イツキ、医学大学の準備をする(2)
再度ポルム作りに精を出し始めた研究員の皆さんを、ポカンと口を開けたままの友人達に任せて、イツキはシュノーと話をするため隣の準備室に向かった。
残された発明部部長のユージが、皆の疑問を解消すべく勇気を出して技術開発部の皆さんに質問する。
「あのう……イツキ君は先程シュノー部長のことを兄さんと呼んでいましたが……」
「あぁ、あれは部長の奥様がイツキ君のお姉さんのような存在の人だからだよ」
「そうそう、それもイツキ君が部長に紹介したんだ」
「だからシュノー部長にとってイツキ君は義理の弟みたいなもんだし、キューピットでもある。あぁ、やっと俺達にも春がきそうだ」
「よし!今度こそ何がなんでもポルムを成功させるぞ!」
「「「オーッ!!!」」」
俄然遣る気になった、全員独身らしい研究員の皆さんを複雑な目で見ながら、イツキとシュノー部長の関係を知り、胸を撫で下ろす学生達だった。
同じキシ領の貴族なので、元々交流もあったのだろうと納得することにした。
現在準備室には完成したポルムやアタックインが置いてあり、日頃は厳重に鍵が掛けてあった。
「それで、わざわざ別室で話さねばならない用件はなんだいイツキ君?」
「実は来年から技術開発部の就職が決まったクレタ先輩のことでお願いがあるんです」
イツキは重ねて置いてあった椅子を取り出し、シュノーの前に置き向き合って座る。
「クレタ君?今一緒に居たけど、本人には聞かせられないことなのかい?」
「う~ん……先ずはシュノー部長のお許しがなければ話せないことですね」
イツキは少し困ったような難しい表情で……どこか躊躇いながら話し始める。
「クレタ先輩は、将来リバード王子の側近中の側近として働くことになります。勿論技術開発部でも働きますが、リバード王子の命を守るため、クレタ先輩には医学の知識が必要になります。そこで、来年開校するレガート国立医学大学に、医師になるためではなく特別医学部生として入学させたいんです」
「リバード王子の命を守るため?では、これからも王子は命を狙われるのか?」
「はい、残念ながらそうです……クレタ先輩には技術開発部の医療器具開発班として、研究開発をしながら勉強をして貰います。リバード王子が卒業するまでの3年間、ロームズ領に出向扱いとして欲しいんです。学費を技術開発部から出してください。3年間で必ず医療器具も開発してみせます」
イツキは先日、倒れたリバード王子を手当てしているクレタの映像が視えてしまった。気のせいであればそれでもいいが、予知したのであれば何とかしなければならないと、今回のことを思い付いたのだった。
「確かにレガート国立病院も今年から建設が始まる。そうなれば他国に先駆け医療器具の開発をすることは、我が国にとっても急務となる。医療器具の開発は大学や病院と共同でなければ成し得ないことだしな。分かった。王様に提案してみよう。医療開発課を新設するのも悪くない。だが、仕事しながら医学の勉強をするなんて、並大抵の者では務まらないぞ?」
イツキの話は必要なことだと納得できるが、肝心のクレタがそれを引き受けるだろうかと、シュノーは心配しイツキに問い掛ける。
「クレタ先輩は主席ですから……何とかやってくれると思います。親友のパルテノン先輩もレガート国立医学大学に入学してもらう予定です。技術開発部の建物は国に建てて貰ってくださいね。ロームズ辺境伯は貧乏ですから。……きっと画期的な発明品が生まれるでしょう」
イツキはにっこりと微笑み、予言めいたことを言いながらお願いした。
それからイツキは幾つかのお願いと伝言をシュノーに頼んだ。
◇◇ レガート城 ◇◇
8月7日午前、技術開発部部長のシュノーは、エントン秘書官の執務室に居た。
「これをイツキ君が?」
「はい。医学大学初年度の草案と王様へのお願いが書いてあります。それと技術開発部からもお願いがございます」
シュノーはイツキから託された草案と、医療開発課の新設の計画書を秘書官の机の上に置き、椅子に座って秘書官の意見を待つ。
エントンは「う~ん」と何度も唸りながら、時々「成る程」と呟き、「フーッ」と大きく息を吐いて立ち上がった。
「何かと物要りだが、医療開発課は必要だろう。ハキル学長もイツキ君も、きっと色々考えてくれるだろうから、最低2人はロームズに送る必要がある」
「はいそれは大丈夫です。1人はイツキ君の指示で、来年うちに就職が決まっている学生を送ります。そのことでイツキ君が気になる話をしていました」
そう言ってシュノーは、イツキが話したリバード王子のことを秘書官の耳に入れる。
「そうか……リース様の話だ……間違いないだろう。これまでもイツキ君が予言したことは、全て現実化している。よし!王様の決裁を仰ごう」
エントンは立ち上がり、シュノーと共に王様の執務室へと移動する。
エントン秘書官は、イツキ君からの草案ですと言いながら、王様の執務机の上にイツキの草案用紙を置いた。
【レガート国立医学大学草案】
1)初年度の定員は、医学部25人(13)・薬学部20人(3)・看護学部10人(4)・特別医学部5人。ちなみにカッコ内の数字は、国または領主とロームズ辺境伯が学費を負担する学生数。
2)初年度の一般学生の合計人数は55人。資格取得も可能な特別医学部の5人を合わせ60人とする。
3)特別医学部は既に内科医だけの資格を取得している者や、補助医資格を目指す者が対象となる。
4)次年度からの定員は105人、その内特別医学部は5人とする。
5)修学年数は、医学部3年・薬学部2年・看護学部2年・特別医学部2年とする。
6)1ヶ月の授業料は、医学部15,000エバー(金貨1.5枚)・薬学部10,000エバー(金貨1枚)・看護学部5,000エバー(銀貨5枚)・特別医学部10,000エバー(金貨1枚)但し、寮費は別途必要となる。
【要望事項】
1)授業料免除の奨学制度をつくる。(給付)
各上級学校(9校)・各女学院(4校)の校長から推薦された者で、成績優秀である医学部希望者計13人と、各女学院の校長推薦を受けた看護学部希望者4名の学費を、国または領主が負担する。
2)レガート国立医学大学の奨学金制度をつくる。(無利子)
医学部は1ヶ月最高金貨2枚、その他の学部は1ヶ月金貨1枚とし、期間は入学月から卒業月までとする。
返済は、金貨2枚の者は卒業後、毎月金貨1枚を6年間で返済する。金貨1枚の者は卒業後、毎月銀貨5枚を4年間で返済する。
3)薬学部のみ3人、ロームズ辺境伯学費負担の奨学制度を設ける。
【その他】
1)奨学制度で入学した者は、レガート国立病院で8年以上勤務することを義務付ける。
2)奨学金制度を利用した者は、レガート国立病院に6年以上勤務することを義務付け、給料より返済する。
3)ロームズ辺境伯奨学制度で入学した者は、薬草栽培や薬草採取等の労働を義務付ける。特典として無料でロームズ辺境伯邸に下宿出来るものとする。
【注意事項】
1)医学部の講義はイントラ連合国語を必要とする。(薬学部と看護学部は初級程度で構わない)
2)受験資格年齢は15歳~30歳までとする。
3)初年度の国外からの入学者については以下の通りとし、受験はロームズ領で行う。
医学部5人・薬学部5人・看護学部2人・特別医学部2人の計14人とする。
「なんだろうなぁ……これ草案なの?草案と書いて決定書と読んだりしないよね?イツキ君ってパパっと決めちゃうから……これって反対とかしてもいいのかなあ?」
感心しながらも完璧な草案を出されて、バルファー王は少しガッカリしたように言う。もっと相談して欲しかったし、意見も求めて欲しかったのだ。
「王様、どこか反対すべき箇所が有りましたでしょうか?」
なんだかつまらなそうな顔をしているバルファー王に、シュノーは首を捻りながら問う。
「王様、次の領主会議で採決して欲しいと書いてあります。明日の定例会議にかけるので準備に入っていいですね?」
「あぁそうだなエントン……イツキ君は直接説明に来ないのかなぁ……」
どこか寂しそうにバルファーは窓の外を見て言い、その様子を見たエントンに「ふーっ」と溜め息をつかれる。
「イツキ君は学生です。そして忙しいんです。直す箇所があれば言ってください」
エントンは親友バルファーの気持ちも理解できるが、甘えてないで働いてくださいねと瞳で訴えて、王にペンを渡した。
8月17・18日は、全学生外出可能な休日である。
20日の領主会議の前に準備することが沢山あったイツキは、パルとクレタ先輩と一緒に今日も朝イチの辻馬車で屋敷に戻る。
午後からはレガート医学大学で働く人材の求人を各上級学校に出す為に、レガート城に向かう予定である。
「イツキ様、ランカー商会より就任挨拶用の品物と、ワイングラス、その他の注文品を夕方までに届けると連絡がありました。それから、勝手な判断で決めてしまいましたが、私の知り合いで独身の25歳から35歳の女性4名を、本日の夕食作りに呼んであります。今夜、夕食を召し上がる人数は何人くらいでしょうか?」
出来る事務長のティーラは、テキパキと必要書類を用件別に分け、イツキの執務机に置きながら、同時に口も動かし今日の予定を確認する。そしてイツキに頼まれていた、お見合いをする女性を紹介する段取りもつけてくれていた。
「今日は忙しいから来るなと皆には言ったけど……どうなんだろうパル、先輩?」
「ミノルとパルテノンは来るだろう。まだ来たことがないからな……イツキ君が絶対に来るなと言わなかったから……覚悟はした方がいいな」
「ええーっ!俺は来ても居ないからと、きちんと説明しましたよクレタ先輩」
パルはクレタの話を聞いて、ミノルとパルテノン先輩かぁ……と言いながらイツキとクレタと顔を見合わせ、【イツキ組】のメンバーの顔を思い浮かべて、は~っと長い息を吐く。生憎とこの屋敷は目印の衣装店が前にあるので、裏に在っても見付け易かった。
「仕方ない……事務長、15人分でお願いします。お祝いではないから普通の食事で構いません。そんなに来ないかも知れないので、取り分けて食べる形式でいいです」
「イツキ君、お城へ行っている間に来たら、花壇に花でも植えさせておくよ!」
クレタは母親であるティーラ事務長の仕事を手伝う予定なので、留守に来たメンバーには、しっかりと働いて貰うと請け合ってくれた。
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