それぞれの休日(2)
◇◇ マサキ公爵邸 ◇◇
執行部副部長のヨシノリは、20・21日に行われる領主会議の為に王都ラミルへ戻ってきた父親に、イツキからの伝言を伝えるためラミルの屋敷に帰っていた。
夕食時間に父マサキ公爵、兄タスク、タスクの従者であり従兄弟のノランの4人でテーブルを囲み、豪華な夕食をとりながら話を始めた。
「父上、イツキ君……いやロームズ辺境伯から伝言があります」
「イツキ君から伝言だと?」
先に反応したのは兄タスクだった。タスクは先日イツキと会ってから、イツキという人間を信用に足るかどうか計り兼ねていた。
イツキから聞いた話は、一般人が知る情報からかけ離れていた。自分は治安部隊で働き教会の人間だと言っていたが、だからと言って本来は警備隊から来る筈の情報や注意事項を、他所の領主がわざわざ持ってきたことに抵抗があったのだ。
「はい兄上。ヤマノ領からラミルに拠点を移し、新しく輸入品店を開いたボンドン男爵に気を付けるようにとの伝言です。ボンドン男爵の息子ルシフは、上級学校の1年生で間違いなくギラ新教徒です。イツキ君の情報だと、ボンドン男爵は直接貴族の屋敷に出向いて、高価な他国の商品を紹介するようです。最近ラミルで活動を開始したので、くれぐれも屋敷に入れないで欲しいと言っていました」
「ボンドン男爵?商会の名前は何と言うんだ?ギレム(家令)、それらしい来客が無かったか直ぐに調べろ!」
「はい、ご主人様。直ぐに来客名簿を調べて参ります」
マサキ公爵の指示に、主の後ろに控えていた家令のギレムが直ぐに動き出す。
「ヨシノリ、その情報は確かなのか?イツキ君は先日ここに来て、俺に油断せず気を付けるよう言って帰った。疑うつもりはないが、何故ロームズ辺境伯は、他家の、しかも公爵家の我が家に口出しをするんだろうか?」
「口出し?まあそうですね……イツキ君をよく知らない人間は、その年齢や外見で判断するでしょうから違和感があるかも知れません。特に兄上は公爵家の長男ですから、自分に意見する者は少ないでしょう。しかし、イツキ君と我々では次元が違うんです兄上」
ヨシノリはそう言うと、苦手な葉野菜の上に肉を載せて、口の中に頬張った。
「次元が違う?どういう意味だヨシノリ?」
タスクは怪訝な表情でヨシノリを見て、父マサキ公爵を見る。父上は何か知っていますか?と問うように。しかし父はフルーツを食べながら首を横に振った。
ヨシノリは口をモグモグさせゴクリと飲み込むと、食後にゆっくり話しますと言って再び食べ始めた。
ヨシノリは迷っていた。イツキ君に関してどこまでの情報を教えたらいいのか……又はどこまで話してもいいのかと。そして無意識に右のこめかみを触る。
食後4人はリビングに向かったが、ヨシノリが「父上の執務室で」と言ったので、人払いが必要な話だと察し黙って執務室に向かった。
「それで、イツキ君と我々では、どう次元が違うんだ?確かに彼は天才だ。それは直接会った日に納得した。数々の発明品を産みレガート国を救ったし、思考そのものが違うと思う。彼は治安部隊に所属しているから、我々では掴めない情報を知っていても可笑しくはない」
マサキ公爵は執務机ではなく豪華な応接セットに4人で座り、次男ヨシノリに向かって静かに問い掛ける。
「数々の発明品って何ですか?俺の知らないことが未だ有るのですね?」
「タスク、イツキ君はレガート式ボーガンと投石機を作ったんだ。彼の発明でレガート国は戦争に勝利できたと言っても過言ではない」
「な、なんですって!レガート式ボーガンを作った?あの、あのイツキ君が?」
タスクは驚いて立ち上がり茫然とする。同じようにノランも立ち上がり驚いている。
「ヨシノリは知っていたのか?イツキ君がレガート式ボーガンを作ったと?しかも投石機もだって?」
「ええ兄上、知ってましたよ。レガート式ボーガンは12歳の時、投石機は今年の春休みに作ったと言ってました。投石機の名前はキアフ1号らしいです。イツキ君は凄く嫌がってましたけど。それに今、とんでもない物を上級学校で作ってますよ」
ヨシノリは、初めてイツキからそのことを聞いた時の自分を思い出しながら、ハーッと短く息を吐いた。それはそれは凄いショックだった。信じられないくらいの衝撃に、友人達も思考がストップしたことを覚えている。
「次元が違うって、そういうことだったのか……」
タスクとノランは驚いたままだが、とりあえず深呼吸しながら椅子に座る。
「いいえ違いますよ兄上。これから話すことは死ぬまで、いえ、死んでも他言することは許されません。他言すればイツキ君はギラ新教から命を狙われ、我々は神に罰せられるでしょう。だから誓ってください!絶対に他言しないと。そして、この部屋から1歩出たら、このメンバー同士であっても2度と口にしないと」
ヨシノリは心を決めて話すことにした。それは裏切り行為かもしれない。けれど、イツキ君を見誤って敵対したり軽んじることは許されないし、自分が許せないのだ。
マサキ公爵もタスクもノランも、ヨシノリのただならぬ雰囲気と語意から、どんな重要な秘密が明かされるのかと緊張し始める。神に罰せられるとは、どういう意味なのだろうかと考える。
ヨシノリはサラサラのグレーの前髪を掻き上げて、これまで秘密にしてきた右こめかみの印を、3人によく見えるように曝け出した。
「「「 青い星の印!!! 」」」
3人は大きく目を見開きながら同時に叫んだ。
「さあ、誓ってください!決して他言しないと!」
ヨシノリの口調はより厳しくなり、真剣な眼差しが3人に向けられる。
「分かった誓おう。ヨシノリ、お前いつから印持ちになったんだ?」(マサキ公爵)
「俺も誓う!だが、どうして?なんで【青い星の印】が?」(タスク)
「俺も誓う。決して他言しないと!その印とイツキ君は関係があるんだな?」
従兄弟でありタスクの従者であるノランは、話の流れからヨシノリの印は、イツキ君に関係しているのだと判断して問う。
「青い星……その意味が分かりますか?」
ヨシノリはこめかみの【青い星の印】を出したまま、静かに問い掛けた。
「青い星は、ブルーノア教のシンボルマークだ」
「そうです父上。私は今年の3月、ラミル正教会で……この【青い星の印】を神より授かりました。ちょうど新しいサイリスのハビテ様が着任された日でした。それと同時に、私は神託を受け使命を授かりました。その内容は話すことは出来ません。私はこの印の能力で、やらねばならないことがあるのです」
「神託・・・」(マサキ公爵)
「神より授かった……青い星の印を……」(ノラン)
「それが、それがイツキ君と、どういう関係があるんだ?イツキ君は教会の人間だと言っていた。・・・では、イツキ君がお前を教会に連れて行ったのか?そして、父親同然のサイリス様にお前を引き合わせ、その印を・・・いやいや、人が印を……サイリス様が印を授けるなんて聞いたことがない」(タスク)
3人は軽くパニックになっていた。マサキ公爵家の歴史の中で、印持ちが居たという記録はない。と言うか、初めて印持ちの人間に出逢った。まさかそれが息子であり弟や従兄弟になろうとは……正直信じられない。大変名誉なことであり、本来なら王様に届け出るべきことだった。
3人は混乱する頭で、これまでの話を整理しようとする。しかし、目の前のブルーノア教の印と同じである青い星という畏れ多い印を直視し、思わず平伏したい気持ちになってしまう。それ程に【青い星の印】は珍しかった。いや、聞いたこともなかった。
最早、イツキ君のことどころではない大事である。
「イツキ君は、兄上に自分のことを何と言って説明しましたか?」
ヨシノリは思った以上に3人の動揺が激しかったので、前髪を元に戻し印を隠した。
「はっ?自分の説明?……確か……サイリス様は、赤ん坊の時から育ててくれた父親のような存在で、自分は教会の養い子である。そして、治安部隊指揮官補佐に任命された理由の1つが、ブルーノア教会が掴んでいる情報を、レガート国に伝える役目を担っているからだと言っていた。今でも自分は教会の人間で、領主である前に神父として活動しているとかなんとか…………領主になる前から治安部隊指揮官補佐として活動し、上級学校には半分任務で潜入していると」
「それだけでしたか兄上?」
「それから、自分の情報は、エントン秘書官様、フィリップ秘書官補佐様、指揮官様、そしてサイリス様が自分の屋敷に来られた時の情報を纏めたものだと言っていた」
タスクの記憶に足すように、ノランが思い出しながら発言する。
「なんだって!サイリス様が屋敷に来られた?秘書官までもか?」
「そうなんです。だから私は……その話に首を捻ってしまいました」
驚いたようにマサキ公爵は大声で言い、タスクは自分のモヤモヤした原因を話す。
「兄上、答えは今の話の中に入っていますよ。その疑問こそが答えなのです。もう1度今の話を振り返ってください。ノランじゃなくて、兄上の話の中に大きなヒントが入っています。イツキ君は自分のことを、ちゃんと説明しています」
ヨシノリはにっこりと笑うと、イツキ君は自分の教会での立場を、それなりに兄上に話していたのだと思い安堵した。
しかし、そう言われたタスクとノランは、どういうことなのか分からない様子で、ブツブツと話を繰り返している。そこでヨシノリは紙とペンをノランに渡し、文字にしたら疑問が見えてくると言った。
書き出してから20分、3人はその内容を何度も読み返し謎を解こうとする。
一番疑問に思ったことは、サイリス様が屋敷を訪れたこと。そして他の高官もわざわざ屋敷を訪れ、ギラ新教について話し合ったこと。他の疑問は何処だろう?
「いくらサイリス様が親代わりで、イツキ君が領主に成ったとしても、王様と同等位のサイリス様が、個人の屋敷を訪問されるなんて信じられない。そもそもイツキ君は教会の人間だと言っても、ただの神父に過ぎないじゃないか」
ノランはそう呟きながら、サイリス様の行動がどうしても腑に落ちないと言う。
「そうだよ。ただの神父……あれ?……そもそも、ただの神父が教会の重要な情報を、レガート国に伝えられるのか?それに、ハビテ様が来られる前から、イツキ君は治安部隊で働いていた筈だ……?」
タスクは始めから、年下であり学生のイツキをどこか自分より下に見ていた。それはノランも同じで、ロームズで何か活躍したから領主になったのだと思い込んでいた。その後で、治安部隊やらレガート式ボーガンやらの情報が入ったが、そもそも教会の重要な情報を国に伝えているから、治安部隊指揮官補佐や領主に取り立てられたのだという先入観があった。
「いや待て!そこじゃない。イツキ君は14歳だと言っていた。14歳の神父様なんて居るのか?そんな話は聞いたことがないぞ!教会の重要な情報なら、直接サイリス様やファリス様が王様に伝えれば済むじゃないか・・・何故イツキ君なんだ?何故14歳で学生のイツキ君が、そんな重要な役目を負っているんだ?」
マサキ公爵は話しながら目を見開き、終いには立ち上がり急に不安な気持ちになる。
「そう言われたらそうだ。14歳の神父なんていないし、領主である前に神父として活動しているって、領主より神父としての活動を優先しているという意味だ!」
タスクも立ち上がり、見えなかった何かが見えそうになる。でも、見てはいけない気がしてゴクリと唾を呑み込む。
「分かりましたか?僕の口からは、イツキ君の正体を語ることは出来ません。しかし、答えは簡単です。サイリス様はわざわざイツキ君の屋敷に行かれたのではなく、サイリスとして行かねばならなかったのです。現在ロームズ辺境伯邸は、ブルーノア教会が警護しています」
「「「・・・・・」」」
「僕はあの日、奇跡を体験しました」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




