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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ロームズ辺境伯杯
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閑話 イツキのお見合い大作戦(1)

久し振りの閑話です。

事務長ティーラの目線で書いています。

◇◇ 事務長ティーラ ◇◇


 8月25日午前、イツキ様はリース(聖人)エルドラ様とリース(聖女)メルダ様が協同でお創りになった毒消しの聖水を飲まれて、元通り歩けるようになったので、その日行う予定の【お見合い大作戦】を、問題なく決行されることになりました。

 私は先日イツキ様と面接した4人の女性に、今日お見合いをするとは告げず、時間差で屋敷に来るよう指示(お願い)して回りました。


 それにしてもイツキ様・・・すみませんが話し難いので敬語はやめます。

 それにしてもイツキ君は、先日の面接の時、14歳の少年とは信じられないような5つの質問をして、もうびっくりするやら可笑しいやら。

 1つ目の質問が、貴女は結婚相手に選ばれたいですか?それとも自分で選びたいですか?だもの……目が点よ!

 2つ目は、自分が思う男らしさについて……で、3つ目が、バカな男と賢い男、夫にするならどっち?ときた。当然私だけではなく4人とも「ええっ?」って驚いていたわね。まあ当然だけど。


 でも、3つ目の質問辺りから緊張も解れ、みんな笑顔になってた。

 全員の答えが同じかと思ったら、レイティスだけがバカな男と答えたのには皆が驚いたけど。 

 4つ目の質問は、カッコいいけど弱い男、カッコよくて強い男、普通で弱い男、恐い顔で強い男、4つの中で選ぶならどれ?って、イツキ君……あなた何者?って、思わず顔をまじまじと見てしまったわ、フーッ……

「ああ、強いって剣や体術のことですけど」って、分かってるわよそんなこと…………?ちょっとケイティー、なんで赤くなってるの!


 5つ目の質問になると私を含めた女性陣は、次にどんな質問をされるのかとドキドキワクワクしちゃったわね。

 で結局5つ目の質問が、結婚しても働きたいか、子育てに専念したいか?だったんだけど、子供がいるフローズ31歳とケイティー35歳は、子育てに専念したいと答えたけど、レミー25歳とレイティス26歳は、働きたいと答えていた。

 だから結婚できないんだ……と、私は溜め息をついてしまった。


 結婚した貴族の家の夫人が働くなんて、常識からは外れている。全く居ない訳ではないけど少数である。

 まあ貴族というのは見栄っ張りだから、貧しくても夫人を働かせていると思われたくないので、侍女を雇わない代わりに夫人が家事をする……それが普通だった。

 勿論、領地持ちの子爵家以上の貴族なら侍女やメイドが居て、夫人が家事をすることは殆どない。


 


 午前11時、私は9歳の女の子を連れたフローズと一緒に、屋敷の馬車に乗ってロームズ辺境伯邸に戻ってきた。


「フローズさん急にごめんなさいね。今日はリンダさんがお休みなの。主も在宅でお客様もいらっしゃるのに、事務長の仕事で急ぎの用件が入ってしまって……急に手伝いをお願いしてしまって申し訳ないわ」


「いいえティーラさん。実家もなんだか肩身が狭くて、こうして出掛ける口実が出来て嬉しいですわ。娘のネイシアも素敵なお屋敷に来れて喜んでいます」


 フローズ31歳は子爵家の娘で、20歳で同じ子爵家に嫁ぎネイシアを産んだが、昨年の春、夫を病気で亡くしていた。婚家には夫の弟が居たため、実家に帰されてしまった。

 未亡人になったフローズには、美人であることから男爵家や準男爵家の後妻や本妻ではない話が沢山来ていた。

 結婚後出戻ると、実家より格下の貴族の男性も求婚しやすくなる。しかし、50歳を越えた男や、好色家と噂の男の3番目の妻等、娘のネイシアにとって良い話ではないと、フローズは全て断っていた。

 フローズの願いは、娘のネイシアを可愛がり、きちんと教育を受けさせてくれる男性(ひと)のところへ嫁ぐことだった。




 正午になり、ギニ司令官の領地ソボエから、執事のボイヤーさんがやって来た。

 迎えに出た私は、直ぐにイツキ君の執務室にボイヤーさんを案内し、部屋を出て行こうとしたが引き止められてしまった。


「これはイツキ様ご無沙汰しております。この度はロームズ辺境伯ご就任おめでとうございます。また、丁寧なお手紙を頂きありがとうございました」


ボイヤーさんは正式な礼をとった後、祝辞を述べ再び深く頭を下げ礼を言った。

 私は直ぐにお茶を淹れると、お客様が座られるのを待った。



 ソボエにあるギニ司令官の屋敷に、イツキ君からの手紙が届いたのは8月20日のことだった。出来る執事のボイヤーさん43歳は、イツキ君からのお見合い斡旋の手紙を読み、思わず自分の執務室の中で小躍りしたそうだ。

 ボイヤーさんとギニ司令官は幼馴染みで、ギニ司令官にとってボイヤーさんは、お兄ちゃん的な存在らしかった。

 手紙の中には、イツキ君がロームズ辺境伯になったことも書かれていたが、ボイヤーさんの目が釘付けになったのは、《来年には可愛い跡取りが産まれることでしょう》という部分だった……らしい。


「あー神様。どうぞソボエに跡継ぎをお与えください・・・その前に、うちの主が結婚する気になりますように。これまで頂いた48回のお見合いの話を、41歳にもなったヘタレ主が、全て断ってまいりましたが、今回は策士がついております。ヘタレの主は一切信用出来ませんが、イツキ様……いえ、ロームズ辺境伯様なら、逃げ足の早いくそヘタレな主を、なんとかしてくださるでしょう。ああ神様、イツキ様、どうか、どうかよろしくお願いいたします」


心痛のせいかすっかり薄くなったグレーの髪を整え直し、ちょっと演技掛かった感じで、ボイヤーさんはひざまずいて神とイツキ君に祈るように言った。

 ボイヤーさんによると、手紙が届いてから縁起を担ぎ、屋敷中の掃除を念入りにするようメイドに命じ、奥方となられる奇特な方の為に、寝室に花を飾らせ、殺風景な部屋を女性好みの部屋に勝手に改造したという。

 その話を聞き、ボイヤーさんの並々ならぬ決意と、真剣に主を結婚させようという意気込みに、同じ家令的存在の私は感じ入った。



 イツキ君は、17日にお見合いさせる4人の女性と面接し、その中のフローズをギニ司令官と見合いさせようと考え、本人ではなく執事であり家令のボイヤーさんに手紙を送っていたのだった。


「ギニ司令官には知られていませんね?」

「はいイツキ様。本当に主に見合いを世話していただけるのでしょうか?」

「はいボイヤーさん。女性の身上書はこちらです。お相手の女性には、見合い相手のことは何も告げていません。今日は家事の手伝いということで来て貰いました。うちの事務長が太鼓判を押す女性です。どうぞ食事しながらボイヤーさんの厳しい目で審査ください」


イツキ君はそう言うと、早速昼食のためにダイニングへとボイヤーさんを案内した。


 リビングでお利口に待っているフローズの娘ネイシアちゃんに、イツキ君がご飯を一緒に食べようと誘ってみた。

 するとネイシアちゃんは、ドレスをちょこんと摘まんできちんとお辞儀をし「ありがとうございます。でも、私はお客様とは一緒にお食事できません。今日の私はお母様のお手伝いをしなければなりません」と、それはそれは可愛らしく、それでいて凛とした強さを持って返事を返した。


「それじゃあ、お手伝いをお願いしよう」


イツキ君は優しく微笑みながら、ネイシアを伴ってダイニングに入って行く。



 イツキ君は気を使う必要のないお客様だからと言って、結局フローズ、ネイシアちゃんと私も含めて5人で楽しく昼食をとった。

 時々ボイヤーさんがフローズやネイシアちゃんに質問をしたが、それはお見合いとは全く関係のない、好きな花や好きな食べ物のことだった。


「今日はありがとうございました。主には申し分のないお相手かと……どうぞよろしくお願いいたします」


ボイヤーさんはすっかり2人を気に入り、実は主(ギニ司令官)も子供が大好きなのだと笑って言った。そして、これまでのお見合い相手とは全くタイプが違うフローズを、主は気に入るだろうと嬉しそうに言って頭を下げ、安心して帰っていった。


 そこからのイツキ君の手腕には、感心するというか呆れるというか、私は首を振るしかなかった。




 午後2時、突然イツキ君から呼び出しを受けたギニ司令官と、国境軍のヤマギ隊長が、イツキ君に何かあったのかと心配して飛んできた。そして歩けるようになっていたイツキ君を見て抱きついて喜んだ。


「ギニ司令官、申し訳ありませんがお願いがあります。うちの事務長の知り合いに、食事の仕度を手伝って貰ったのですが、先程怪しい奴が屋敷の前を何度か彷徨いているのを警備の者が確認し、命を狙われる危険があるので、家まで送って頂きたいのです。さすがに司令官の馬車を襲う刺客はいないでしょうが、油断はできません。もしかしたら尾行されるかも知れません。送っていただきたい女性は9歳の女の子を連れた未亡人で、僕のせいで命を狙われることがないよう、遠回りして家の場所を突き止められないよう、時間を掛けて送ってください」


「それは司令官である俺でなくてもいいのでは・・・?」


いったいどうしてそんなことで、わざわざ司令官である自分が呼び出されたのかと、ちょっと不機嫌そうにイツキ君を見てギニ司令官は首を捻った。


「実は……午前中、本教会からリース様が来られたのですが、リース様がこの屋敷に危険が迫っている。関わっている者の命が狙われると仰ったのです。なので僕は、明日の早朝学校に戻ります。ヤマギ隊長には、今後の屋敷の警護について相談に乗っていただこうかと思って来ていただきました。ギニ司令官……リース様が僕に、最も信頼できる人に彼女達を馬車で送らせるようにと……なのでギニ司令官をお呼びしました」


イツキ君は真剣かつ困ったことになったという顔をして、ギニ司令官とヤマギ隊長にリース様の話をした。そして、リース様の聖水のお陰で歩けるようになったのだと説明した。


「「リース様が!」」と2人は驚き顔を見合わせた。私も驚いたが・・・

 ヤマギ隊長は、それならば本当に屋敷が狙われるのだと思い了承し、ギニ司令官はイツキ君に最も信頼できる人だと言われ、ちょっと嬉しそうに「それならば仕方ないな」と言って了解してくれた。


 成る程、使えるものはリース様でも使う……まあ、イツキ君もリース様だからいいのかしら?でも、馬車という密室なら、何も話さない訳にもいかないわね。さすがイツキ君だわ!


 イツキ君は、くれぐれもよろしくお願いしますとギニ司令官に頼んで、フローズ親子を馬車に乗せた。


 ちなみにフローズ、1つ目の質問には【選ばれたい】と答え、3つ目は【賢い男】、4つ目は【カッコよくて強い男】、5つ目は【子育てに専念】と答えていた。確かに伯爵であるギニ司令官は、フローズの理想の相手かもしれない。

 どうかギニ司令官が、ヘタレを克服してくれますようにと私は祈った。



 

 午後2時15分、男爵家の家取り娘であるレイティス26歳がやって来た。

 レイティスは王宮で働いており、担当部署は来客用の宿泊施設で、女性の宿泊客の警護をしていた。

 レイティスの家は代々王宮警備隊で働く名門男爵家で、レイティスも兄と共に剣術や体術や弓を父親から厳しく指導されて育った。

 本来なら、いや普通なら女子はたしなみ程度で武術を習うのだが、体の弱い兄と違い、レイティスは丈夫な上に武術の才能があった。そして16歳になった時、体の弱かった兄が亡くなり跡取り娘になってしまった。


 イツキ君の質問に、レイティスはこう答えていた。

 質問1には【自分で選びたい】、質問2には【私より強い男を男らしいと思う】、質問3には【バカな男】、質問4には【恐い顔で強い男】、質問5には【働きたい】と答えていた。


 正直私は、レイティスが気に入る男はこの国には居ないと思っていました。

 両親は結婚しない娘にほとほと困り果て、女学校の後輩である私に、母親が泣き付いて来たので、今回のお見合いに入れたのです。人間的には正義感が強く、容姿も決して悪くないのに、化粧なんて大嫌い・・・ドレスだって嫌々着ている。しかし、職場の同僚からは好かれており信望も厚かった。


 レイティスが屋敷の前に馬車で到着した時、イツキ君はヤマギ隊長と警備について、教会警備隊のハーベーさんと外で打合せをしているところだった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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