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領主会議(2)

領主達の呼び方が、名前だったり領地呼びだったりしています。

大まかに、領地名が同じキシ公爵、ヤマノ侯爵、マキ公爵、マサキ公爵以外は、ホン領主やミノス領主というように表記しています。

 驚き過ぎて固まっている、ミノス領主、ホン領主、マキ領主、カワノ領主に向かって、「若輩者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」と軽く頭を下げ、イツキはポムという物質についての説明から始めた。



「なんと、ロームズ辺境伯は教会の養い子なのですか?それは聞いていませんでした。それが今では領主ですか……教会は余程有益な情報を王様に伝えているようだ」


特産品の開発とは関係無いような話に食い付いたのは、マキ公爵だった。明らかにイツキに対し、そしてイツキを領主に任命した国王に対しても、無礼な発言である。

 伯父であるエントンは、無表情を装っているが眉がピクリと動き、キシ公爵は怒りを抑えるように腕を組んだ。フィリップは立ち上がって意見しようと、テーブルに両手を着いたところで、イツキにチラリと睨まれフーッと鼻から息を吐き我慢した。 


「それでは、ポックの樹液の有用性を発見したのはブルーノア教会で、ポムにしたのはロームズ辺境伯。そして既に技術開発部では実用化に向けて研究中と言うことですな」


イツキの話を興味深そうに真剣に聞いていたホン領主は、確認するように秘書官に尋ねる。本当にそんな大発見を、目の前の少年……いやロームズ辺境伯がしたのかと。

 秘書官は何も答えず、フィリップに視線を向け代わりに答えろと合図する。


「ええ、そうですネイヤー公爵(ホン領主)。既にイツキ君はポムを使って、新型レガート式ボーガンを作製済みです。今回ハキ神国のオリ王子との戦争で使用した投石機、()()()1号もポムを使用しています」


今回ロームズで全指揮を執っていたとされる、秘書官補佐のフィリップが、現在実用化されているポムの使用例について説明する。


「いやー、私もレガート式ボーガンを作ったのがイツキ君だと知った時は、顎が外れるほど驚きましたよ」


まだ何も知らない様子の領主数人に、然り気無く情報を教えたのはマサキ公爵である。


「「「「 なんだってー!!!!」」」」


何も知らなかった4人の領主は立ち上がり驚きの声をあげた。

 その様子を見たマサキ公爵は、満足そうに微笑むと「まあまぁお座りください。お気持ちは分かります」と言いながら、先程までのロームズ辺境伯に対する無礼な態度にムッときていたが、少し気持ちがスッキリしたマサキ公爵である。


「全ては国家機密事項でしたので、ごく一部の者しか知らない情報です。なにぶんイツキ君は若い上に発明の天才です。他国やギラ新教に知れたら誘拐される危険性が高く、そうなれば我が国の損失は計り知れません。イツキ君の安全を考え、王様と教会の話し合いで上級学校の学生を()()()()()います」


秘書官は少し話を創作しながら、礼儀知らずの領主に向かって説明する。

 イツキはハハハと心の中で諦めたように笑い、まあこれから信用を得ればいいことだと思い、何も言い返すことも自慢することもしなかった。


「本日お集まり頂いた1番の目的は、特産品を知っていただいた上で、領主の責任として、特産品を広く国内外に広めて頂く為です。特産品を作った目的は、行商人から薬草をレガート国に卸して貰う為です。ギラ新教により買い占められた薬草は、例年の6割以上です。このままでは冬に風邪や他の病気が流行ったら、間違いなく暴動が起きるでしょう」


「いや、でも5月に上級学校の学生が、領民に薬草採取をさせましたよね?」


イツキの話に疑問の声を上げたのはミノス領主である。


「5月に領主の皆様に協力頂いた、上級学校と教会が連係して行った薬草採取では、薬草の種類は例年の半分にも満たないのです。しかし領民を不安にさせないために、国王様や領主様は、薬草不足を解消してくださっていると、信じ込ませる必要があったのです」


イツキは辛そうな顔をしながら、薬草不足の真実を明かしていく。


「・・・・・」(全員)


「何故ロームズ辺境伯が、そのようなことをご存知なのでしょうか?それに、今日は特産品を見に来たはずですが?」


カワノ領主は、特産品の話が薬草不足の話に移行し、だんだん話が見えなくなってきた。しかも特産品を広めるのは領主の責任という言葉に、お前が何故指示を出しているんだ?と疑問に思った。

 他にも数人の領主が、カワノ領主に同意するように頷いている。


「領主の責任として?……それは、ロームズ辺境伯のお考えなのですよね?」


マキ公爵は偉そうなイツキの発言に、睨み付けるような視線を向け確認する。

 我慢出来なくなったフィリップが立ち上がった時、イツキが再び話し始めた。


「エントン秘書官、私は今日ほどガッカリしたことはありません。私が治安部隊の人間として薬草不足を報告したのは春休みのことです。そしてその解決策として上級学校と教会が協力する案を出したのも春休みでした。今は8月ですよね?私や発明部・化学部・植物部のメンバーが、寝る間も惜しんで特産品を作ったのは何の・・・何の為だったのでしょうか?全ては薬草不足を解消するために、行商人に特産品を販売する権利を与え、少しでも・・・少しでも多くの薬草を、レガート国に卸して貰う為でしたよね?学生の我々が、国を思い国民を思い必死で頑張っているのに・・・ハァーッ・・・何故、何故大事なことが伝わっていないのです?……すみません、顔を洗ってきます」


イツキは途中から、大粒の涙を溢しながら、怒りとも絶望とも取れる表情で話していた。話し終えると涙を拭くこともなく会議室から出ていった。

 イツキの後をフィリップが慌てて追い掛けていく。


 校長と教頭は、これまで一言も喋らず成り行きを見守っていたが(当然イツキの味方として)、頑張ってきた教え子の涙には、込み上げるものがあった。


「後期が始まってから昨日まで、学生たちは武術の時間を削り、昼休みも部活時間も夕食後も、持てる時間の全てを特産品作りに費やしてきました。技術開発部の皆さんに技術指導をし、自分達も全力で必要な物を作り上げました。校長として、彼等は……私の自慢です。薬草採取の夏大会の時も、全学生の思いは……国民の為に……でした」


ボルダン校長は目頭を押さえ、言葉を詰まらせながら訴えるように話した。


「しかもイツキ君は、突然領主になったため、医学大学の準備で毎日2時間も寝ていません。それでも泣き言ひとつ言わず、学生達を引っ張ってきました。……申し訳ありませんが、私は今……悔しくてたまりません。領主とは何なのでしょう?お、王様は……イツキ君を潰したいのでしょうか?」


教頭は途中から泣いていた。これ迄のイツキの頑張りを思うと無念でならない。

 ギラ新教の存在を教え、学校内を正義で導き、ヤマノ領やロームズを救い、薬草不足の解消まで考えた。何故学生のイツキ君がそこまで頑張らねばならないのかと、ずっと疑問だったが、答えは今、イツキ君が教えてくれた。国を思い国民を思うと……


「全領主に聴くが、私は薬草不足を伝え、王命として上級学校と教会と協力し薬草採取をするよう指示を出したが、その文章の中に、多くの不足分については特産品を作り、行商人に薬草を卸させる予定だと書いていたが、まさか王命書をきちんと読んでいなかったのか?お前達にとって薬草不足は他人事か?何故自領の薬草状況を確認していない!」


エントン秘書官はテーブルをドン!と右拳で叩き、怒りを領主達にぶつける。そしてイツキが出ていった会議室のドアを見詰めて、ハーッと深く息を吐き後悔する。




 会議室が静寂に包まれて何分が経ったのだろうか……

 誰も言葉を発することが出来ない。

 校長と教頭はテーブルに両肘をついて手を組み目に当てている。

 エントン秘書官はショックのあまり顔面蒼白になり、イツキに酷い言葉を浴びせた領主達は、何かを考え込んでいるのか、口をギュッと結んだまま下を向いている。


 キシ公爵もヤマノ侯爵も、情けない気持ちで一杯だった。自分は何を見ていたのだろう……まだ14歳の少年に、どれだけの重荷を背負わせていたのだろうと猛省する。

 カイ領主は常々思っていた。自分ほど忙しい領主は、キシ公爵くらいだろうと。少し考えれば分かることだった。親も基盤もない若い領主が、学生をしながら統治することがどれ程大変なのかを。息子のインカが懸命に支えると言っていたが、それは学生の領分を越えることなど出来ないことだった。


 マサキ公爵は両手を組んで神に懺悔していた。イツキのことを恐らくブルーノア教会のリース(聖人)様であると知っただけに、もっと協力出来たはずだと後悔する。逆に心配して貰っていたなんて……と、平伏して謝罪したい気持ちになる。

 当然同じようにイツキ君がリース様であると知っているだろう秘書官に視線を向けると、魂の脱け殻のようになっている。

 レガート国の上層部は、なんて罰当たりなのだろう。……リース様だからこそ、民を思い懸命に尽くされているのに……自らと他の領主達も許せない思いで胸が苦しくなる。




「いったい何事ですか?私の弟子が何かしましたか?泣かされる程、何か過ちを犯したのでしょうか?それとも、虐めですか?」


突然ノックもせずに会議室に入室して来たのは、治安部隊ヨム指揮官である。

 その瞳には怒りが滲んでおり、美しい顔で睨まれると、結構な恐怖心を与える。


「いや、イツキ君は何も悪くない・・・不甲斐ない大人が悪いんだ」


エントン秘書官はヨム指揮官を面と向かって見ることが出来ない。そう言って目を瞑った。他の領主達もヨム指揮官と視線を合わせることが出来ない。

 その様子でヨムは理解した。まだ少年の学生領主だと思って、イツキを虐めたのだと。特別な神父様であるイツキ君が泣くなんて、余程のことに違いないと。


「それじゃあイツキ君は何故泣いているのです?ここに居る領主の皆さんはイツキ君の何を知っているんです?1度目のハキ神国の侵攻の時、別動隊としてイツキ君はソウタ指揮官、フィリップ秘書官補佐、数人の奇跡の世代達と共にロームズに行きました。そして別動隊は、イツキ君の指示に従いハキ神国軍を撤退させました。レガート軍は戦わずして勝った訳ではありません。ハキ神国軍からロームズを救ったのは彼が12歳の時の話です。2度目のハキ神国の侵攻からレガート軍とカルート軍を救ったのもイツキ君です。イツキ君は【印持ち】で、空飛ぶ魔獣を操りハキ神国軍を撤退させてくれました。彼が13歳の時です。そして今回、14歳になった彼は学校を休み、再びロームズを救ったのです。彼は、天才軍師です」


人前で大声を出したり、意見したりすることなど無かったヨムが、怒りの形相でイツキを擁護する……いやイツキの真実を暴露する。こんなことを言うつもりなど無かった。でも何故か、イツキが泣いていて、怒りを纏ったフィリップの姿を目撃し、自制が利かなくなった。頭に血が上り会議室に飛び込んでいた。


「ヨム指揮官止めろ!それは国家機密事項だ!」


エントン秘書官が立ち上がって叫ぶ。それらはイツキを守るために秘密にしてきたことだった。だが今となってはそれが正しかったのか、この現状をみると自信が無くなる。


「国家機密事項?何を言っているんです秘書官、私は納得できません。現在【奇跡の世代】はイツキ君の指揮下にあります。イツキ君を蔑ろにするなら、【奇跡の世代】は黙っていないでしょう。貴殿方が本国でぬくぬくと自領のことを考えていた時、戦地で戦っていたのは・・・剣を抜き血にまみれてレガート国の為に戦っていたのはイツキ君です。・・・分かっています。こんなこと信じられないと言うのでしょう?でも、現地で戦ったレガート軍や警備隊の者は皆知っていますよ。真の英雄が誰なのかを」


一気に言い切って、ハアハアと息を吐きながら、それでもヨムの怒りは納まらない。


「ヨム、お前は出て行け!ここは領主会議の場だ。でしゃばるな!」


とうとう上官であり主であり親友であるキシ公爵が、ヨムの前まで歩いて行き、ヨムの腕を掴んで会議室から引き摺り出そうとする。

 廊下まで連れ出した所で「すまないヨム。イツキ君は俺が守る」と、キシ公爵はヨムの耳元で囁いた。


 会議室のドアを閉めようとしたアルダス(キシ公爵)は、フィリップを後に従えて戻ってきたイツキの姿が視線に入ってきた。そしてだんだんと近付いてくる。

 アルダスはヨムに持ち場に戻れと目で合図して、イツキの為にドアを開けた状態で待つ。

 イツキと顔を合わせるのが心苦しいところだが、全ては自分が蒔いた種によってイツキに負担を掛けていたのだから、ここは真摯に謝ろうと心を決める。


 戻ってきたイツキの顔は笑顔だった。しかし、何処かいつもの笑顔とは違う感じの……慈愛に満ちた笑顔だった。


「お待たせしましたキシ公爵様」イツキは明るく言って会議室に入っていく。


 その時アルダスは、イツキの周りに金色の光るものが視えた。これはリース(聖人)様の能力(おちから)だ!と思ったアルダスは、思わずひざまずきそうになりフィリップに止められる。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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