表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ロームズ辺境伯杯
41/222

ブルーノア本教会

【予言の紅星2 予言の子】の中に、レイ・フォン・クロアの話が出ています。

予言の子編の9話目です。まだお読みでない方は、ぜひ読んでみてください。

 時は少しさかのぼる。


 1098年8月18日、本教会のリース(聖人)クロード(本名レイ・フォン・クロア)19歳は、朝の祈りを神に捧げるため【青の聖堂】の扉を開けた。


 ハキ神国の王都シバにあるブルーノア本教会には、大聖堂や礼拝堂の他に、開祖ブルーノア様がお造りになられた【青の聖堂】と呼ばれている、大陸最古の聖堂が在った。

 聖堂の外壁に使われている青い石の名はブルーノアと呼ばれており、光に当たるとキラキラと反射して、聖堂全体がまるで光に包まれているようだった。

 ブルーノア教のシンボルカラーが青なのは、この【青の聖堂】からきているという。


 聖堂内に入ると清みきった空気が緊張感を与え、千年以上過ぎても変わらぬ威厳と荘厳さを保つ聖堂内には、そこに神様がいらっしゃるのではないかと思わせる、特別な気を感じた。

 レイ(聖人クロード)は青い絨毯の上を歩きながら、祈りの祭壇に上がり、ブルーノア像の前にゆっくりと進み出て膝をついて礼をとると、神に捧げる祈りを捧げ始めた。


『えっ?イツキ君?』

祈りが終りに近付いた時、レイの脳裏にある光景が視えた。


 レイはカルート国の子爵家の3男として生まれ、両親から愛されて育っていたが、正妻である継母から【悪魔の子】という烙印を押され、家からも町からも迫害され、8歳の時に死を覚悟し町を出た。そして河原で倒れていたところを、現在ラミル正教会のサイリス(教導神父)になっているハビテと、リース(聖人)エルドラに助けられ本教会に連れてこられた。

 レイには予知能力があったが、産まれた時に【印】が出ていなかったので、その能力を忌み嫌われることになった。本人も自分は【悪魔の子】なのだろうかと悩み、人を不幸にする自分は死んだ方がいいと思っていた。


 そんな自分の能力(ちから)に絶望し、完全に心を閉ざしていたレイの心を開いたのが、3歳のイツキだった。

 イツキがレイに初めて触れた時、レイの首に【鐘の印】が現れた。

 レイが探していた《六聖人》の1人、【予見のリース】であると分かったリーバ(天聖)様は、レイに「君の能力が必要だ。共にイツキを守って欲しい」と使命を与えられ、レイは初めて自分の能力(ちから)が、人の役に立てるのだと知った。



「リーバ様、た、大変です!イツキ君が、イツキ君が・・・」


レイは全力で走ってきたようで、サラサラの長い金髪を振り乱しながら、リーバ様の執務室に飛び込んできた。

 清んで美しい青い瞳には涙が滲んでおり、19歳になったというのに、イツキのこととなると落ち着きを無くしてしまう。

 イツキとは違う青い神服を着たレイは、身長は170センチくらい、聡明な顔立ちで青い瞳は優しさに満ち溢れ、常に落ち着いた行動をし物静かな神父だった。・・・が、イツキが絡むと別人格になってしまう。


「どうした?また何かやらかしたのか?」


リーバ様はそう言うとレイの方を見ることもなく、シーリス(教聖)のジューダ様と、いつものようにテーブルの上に広げられた大陸全土の地図を見ながら、ギラ新教の活動拠点に印を付けていく。

 レイの「大変です!イツキ君が」といフレーズを月に1度は聞くリーバ様は、またイツキが何か無茶をやらかしたのだと思った。


「ち、違います!イツキ君が・・・」

「また何か奇跡を起こしたのか」(ジューダ様)

「いやいや、今度は領主として何かやったな」(リーバ様)


「そうではありません!イツキ君が……イツキ様が死にかけています!」(レイ)

「なっ、なんだって!死にかけている?」


何時もとは違うレイの話と様子に、ようやくリーバ様とジューダ様は顔を上げた。そこには涙を溢して青い顔になっている【予見のリース】が立っていた。


 そこからレイは自分が祈りの時に視た光景を2人に話していく。

 

「イツキ様が何者かに……恐らくギラ新教の手の者に、剣で斬られました。血に染まったシャツと……転倒した馬車……そしてラミル正教会の外で気を失っているイツキ様が…………国王や国のトップの者達が、イツキ様のベッドを囲んで、ハビテ様が懸命に祈りを捧げていました」


レイは言い終わると、イツキ様をお助けしなければと呟きながら、ガタガタと震え始めた。


 これは、ただ事ではないと理解したリーバ様とジューダ様は、直ぐに三聖(天聖・聖人・教聖)を集め会議を始めた。 




「私がレガート国へ行きます。私ならイツキ兄さまを助けられるかも知れません」


六聖人の1人であるリース(聖女)レイダ(本名メルダ・バヌ・エンター)12歳は、当然だと言わんばかりに立ち上がる。


「メルダ、それは無理だ。君が本教会を出るには100人以上の警護を付けねばならない。レイの予知が何時のことなのか分からない以上、【癒しの聖女】である君を危険に晒すことは出来ないよ」


リーバ様は行く気満々のメルダに、レガート行きは無理だと早々に却下した。


「それならば私が出向いて、イツキ君に危険が迫るのを回避してみせます」

「レイ、君には次代のリーバ(天聖)という大切な役目があるじゃないか……」

「そんなの関係ありませんリーバ様!イツキ君が死んでしまったら、この大陸は混迷し私では収拾出来ません。今、この世で最も大切な役目を負っているイツキ君が、何より大切な存在なのです」


何がなんでも譲る気のないレイは、どんなに反対されてもイツキの元に向かおうと決心していた。これまでにもイツキに関する多くの予知をしていたが、今回は本当に恐怖を覚えたのだ。

 その恐怖はイツキを失った後の恐怖でもあり、イツキを失うかも知れないという絶望にも似た恐怖でもあった。


 会議に出席していたシーリス(教聖)のイバス49歳とマーサ54歳は、普段とは違うレイの訴えに危機感を覚えた。


「レイ君の意見も理解できます。メルダちゃんもレイ君もかけがえのない《六聖人》ですが、それならイツキ君だって同じです。《予言の子》であるイツキ君を守ることは、最も優先されるべきことだと思います」


女だけど武術の達人であるマーサは立ち上がり力説すると、自分がレガート国に行ってイツキを守ってもいいと言い出した。


「しかし皆さん、これから駆け付けたとして、既にイツキ君が斬られていたら、向かうのはメルダちゃんかエルドラ様でないと、イツキ君を救うことは出来ません」


今年シーリスに昇格したばかりのジューダは、レガート国までの距離と行程を考え冷静に人選をした方がいいと意見する。


「今現在、イツキ君の体温は正常です。最悪、今日か明日起こる出来事であれば、1分でも早く出発すべきです」


ジューダは首から大事にぶら下げていた石を取り出し、形や温度をもう一度確認する。ジューダもハビテと同様に、イツキ(神)からイツキの健康が分かる小さな丸い石を授かっていた。


「エルドラ様、私も聖水作りをお手伝いします。試したことはありませんが、私に4本目の聖水を作らせてください。剣で斬られただけなら、エルドラ様の緑色の瓶(ケガを治す)で治せるはずです。なのに死にかけるとしたら毒かもしれません・・・私は、私は毒を消す聖水を作ります。エルドラ様・・・どうか私の代わりに・・・イツキ兄さまに・・・イツキ兄さまに届けてください・・・わ~ん・・・ぐすっ」


ジューダの1分でも早くという言葉を聞いて、不安な気持ちが押さえられなくなったメルダは、とうとう泣き出してしまった。日頃はレイ同様の大人しく、いつも優しく明るいメルダなのに、やはりイツキのこととなると冷静ではいられなくなるのだった。


「分かった。俺が行こう。メルダちゃん泣くな。急いで聖水を作るぞ!1時間後には出発する。リーバ様、夜も馬車を走らせれば1週間で到着出来ます。教会特例を出してください。各都市のファリス専用馬車を乗り継いで行きます」


リース(聖人)エルドラは立ち上がると、勝手に決断し勝手にレガート行きを決め、メルダの手を引っ張って部屋から出ていった。


「相変わらずアイツは・・・フーッ」


リーバ様は呆れたように息を吐くが、結局止められなかったということは、了承されたということである。


「リーバ様、イツキ君が危機に陥ると言うことは、ギラ新教が強硬な手段に訴えてきたと言うことです。レガート国に人員が必要です。隠密部隊を派遣してください」


1番古株でイツキの教育担当だったシーリスのジーク62歳が、新たな戦いに向け準備に掛かろうとする。

 三聖会議の次は各国のサイリス(教導神父)からファリス(高位神父)へと指示が伝えられていく。

 レガート国への通達は、エルドラ様からサイリスのハビテに伝えられ、ハビテから各都市の正教会のファリスに伝えられる。それは手紙で知らされることもあるが、今回のように重要事項を伝える場合は、ラミル正教会にファリスが集められ、ファリス会議が行われることになる。




◇◇ エルドラ到着 ◇◇ 


 8月25日の朝、強行軍でレガート国ラミル正教会に到着したエルドラは、ハビテに会っていた。


「なんだと!毒を、赤色の瓶を使っただと?」

「はいエルドラ様。イツキを守るフィリップ秘書官補佐が、自分の口に含んでからイツキに飲ませました。その後直ぐに秘書官補佐は意識を失い倒れました」


ハビテはあの夜のことを説明しながら、は~っと疲れたように溜め息をついた。


「それで、イツキ君は回復したのか?」

「いいえ……意識ははっきりし話すことも食べることも出来ますが……歩くことが出来ません。立つことは出来るのですが3歩が限界です」


ハビテが暗い声で伝えていると、正教会病院の院長が入室してきた。そしてエルドラに正式な礼をとり椅子に座ると、イツキの詳しい症状と、同じ毒で亡くなった者の様子や使用した薬等の説明を始める。



 直ぐに命に別状がないないと説明を受けたエルドラは、一先ず安堵の息を吐き、今回来訪した経緯をハビテとパル院長に説明する。


「それではレイ様が予知なさったのですね」

「そうだハビテ。私とメルダちゃんが作った聖水が効くかどうかは、試してみなければ分からない。2人共、これからイツキ君の屋敷に行けそうか?」

「「勿論ですエルドラ様」」


2人は再びリースであるエルドラに頭を下げ、直ぐに準備をしてロームズ辺境伯邸に向け出発した。




 その頃イツキは執務室で、事務長と午後から行う予定の【お見合い大作戦】についての打合せをしていた。

 こんなにゆっくり出来るチャンスを見逃すことは出来ないと、イツキが言い出したのだ。

 午後1番で国境軍隊長のヤマギを、警備の相談という名目で呼び出す。

 その後技術開発部の課長2人を3時のお茶に呼び出す。


「それではイツキ様、女性たちに知らせて参ります。くれぐれも無理はなさいませんように。それから、昼食時間にギニ司令官のご領地ソボエから、執事のボイヤー様がいらっしゃいます。それまでには戻って参ります」


事務長は遣る気満々の笑顔で言いながら、お見合い候補の女性たちに会いに出掛けた。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ