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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ロームズ辺境伯杯
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秋大会(2)

イツキの【お見合い大作戦】を閑話として本文に入れるか、外伝に入れるか思案中です。

来週には投稿できると思います。

 本部棟の外に出たイツキは、鼻唄を歌いながら何処から散歩しようかと辺りを見回し、話し声のする東側に向かって歩き出した。


「ねえねえイツキ君、大丈夫なの待っていなくて?」


エンドは小走りでイツキの後ろを追い掛けながら心配する。


「エンド先輩、これは手荒い歓迎と言うか虐めなんですよ。わざと僕たちを待たせているんです。いやぁ……なんだか楽しくなってきたな。学生同士のケンカは嫌だけど、警備隊の隊員相手なら負ける気がしないな。ムフフ」


「イ、イツキ君……黒いよ!その笑い方……怖いんだけど。そりゃ治安部隊指揮官補佐のイツキ君にケンカを売る方が悪いと思うけど……ほら、ケガだってまだ治ってないんだから、穏やかにいこうよ、ねっ」


入学当初からイツキの正体を知っていたミノルは、イツキの黒い微笑みを見て警備隊の隊員を心配してお願いする。

 卒業後は警備隊志望のエンドと違い、ミノルは軍志望だった。口ではそう言いながらも、イツキが売られたケンカに勝つところを見てみたい気持ちもある。執行部副部長の立場から、一応止めたという事実は作っておくミノルだった。



 警備隊の敷地は、レガート城の北西に位置しており、その敷地面積はレガート軍本部の半分くらいだった。

 警備隊本部と軍本部とでは部署の数も違うし、軍本部には敷地内に2つの演習場や体育館、宿直棟もあった。

 警備隊本部の建物は3階建ての本部棟と、2階建ての裁判関連棟と、2階建ての教育棟があり、裁判関連棟には法務部関係の事務官も大勢居るので、我こそはエリートという顔をした人間が集まっていた。


 警備隊にも演習場があって、隊員達は剣の練習をしたり、警備隊犬の訓練をしたりしているらしい。他には泥棒や悪人を捕らえる為の実践施設があり、建物を包囲して犯人を捕まえる訓練等をしていると、従者になったパルが興奮しながらイツキ組のメンバーに語っていた。



 イツキ達はすれ違う制服組ではない事務官達に、どうして学生がこんな所に?という顔で見られながらも、お構いなしにどんどん進んでいく。

 裁判関連棟の前にはちょっとした休憩スペースがあり、数人の事務官たちが論争を繰り広げていた。


「いやいや最強の刑罰は、ソンヤ村の【命の泉】の水を飲み、神の神判を受けることだろう」


20代後半と思われる金髪の痩せ型の事務官が、後輩と思われる事務官に言う。


「そうではありません、マサキ領のアサギ火山にある修道会に送り、鉱山の鉱夫として死ぬまで労役を科すのが最強でしょう!」


20代前半と思われる茶髪に焦げ茶の瞳で、わりと健康体の後輩は反論する。


「そうでしょうか?1084年にエントン秘書官が下した刑の方が、血も涙もない刑罰だと思います」


イツキは暫く近くのベンチに座って2人の論争を聞いていたが、つい、本当につい口に出てしまった。


「ほほう……君は学生のようだが?何年生だね?」

「あ~っ……はい、1年生です」

「1年生の君が何を知っているのかな?それに、なんの用で警備隊本部に来た?」

「僕達はロームズ辺境伯杯の競技の説明と、練習のスケジュールの調整に来ました」


イツキはしまった!と思ったが遅かった。このタイプの人達は納得するまで論争を繰り広げるのだ。まあ時間はあるから、ここは楽しく刑罰について論争するのもいいかと思うことにしたイツキである。


「1084年にエントン秘書官が下した刑罰?それって王座奪還の時の刑罰か?」


これまで発言をしていなかった白髪混じりのグレーの髪に優しそうなグレーの瞳、教官のような雰囲気の上官らしき40代後半?の事務官が、渋い顔をして質問してきた。


「そうです。エントン秘書官が偽王の配下であったヤグルデ、ハグウェルに下した刑罰です。確かヤシマ島にある強制収容所で、囚人たちの世話(食事の準備、掃除、作業の準備など)をせよと命じられたと聞きましたが」


あれ?みんな知らないのかな?とイツキは首を捻る。


「なんだって!そんな……それはもう囚人以下になるということだ。囚人達に殺されるようなものだ……う~ん……強制労働の方が楽だな」


20代前半の事務官はそう言いながら、ぶるりと身震いをして顔色が悪くなる。


「そうか、そういう噂はあった。国王は王座奪還も無血に拘られたが、刑罰も処刑という判断をされなかった。王様は、楽に死ねると思うなと仰ったとか……」


上官らしき事務官はそう言うと、深く息を吐き腕を組んで目を瞑った。


「いやいや、その情報は何処からだ?いい加減なことを言うな!」

「えっ?この刑罰は公開されていなかったのですか?」


20代前半の男は、イツキの話が信じられないようでイツキを嘘つきだと断定する。イツキは再びしまった!と思ったが、何故法の専門家達が知らないのか逆に驚いた。


「私は法務部事務次官補佐をしているネイゼスという。ちょっと一緒に来てくれ」


イツキは40代後半のネイゼス事務次官補佐に腕を掴まれ、皆から離れた場所まで連れていかれた。そして情報の出所を聴かれる。


「すみません。非公開になっているとは知りませんでした。僕は軍学校の校長から聞きました。でも、そのことは極秘にしてください。校長に迷惑を掛けたくありません」


イツキは校長に迷惑を掛けるのだけは避けたかった。必死の表情でネイゼスに頼む。


「そうか、ハース校長が言ったのなら間違いないだろう。あの時、校長は書記をされていた。ところで……君はいったい何者なのだ?校長の縁者か?」


ネイゼス事務次官補佐は怒る訳でも驚く訳でもなく、静かにイツキの瞳を見て訊ねた。

 イツキは軽く【銀色のオーラ】を放ち、ネイゼスに悪意がないか確かめる。


「いいえ、僕は2年前まで軍学校で研究者として働いていました。僕は知ることに貪欲で、ハース校長やレポル主任から、王座奪還の時の話をいろいろ聞き出してしまいました。僕の名はキアフ・ルバ・イツキ・ロームズと言います。ネイゼス事務次官補佐」


イツキはネイゼスに悪意が無いことを確認し、本当のことを正直に伝えた。

 ネイゼスは驚いた顔をして慌てて礼をとろうとしたので、イツキは直ぐにそれを止めた。そして、何故自分の知っている情報が公開されていないのかと訊ねた。


「ロームズ辺境伯様、それはきっと……2度と同じ刑罰を下されることがないよう、前例として残したくないと秘書官が考えられたのだと思います。私はずっと、あの時王様がどのような刑罰を下されたのかを調べていました。ありがとうございます。長年の疑問が解決いたしました。勿論、決して漏らしません。お約束いたします」


ネイゼスはそう言うと、皆からは見えないように体の向きを変えイツキに軍礼をとった。


 心配そうにしているミノルとエンドの所まで戻り「僕の勘違いだったよ」と、イツキは笑って言った。

 やっぱりそうかと文句を言う事務官達に、イツキは「ヤシマ島の監獄送りになったという噂を聞いた気がして」と自分の情報を訂正し、軽く頭を下げ謝罪した。

 領主に頭を下げさせることになったネイゼスは、部下の後ろでイツキに向かって深く頭を下げた。


 イツキは王様とエントン秘書官の意外な一面を知り、2人らしいと思うのだった。

 法務部の仕事に興味を持ったイツキは、そう言えば刑罰や裁判について、まだ学んでいなかった事実に愕然とした。

 領主として罪人を裁くという重大な役割を見落としていたことに気付き、イツキは至急勉強しなくてはと焦った。そしてネイゼスに視線を向け、この出会いには意味があるのだろうと思った。 





 裁判関連棟を後にしてイツキ達は教育棟の前にやって来た。

 教育棟では、各地の隊員の中でも入隊2年以上の優秀と認められた者達が、研修を受けているところだった。

 これから演習場に向かうようで、20人の隊員達は教官の指示に従いながら整列して歩いて行く。


「おっ、これから訓練みたいだ。見に行ってみようよ」


警備隊志望のエンドは、興味津々で瞳をキラキラさせてイツキとミノルを見る。


「演習場まで行くと呼び出しの声が聞こえないから、教育棟の2階から見学させて貰おう。知り合いが居るはずだから頼んでみるよ」


イツキはそう言うと教育棟の中に入っていく。

 教育棟の受付は女性の事務職員だった。中を見渡すと女性職員が4人居て、何故か皆美人ばかりだった。


「すみません。ロームズ領から戻られたボグ中尉にお会いしたいんですが?」

「ボグ中尉?・・・ああ、新しい教育課長ですね。どういったご用件でしょうか?」


どう見ても学生のイツキに、何故学生が訪ねて来たのだろう?と不思議そうな顔をして質問してくる。大変穏やかに上品に……


「はい、少しお願いしたいことがありまして……上級学校のイツキが来たとお伝えくだされば、お分かりになると思います」


イツキもにっこりと極上の笑顔を女性職員に向け、本人は全く意識していないが、キラキラの【金色のオーラ】を放ちながらお願いする。

「は、はい、直ぐに呼んでまいります」と言って、女性職員はぽ~っとした顔で立ち上がり2階に向かう。

 

 ボグ34歳はロームズに駐在していた警備隊の中尉で、警備隊隊長が元統治官屋敷に幽閉されていた時、代わりに指揮を執っていた。 

 程無くバタバタと足音を響かせながら、教育課長になったボグが2階から降りてきた。


「作戦参謀!本当に?・・・本物の作戦参謀だ」


興奮したボグは大きく目を見開きイツキを見て叫んだ。そして駆け寄ってイツキの前で礼をとる。礼を止めようと思ったが間に合わず、イツキは恥ずかしそうに頭を掻く。


「お久し振りですボグさん。今日は学生として来ているので身分は伏せています。少しお願いがあるのですが……」


イツキは小声で、警備隊本部に来てからの状況をボグの耳元で説明し、2階から演習を見学させて欲しいと頼んでみる。


「な、なんて恐れ知らずの無礼者なんだ!分かりました。どうぞ2階へ。演習場がバッチリ見える部屋があります」


ボグはそう言ってにっこりと微笑むと、イツキ達を大きな窓のある会議室に案内し、少し出てきますと言って会議室を出ていった。

 廊下に出たボグは、鬼の形相で本部棟に向かって歩き出した。

  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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