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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ロームズ辺境伯杯

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ロームズ辺境伯と校長会議

 午後1時半、ボルダン校長の乗った馬車を先頭に、3台の馬車がロームズ辺境伯邸に到着した。


「領主の屋敷にしては慎ましいですな」(ホン校長)


「いや、ロームズ領は小さな領地ですから、この場所に屋敷を持てただけでも健闘されていますよ」(カワノ校長)


「しかし、常にハキ神国から狙われ、大した産業もなく、人口8,000人のロームズ領の領主を引き受けるとは、余程の才覚がなくては務まらないでしょう」(カイ校長)


「ご存知ないのですか?ロームズ辺境伯は今回のハキ神国軍との戦いで直接指揮を執り圧勝させ、ハキ神国から賠償金を取り5年間の不可侵条約を締結させた戦略家という噂ですよ」(キシ校長)


「おや、キシ校長は詳しいですね。それでは軍関係者ということですな」(ホン校長)


3台目の馬車に乗っていた4人の校長は、到着した屋敷を見て其々意見を述べる。

 到着した校長達を出迎えたのは、事務長、ハモンド、レクスの3人だった。


「当屋敷を預かっております事務長のティーラと申します。本日は主体調不良のためご足労頂きありがとうございます」


ティーラはふんわりとドレスを摘まみ礼をとった。校長達はティーラの笑顔にほんわかし、女性の事務長など聞いたことがないと意外に思った。


「治安部隊及び王宮警備隊、ヨム指揮官直属の部下、レクス中尉です」

「同じく治安部隊及びレガート軍、ソウタ指揮官直属の部下、ハモンド中尉です」


2人は校長達にプレッシャーを与えるため、わざと治安部隊の名と上官の名を出し、若造と侮られないよう中尉の身分を明かす。

 当然校長達に緊張が走る。ロームズ辺境伯は本当に軍の人間で、治安部隊にも関わっているのだと。いったいどんな屈強で強面の領主なのだろうかと想像する。



 校長9人とラミル上級学校のオーブ教頭は直ぐに屋敷内に通され、外観からは想像出来なかったエントランスの豪華さに驚いた。そして続いて通された贅沢な作りのリビングの室内を見て息を呑んだ。

 朝から届き始めた各領主からの見舞い品や花が、広い部屋の奥に積み上げられていたのだ。


 その中でも目を引いたのが、国王の名で届けられた白い蕾をつけた木の鉢だった。

 その花……正式に言えばその木は、高さ180センチくらいで、レガート国の国木であり国花だった。木の名は【シュランレン】。しかし花の名は【レガート】と言い、王家の家紋(レガート国旗)にも刻まれている花だった。白い大輪の花は開くと直径15センチにもなり、その花の香りは爽やかで頭をスッキリとさせる効果があると言われている。葉も特徴的で、濃い緑色で細長いハート型をしていた。

 王家所有の薬草園や公園のみで栽培され、その木は現在30本足らずしか現存していない古代種だった。


【シュランレン】の木が贈られる……それは国の為に多大な貢献をした者の証だった。

 本来国に貢献した者には、軍人や警備隊員であれば勲章だったり剣が贈られる。学者や他の者には、王家の家紋入りのグラスや皿等が贈られる。

【シュランレン】の苗木が贈られるのは、公爵家や領主のみで、花(蕾を含む)のついた正木を贈られるのは、国王が家族同然だと認めた者だけだった。


「「「・・・・・」」」


本物の国木を初めて見た校長たちは言葉を失った。勿論感動のあまりにである。

 生きている間に国木、いや国花を見られるなんて……校長達はロームズ辺境伯に感謝すると共に、国王が【レガート】の花を贈る程の人物に、今更ながら畏敬の念を抱くのだった。



「皆様お待たせいたしました。主は絶対安静のため椅子に座ったままで会議に出席させていただきます」


事務長がそう告げると、校長達はドアの方を向いて礼をとった。

 イツキはまだ歩くことが出来ないので、執務机用の椅子に座り両側をハモンドとレクスに抱えられており、その後ろを軍医の制服を着たベルガが付き添うという格好で入室してきた。


「皆さん礼をお解きください。急な予定変更でご迷惑をお掛けしました。早速ですが、時間が限られているので会議を始めたいと思います。資料の置いてあるテーブルの椅子にお座りください」


イツキはやや元気のない声でそう言うと、自分はリビングの奥の少し広い空間の前に椅子を置かせた。斜め後ろには【シュランレン】の木が置いてある。

 直ぐにレクスが小さなテーブルをイツキの前に設置し、出来上がったばかりの資料と水差しとコップを置いた。



 礼を解いた校長達は、この屋敷の主であるロームズ辺境伯を見て固まった。そんな固まっている校長達を無視して、ボルダン校長が動いた。


「イツキ君大丈夫かね?斬られた上に毒にやられたそうだが・・・」


昨夜は危篤状態だったと聞いていたボルダンは、我慢出来ずにイツキの前にやって来て心配そうに問う。


「校長先生、ご心配をお掛けしました。なんとか命を繋ぎ、また学校に戻れそうです」


心配そうに自分を見る校長と教頭に、にっこりと笑顔でイツキは答えた。


「「「ええぇーっ!どういうことです?」」」


驚いたのは何も知らなかった他の校長達である。

 今の会話からするとロームズ辺境伯は、ラミル上級学校の学生ということになる。


「改めまして、ラミル上級学校1年、キアフ・ルバ・イツキ・ロームズです。治安部隊指揮官補佐の任務を兼ね上級学校に潜入していますが、普段は普通の学生です。この度バルファー王よりロームズ辺境伯を仰せつかりました。見ての通りの若輩者ですがどうぞ宜しくお願いします」


驚いて目をパチパチさせている校長達に向かって、イツキは余裕の表情で微笑んだ。

 想像していたロームズ辺境伯像が、ガラガラと音を立てて頭の中で崩れ去り、上級学校の1年生という真実(現実)と、治安部隊指揮官補佐という役職が、なかなか受け入れられない校長達である。


 そんな何処かぼんやりしている校長達は、直ぐに始められた会議が10分も経過する頃には、イツキの聡明さと才覚に舌を巻くことになる。

 綿密に練られたロームズ辺境伯杯の計画に唸り、その意図するところが薬草不足の解消と、これからの上級学校の発展の第一歩となるものだと分かると、見た目は学生だが、間違いなく国王が領主に任命し、国花【レガート】を贈るだけの人物だと納得した。


「午前中ポルムゴールとアタックインを、皆さんご覧になられましたか?」


40分が経過した頃、イツキは校長達に訊ねた。


「ああ、うちの学生も直ぐに夢中になるだろう」(ミノス校長)

「いやー、アタックインを実際に試したが、自分が大会に出場してみたいよ」

「キシ校長はお上手でしたからね……私だって練習すれば負けませんよ」(マキ校長)

「しかし、あんな凄い物を学生が作ったなんて……信じられません」(ホン校長)

「これから大陸中に広めていく訳ですから、凄い利益になりますな」(カイ校長)

「何処で作るのでしょうか?作った学生は大金持ちですか?」(ヤマノ校長)

「ボルダン校長、ズルいですよ。製作者を紹介する予定でしたよね?」(カワノ校長)

「何人の学生が発明したのですか?何処の領の出身ですか?」(マサキ校長)


質問と共に、校長達の視線が一斉にボルダン校長に集まる。

 ボルダン校長はチラリとイツキの方を見て、イツキが頷くのを確認して口を開いた。


「私は約束は守り製作者を紹介しましたよ。それに製作場所や利益については、直接本人から聞いてください」


ボルダン校長はそう言うとニヤリと笑い、ゆっくりと視線をイツキに向けた。


「そうだよね、製作者のイツキ君?」(ボルダン校長)

「「「ええぇーっ!」」」(他の校長たち)

「そもそもイツキ君は、レガート式ボーガンの製作者だ」


ボルダン校長はこれでもかと爆弾発言をする。そこに気を良くした教頭が「今回ロームズで使用された投石機もイツキ君の発明だよね」と止めを刺した。

 開いた口が塞がらないとは、正にこういうことを言うのだと、イツキの側で控えていた軍医のベルガは思った。


 もはや聡明だとか才覚があるとかいうレベルではない。目の前の学生、いや領主は、天才だったのだと驚くというより畏怖の念を抱いてしまう。


「製造場所と利益配分は、先日の領主会議で承認を得ていますので、どうぞご覧ください。レクス、2枚の表を」


イツキは先日の表を校長達に見せるようレクスに命じる。

 レクスは2つの応接セットのテーブルの上に、大きな紙に書かれた表を置き開いた。


 そこには、校長達が思いもしない驚きの内容が記されていた。

 全ての領が協力し合い、全ての領に等しく利益が分配され、ロームズ辺境伯個人の発明品まで含まれていた。

 その上、ロームズ辺境伯が個人で得る利益は、ロームズ領の中級学校建設資金や、医学大学建設に充てられ、純粋な利益は他の領主以下だったのである。

 そして校長達が1番驚いたのは、利益の1割がレガート医学大学の奨学金に充てられると書いてある部分だった。その画期的な考え方に、校長達は歓喜した。



「皆様、この辺りで休憩を挟みたいと思います」


事務長はそう言いながら、ダイニングからお茶をワゴンに載せて入室してきた。

 すっかり興奮していた校長達は、お茶を飲みながらも盛り上がっていた。

 イツキはダイニングに椅子ごと運ばれ、ベルガの診察を受けていた。


「イツキ先生、大丈夫ですか?キツかったら言ってください。まだ微熱があるので無理は禁物です」


「分かっているよベルガ。会議が終わったら正教会病院に行って、グレナダ草を貰ってきてくれ。それと、ドゴル不死鳥に行ってセイミヤ草の種を置いてないか聞いてくれ。僕の冒険者証を持って行けば分けてくれる」


イツキはベルガに新しい指示を出した。指示を聞いたベルガは、一瞬驚いた顔をしたが、黙って了承する。セイミヤ草は毒草で、種にも毒が含まれていたのだ。



 休憩の後は、レガート医学大学の入試説明と、奨学制度の説明と、医学大学の職員募集の説明をする。

 昨日教育大臣から届いたばかりの入試要項と入学要項を、校長達に配るのは事務長である。医学大学の説明は事務長のティーラが担当する。


「薬学部のロームズ辺境伯枠の3人は、ロームズ辺境伯の屋敷に無料で住めるが、相応の労働を伴うと書いてありますが、具体的にはどういった労働でしょう?」


「はい、カワノ校長。それは薬草園を造ったり、薬草採取に出掛けたりですね。3人には将来薬学の研究者になっていただきたいのです。レガート国内での薬草栽培は急務であり、薬草研究は主の夢でもあります」


ティーラは淀みなくハキハキと応答する。女性だと侮って難しく質問しても、ティーラはにっこりと即答する。

 イツキが学校に居る間ティーラは教育部に日参し、協力的な職員達と完璧な要項を作り上げていたのだ。

 天才領主の事務長は、とんでもない才女だったと校長達は思い知った。

 ボルダン校長と教頭は、3年首席のクレタの頭の良さは母親譲りであると納得し、クレタの母を事務長にしたイツキに感服した。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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