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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
領主会議

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28/222

領主会議(1)

 8月19日、なんとか領主会議の前日には、予定していた数のポルムとアタックインが完成した。

 技術開発部の助っ人は3日間の徹夜続きで何人か倒れたが、自分達の課長に見合い話が本当にきたので、弱音だけは吐かずに遣りきった。

 当然、発明部・植物部・化学部も夜まで頑張ってポルムゴールのゴール製作に全力投球し、本日やっと部活の時間にお披露目された。


 本来なら放課後の体育館は剣術部が使っているのだが、今日は特別に体育部の半数と剣術部がチームをつくり、ポルムゴールの試合をすることになった。

 作ったポルム40個に欠陥が無いかどうかを確認する目的もあり、試合前の練習には各チームに5個のポルムを渡し、強度や歪みを最終確認する。


 最終的に決まったルールを徹底させながら、1チームを10人以内とし、出場選手5人で10分の試合を3分・7分・3分の休憩を挟んで4セット行う。途中交代は何度しても構わず、反則3回で出場停止となる。負けたチームは次の試合の審判や補助員をする。

 正式な試合では、第三者の主審を置く。

 各領地に配る為、ルールブックも30冊以上作成された。

 学生達には極秘であるが、明日の領主会議でお披露目するために、最強チームを選ぶために組まれた試合だった。


 結局決勝戦は、体育部の部長であるピドル(イツキ第2親衛隊隊長)率いるチームと、剣術部のくせに夕食後毎日のようにポルムゴールをしていた、剣術部副部長であり風紀部2年部隊長のエンド率いるチームが対戦することになった。

 結果はピドル率いるチームの勝利となり、イツキが作った試作のミニポルムをゲットし歓喜に湧いたが、「このミニポルムを使って外で出来るゲームを考えたから、明後日からよろしくね」とミッションを与えられてしまう。

 元々外で活動する体育部にとって、それは願ったり叶ったりだったので、寧ろ喜んでいた。なんて元気な奴等だろうとイツキは感心する。

 ちなみに、その外で行うミニポルムを使ったスポーツは、手ではなく足を使ったスポーツだった。考案したのは以外にもモンサン(イツキ親衛隊副隊長)率いる音楽隊だった。



◇ ◇ ◇ 


 8月20日、とうとう領主会議の日がやって来た。

 朝のホームルームの後で、全学生と全教師が体育館に集合させられ、校長から驚きの、いや驚愕の話を聞かされることになる。


「本日、レガート国の特産品として作られたポルムとアタックインを視察されるため、全領主様とエントン秘書官、ヨム指揮官、フィリップ秘書官補佐、警備のために軍や警備隊100人が来校される」


「「ええぇーっ!!」」


校長の突然の重大発表に、全学生は勿論のこと全教師も思わず叫んでしまった。

 全領主が来校する……そんなことが、開校以来あっただろうか?いや、聞いたこともないぞと大騒ぎになる。


「静かに!講義の無い教師は全員警護に回るように。ダリル教授の指示に従い動いてくれ。学生は特別時間割りで行動し、体育館ではポルムゴール、武道場ではアタックインの試合見学を許可する。これから名前を呼ばれた者は、各競技の模範競技をすること。アタックインは文学部と植物部の代表4チーム。ポルムゴールは昨日の決勝戦まで勝ち進んだチームとする。執行部、風紀部は競技内容やルールを領主様に説明すること」


「オオーッ!!」体育館内は割れんばかりの拍手と歓声が上がる。

 全領主様にお会い出来るなんて末代までの自慢話である。その上、領主様の前で日頃の練習の成果を披露できる僥倖に恵まれた学生は、喜びのあまり飛び上がったり、やったー!と叫んだり、緊張のあまり挙動不審になったりする。



『くそっ!全領主が城以外で集まるなんて、こんなチャンスは2度と無いだろう……どうして私にまで情報が極秘にされたんだ?校長めやってくれたな……』


 期待と喜びと緊張感が漂う中、副教頭は絶対的なチャンスを逃してしまったことが残念でならなかった。この情報をマスターにお知らせ出来ていれば、この国は我々のものになっていたはずだ。奥歯をギリギリと鳴らし、両拳を強く握り締め、1人だけ下を向き悔しい表情を隠そうともしない。


『成る程、大きなチャンスを逃がしたことが余程悔しかったようだ。自分だけ明らかに怒りの表情になっているのが、可笑しいとさえ気付かないとは……』


アレクト副教頭の様子を窺っていたイツキは、この表情は洗脳者による洗脳ではなく、本物のギラ新教徒だと考えるべきだと確信した。副教頭の全身は、黒い悪意の煙に包まれていたのだ。




 午前9時45分、校長・教頭を始め主だった教員と、執行部・風紀部役員は教員室棟の前に整列して、領主達を待っていた。

 既に警備隊の中隊50人が校内に配置されており、その指揮を執っているのは治安部隊のヨム指揮官だった。

 これまでの王宮警備隊の制服は白で、ヨムは王宮の白い貴公子と呼ばれていたが、新しく作られた治安部隊の制服は真逆の黒だった。その美しい顔立ちやスラリと伸びた体躯は、相変わらずの美丈夫振りで、黒という色が強さや厳しさやを印象付け、イツキと同じ黒髪と相俟って、近寄り難い雰囲気を出している。


 最初に正門を潜ってやって来たのは、ホン領主ネイヤー公爵の馬車だった。商工業都市の領主に相応しい派手で大きな2頭だての馬車は、出迎えるイツキ達の前で止まり、従者に続いてネイヤー公爵が降りてきた。

 校長が代表で「いらっしゃいませネイヤー公爵様」と挨拶をしたのに続き、他の教師や役員の学生達も挨拶をする。


 領主の馬車は次々と到着し、皆は同じように出迎える。

 最後に到着したのが、王宮の馬車に乗ったエントン秘書官とフィリップ秘書官補佐だった。こういう場で改めてエントン秘書官を見ると、王に次ぐ地位にあるだけの、堂々とした威厳があるように感じるイツキだった。



 8人の領主とエントン秘書官とフィリップ秘書官補佐は、職員用の会議室に通され、校長・教頭からお茶の接待を受けていた。


「ところで、ロームズ辺境伯はどうされたのでしょうか?よもや始めての領主会議を欠席されるようなことはないですよね?」


マキ公爵(マキ領主)39歳は、どこか含みのある言い方で秘書官に尋ねる。


「ああ、もうすぐ来ますよ。本日の特産品の資料を取りに行っています」


エントン秘書官はマキ公爵の含みの部分はさらりと流し答える。


「いやいや、いくら若い新人の領主でも、領主に資料を運ばせるのは可哀想ではありませんかな」


「ネイヤー公爵(ホン領主)、本人の希望ですから。それに彼が居なくては会議は始まらないですから」


これまた含みのあるネイヤー公爵49歳の言葉に、秘書官は笑いながら答えた。


「始められないではなく、始まらないですか?」

「はいヘーデル侯爵(ミノス領主)、今に分かりますよ」


秘書官はどこか嬉しそうに、ヘーデル侯爵42歳に笑顔を向けた。


「私はまだロームズ辺境伯に会ったことがないが、どなたかお会いになりましたか?」

「私は会いましたよマキ公爵」(マサキ公爵・ヨシノリの父)

「私も2度会いました」(カイ領主ラシード侯爵・インカの父)

「そうですか、新しい領主には私より早く来て、挨拶していただきたかったのですが、残念ですな……」


若輩の新人領主のくせに、公爵である私に挨拶がないとはどういうことだ……とは口にしないまでも、少々ご立腹……いやかなりご立腹のマキ公爵である。


「ロームズ辺境伯は、玄関で我ら全員を出迎えていましたよマキ公爵」


キシ公爵アルダスは、余裕の表情でイツキを擁護する。マキ公爵の含みの部分には、寄親であるキシ公爵とヤマノ侯爵は、領主としての躾が出来ていないのでは?という嫌味が含まれていたのだ。


 その時、会議室のドアがノックされ、2人の学生が入室してきた。

 1人は執行部部長のエンターで、手にポルムゴールとアタックインのルールブックが10冊抱えられていた。

 もう1人はイツキで、手にポルムとアタックインの玉が入った袋を抱えていた。


「失礼いたします。執行部部長で3年のエンターと申します。本日は皆様の案内役を努めさせていただきます。校長先生、資料をお配りしても宜しいでしょうか?」


エンターはよく通る声で挨拶し、執行部部長らしい振る舞いで、資料を領主達の座るテーブルの前に配っていく。そして配り終えると再び礼をとり部屋を出ていった。


「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。風紀部1年隊長イツキと申します。本日は特産品の考案者であり製作者として、皆様に商品のご説明をさせていただきます。また、皆様には特産品を使ったスポーツとゲームを観戦いただき、ご希望があれば直接ご参加頂きたいと思っています」


昨夜ヨシノリ先輩に髪を短目に切って貰い、かわカッコいい感じになったイツキは、自分を特産品の製作者だと言った。


「おお君が特産品を作ったのかね。学生なのに凄いじゃないか。ご苦労だったな」


お金を産む話が大好きなホン領主は、イツキに笑顔で労いの言葉を掛けた。


「まあ、本当に金になるかどうかはこれからですよ。とにかく見てみましょう」


辛口だが、こちらも金には煩い、いや儲かる話が大好きなマキ領主の言葉である。

 イツキは手に持っていた特産品を、会議室の大きなテーブルの上に置いた。

 ポルム3つ、アタックインの玉10個は、あっという間に領主達の手に渡っていく。


「なんだこれは!この柔らかい球体は何で出来ているのかね?」(カイ領主)

「この色違いの固い玉には、何故番号が入っているのかね?」(ミノス領主)

「こんな見たこともない物を、どうやって作ったのだ?」(マキ領主)

「これは凄い。これはスポーツで使うのか?どうやって?」(ホン領主)

「まあまあ皆様、開発者の話を聞きましょう。イツキ君、説明を頼む」(校長)

「承知しました校長先生」


イツキは皆の反応に満足しながら、1つ空いていた席に座ろうとする。


「おい、そこはロームズ辺境伯の席だ!君は立って説明しなさい」


領主の席に座ろうとしたイツキに向かって、声を荒らげたのは1番年長者であるカワノ領主だった。


「ご挨拶が足りませんでした。現在上級学校の1年に在籍し、職務として治安部隊に席を置き、ギラ新教担当として指揮官補佐をしています。そしてこの度、王様よりロームズを治めよと任命を受けました、ロームズ辺境伯キアフ・ルバ・イツキ・ロームズです」


イツキは学生ではなく領主の顔で挨拶をした。その顔は、入室してきた時の学生の表情とは別人のように、研ぎ澄まされた策士の顔付きに変わっていた。


 キシ公爵、ヤマノ侯爵、エントン秘書官、フィリップ秘書官補佐は、イツキ劇場の幕開けにワクワクする。

 上級学校はイツキのテリトリー(領域)である。


 挨拶の後、にっこりと微笑みながら椅子に座ったイツキを見たマサキ公爵とカイ領主は、これだけの領主の前で余裕で微笑むイツキの姿に、感心するというか流石だと舌を巻いた。

 これは、この度胸と知性とカリスマ性には、息子が惚れる(尊敬、敬愛)のも無理はないと、【イツキ組】に入っていると言っていた息子に納得する。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

いよいよ領主会議突入です。新米領主イツキに、応援よろしくお願いします。

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