部が死に物狂いで……いや、張り切って製作してくれるようで、軍学校ではその日の内に新しい部活が立ち上がるらしかった。

 来年度のロームズ辺境伯杯には、軍学校も是非加えて欲しいと、イツキはハース校長から正式に依頼された。




 10月1日、今日はレガート国の公共機関の求人情報が、国内で一斉に発表される日である。中級学校と上級学校の学生に向けた求人は学校内に貼り出され、一般人に向けた求人は役場に貼り出されることになっていた。


 ラミル上級学校では、食堂の掲示板に貼り出される。

 既に出ている求人もいくつかあるが、やはり皆が狙っているのは公共機関だった。

 昼休み、3年生はダッシュで食堂に走って行き、今年の求人情報を確認する。

 しかし今年の10月1日は、求人とは別に驚くべき発表が、真新しい掲示板に2枚貼り出されていた。


 1枚はレガート国立ロームズ医学大学開校の発表と、学生募集のお知らせだった。

 もう1枚は医学大学開校に伴う、上級学校の入学年齢の引き下げのお知らせと、スキップ制の導入についてだった。


「「「エエエェーッ!!」」」と、当然ながら皆が驚きの声を上げた。

 この発表によって、金銭的にロームズ医学大学に行くのを諦めていたいた者や、ギリギリの成績だった者達は喜んだ。就職するしかないと思っていたのに、進学への道が開かれたのだ。


 実は9月の段階で、ロームズに医学大学が出来るという発表はされていた。

 しかし、奨学制度や、奨学金制度、募集人数などは正式に発表されていなかった。また、建物の完成が間に合わないとか、準備が整わないので無理だとか、教授や講師が集まっていない等の噂が流れ、積極的に受験しようと考えている者は少なかった。



 そして学生が驚いたもう1つの入学年齢の引き下げとスキップ制は、上級学校の長い歴史を大きく変える大事件だった。


「イ、イツキ君……もしかして、スキップする気?」

「あ、う、うん、そうだね。来年は3年になれたらいいなと思ってる」

「「「ええぇーっ!!!」」」


イースターの問い掛けに、イツキは申し訳なさそうに答え、一緒に食事に来ていたいつものナスカ、イースター、トロイの3人は、思わず叫んでしまった。

 その叫び声を聞いて、全てを察した1年生からは、絶望的な悲鳴が上がった。

 逆に喜びの歓声を上げたのは2年生だった。

 もしかしたら、いやきっとイツキ君は来年3年生にスキップするだろう。楽しい同級生ライフや、クラスメートになれるかも知れないという妄想を抱き、求人情報などどっちでもよくなってしまう。




 しかし、そんな後輩達の泣き笑いより、3年生にとって求人情報は、自分の将来を左右する最も大事な情報だった。

 そして3年生の中でも、一際人だかりが出来ていたのが、ロームズ医学大学の職員募集とロームズ領の職員募集の求人情報だった。


〈〈 医学大学の職員募集 〉〉


【 文官・経済コースの学生  事務職員として10人 】

◆ 期待する学生について 体力に自信があり責任感や使命感の強い者。事務処理能力が高ければ、認定試験に合格していなくても可。


【 医療コースの学生  教授や講師の助手として10人 】

◆ 期待する学生について 医療コースの認定試験を合格し、勉強熱心で医学を学ぶ気のある者。文章力が高く資料作りが出来る者。 

◆ 特記事項 イントラ連合語でAを取得している者は優遇予定  


【 軍人・警備隊コースの学生  学校専属の警備職員6人 】

◆ 期待する学生について 剣術、体術、槍術の何れかでA認定された者。学生を守り抜く意志のある者。 



〈〈 ロームズ領の職員募集 〉〉


【 文官・経済コースの学生  事務職員として4人 】 

◆ 期待する学生について 文官・経済コースの認定試験を合格し、ロームズ領民と仲良く出来る者。


【 全コースの学生  中級学校の教師として6人 】

◆ 期待する学生について 総合成績A判定で、教育者としての常識と知識を持ち、多数の科目が教えられる者。

◆ 特記事項  スーパー進学コースあり(ラミル上級学校入学を目指す)


◎ 待遇について

◆ 1ヶ月の給料 金貨2枚 (カルート国語以外の外国語がAなら金貨2.5枚、Bなら2.2枚) 

◆ 職員寮あり (実費支払いが必要)現在建設中につき完成次第入居可

◆ 特別待遇  移動距離を考え、長期休暇制度あり。また、1年に2度、特別手当てとして金貨2枚を支給する。

◎ その他  事務職員、助手は女性の出願可


● ロームズ医学大学及びロームズ領職員の募集締切日  10月18日

● 試験内容  筆記試験、事務職員は実技あり、面接

● 採用試験日  11月10・11日  ● 合格発表  11月20日


 3年生の目は、ロームズ医学大学とロームズ領の求人情報に釘付けになっていた。

 なんと言っても募集人数が36人と多数だったのだ。しかも、事務職員の募集は他の求人の中でも群を抜いていた。


「スゲーな。でも、ロームズ領って遠いよな」

「それに、田舎だろう?でも、年に2回も金貨2枚は、他にはない魅力だ!」

「領主様がどんな人間か分からないし……ロームズ辺境伯杯までに履歴書を出さなきゃいけないからなぁ……」


求人情報を見た学生達は、ロームズに関する求人に今一つ乗り気ではなかった。


「イツキ君、いいの?領主が誰か知ったら、応募者が増えると思うけど」

「これでいいんですよクレタ先輩。誰だって辺境のロームズ領には行きたくないでしょう。それでも試験を受けようと思う、熱意のある者を採用したいんです」


イツキとクレタは配膳口で昼食を受け取り、いつものテーブルに向かいながら小声で話す。イツキ組の定位置は、掲示板から最も遠い食堂の右奥だった。

 クレタは技術開発部への就職と、医学大学への入学が決まっていたので、掲示板は食後ゆっくりイツキと見ようと思っていた。


「酷いよイツキ、俺は来年からイツキ先輩と呼ばなきゃいけないじゃないか!」

「ナスカ・・・今の1年生は、全員イツキ君でいいよ。それに、まだ認定試験に合格してないだろう?」

「何言ってんのイツキ君!君が合格しなければ、誰が1年生で合格できると言うんだ」


新しく後期から執行部役員になったイースターが、隣に座るなり涙目になって文句を言う。その隣に座ったランカー商会の息子トロイも、「そうだよ、酷いよ!」と文句を言っている。

 トロイは正式にイツキ組に入っている訳ではないが、イツキの屋敷で皆と顔を合わせてから、何となく仲間になっている。


「イツキ君、俺は医学大学の警備職員を受けようと思う」

「モンサン先輩・・・でも先輩の夢は軍の音楽隊じゃあ?」

「軍に就職するより、医学大学の方がイツキせんせ……イツキ君の役に立てるし。でも、これから死に物狂いで剣の練習をしなくちゃいけないが」

「モンサン先輩、既に体術はAでしょう?受験資格なら既にクリアしてますよ」


イツキはモンサンの申し出が嬉しくて、にっこりと笑顔で答えた。モンサンも嬉しそうに笑い、筆記試験も頑張りますと敬語で答えていた。




 イツキ組15人とトロイが楽しく食事をしながら求人情報の話をしていると、黒い影を纏ったアレクト副教頭がやって来た。


「風紀部隊長、執行部部長、本日北寮の持ち物検査をする。ホームルームの後、北寮の学生を全員集合させなさい。これまで甘かった検査も、これからは厳しく行う」


アレクト副教頭は、不機嫌な表情でインカとエンターに向かって指示を出した。が、その視線は何故かイツキを睨み付けていた。まるで汚らわしいものを見るような目で。

 その視線に気付いたヤン、モンサン、クレタは、直ぐに警戒体制に入った。

 イツキ組の全員が、副教頭のアレクトと社会の教師ルイスは、洗脳者又はギラ新教徒であると知っていた。なので日頃から2人の行動を監視し、北寮を牛耳っているアレクトには、特に注意をしていた。


『しまった!ロームズ医学大学の職員採用試験の問題を、机の引出しに入れていた』


 他にもいくつか、ロームズ辺境伯関連の書類が、クローゼットの鞄の中に入っていたのを思い出し、イツキは自分の甘さを悔いた。

 昼休みの残り時間は10分足らずで、4時限目は武術だから全員教室で着替えねばならず、寮に戻る時間はなかった。当然わざとこの時間に知らせに来たのだろう。


「エンター先輩、僕は槍なので、フォース先生に北寮の持ち物検査のことを伝えて、検査にルイス先生が立ち会えないようにして欲しいと頼んでください。検査に教頭先生か校長先生に立ち会って欲しいとも伝えてください」


「分かった。伝えるよ。鍵は掛けてあるんだな?」

「はい、大丈夫です。でも、他にも何か仕掛けてくるかも知れません。油断は出来ません」


イツキはエンターと打合せをし、嫌な予感を抱きながら急いで教室へと向かった。



 午後5時、ホームルームが終わったイツキは、北寮へと急いだ。

 寮の前には既に半数の学生と、副教頭のアレクトが待っていた。どうやらルイス先生は居ないようだとイツキは安堵したが、寮の掲示板に貼られた紙を見て、イツキは持ち物検査の目的を知った。


【 寮の規則について 】

※ 本日の持ち物検査において、酒・学生に相応しくない書物・高額な金・武器が見付かった場合、部屋に施錠することを禁止する。

※ 禁止物を持ち込んでいた場合、ペナルティーを与える。

※ 半期でペナルティー3以上を与えられた者は、以後抜き打ち検査を実行する。

※ 寮で淫らな行為をした者は、停学処分や退学処分とする。


北寮監督責任者 副教頭 アレクト


「アレクト副教頭、この規則は職員会議に掛けられていませんよね?」


「エンター君、私は監督責任者として、君達に()()な生活をさせる義務がある。私は副教頭だ。いつまでも勝手が出来ると思わないことだ」


副教頭はそう言うと、何故かイツキとパルの方を向いて顔を歪めた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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