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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
領主会議

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24/222

それぞれの休日(1)

 午後5時、時間通りに予定を終えたイツキは、キラキラの馬車に乗って屋敷に帰ってきた。玄関前で事務長と警備のハーベーさんが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませイツキ様、首尾は如何でしたか?」

「バッチリだよ事務長。明日もお城に呼ばれたから行かなきゃいけないけど……」

「ランカー商会から荷物が届いています。イツキ組の皆さん8名が来られてお待ちです。ランカー商会のトロイ君も一緒です。それからお見合いをする予定の4人が、食事の準備をしてくれています。4人の身上書は机の上に置いてあります」


馬車から降りたイツキは、玄関先で事務長の報告を受けながら、そのままエントランスホールから2階に上がり、自分の執務室に入ると机についた。


「事務長、今日も残業になってすみません。夕食は午後6時半から、7時から4人の女性と面接を行います。面接後は4人をうちの馬車で家まで送るようドッターさんに伝えてください。夕食まで執務室には誰も通さないようお願いします。その後で事務長とクレタ先輩に大切な話があります」


イツキは机の上に積まれた新しい書類に目を通しながら、事務長に指示を出した。


「承知しました。食事の準備が出来ましたらお呼びいたします」


事務長のティーラは、それ以上何も言わず頭を下げて部屋から出た。

 従者パルから今朝もイツキ様は寝ておられないだろうと聞いていた。体も精神も自ら追い込むように仕事をこなす主を、ティーラはフーッと息を吐きながら心配する。

 リビングで楽しそうに騒いでいる学友達との違いに心が痛くなるが、領主会議が終わるまではどうしようもないと分かっている。分かってはいるのだが、体の為に休めと言う親も居ない主に、ここは自分が何とかしなければと思う事務長だった。



 馬車を裏に回したパルは、リビングで楽しそうにはしゃいでいる学友達を見て、はーっと大きな溜め息をついた。あれだけ来るなと言っておいたのに、エンター、ヤン、パルテノン、ミノル、ピドル、エンド、ナスカ、イースターの8人が集まっていた。そしてもう1人、1年生が一緒に待っていた。


「エンター部長!イツキ様は忙しいので今日来るのは遠慮して欲しいと言った筈ですが?それに皆も何故ここに居るんだ?まさか泊まろうなんて考えてないよな?」


パルは無邪気にはしゃいでいる仲間達に腹が立った。明らかに遊びに来たという様子に、悪気は無いと分かっていてもつい文句を言ってしまう。


「なんだよパル。従者になったからって威張るなよ!」(ヤン)

「そうだパル。お前だけイツキ君を独り占めするつもりだろう!」(エンド)

「イツキ君はどうしたんだ?一緒に帰ってきたんじゃないのか?」(ミノル)

「イツキ様は執務室で仕事をされている」とパルは少し怒気の隠った声で返事をする。


「俺は今夜は泊まらない。ヤン、お前は俺の家に泊まれ!」


エンター部長はヤンの怒気の隠った声と、帰宅したのに顔も出さないイツキの状況から、今日は来るべきではなかったと察し、ヤンに今夜は泊まらないぞと告げた。


「ええっ?エンター部長なんで?俺は今夜もイツキ君のベッドで寝るつもりだけど」


ある意味天真爛漫なヤンは、不服そうに文句を言いながら(むく)れる。


「あのなぁ、イツキ様は昨夜は眠っておられない。ここ何日か2時間寝ればいい方だ。皆がぐっすり寝ている間も、イツキ様1人で領主の仕事をされている。俺は……今夜ぐらいは眠って頂きたいんだ!イツキ様は何でも自分でされるから……俺じゃあ役に立たないことばかりで……でも、でも今夜は土下座をしてでも、仕事を休んで眠ってくださいと頼むつもりだ。俺は従者だから、イツキ様の健康管理をすることも仕事なんだ!」


パルは何も出来ない自分が情けないの半分、イツキの大変さに気付いていない呑気な友に腹が立つの半分で、気付けば涙を零しながら訴えていた。

 今夜は泊まらずに帰りなさいと子供達に言おうとしていた事務長は、パルの悲痛な訴えをドアの前で聞き、1人頷くと優しい母の顔をして微笑んだ。


「イースター、今夜はうちの店に泊まれよ。狭いけど大歓迎だぞ」

「う、うん、そうだなトロイ。イツキ君はいつも頑張り過ぎるから、俺達が支えなきゃ……無理して倒れたら大変だもんな」


元ルームメートの2人はパルの話を聞いて、浮かれていた自分を反省しながら言う。

 親友のナスカは思い出していた。朝食時間に同郷のインカ先輩が、今日はイツキ君の家には行くなよと言っていたことを。それなのに、親友を気取って軽い気持ちで来てしまった……睡眠も取らず働いていたことにも気付かず、大変なら助けてやろうくらいの気持ちで……なんてことだ!俺はイツキの何処を見ていたんだ!と反省する。

 同じようにパルに文句を言ったヤンは、青い顔をして打ちひしがれていた。誰よりもイツキ君のことを知っていると自負していたのに、まさか邪魔をしていたなんてとショックが大きかった。


「まあイツキ君は、誰かを上手に頼るのが苦手なんだ。何でも自分でやろうとする。それはカッコいいし尊敬するけど、もっと弱音を吐いてくれたらいいのにと思うことが多い。だが、今の僕達じゃあ()()役不足ということだ。僕達イツキ組は、もっと強くなり、もっと世界を知り、もっとイツキ君に頼って貰えるよう精進しなければならない!今夜泊まる者は、何でもいいから仕事しろ!領主の仕事なんて出来やしない。だったら馬の飼い葉集めでも、必要な物を買い物に行くのでもいい……何か役に立て!」


「「「了解クレタ!」」」

「「「了解ですクレタ先輩!!!」


クレタの話に全員が賛同し、声を出して了解する。

 そして思い出す。自分達は領主の友達に成りたかった訳じゃない。イツキ君というリーダーに惚れて、ギラ新教や悪と戦い学校を守る為に立ち上がったんだと。共にレガート国の為に戦う仲間に成ろうと誓ったんだと。


 そんな子供達の話を静かに聞いていた事務長は、流石イツキ親衛隊隊長だと自分の息子に感心しながら、リビングのドアを開け用事を申し付ける。


「今夜泊まる予定の人はいる?もしも居たらお願いしたいことがあるんだけど?」

「はい泊まります。どんなお願いでしょうか」(パルテノン)

「あら嬉しいわ!来月までにロームズ辺境伯邸の入口に、簡易の門を設置しようと思っているんだけど、人手が足らないのよ。買い出しにも行かなきゃいけないし、男手が無いから困っていたの。領主屋敷に門が無いなんて……ちょっと……恥ずかし……いえ、とっても物騒だと思うのよ」


ティーラはクレタの母親と事務長という2つの顔を上手く使い、これ幸いと来月作る予定の門を作ることにした。これで主(友)の邪魔をせず、帰宅したロームズ辺境伯様を喜ばすことが出来るし、来た意味があったと思えるだろう。


「俺も泊まります。買い出し任せてください」(エンド)

「俺は大工仕事が得意です!」(ピドル)

「力仕事には自信があります。任せてください!」(ミノル)

「俺はカイ領の出身です。木の細工なら任せてください。そうだ!門にロームズ辺境伯の家紋を入れましょう」


さっきまで死んだ目になっていたナスカは、急に生き返りヤル気満々で手を上げた。


「それじゃあ俺は帰ったら、ランカー商会の名前で材料を仕入れるよ。その方が安く手に入ると思う。いいですか事務長さん?」


「トロイ君、それじゃあお願いするわ。図面はイツキ君……あらヤダ、領主様が描いておられるから、食後全員で段取りしてね」


「それでは母上……じゃなかった事務長、門のことはイツキ君には秘密にしてください。イツキ君に内緒にしておいてビックリさせたいんです。どうだみんな?」


「賛成!イツキ君を驚かそう!」(エンター)

「賛成!!!」(全員)



 そんなこんなの遣り取りがあったことなど知らないイツキは、時間通りにリビングにやって来た。


「ごめんみんな、せっかく来てくれたのに忙しくて……」とイツキは長椅子に座り、ちょっと疲れた顔をして謝った。


「いやイツキ君、俺達こそ忙しいところ押し掛けて済まなかった。どうか俺達のことは放っておいてくれ。俺達はパルから御者の話とか、警備隊本部に行った話を聞きたいんだ。ああ、でも何か手伝えることがあれば言ってくれ」


エンターは笑顔でそう言いながら、イツキの疲れた顔を見て改めて反省した。

 イツキが来たところでダイニングに料理が並べられていく。テーブルに全員は座れないので、今日はビュッフェスタイルに近い感じで夕食がスタートした。ダイニングテーブルの料理を皿に取り、リビングで座って食べたり、そのままダイニングで立って食べたりする。


「今日、レガート国立医学大学の大まかな要項が決定した」


医学大学のことなど何も知らなかった者にとって驚きの発言だったが、イツキはさらさらと概要を語っていく。時間にして20分、現在決定した定員、授業料、奨学制度(給付型)、奨学金制度(条件付き)、試験の時期や会場等を、話せる範囲で語った。


「それでは、貴族でなくても医者に成れると言うことですね?」(パル)

「しかも奨学金制度を使えば、レガート国立病院に就職が決まるということだよな」


羨ましそうにイースターが呟く。そして愛するカワノ領の為に、医者になるのも有りかもと想像してみたりする。


 楽しい時間は直ぐに過ぎて、イツキは一足先に仕事に戻っていく。


 残ったイツキ組のメンバーは、事務長から門の図面を見せて貰い、木材や他の部材の購入準備や段取りを話し合う。


「なんだこの図面は!」(クレタ)

「初めて見る開閉式だな」(エンター)

「これって、色々な場所に応用できるよな……すげーな!」(ピドル)

「早速うちの商会で売り出しましょう!そして収入の半分を医学大学に寄付するのはどうだろう?」(トロイ)


「トロイお前、商魂逞しいなあ……でも、これはカイ領でも作りたい。明日はインカ先輩も引っ張ってこよう。寄付金は多い方が良いだろう」(ナスカ)


全員がそうだなと同意し、役割分担を決めていく。それから1時間、ワイワイと出来上がりを夢見ながらミーティングは続いた。



◇ ◇ ◇


「イツキ様、4人同時にということでしたので、皆を連れてきました」

「どうぞお入りください」と、イツキはお見合い予定の女性4人を執務室に招き入れた。勿論紹介者である事務長ティーラも同席する。

 全員領主に向かって正式な礼をとった後、一人ずつ名乗りながら若い人順に椅子に座っていく。全員凄い美人というより、知的だったり優しそうだったり、決して派手でもなく化粧も地味目の女性ばかりだった。


「これから5つの質問をします。どんな答えでも構いません。これは試験ではありませんから。僕は皆さんの個性に合う人を紹介したいので、飾る必要も謙遜する必要も……まして年齢や結婚歴など全く気にせず、自分に素直になってお話しください」


14歳の学生とは思えない落ち着きで、年上の女性にポンポンと躊躇いもなく、ちょっぴり笑顔で話し始める。

 ちなみレガート国では、自領の貴族に領主が縁談を薦めることはよくあることである。しかし、自領の者でもない、しかも女性に縁談を持ち掛けることなど、殆ど聞いたこともなかった。


「では、1つ目の質問です。貴女は結婚相手に選ばれたいですか?それとも自分で選びたいですか?」

「「「「 はい? 」」」」


と、まあこんな感じで5つの質問に全員が答えていく。始めは緊張したり、上手く答えられなかったりしていた4人も、これまでお見合いで訊かれる質問とは種類の違う質問の数々に、もう笑うしかないとばかりに、本音トークが炸裂していく。

 これが成人の男性だったり、年配の男性だったら、あの雰囲気には絶対ならなかっただろうと、4人の女性達は帰りの馬車の中で笑いながら話し合った。


「あんな美少年の領主様なんて詐欺よね!」とか「ええ、あれは領主様というより、可愛い弟という感じだったわね」とか言われながら、「どんな相手を紹介くださるのか楽しみだわ」と、大いに盛り上がったのだった。



 4人の女性との面接?を無事に終えたイツキは、我慢できずにお腹を抱えて笑っている事務長が笑い終わるのを待って、クレタ先輩を呼んで貰った。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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