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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ロームズ辺境伯杯

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大通りの惨劇

新章スタートしました。

 マサキ公爵家長男タスク20歳と、従者であり従兄弟のノラン23歳が乗った馬車は、イツキの屋敷とエントン秘書官の屋敷の中間地点で横転していた。

 横転していた馬車は2台。タスクの馬車は大通りの真ん中で道を塞ぐように大破し、もう1台は王都ラミルで1番大きな乾物屋の軒先に突っ込んでいた。


 イツキが走って現場に到着した時、駆け付けた軍や警備隊がケガ人を1箇所に集めたり、馬車の下敷きになった人を助けるため馬を起こしたりしているところだった。

 その様子を取り囲むように見ている住民達は、公爵家の家紋が入った馬車が事故に遭ったのだと分かると、大変なことになったと心配そうに囁き合ったり、進んで横転した馬車を起こすのを手伝ったりしていた。

 イツキは多数のケガ人を見て怒りが込み上げてきたが、先ずはタスクとノランの安否を確かめようと、周りの様子を確かめながら喧騒の中を進んでいく。


 公爵家の人間が、一般の住民達と同じ場所に避難させられているとは考えにくい……


 イツキが倒れているタスクの姿を視線に端に捉えた時「学生が何の用だ!邪魔だから退いていろ!」と警備隊の上官らしき男に怒鳴られ、腕を掴まれてしまった。


「どけ!私はロームズ辺境伯だ!」と一喝し、イツキは男の手を振り解くと、男の腰に装着されていた剣を引き抜いた。

 そしてイツキは奪った剣を下に向け斜め後ろに隠すようにして、信じられない速さで駆け出すと、ケガをして寝かされているタスクの所へ向かう。


 イツキが視線の先に捉えていたのは、タスクの隣に立っていた警備隊の制服を着た隊員だった。その男の体はどす黒い煙に包まれており、瞳はギラギラと獲物を狙うような狂気に満ちていた。


 男はニヤリと笑うと腰の剣に手を掛ける。

 そして様子を窺うように周囲に視線を向けると、静かに剣を抜いた。

 横たわり痛みに苦しむタスクの顔を見下すと、嬉しそうに左口角を上げ再びニヤリと笑うと、何の躊躇もなくタスクの心臓目掛けて突き刺す。



〈〈 カーン 〉〉


 間一髪のところでイツキの剣が男の剣を払った。

 イツキは右膝をつき低い姿勢で剣を振り抜くと、男の驚いた顔を見ながら直ぐに立ち上がる。

 男は自分の獲物を横取りされたのが気に食わないとでも言うように、少し吊り上がった焦げ茶の瞳でイツキを睨みつけると強い殺気を放つ。


「何者だ!何故タスク様を狙う!」


イツキは周りの兵士や警備隊員に気付かせるよう大声で叫ぶと、タスクを守るように男の前に立ちはだかった。 


「ほう、これは面白い。私に気配を覚られないとは……」


男の年齢は30代後半くらいで身長は170センチ弱、体は細身だが鍛えている様子で、肩よりも長い焦げ茶の髪を後ろで結び、前髪は顔の右半分を覆っていた。神経質そうな薄い唇でそう言うと、容赦なくイツキに斬りかかってきた。

 イツキの叫び声に気付いた2人の兵士が急いで駆け寄って来たが、闘っているどちらが敵なのか戸惑ってしまう。1人は上級学校の制服を着ており、もう1人は警備隊の制服を着ていたのだ。


「タスク様を早く安全な場所へ!」と戦いながらイツキが指示を出したので、タスクの命を狙っているのは警備隊の隊員?なのだと理解し、2人の兵士は直ぐにタスクを移動しようと動き始めた。


「チッ!」と舌打ちした男は懐からナイフの様な物を取り出すと、移動していくタスク目掛けて素早くそれを投げつけた。


「あっ!」とイツキは小さく叫び、絶望の表情でそのナイフの行方を目で追う。

 その先に居たのはフィリップ秘書官補佐だった。

 フィリップは飛んできたナイフを上手く払うことは出来なかったが、僅かにナイフに剣を当て方向を逸らすことは出来た。

 ナイフはドスッと鈍い音をたて、商店の前に積まれていた大きなカボチャに突き刺さった。タスクとの距離2メートル、危機一髪でタスクは命を繋いだ。


 殺し屋の男は2度も殺害を邪魔され、怒りの形相でイツキとフィリップを睨み付けると剣を構え直す。

 そしてイツキだけでも殺そうと、目にも留まらぬ早さで剣を振るう。


 イツキに加勢しようと兵士や警備隊員が近付くが、あまりに凄い剣の腕を持つ2人の戦いに、割り込むことさえ出来ない。

 イツキが道に落ちていた馬車の破片に躓きバランスを崩すと、殺し屋は嬉しそうに、本当に嬉しそうに一瞬笑い、止めを刺そう剣を振るった。


 イツキはその瞬間、時が止まった、いやゆっくりとスローモーションのように景色が視え始め、殺し屋の剣から身を守るように体を(よじ)る。

 剣はイツキの左腕を斬り、無理な姿勢で剣を避けたイツキの体は、斜めになったまま倒れていく。


 致命傷を負わせることが出来なかったと知ると、殺し屋の男は獣の様な瞳で倒れたイツキを見て、これで最後だとばかりに剣を振り上げた。

 が、再び男の刃の前に長身のフィリップが立ちはだかった。

 フィリップは殺し屋の剣を払うと、美しい金色の瞳に殺意を宿し、敵を殺すことだけを考えて向き合う。


 周囲では剣の音を聞き付けた兵士達が、バタバタと集まってくる。


「くそ!」と男は小さく呟くと、剣を振りかざしながら城とは反対側に向かって全速力で走り出した。

 途中刃向かってきた兵士や警備隊員を容赦なく斬り、100メートル先に止まっていた小型の馬車に飛び乗った。

 御者は急いで馬に鞭を打ち、追跡者達に追い付かれる寸前で、馬車を発進させ走り去っていく。

 途中まで数人の兵士が走って追い掛けたが、追い付ける筈もなく馬車を見失ってしまった。



「イツキ様、大丈夫ですか?」とフィリップはイツキを抱き起こしながら問い掛けた。


「私は大丈夫だ。大したケガではない。それよりタスク様を早くラミル正教会病院へ運ぶぞ!」


イツキは斬られた左腕を右手で強く握りながら、フィリップに指示を出す。

 しかしイツキの左腕のシャツは赤い血に染まり、血は止まることなく流れ出していた。そんなイツキをフィリップが放っておけるはずがなく、自分のシャツの肩から下の腕の部分を引き裂き、イツキの腕をきつく縛るように止血していく。



 ようやく駆け付けてきたマサキ公爵や秘書官、数人の領主達は、大通りの惨状に思わず目を背けそうになる。

 そして領主達が見たのは、左腕を真っ赤な血で染め、懸命にケガ人の手当てをしているイツキと、その隣で同じように手当てをしているフィリップの姿だった。

 そして手当てを受けていたのがタスクとノランだと分かると、マサキ公爵は真っ青になりながら駆け寄る。


「イ、イツキ君、タスクは大丈夫なのか?ノランは?」


「タスク様は左足の骨折と左腕の裂傷です。ノランさんは……全身打撲と……内臓を損傷した可能性が高く、大変危険な状態ですマサキ公爵様」


イツキはタスクの左足に副え木をしながら、沈痛な面持ちで診断を伝える。

 そこにフィリップの指示で呼ばれた、辻馬車がやって来て停車した。


「急いで教会病院に運びます。再び襲撃される危険性があるので、エントン秘書官、軍の馬車で前後を守らせてください。マサキ公爵様、2人の症状を病院長に伝えてください。僕は残りのケガ人を手当てしますので、マサキ公爵様はタスク様とノランさんと一緒に馬車にお乗りください」


イツキは秘書官とマサキ公爵にそう伝えると、警備隊員に丁寧に2人を辻馬車に乗せるよう指示した。


「イツキ君は乗らないのか?ケガをしているではないか?」


「マサキ公爵様、僕は医者です。ケガ人を置いては行けません。さあ早く病院へ」


イツキはそう言うと、マサキ公爵が馬車に乗ったのを確認し、御者に馬車を出すよう命令した。

 エントン秘書官は、マサキ公爵の乗った馬車を警護するため、軍の馬車に乗り辻馬車を先導し、ラミル正教会病院へと向かった。


「ヨム指揮官、レガート軍に行き軍医に治療道具を至急持ってこさせてください。此処は僕が指揮を執ります。それからハモンドとレクスを呼んでください。2人を助手に使います」


イツキはヨム指揮官にそうお願いし、現場の上官を集合させて貰う。


「私は治安部隊指揮官補佐のイツキだ!これより先、レガート軍も警備隊も私の指揮下に入る。レガート軍は重傷者を通りの右側に寝かせ、警備隊は自分で動ける軽傷者を通りの左側に集めてくれ」


イツキはよく通る声で次々と的確な指示を出していく。上官達は始め学生服姿のイツキに戸惑ったが、フィリップ秘書官補佐が「ロームズ辺境伯様だ!」と言ったので、全員直ぐに理解し動き始めた。

 レガート軍は勿論のこと、警備隊でもロームズ辺境伯のロームズでの活躍は知れ渡っていた。何故か治安部隊指揮官補佐であることは皆には知られていなかったが、上官も部下達も、緊張した表情で指示に従っていく。


 先程の殺し屋とイツキの凄まじい戦いを間近で見ていた者達は、学生の正体がロームズ辺境伯だと分かると、やはり噂は嘘ではなかった……ロームズ辺境伯は、本当にヨム指揮官とソウタ指揮官の弟子だったのだと納得し、ケガをし血を流しながらも指揮を執る姿に尊敬の眼差しを向けた。



 邪魔にならないよう現場の様子を少し離れた場所から見ていた領主達は、恐怖心で動けない自分が情けなくなった。

 そして実感(納得)する。イツキ君は本当にハキ神国との戦争で指揮を執っていたのだと。

 自分より年上の屈強な男達を物ともせず、大きな声で指示を出し従える姿は、ショックなくらいに印象的だった。


 きびきびと上官達に指示を出したかと思うと、直ぐにケガ人の診察を始め、今度は優しい表情で「しっかり、大丈夫ですよ」と慈しむように声を掛ける。



「皆さん、我々がここに居ては邪魔になります。イツキ君や警備隊を信じて城で報告を待ちましょう」


ホン領主はそう言うと、ヤマノ侯爵・マキ公爵を連れ、王宮警備隊員に守られながら城へと帰っていった。




 レガート城では、バルファー王が気を揉みながら会議室で待っていた。

 キシ公爵は国王の警護のため王の側を離れることが出来ず、ギニ司令官も城への襲撃に備えて、万全の警備体制を敷いていた。


 剣の腕に自信のないミノス領主とカワノ領主は会議室に残っていた。

 カイ領主はギラ新教から命を狙われている可能性があるので、待機させられていた。


「ギラ新教の仕業だろうか?」

「王様、報告が来るまで断定は出来ません。しかし、城の目の前で凶行に及ぶような狂者は、他に思い当たりません」


キシ公爵は苦々しい思いは表に出さず、冷静な口調で国王に返答した。


 そして第一報がギニ司令官から届けられた。


「マサキ公爵の子息は重傷、御者死亡、従者危篤。犯人の1人はロームズ辺境伯と剣で戦った後、4人の兵士を斬りながら馬車で逃走。犯人の馬車に乗っていた御者死亡。巻き込まれた住民のケガ人は12人。ロームズ辺境伯は腕を斬られ負傷……」


「なに?イツキ君が負傷?斬られただと!」


バルファー王は椅子から立ち上がると、ギニ司令官に確認するように叫んだ。


「はい、しかしながら、現場を離れず指揮を執っているようです」


ギニ司令官も辛そうな表情で答えるが、自分は動けないのでどうすることも出来ない。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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