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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
リース探しの旅 ダルーン王国編

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受験者たち

 イツキたちがチート正教会のサイリス(教導神父)に面会していた頃、チート芸術学校を受験しようとした推薦入学予定者たちが、聖歌隊の練習が終わった大聖堂に集まっていた。


「どこも雇ってくれる余裕なんてなかったね」

「仕方ないよエレニア。俺たちはチート芸術学校の学生じゃないからな」

「シュバルの言う通り、せめて入学できていたら、町の人も協力してくれたと思うけど、合格しても入学できない俺たちじゃ、同情はしても雇う余裕はない」


集まっていた20人の中でも、一番年長だと思われるルルニクス23歳が、がっくりと肩を落とし諦めの息を吐いた。


「はじめから入学させる気もないのに、受験料の金貨1枚を取るために、試験官のブルフの奴は、授業料が倍になっていることを教えなかった。入学できると信じていたからこそ、金貨1枚を払ったのに・・・悔しい。あのお金は領主様にお借りした大事なお金だったのに」


地方から来たテムス17歳は、悔しい思いを我慢できずに、拳をギュッと握って涙を零した。

 テムスは貧しい村の出身で、近くの領都で働いていたところ、領主様推薦枠で芸術学校に行けるという告知を見て、領主様が行われた試験を受けた。

 芸術学校は初級学校を卒業していれば良かったので、勇気を出して挑戦し、音楽部門の推薦を勝ち取ったのだった。

 授業料(1か月銀貨5枚)の2か月分は前払いという決まりがあったので、領主様が親切に金貨1枚を貸してくださり、町の人に頑張れと見送られて、意気揚々と芸術学校の門を潜ったのである。


「我々は推薦受験だから、実技は合格ですと試験官のブルフはニヤニヤしながら言うんだ。そして既に用意してあった合格と記入された合格証を手渡し、入学手続きを始める。そこで俺たちは初めて、授業料が銀貨5枚から、金貨1枚になったことを知る。入学金は無料にしておいてやったと笑いながら、2か月分の授業料の金貨2枚を15日までに払えと言う」


悔しさと憎しみを滲ませた表情で、上級学校を卒業し、校長推薦で受験しに来ていたシュバル18歳が、全ては入学金を搾取するために仕組まれたことだったのだと、怒りを込めて皆に語る。


「皆には申し訳ないけど、俺は助かったよ。受験前に学校の前で声を掛けてもらって」

「あたしも。受験前に教えてもらわなかったら、金貨1枚を奪われていたわ」


受験直前でシュバルとエレニアに声を掛けられ、受験していない2人は、助かったと感謝しながらも、領主様になんと報告すればいいのかだろうと頭を抱える。

 まだ受験していない12人は、受験もせずに帰ってもいいのだろうか、合格証くらいは貰うべきだろうかと悩んで溜息をつく。推薦してくださった領主様に申し訳なくて、どうすべきなのかが判らない。



「推薦入学を希望する我らは、平民や下級貴族だと分かっているのに、授業料を金貨1枚にした意味が分からない。貧乏人は学ぶ権利がないということなのか!私は上級学校を卒業し、2年間真面目に働き金貨12枚を貯めた。2年分の授業料を払うつもりだったが、全てが無駄になった。芸術学校に1年コースなんてないし、中退した学生は仕事にもありつけない」


声楽科を希望していたヤバル20歳は、例え今回入学しても、卒業することは不可能だと言い、夢のために頑張ってきた2年間を思い項垂れる。


 大聖堂に集まっていた受験者は、声楽科7人、演奏科5人、美術科5人、演劇科3人の20人で、すでに受験し金貨1枚を無駄にしたのは8人だった。

 これまで領主推薦の受験者は、才能を認められた者に限られていたので、不合格になることなどなかった。だからこの場に居る全員が、絶対に合格し芸術学校に入学できると思っていた。

 もちろん、推薦した領主だってそう思っているし、受験料が必要になったことも、授業料が倍の金額になったことも、学校や王宮から通知されていなかった。




◇◇ チート芸術学校 ◇◇


「ブルフ試験官、残りの学生はまだ来ません。今年の推薦入学希望者は20人の予定ですから、まだ試験を受けていないのは12人です。残りは平民が多いので、受験料が必要になったと知り、受験できないのかもしれません」


今月から新しく学校事務官になったホイルマン30歳は、同じく新しく試験官に任命されたブルフに、やや心配そうに報告する。


「いやいや。合格すれば授業料の2か月分は前払いしなければならない決まりだ。だから絶対に金貨1枚は持っている。まあ、宿代もない貧乏人なら、払えないかもしれないがな。今回の受験で、新校長のバッカス王子は、最低でも金貨10枚を集めろと指示されている」


試験官ブルフ45歳は顎を触りながら、楽観的に考えて問題ないと言う。

 新校長である第五王子バッカスの、腰巾着であるブルフは、元々王宮楽師だったのだが、バッカス王子が校長に着任したのと同時に、試験官兼教授として栄転していた。

 ブルフは子爵家の人間だが、姉が現国王の側室にあがり、バッカス王子を産んでいた。だからブルフは新校長の伯父だったのである。


「昨年はバッカス王子の農園が不作だったので、奥方のドレス代が払えないそうだ。

 学生の数が決まっているのなら、貧乏な学生を優遇するより、金持ちの貴族や豪商の子供を入学させる方が、学校にとっても利点が多い。新しい楽器も揃えられるし、職員の給金も上げられる。

 我ら選ばれし者のために、学校が存在していればいいのだ。

 どの道卒業したとして、芸術で食べていくのは難しい。才能などなくても、親が金持ちなのだから、仕事がなくても困ることもない。

 芸術家など増やしても、国の税収が増えることもない。

 忌々しいレガート国が、医学大学など作らなければ、このダルーン王国が、芸術学校を儲かる医学大学にしたものを!」


行ったこともない金持ちレガート国を、ブルフは常々目の敵にしていた。

 ブルフは、医学の何たるかも知らなかったが、医者は儲かると思っていたので、バッカス王子に芸術学校を医学大学や農業大学にした方がいいと助言していた。


 ギラ新教徒である現国王も、農業大国であるダルーン王国には、農業大学が相応しいと考えていた。

 2年後には、芸術学校を廃止し、大陸中から農業を学ぶための学生を集めようと、既に準備を始めているとかいないとか・・・王宮で噂されるようになっている。


「まあ、来年からの2年間は、しっかりと儲けさせてもらうよ。皇太子である第三王子ではなく、バッカス王子に国王になって頂くために金は必要だ」


「そうですねブルフ様、学校は我らバッカス王子派が押さえましたので、皇太子殿下は苦しくなるでしょう。大師ドリル様は、バッカス王子こそが国王に相応しいと言われておられました。王様も、そろそろ考えを変えられることでしょう」


ニヤニヤと右口角を上げながら、男爵であるホイルマンは、勝ち組は自分たちであると確信したように笑った。


 しかし、この2人は知らない。

 大師ドリルは、皇太子である第三王子エバルナの派閥にも、次の王はエバルナ様以外には有り得ないと言っていることを。




◇◇ サイリスの執務室 ◇◇


 案内されたサイリス(教導神父)様の執務室は、ファリス(高位神父)様の執務室よりも質素だった。

 ファリス様の執務室は、大聖堂や他の場所のように机や椅子、本棚にさえ彫刻が施されていたが、サイリス様の執務室の家具は、華美なものなど何一つなかった。

 背の高い本棚が左右の壁に設置してあり、重厚で趣のある古い大きな執務机が、部屋の奥でその存在感を示しているだけだった。多少贅沢なというならば、入室して直ぐの場所に置かれている対面式ソファーセットが、黒い革張りであることくらいだった。


「どうぞお座りくださいイツキ様。お供の方もどうぞ。オーベルト、お茶の準備を」

「はいサイリス様。直ぐに用意してまいります」


 サイリスのハリエル62歳は、瘦せ型の長身で、顔には苦労が滲み出ており、どこか体調も優れないように思える。

 お茶の準備を頼まれたファリスのオーベルト57歳も、疲れが溜まっているようで、顔には深いしわが何本も刻まれていた。


「はじめましてハリエル様。暫くお世話になります」


イツキはにっこりと、いつもの笑顔でサイリスと挨拶を交わし、フィリップとハモンドはイツキの後ろに控えて立つ。


「よくいらしてくださいました。本教会から知らせが届いております。いよいよリース(聖人)探しの旅を始められるとか。早く六聖人を探し出し、この混乱を収めて頂きたいと切に願っております。持ち得る全ての力で協力いたします。何なりとお申し付けください」


ハリエルはイツキの前に跪き深く頭を下げ、どこか安堵したような表情で顔を上げた。

 その安堵の表情に、苦労の深さを感じたイツキは、自分の使命について決意を新たにする。

 イツキは先ず、芸術学校で見聞きしたことから話し、事実関係を確認する。


「そうなのです。完全に騙されたと言っても過言ではありませんが、相手が王子なので手の打ちようがない現状です。後期の受験者は20人で、行き場(学校の寮)を失った彼等は、教会の会議室で寝泊まりしています」


困ったことになりましたと言いながら、できる援助として考えたのが、寝泊まりする場所の提供だったと話す。

 成程と頷きながらイツキが話を聞いていると、ファリス(高位神父)のオーベルトがお茶を運んできた。本来ファリスはお茶など運ばないが、サイリス様以上の神父様に、ファリス以下の神父を目通りさせる訳にもいかなかった。

 お茶を淹れて下がろうとするオーベルトに、イツキはこの場に残るよう指示する。


 オーベルトがサイリス様の隣に座ると、イツキは何も言わずに金色のオーラを身に纏い、【癒しの能力】を発動させる。

 キラキラと小さな光の粒が、突然サイリスとファリスを包み初め、イツキ以外の者は驚いてキョロキョロしてしまう。光の粒に包まれた2人は、みるみるうちに疲れが取れ、心も身体も軽くなっていくのを実感する。

 それが何を意味しているのかが分かった2人は、慌てて立ち上がり跪こうとするが、イツキはそれを手で制して「必ず努力が報われる日はきます。もう少し頑張ってください」と声を掛けにっこりと微笑んだ。


 ……ああ、このお方は本当にリース様なのだ。お身体が光り輝いておられる。なんとありがたいお姿なのだろうと、サイリス(教導神父)のハリエルは心の中で涙を流した。

 

 ……ああ、信じられない。身体の疲れが噓のように無くなった。これは、これこそが神の奇跡なのだ。なんと神々しいのだろうと、ファリス(高位神父)のオーベルトは跪かないまでも、胸の前で手を組み、神とイツキに感謝した。


「芸術学校の受験者たちのことは、私が後で話を聞き、解決策を考えましょう。先に現在のダルーン王国の王族とギラ新教の動きについて、分かっていることを教えてください」


「はいイツキ様。それでは王族の現状から説明いたします」とサイリスが、混乱する王族の説明を始めた。

 

 現国王であるヤバイル・セブ・ダルーン56歳は、3年前に突然原因不明の病で亡くなった先王の弟で、公爵として王宮で生活していた。

 王の死後ヤバイルは、父である国王に毒をもったのは皇太子であると反逆罪に問い、弁明の機会も与えず処刑した。

 残った王子も信用できぬと流刑にし、自分が王位に就いた。


 しかしヤバイル王は体が弱く、政治のほとんどを第二王子に任せていた。

 王妃の子である第一王子は、子供の頃に亡くなっていたので、第二王子が表舞台に立た。が、半年もしない内に原因不明の病で亡くなる。

 ヤバイル王は、流刑にした先王の王子が毒をもったのだと決めつけ、甥である王子を処刑した。


 現在は第一の側室が産んだ、第三王子エバルナ30歳が皇太子になっている。

 第四王子ドルトン28歳は、実の兄である第二王子の死後、体調を崩して実の母である王妃と一緒に王宮を離れ、イントラ連合国との国境の街で静養している。


 王妃と第四王子は間違いなくブルーノア教徒で、次第に変わっていく国王と、3人の側室からの嫌がらせが怖くなり、サイリスに相談しに正教会へやって来た。

 そこで第四王子ドルトンの命を守るため、王妃に助言し王宮から避難させた。


 第五王子バッカス28歳は、第二側室の産んだ王子で、欲深く攻撃的で、最近芸術学校の校長に就任した。

 皇太子になった第三王子と第五王子は犬猿の仲で、常に張り合いお互いを蹴落とすことに余念がない。側室同士の争いも見るに耐えない。

 現在王宮は、第三王子派と第五王子派に分かれ、次期国王争いが激化している。

 

 先王の長女(王女)は、隣国イントラ連合国の王家に嫁いでおり、実の弟たちを弁明の機会も与えずに処刑した叔父を憎んでおり、イントラ連合国の王家との関係は最悪である。

 しかし、イントラ連合国は、王族よりも豪商の方が発言権を持っており、輸出している農産物などには影響は出ていない。


「カルート国より面倒臭いな。ギラ新教は、必ず王族同士で殺し合いをさせる。ダルーン王国も崩壊寸前のようだ」


フィリップは金色の瞳を曇らせ、ギラ新教の遣り口は、どこの国も同じなのだと分かり、嫌そうに溜め息をついた。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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