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領主会議(6)

 8月21日、領主会議2日目の議題は3つあった。

(1)エントン秘書官より 上級学校に関すること

(2)ギニ司令官より ギラ新教の新たな活動について

(3)ロームズ辺境伯より 特産品をどこで作るのか、どうやって販売していくのか


「では始めに、上級学校に関する議題ですが、医学大学新設に伴い、上級学校の入学年齢の変更とスキップ制の導入について承認をいただきたいと思います」


エントン秘書官がそう言うと、フィリップ秘書官補佐が会議室の黒板に必要事項を記入していく。

◇ 医学大学の入学可能年齢が16歳からと決定したので、上級学校の入学年齢を13歳からに引き下げる。

◇ 医学大学進学を目指す学生及び成績優秀者の内、1年生で専門スキル修得コースの認定試験に1つでも合格すれば、3年生にスキップ進級出来るものとする。


 黒板に書かれた内容を見て、領主達はう~んと唸るが、賛成とも反対とも言えない表情で腕を組んでいる。


「この条件で入学できる子供が居るのかね?それに1年生で認定試験に合格出来る者がいるのか?」


「マキ公爵、ここに居ますよ。イツキ君、今何歳だったっけ?それから当然、認定試験には合格するよな?」


エントン秘書官は困ったような顔をしてイツキを見ながら、マキ公爵に答える。


「え~っ……すみません、今年14歳になりました。それから認定試験は2つ合格したいと思っています。秘書官、本当にスキップ進級出来るんですか?」


イツキはちょっぴり申し訳なさそうに、そしてにぱっと眩しいくらいの笑顔で嬉しそうに質問する。


「・・・・・・」(他の領主の皆さん)


「俺が領主として上級学校に入学した時は、軍学校からの編入だったから1年しか在学しなかったが、内乱のゴタゴタもあり大変だった。まあ俺には領地を任せられる貴族がたくさん居たから、イツキ君よりはずっとましだったがな。このままイツキ君の時間を無駄に過ごさせては、医学大学の運営に影響が出るか、イツキ君が過労死するかどちらかだな」


キシ公爵は自分の昔を振り返りながら、領主として3年も学生でいるのは厳しいだろうと現実的な話をする。

 他の領主達も、学生・領主・治安部隊と三役こなすイツキに同情する。そして今更ながら、自分なら絶対に無理だと気付く。


「王様、イツキ君が可哀想ではありませんか!スキップ大いに結構ですが、治安部隊か医学大学、どちらか他の者に任せては如何ですか?」


イツキの眩しい笑顔にヤられたマキ公爵は、立ち位置を180度変えて進言する。


「確かに優秀な者を年齢に縛り付けるのは、時間の損失ですな」


今度はホン領主が、イツキを……いや秘書官の提案を後押しするように呟いた。

 2人の煩い公爵がそう言うので、秘書官はさっさと承認の挙手を求め、全会一致で可決された。





 続いてギニ司令官から、最近のギラ新教徒の動向が語られ、それに伴う注意事項、そして協力体制の強化についての確認があった。


「現在掴んでいる情報で厄介なのが、国内のギラ新教徒が組織を作り動き出したという事実だ。そして、指導者が誕生したと思われる。これからは組織的に攻撃を仕掛けてくるだろう。既に奴等は洗脳だけではなく、レガート国の乗っ取りを画策している」


「「なんだって!!」」(領主の皆さん)


最近やっとギラ新教の脅威に気付いた領主達は、更なる追い打ちに驚愕する。


「手始めにマサキ公爵邸が白昼襲撃されたが、これから奴等の攻撃は、領主や大臣や高官、そして家族にまで及ぶ可能性がある。だからこそ、どんな些細なことにも目を光らせ、奴等を台頭させてはならない!」


「・・・・・」(領主の皆さん)


ギニ司令官の厳しい口調に、領主達は絶句しながらも気持ちを引き締める。





 昼食後、いよいよ次はイツキの出番である。


「レガート国の特産品とは別に、僕が発明した商品を持ってきました。名前はポム弾と言います。現在レガート国のドゴルで売られています。軍と警備隊からも発注をいただいています。このポム弾もポムを使って作りました」


イツキはそう言いながら、見本で持ってきたポム弾を領主の皆さんに回して貰う。


「これは武器なのかね?」(ミノス領主)

「そうです。ロームズの住民はこのポム弾を使ってハキ神国軍を捕虜にし、軍は死傷者を最低限に抑えることが出来たと言えます」


フィリップ秘書官補佐は、ロームズでの戦いを思い出しながらポム弾の性能や有用性について説明した。


「そこで僕からの提案です」


イツキはそう言って、鞄の中からレガート国の地図を取り出し広げる。その地図には各領地に絵が描かれていた。

 マサキ領とミノス領にはポックの木の絵、カワノ領にはポムベルトの絵、ヤマノ領には竹の絵とポム弾の絵。マキ領にはアタックインの絵、ホン領にはポルムとゴールの絵。カイ領とキシ領には薬草の絵が描かれていた。

 王都ラミルには上級学校の場所に丸印があり、行商人窓口と書き込まれていた。


 どういう意味だろうかと地図を見ながら領主達は考える。


「其々の領地で担当して頂きたい物が記入してあります。それから、こちらが利益の分配表になります。利益は全領地同じです。残念ながら薬草は直ぐに育生出来る訳ではありません。しかも、カイ領は医学大学の建設資材の運搬で忙しく、キシ領は国立病院の建設で忙しいので製造には関われません。しかしながら責任は全領地同じです」


「はあ?全領地同じって、ポム弾はイツキ君の所有物なのに利益まで分配して、イツキ君個人にはたったの15%ってことはないだろう?」


ヤマノ侯爵は利益分配を見て、有り得ないだろうと首を捻りながら問う。


「そうだ。これでは特産品とポム弾と薬草栽培を、ロームズ以外の領地全てに発注することになる。ロームズ領の取り分は我々と同じだが、医学大学分になっているじゃないか?」


ホン領主は、イツキの考えた製造分担と利益分配の考え方が理解できなかった。


「はいそうですホン領主様。それで良いのです。これからギラ新教と戦う為にも、レガート国は産業を発展させ力を付けねばなりません。1つの領地だけが潤ったのでは不満が出ます。そんな不満に付け込むのがギラ新教です。特産品もポム弾も薬草も、何処の領地が欠けても作れません。10の領地が連携する。協力し合うことが目的ですから」


「・・・・・」(全領主の皆さん)


キシ公爵を含め、国王、全ての領主が考え込んでしまう。どうしたらこんなことを考えられるのかと?

 計画が壮大過ぎる。全領地が連携する?協力し合う?って何だ……と首を捻る。


「皆さん、出来るか出来ないかと問われたらどちらですか?マキ領には細かい仕事もきちんとこなす職人が居ます。ホン領は仕事にプライドを持ち、儲けることに貪欲です。だからこそ製造が難しいポルムを、完璧に仕上げてくれるでしょう。ポックの木は栽培は簡単ですが、樹液の管理は慎重でなければなりません。マサキ領もミノス領も真面目に働く領民がたくさん居ます。ヤマノ領だって同じです。レガート国の為、領民の為、遣ってみたいと思いますか?それとも遣りたくないですか?」


イツキは澄んだ瞳で1人1人の領主の瞳を見て、問うように視線を移動していく。

 国の為、領民の為と言われて、出来ない、遣りたくないとは立場的に言えない。


 それだけではない。自身は利益を追求せず、レガート国全体を思う真っ直ぐなイツキの考え方に、何だこの制服を着た学生は?何なんだこの領主は?と戸惑う。

 生意気……とは違う、驚き……とも違う。何なんだろう、この気持ちは?

 強いて言えば尊敬?こんな子供に?そんなバカなと思ってイツキを見る。


 曇りのない瞳は輝き、顔からは聡明さが滲み出ている・・・そう言えば天才発明家だった・・・そう言えば天才軍師だった。そして常に彼は国の為、国民の為と叫んで……いや自分達に訴えてきたのだ。


 キシ公爵は残念でならなかった。目の前に居る少年はレガート国の王子なのだ。王子としてこの場に居れば、全員が喜びに打ち震えていただろう。

 リーダーとして人を従える能力を持ち、民を思う慈愛に満ち溢れ、そして天才だ。

 は~っと息を吐きギニ司令官を見れば、王子とは知らないが、同じように残念そうな表情をしている。

 王様と秘書官に至っては、残念を通り越して泣きそうな表情だ・・・

 イツキ君はこの国の王子だが、ランドル大陸全ての人々を思うリース(聖人)様である。いつか必ず、この国を離れる時がくるのだ。


 きっと他の領主達は気付いただろう。

 真のリーダーとはこういう人間なのかもしれないと。


「行商人分は上級学校が実践授業として販売しますが、アタックインはマキ領で、ポルムとゴールはホン領に販売をお願いします。先ずポルムは国内の中級学校・上級学校・軍・警備隊用に相当数が必要です。その後は他国の中級学校・上級学校に販売を広げてください。そうしたら、ロームズ領でポルムゴール世界大会を開催します。ロームズ領の役割は、大陸中に情報発信をすることですから。でも……体育館の建設に2年以上は必要ですが」


イツキはにこにこと微笑みながら、ちゃっかりロームズ領のイベントを先に組み込んでいく。


「おいおいイツキ君、世界大会は全てロームズ領が持っていくのか?」


「ハハハ、ホン領主様、ポムの可能性はまだまだ無限です。実はポルムより小さい物を使った、新しいスポーツも既に考案してあります。きっとそっちの方が庶民にまで浸透するスポーツになるでしょう。戦争という愚かな行いで競うのではなく、スポーツで大陸一を競うのです。国と国とがプライドを懸けて勝負します。そう考えると、僕は今からワクワクと心が躍ります」


イツキは夢見るように上を向き、目を瞑り世界大会の様子を想像する。

 その様子を見ていた領主達は、大歓声に包まれた熱気溢れる試合風景を、つい同じように想像してしまう。

 上級学校で手に汗握るポルムゴールを観戦していたのだ。想像の翼は高く遠くまで広がっていく。



 そんな感じで会議出席者全員が、いつしかイツキワールドに巻き込まれていく。



 領主会議も終わりに近付き、和やかに3時のお茶を飲んでいると、バタバタと走る足音が聞こえてきて、ヨム指揮官が血の気の引いた顔で会議室に飛び込んできた。


「マサキ公爵様大変です。御子息タスク様の馬車が襲われ、馬車は王宮前の大通りで横転し、ケガ人多数、タスク様もケガをされたようです」


息を切らしながらヨム指揮官は報告する。

 国王始め全員が椅子から立ち上がり、イツキはマサキ公爵より先に走り出した。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話から新章スタートです。

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