閑話 イツキのお見合い大作戦(2)
少し長くなりました。
「イツキ君、お客さんかい?」
「ええ、事務長の知り合いの女性が来たようです」
イツキ君はヤマギ隊長にそう答えて、にっこりと笑って私に次の指示を出した。
それは1階の改装について、来賓の宿泊施設に勤めているレイティスに、参考意見を聞いて欲しいというものだった。
私はレイティスを早速屋敷に招き入れ、1階の客室に案内し、前々からイツキ君が言っていた、広過ぎる2つの客室を3つの部屋にする方法と、2階の書斎も客室に応用出来るアイデアを貰いたいと頼んでみる。
「ティーラさん、ツインベッドのお部屋は、そのままにしておいた方がいいと思います。やはり領主屋敷ですから、王族や他の領主様がお泊まりになられる可能性があります。豪華な客室を1部屋残し、手前の細長い客室を2つに仕切るのが最良かと」
レイティスは警護の面からも、手前の客室は従者用の部屋とし、出入口は廊下からではなくエントランスからにした方が、何かあった時に直ぐに対応出来ると言った。
エントランスで、私とレイティスがその話をしていると、ちょうどイツキ君とヤマギ隊長がやって来た。
「これはレイティスさん、わざわざすみません。小さい屋敷なのに学友が泊まりに来たり、常駐で3人がこの屋敷で働いているので、時々泊まったりして部屋数が足らないんです。しかし、優先すべきは安全性です。男性的な観点からは、こちらの国境軍ヤマギ隊長に意見を聞いています。女性的な観点からレイティスさんの意見をお願いします。ああそうだ。屋敷の図面があるので、ダイニングでお茶しながら全員で相談しましょう」
イツキ君はそう言いながら、2人をダイニングルームの大きなテーブルまで連れていき、自分は執務室まで図面を取りに行き、私は隣のキッチンでお茶の準備をする。
お茶を持ってダイニングに戻ると、レイティスとヤマギ隊長が意見を戦わせていた。
「だが、それでは廊下側の部屋は窓がなくなり、暗いのではないか?」
ヤマギ隊長31歳は、顔は強面だが優しい声でレイティスに意見を返している。
ヤマギ隊長は副隊長になった時にナイト(騎士)になり、今回隊長になったので王様から準男爵を賜ったらしい。イツキ君の情報では完全に結婚を諦めているらしいとのこと。
「いいえ、エントランスは吹き抜けで明るいので、廊下側から入る部屋のエントランス側の壁の上部に、明かり取りの窓を設置すれば良いと思います」
日頃から男性に対し可愛い気のないレイティスは、今日も男勝り全開で、上官であるヤマギ隊長にはっきりと意見を言う。高位の上官に対して恐れを知らないと言うか……ちょっと心配になってしまいます。
「成る程……それは理に適っているな。流石来賓の警護担当者だ」
「・・・・」
ヤマギ隊長に褒められたレイティスは、一瞬驚き言葉が出なかった。
普段は男性の上官と意見を交わすことなど無いが、これまでの経験だと「女のくせに生意気な」とか「女が意見するな」とか「お前ごときが」と言われて、自分の言うことなどきちんと聞いて貰った記憶がなかったと、後からレイティスが言っていた。だから驚いたのだと。
それから30分くらい経って、イツキ君が上手く話を纏め、屋敷の改築を決定し、2人にお礼を言ってお開きにした。
忙しいヤマギ隊長をいつまでも引き留めてはおけないので、先に軍本部に帰ってもらうことにした。
残ったレイティスは、ポカンとしてティーカップを持ったまま、どこか上の空で何か考えているようで、私が声を掛けたのに気付かなかった。
「ヤマギ隊長は国境軍の隊長で、僕と一緒にロームズに行き、共にギラ新教徒やハキ神国軍と戦った同士なんです。僕の方が随分年下ですが、ヤマギ隊長は実力主義者ですから、実力があれば正当に評価できる人です。奇跡の世代の中でも僕とは個人的に親しいですね」
イツキ君はにっこり笑ってレイティスに話し掛けると「ただ、結婚する気が無いのが心配なんです」と付け加えた。
午後3時30分、今度は後宮で王妃様や王子様の食事を担当している、侍女であり食事担当のケイティー35歳と、王女様付き教育担当をしているレミー25歳が、王宮から徒歩でやって来た。
本当は時間をずらして来るように頼んでいたのだが、仕事の都合でどうしても同時刻になってしまった。
そしてほぼ時を同じくして、技術開発部から2人の課長が徒歩でやって来た。
科学開発課のイリヤード課長40歳は、男爵であり年齢より若く見える、まあまあのイケメンだったが、これまでの恋愛は、ことごとくダメになったらしい。忙しくて泊まり込むことも多いのが原因だとか。イツキ君の情報では、最後の詰めが甘いと部長のシュノーさんが言っていたとか……う~ん……恋愛経験は結構あるんだ。
技術開発課のテーベ課長30歳は、まだ若いのに課長という役職に就いている優秀な研究員である。爵位は準男爵で、ハンサムとうより知的で聡明な雰囲気だった。基本的に女性と会話するのが苦手で、自分からアタックしたことは1度もないらしいとイツキ君が・・・う、う~ん……それってどうなの?
「今日は仕事なのに呼び出してごめんなさいね。うちの主は全領主の中で1番忙しい領主だから、明日には学校に戻ってしまうのよ。うちの主は発明が得意で、今度生活に役立つ発明品を作るらしく・・・ここだけの話し、ほら、ロームズ辺境伯領って貧乏だから、領主自ら稼がないといけないのよ、ああ、それで、料理関係の発明品や文房具とか生活用品全般で、意見を聴きたいらしくて協力をお願いしたいの」
「ティーラさん、素敵なお話だわ!発明……やはりロームズ辺境伯様は、噂通りの天才なのね」
王女様教育担当のレミーは、うっとりとした表情で胸の前で手を組んだ。
レミーは女学院を首席で卒業した才女で、自分より頭の悪い男や、筋肉自慢の男が嫌いだった。
イツキ君の質問にもそれが表れていて、質問1には【自分で選びたい】、質問2には【女性の知性を認められる心の持ち主】、質問3には【賢い男】、質問4には【外見普通で弱い男】、質問5は【働きたい】と答えていた。
レミーは男爵家の次女で、バカな男と結婚するくらいなら、一生独身でいいと言って親を心配させているが、ミリス王女は優秀で、あまり教えることがないので退屈していた。
「ロームズ辺境伯様は、調理器具も作ってくださるのかしら?なんて素晴らしい!」
ケイティーは料理が大好きだが、好き過ぎるがあまり、質問2を【美味しそうにご飯を食べる男】と答えていた。そんな男はたくさんいそうだが、美味しいと褒めてくれることも必要だとか……
ちなみに質問1は【選ばれたい】、質問3は【賢い男】、質問4は【カッコいいけど弱い男】、質問5は【働きたくない】と答えていた。確かに出産するなら急いだ方がいいと思う。
「お2人とも仕事が忙しいのに、協力をお願いしてご迷惑だったでしょうか?」
イツキ君の問い掛けに「「いいえ、ロームズ辺境伯様」」と、嬉しそうに返事をする2人は、きっとイツキ君が大好きに違いない。
「今日は僕がよくお世話になっている、技術開発部の2人に来て貰いました。発明と言えば、やっぱり技術開発部との連携は欠かせませんから」
イツキ君はそう言いながら、ちょっと遅れてきた2人をケイティーとレミーに紹介し、やっぱりダイニングルームでミーティングを始めた。
ダイニングルームという場所は、ちょっと個室感があって、お互いの距離も近く、なんだか緊張しなくていいようだった。
「す、すみません、お恥ずかしいのですが、私は女性と話すのが苦手で……」とかなんとか言っていたテーベ課長は、発明の話となると別人のように雄弁になっていた。
それもそのはず、才女レミーが質問やら意見をやたらとするので、ある意味……盛り上がっていた?
イリヤード課長は、日用品はあまり得意ではないが、こうやって女性の意見を聞くことは、重要なことだと改めて思ったとケイティーに話した。
テーベ課長は、こんなに楽しく女性と話が出来たのは初めてだと嬉しそうに言い、普通女性は発明の話しなど聞きたがらないから、話の分かるレミーさんに会えて良かったと、恋愛経験のないテーベ課長は、にこにこしながらレミーに握手まで求めていた。初心者恐るべし……純粋って凄いわ……
レミーも、ここまで討論できた男性は初めてと、これまた恋愛の初心者は素直に喜んでいた。
途中、ケイティーが焼いてきたクッキーを出すと、2人の課長は涙を溢さんばかりに喜んで、美味しい美味しいと言いながら食べていた。
時々ロームズ辺境伯が差し入れをしてくれるんだけど、神様に見えるとイリヤード課長が言った言葉を聞いて、クッキーくらいなら今度差し入れに行きますわ……とケイティーは約束していた。
「お疲れ様でしたイツキ様、お茶をどうぞ。それにしても、あのケイティーと、あのレミーが、初めて会った男性と笑顔で話すなんて驚きです。しかも、次に会う約束までしていました。なんだか上手くいきそうですね。いつ、これがお見合いだったと言えば良いのでしょうか?」
4人を見送った後、イツキ君と私はリビングでお茶を飲みながら、【お見合い大作戦】の成果について話し合った。
「ティーラさん、何も言わなくてもきっと分かりますよ。フフフ、誰が1番速く結婚するだろう?楽しみだな」
イツキ君は満足そうにそう言って、ケイティーの作ったクッキーを美味しそうに食べ始めた。その姿だけを見たら、普通の、まだ何処かあどけない少年なんだけど、一度領主の仕事を始めると、別人のように大人の顔になってしまう。
時にはこんな一時が必要だと、私はしみじみと思った。今朝まで歩けず、3日前には死に掛けていたいたとは思えないけど、決して油断してはいけない。無理し過ぎる主を休ませるのも私の大事な仕事だと、今回身をもって学んだ。
「私は案外とレイティスとヤマギ隊長ではないかと思います。レイティスは、絶対にヤマギ隊長を気に入っていました。初めて会った時、奇跡の世代は憧れの人達だと言っていましたから」
そして翌朝、私はイツキ君から1通の手紙を預かった。
宛名はギニ司令官。2日後の28日に軍本部に届けて欲しいとのこと。
領主会議からの1週間、それは怒濤のような1週間だった。
イツキ君はケガをして担ぎ込まれ、無理をして葬儀に出掛け、そして危篤になり・・・フィリップ様の命を懸けた判断で一命をとりとめ、でも歩けなくなり、そんな大変な時でも、人の幸せを思いお見合い大作戦を決行し、昨夜は……なんと畏れ多いことかリース様であられるエルドラ様と、一緒に食事したり・・・
イツキ様、腕のケガはまだ治っていませんから、どうか無茶しないでくださいね。
私はロームズ辺境伯の派手な馬車に乗った、エルドラ様とイツキ様を見送りながら、馬車が見えなくなると、神様と2人のリース様に感謝し深く頭を下げた。
8月28日、約束通り私は軍本部にギニ司令官をお訪ねし手紙を渡した。
「こちらから使いを出そうと思っていたところでした」とギニ司令官から恥ずかしそうに言われた時は、28日という日を指定したイツキ君に、本当に脱帽した。
この3日という期間が、会いたいと思う気持ちが高まる期間なのでしょうか……?恋する殿方に、思わずエールを贈りたくなった私です。
8月30日、フローズ親子が訪ねてきて、ギニ司令官にプロポーズされたと報告を受け驚く。仕事はやっ!と心の中で突っ込み、ヘタレを返上したギニ司令官に拍手です。
ちょっと早過ぎるのではと思いましたが、フローズが幸せそうなので、おめでとうと抱きしめ祝福する。
今頃は執事のボイヤーさんが、小躍りではなく、飛び上がって喜んでいるのだろうなと思い、ちょっと胸が熱くなったりする。本当に良かった。
9月3日、レイティスが屋敷にやって来て、ヤマギ隊長を婿にもらうには、どうしたらいいかと訊きに来た。
さすが結婚相手は自分で選びたいと言っていただけはある。領地持ち名門男爵家としては格下の準男爵を婿にするのは……と、始めは反対されたそうだが、相手が国境軍の隊長だと分かると、大喜びで賛成してくれたとか。
しかし、アタックするのはレイティスの方だけど・・・
「レイティス、にっこり笑って、私と結婚してくださいと言うのが1番だと思うわ。ヤマギ隊長は自分と結婚したがる女性はいないだろうと主に言っていたそうだから、ストレートに言わないと冗談だと思われるわよ。大丈夫!うちの主が選んでくれた男性だから、きっと上手くいくわ!」
私はレイティスの両手を握って、女は度胸よ!と言ってエールをおくった。
9月9日、レイティスと両親が屋敷を訪れ、婚約成立の嬉しい報告をしてくれた。暫くはレイティスの家にヤマギ隊長を呼んで、食事をしたりするそうだ。うんうん。
2人を取り持ったのはイツキ君だけど、まだ成人前なので、正式な仲人はギニ司令官がしてくれるらしい。
ちなみにギニ司令官とフローズは、9月18日に結婚が決まったとか。
9月20日、ケイティーが泣きながら屋敷に来たので、どうしたのかと驚いたけど、イリヤード課長がプロポーズをしてくれたと、嬉しくて泣いていたらしい。
プロポーズの言葉が「君の美味しいご飯で、僕をずっと幸せにしてください。一生大切にします」だったとか……ごちそうさま。
9月21日、久し振りに技術開発部に行ったイツキ君が屋敷に寄って、珍しく愚痴を溢していた。
「僕は忙しいんです。テーベ課長が毎日レミーさんとのことをのろけるので、他の研究者達の期待する視線が痛くて、おまけに3日に1度ケイティーさんがイリヤード課長に差し入れを持ってくるので、羨まし過ぎて死にそうだと僕に文句を言うんです。もう当分お見合いの世話はしません!」
イツキ君は怒った素振りで文句を言っていたけど、なんだか嬉しそうなのがだだ漏れていて、私も嬉しくなり、素敵な主に仕えられた喜びをそっと噛み締めた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




