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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
領主会議

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32/222

領主会議(5)

「さてやるか」と言いながら、キシ公爵とヤマノ侯爵は腕捲りし、練習を始めた。

 フィリップは見学でいいと言ったが、「人数が足らん!」というキシ公爵の言葉で、渋々上着を脱ぎシャツの袖口のボタンを外して準備する。

 憧れのキシ公爵とフィリップ秘書官補佐のポルムゴールをする姿が見れると、学生達は歓喜した。

 そこへ見廻りを兼ねたヨム指揮官が、体育館にやって来た。

 当然有無を言わせずキシ公爵に引っ張り出されて、嫌そうな顔をして上着を脱ぐ。


 ポルムに慣れるのに10分、ゴールの練習に10分、即席チームの準備は整った?

 スターティングメンバーは、キシ公爵、ヤマノ侯爵、ヨム指揮官、レクス、ハモンドである。対戦チームはピドル率いるラミル上級学校最強チーム。


 ピドル達は全力で戦わず、5分間は慣らしの為にルール説明も兼ねて練習試合をしていく。領主様相手に全力で戦える訳がない。

 そして5分後。感じが掴めてきた領主チームは全開で試合を始めた。

 1セットを終了し、ハモンドは緊張から半分死んだような目で、いや、息も絶え絶えで走っているし、ヤマノ侯爵もそろそろ限界がきたようだ。


「よし学生諸君、3分の休憩後、2セット目は本気で来てくれ。もしも負けたりしたら・・・領主の指示を守らなかったと思うことにする」


「はい全力で戦います!」とピドルのチーム全員が大きな声で応えた。


1セット目は11対6で軽く勝てたから、全力で戦うとダブルスコアになりそうだと、学生達は申し訳ない気持ちになりながら返事をした。


「よし、勝つぞ!イツキ君と俺が得点する。ヨムとレクスは守りを固めろ。フィリップ、俺たちにパスを寄越せ!」


当たり前のことのようにキシ公爵は命令する。いつの間にか自分が領主チームに入っていたイツキは、諦めたようにハハハと笑うしかない。


「イツキ君頑張ってー!」「イツキ様しっかりー!」と親衛隊から応援の声が飛ぶ。

「ちょっと何、この凄い美男子軍団は!眩しい!眩し過ぎる!」とキラキラした視線を向ける学生多数・・・


 結局こうなるんだ……と思いながらも、イツキは始めから全力でいく。そうでないと運動能力が特に優れている【印持ち】のキシ公爵に付いていけない。

 気心が知れているメンバーだから遠慮もない。目で合図しながら、司令塔のキシ公爵は的確にビシバシ指示を出す。

 当然試合中にイツキ君なんて悠長に呼んだりしない。イツキと呼び捨てである。まあ、元々イツキはキシ領の子爵だし、誰も違和感を持たない。


「イツキ君しっかりー!」と応援するヤマノ侯爵にも、誰も違和感を感じない。


「おい、何だこれ!?もっとピッチをあげろ!」


突然上達?いやスピードの上がった領主チームに、ピドルは仰天しながら慌てて全員に号令を掛ける。

 能力全開の領主チームに、ピドルチームは息を吐く暇も与えられない。5点差など直ぐに無くなり、今のシュートで逆転されてしまった。

 死にもの狂いで得点し同点としたが、このままでは絶対に負けてしまう。

 ピドルチーム全員が、あまりの実力の差に恐怖を覚え始めた時、終了の笛が鳴った。




◇ ◇ ◇


 時刻はいつの間にか正午を過ぎており、領主達は国王との昼食会に出席する為、急いで各自の馬車でレガート城に向かった。

 イツキも管理人のドッターさんが準備してくれていた、自分の馬車に従者のパルと一緒に飛び乗った。時間が無かったので制服のままである。


「いやー、つい夢中になり時間を忘れてしまいました」(マキ公爵)

「あれは確かに貴族の社交場に相応しいと言えるでしょう」(ミノス領主)

「うちの領地なら豪商も欲しがるでしょうな」(ホン領主)


アタックインに夢中になった様子の領主達の話を聞いていた国王は無言だった。


「ポルムゴールも盛り上がりましたよ。キシ公爵様とイツキ君の運動神経には驚きです。私が学生の時にポルムがあれば、夢中になったでしょう」


ヤマノ侯爵もやや興奮気味に楽しそうに話す。


 これまでの領主会議で、これ程和やかで笑顔溢れる会議があっただろうか?

 いつもは料理を残す奴等が、誰も彼も完食してお茶を旨そうに飲んでいる。バルファー王は、上級学校での体験談を聞きながら、ムスッと益々不機嫌になる。


「王様、自分が上級学校に行けなかったからと言って、その不機嫌な顔は止めてください。大人気ないですよ」


呆れ顔のエントン秘書官にそう言われたバルファー王は、エントンからフイっと顔を逸らし、横を向いてお茶を飲む。


「王様、午後4時頃に、上級学校から王宮用のアタックインが2台届きます。設置場所を決めておいてください」


イツキはクスクスと笑いながらバルファー王に伝える。


「何だとイツキ君、あれがレガート城に設置されるのか?今日?」

「はいマサキ公爵様。それに、明日には皆様のお屋敷に設置していただけるよう手配してあります。午後までに設置場所を確保しておいてください。ご領地用が別に必要でしたら、技術開発部に発注をお願いします」


イツキの目論見通り、領主の皆さんはすっかりアタックインのファンになってくれたようだ。勢いがあるうちに畳み掛けるイツキの作戦は成功したようである。

 レガート国だけではなく、ランドル大陸全体を見ても、貴族が遊ぶゲームと言えばカードゲームくらいしかなかった。しかもカードゲームには如何様師(いかさまし)が居て、ぼんやりしているとカモにされたりする。

 しかしアタックインなら、実力と頭脳と運が全てであり、おまけに動くので座りっぱなしにならず体にもいい。何よりカッコいい上に、1人で練習だってできる。




「さて、それでは午後からの会議を始めたいと思います」


エントン秘書官が立ち上がり、資料を配りながら午後の議題を説明していく。

 午後の議題はイツキが提案した【ロームズ辺境伯杯】についてと、【レガート医学大学】についてだった。

【ロームズ辺境伯杯】も【レガート医学大学】も、既に各大臣や各部署の責任者から大まかな承認を受けていた。あとは領主会議で承認を受ければ、予算が確定し本格的な準備に入ることが出来る。


 イツキは頑張っていた。それはもう寝る間も惜しんで書類を作成し、17・18日の休みに各部署を巡り、驚きと驚異の目で観られながら、無自覚・無意識にファンを増やしながら承認を貰っていた。


「ロームズ辺境伯杯の目的は、特産品を多くの人々に見せ、行商人に欲しいと思わせることです。このロームズ辺境伯杯は、イツキ君の戦勝の褒美として与えられた褒賞金で賄われます」


秘書官はそう言いながら、イツキがハキ神国と締結した【講和条約書】を笑顔でテーブルに置き領主達に見せる。

 カイ領主とマサキ公爵以外は、【講和条約書】をまだ見ていなかった。キシ公爵は、当然その内容を知っていたが、実物は初めて見る。


「これで5年はハキ神国との戦争はない。こんな方法で戦争を処理をしたイツキ君に、褒美を与えない訳にもいくまい」


バルファー王は、誰もロームズ辺境伯杯にケチをつけないよう釘を刺しておく。


「僕は貧乏で何も持たない領主ですから、王様から出されていた領主の条件をクリアする為に賠償金を要求しました。それでも全然足りませんが褒美は不足分に充てず、もっと有効に使おうと思いました」


イツキは貧乏を強調しながらも、褒美にお金を受け取らない姿勢を前面に出した。


「貧乏なら金を受け取る方がいいんじゃないかな?」

「いいえホン領主様、僕はロームズ領でアタックインの世界大会を開催しようと思っています。そしてロームズという領地を、レガート国民はもちろん、大陸中の貴族や商人達に知っていただこうと計画しています。その際には是非、レガート国の代表貴族としてご参加いただけたらと思います」


 世界大会という壮大な計画に、商工業都市の領主であるホン領主は、イツキの考え方に興味を持った。

 マキ公爵は、レガート国の貴族の代表は自分こそが相応しいと考えたりする。

 結局領主達は、イツキを上級学校で泣かせたこともあり、特産品に関することについて何も文句が言えなくなっていた。



 休憩時間を挟んで、次は【レガート医学大学】について話し合う。

【レガート医学大学】の説明は、教育大臣から説明されることになっている。

 草案も要項もイツキが考えたのだが、それをわざわざ領主達に言う必要もなく、寧ろ言わない方がすんなりと行くだろうと事前に打合せし、教育大臣に頼んだのだった。 


「奨学生についてですが、医学部は各上級学校と女学院から1名ずつを予定しています。その学費を国が負担した場合は、国選医師としてレガート国の為に働いていただきます。看護学部は全員国で負担し、国選看護士として働いていただきます。また、医学部について領主が負担した場合は、国立病院で8年働いた後、領地に戻って医院を開くものとします。領主が負担を申し出た年は、そちらを優先するものとします」


教育大臣は、奨学制度について領主に関わる部分の補足説明をした。


「医師不足は我が国でも重要な案件だ。もしも医学大学が出来なければ、国立病院を作っても働く医師が居ない。イントラ連合国に国費で送れる学生は毎年2人が限界だった。俺は技術開発部に新しく医療開発課を新設し、レガート国を医療先進国にしたいと考えている。ロームズは遠いが、だからこそ国外から教授や優秀な学生も集められる」


バルファー王は、これからのレガート国の医療について抱負を語る。王が率先して抱負を語ることで領主を牽制する。もしも異論を唱える場合は、その根拠を述べねばならないようにするために。


「イツキ君、この薬学部のロームズ辺境伯枠で入学した3人の学生は、国選薬剤師にはならないのかな?」


「はいキシ公爵様、僕は3人を薬草の研究者にしようと思っています。現在ランドル大陸で薬草栽培に力を入れている国は、ハキ神国とダルーン王国だけです。今回の薬草不足で身に染みて分かったのですが、レガート国も自国民を守るために薬草栽培に力を入れるべきです」


イツキは予てより考えていたことを、国王と領主に向かって進言する。


「それではロームズ領で栽培し、栽培した薬草で利益を得ようということかな?」


キシ公爵は、わざと意地悪くロームズ領が儲けるつもりなのかと問う。


「はい?利益を得る?・・・いいえ、薬草栽培は地理的な状況を考えて、カイ領とキシ領で行いたいと考えています。高地で育つ薬草と平地で育つ薬草があり、2つの領地が最適だと考えています。それに、ロームズ辺境伯枠の学生は栽培だけでなく、国内に生息している植物の中から、薬草を探し出すことも役目として負って貰います」


そこからイツキの薬草に対する熱い、熱い思いが語られていく。時間にして10分、薬草を見付けることは膨大な時間と労力を必要とすることや、ブルーノア教会病院でさえなかなか研究が進んでいないこと等を説明した。


「イツキ君、まるで君は医者や薬剤師のように話すが、誰に聞いた話だね?」

ラーレン侯爵(カワノ領主)、イツキ君は医者だとヤマノ侯爵が言っていたと思うが?」


ミノス領主は領主選定パーティーで、イツキというヤマノ領の伯爵は医者だと聞いていた。しかし実物のイツキを見て、あれは嘘だったのではと疑いながら教える。


「イツキ君は医師資格も薬剤師資格も持っている。しかも、ブルーノア教会病院発行の資格だ。本来なら上級学校で学ぶ必要などないのだが、先程も言った通り、イツキ君の身の安全のために上級学校に入学して貰っている」


エントン秘書官は超不機嫌な顔をして説明する。そして、今更何を言っているんだ?という視線をカワノ領主に向ける。

 エントン秘書官とキシ公爵は、午前中の上級学校の会議の時と違い、徹底的にイツキを守るため積極的に発言することにした。

 いつもは煩いマキ公爵とホン領主は、何故かイツキの味方?にまわっている。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

なかなかスピード感のある文章が書けませんが、ぼちぼちピッチを上げていきます!

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