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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
最後の仕事

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212/222

侍女長、涙の誓い(2)

 泣き止んだ侍女長に、労わりを込めた優しい視線を向けてから、リンダは立ち上がり頭を深く下げていく。そしてゆっくりと頭を上げ話し始めた。


「侍女長、これまで真実をお伝え出来なくて、本当にすみませんでした。

 私とエントン様が、イツキ様がキアフ王子であると知ったのは、昨年の春のことでした。

 それまでのイツキ様は、キアフという名を使われていませんでしたし、王様に会おうともされていませんでした。産まれた国もハキ神国だと聞いていました。

 リバード王子が毒を盛られ倒れられた日、キアフ……いえ、イツキ様は初めて王様に謁見されました。あれだけカシア様に似ておられるのですから、王様は直ぐに気付かれたようです。

 しかし、イツキ様は決してそれを認めることなく、王様やエントン様、そして、このレガート国を助けてこられました。

 イツキ様には、絶対に皇太子になれない事情がおありでした。ですから、親子の名乗りを拒絶され、王子としてではなく、上級学校の学生として、軍関係者として、領主として……そして、教会の神父様として接してこられたのです」


「ですがリンダさん、どうしてイツキ様はお認めにならないのですか? どうして皇太子にはなれないのですか?」


どうしても納得できない侍女長は、すがるような目をリンダに向けて問う。

 その理由が分かっているティーラは、主の抱えているあまりにも重い生い立ちと運命に、思わず涙がこみ上げてくる。

 だからこそ主が危篤になられた時、伯父である秘書官は、王様を呼びに行かれたのだ。王子だから、自分の息子だから駆け付けてこられたのだ。リバード王子を懸命に守ろうとされるのも、リース(聖人)様としてだけではなく、ご自分の弟君であったからなのだと、ティーラはこれまでの疑問が全て解決していく。


「確かに……イツキ様は皇太子にはなれませんね。王様も、ご自分より身分の高いイツキ様に、国王になって欲しいとは……言えないでしょう」


ティーラは一筋の涙を零しながら、椅子を元の位置に戻すと、気の毒そうに侍女長を見てから、ゆっくりと椅子に座った。


「ティーラ、それはどういう意味なの?私が真実を教えて頂けなかったのは、まだ何か理由があるの?お願い、本当のことを教えて!」


侍女長はティーラの手に自分の手を重ねて、真剣な表情で教えて欲しいと懇願する。


「侍女長、イツキ様からお手紙をお預かりしています。私たちの口から、その真実をお話しすることは絶対にできないのです」


リンダは申し訳なさそうに言いながら、イツキから預かった手紙を侍女長に手渡した。



** 侍女長 様 **


 リンダから話を聞きました。

 母を守ってくれてありがとう。私を守ってくれてありがとう。

 母は私を守るため、暗殺者によって背中に矢を受け、生まれたばかりの私を服の中に隠して、真冬の川に飛び込みました。

 瀕死の状態で川を流れていた母と私を助けたのは、当時ファリス(高位神父)になったばかりの、ラミル正教会サイリス(教導神父)のハビテ様でした。

 母は最後に私の名を告げ、私を託し自分の名を言って亡くなったそうです。

 ハビテ様は偶然にもカイ正教会へ行く途中でした。しかし、カイ正教会へ向かう途中で、母と私を殺そうとした追っ手に遭遇し、私を守ることを最優先に考え、カイ正教会のファリス(高位神父)様と相談し、私をブルーノア本教会へ逃がしてくださいました。


 誰が命を狙っているのかも判らない状況であり、キアフ・ル・レガートという名だけでは、私の父親を断定することもできなかったのです。

 当時のレガート国には、私の父親である可能性のある者が数人いました。

 教会は、私の命の救済を最優先に考え、保護したのです。


 では何故、私の存在を新国王に即位したバルファー王に告げなかったのか・・・その理由は3つありました。


 1つ目は、生まれた私がバルファー王の子供だと、教会に告げていなかったことにより、なんのためにバルファー王が赤ん坊を探しているのか分からなかったからです。

 偽王側の子供を殺そうとしている可能性もあったので、教会は保護を優先しました。

 

 2つ目は、犯人の正体を、バルファー王も教会も掴めていなかったからです。

 犯人がバルファー王の側に居た場合、赤ん坊を危険に晒すことになります。

 教会は、母親の居ない赤ん坊を、バルファー王では守れないと判断しました。その判断があったから、私は現在生きているのだと確信できます。


 3つ目は、私が特別な【印】を持って生まれていたからです。

 私は、ブルーノア様が予言された、六聖人の一人でした。

 リース(聖人)としての責務を果たすには、レガート国のためにだけ、生きることはできません。私は、リースは神の子なのですから。


 私がファリス様に助けられたのも、偶然のようでそうではないのです。

 私は、ブルーノア様の予言に導かれて、本教会で幼児期を過ごし、予言によってレガート国に戻ってきました。

 レガート軍(軍学校)で働き始めたのも予言に従ったからです。


 リンダもティーラも、王様も秘書官も知らないことですが、私はブルーノア教会がずっと探していた、大陸を悪神教から救う【予言の子】だったのです。


 私の望みは、ランドル大陸に住む全ての人が幸せに暮らすことです。

 この乱世を正し、ギラ新教と戦うことこそ、私の使命です。

 

 本教会には、リーバ(天聖)様だけが見ることを許された、ブルーノア様直筆の【予言の書】があります。

 その【予言の書】には、1084年1月、レガート国に【予言の子】が生まれる。その者は国王の長子であると書かれています。


 侍女長は、決して母や私を守れなかった訳ではなく、私が神に導かれたのです。

 ですから今後は、私や母のために、自分を責める必要はありません。

 私たちは、心から感謝しているのですから。


 これまで私や母のことで、ずっと心を痛めてこられた侍女長に、お願い事をするのは心苦しいのですが、どうしても一つだけ、侍女長にお願いしたいことがあります。

 リースとしてのお願いです。

 次期レガート国王となる、リバードを守ってください。

 母を殺した犯人は、必ず王宮内に居るはずです。次期王妃であった母を、邪魔だと思った者が潜んでいます。その犯人は、絶対にリバードを狙います。


 これから私は自分の使命を果たすため、旅に出なければなりません。

 サイモスは、ギラ新教に洗脳されている可能性があります。当然王妃も同じです。

 リバードを失うことは、レガート国の崩壊を意味します。



 侍女長の鎖をほどいて自由にすべき立場の私ですが、王宮内でリバードを守れる者が居ないのです。

 どうか、どうかお願いです。リバードを守ってください。  リース イツキ




 手紙を封筒から取り出すと、侍女長は震える手で手紙を読み始めた。

「いいえ、私に感謝の言葉など必要ありません。私は守れなかったのです」とか、「サ、サイリス様が……」とか、「確かに王宮では守れなかったと思います」と呟きながら手紙を読んでいた侍女長は、途中で「えっ!」と言って椅子から飛び下り、ひれ伏して体まで震わせながら、懸命に続きを読み進めていった。

 手紙の後半部分に差し掛かると「も、もったいないお言葉……」と呟いて泣き出した。


『リース様、今度こそこの命、リース様とリバード王子に捧げます』


 侍女長はリースであるイツキに誓うと、涙を拭いて立ち上がり、ここには居ないイツキに向かって、ドレスを摘まんで正式な礼をとった。


「リンダさん、ティーラ、私はイツキ様から新たな任務を授かりました。

 これからは、命を懸けてリバード王子をお守りします。

 リンダさん、私がイツキ様の真実を知ったことは、秘書官様には言わないでください。王宮内にギラ新教徒が潜んでいます。

 きっと、王様や秘書官様では、リバード王子を守れません。

 リンダさん、ティーラ、知恵を貸してちょうだい。

 リバード王子を、王妃カスミラから守る方法を考えなくてはならないの」


決心を固めた侍女長は、イツキに与えられた使命を果たすため、いつもの強くて頼もしい侍女長の顔をして、いや、いつもより戦う気概に満ちた顔をして、リンダとティーラにお願いする。

 この3人は、イツキの秘密を共有しているので、協力し合えということだろうと侍女長は解釈した。

 敵が王妃で女であるなら、女の方が敵の考え方を理解できる可能性が高い。

 特に、カスミラ王妃の異常性を考えると、元王妃の侍女を経験していたティーラは、心強い味方となるはずである。

 秘書官屋敷で長く務めているリンダも、様々な伝手を持っている。

 

「王妃カスミラ様が?……なんてことなの!とりあえず、側室エバ様にお会いしましょう。夏休み期間中のリバード王子の安全性を高めるため、出来ることは何でもやるべきです」


 ティーラは侍女長の話を聞き、信じられないという顔をしたが、直ぐに気持ちを切り替える。既に夏休みに入り、王宮に戻っているリバード王子が気に掛ったのだ。


「そうねティーラさん。エバ様はイツキ様の正体をご存じかもしれません。そうでないと、教会で勉強することをお許しにはならなかったでしょう」


侍女長はティーラの意見に賛成し、直ぐに側室エバ様に会えるよう段取りをつけると約束する。


「もしもの時は、ロームズ辺境伯邸で匿いましょう。イツキ様のお屋敷なら、警備隊と軍、そして教会警備隊が守っています。最悪の場合は、ラミル正教会にお連れすれば、部外者が絶対に入れない部屋があるので安全だそうです」


ティーラは屋敷に度々来ているモーリス(中位神父)のハーベーから、何かあれば教会に逃げるよう指示されていたので、最終手段としてラミル正教会をあげた。


「そうね、カスミラ王妃は、ラミル正教会に足を運ぶことさえないと聞いているわ。危険を察知したら、サイリスのハビテ様にお願いしましょう」


リンダもやる気を出して、可愛い大事なイツキの願いを叶えるため、全力でリバード王子を守ろうと知恵を出していく。




 翌朝、側室エバ様とリバード王子は、礼拝のためにラミル正教会にやって来た。

 そしてサイリスであるハビテの計らいで、リバード王子は神父クロノスに連れられ【丘の上のキニ商会】の仕事を見学に行った。もちろん教会の馬車に乗って。

【丘の上のキニ商会】には、代表者として教師のカインもいるし、教会警備隊も護衛についた。


 ティーラ、侍女長、リンダの3人は、イツキの指示で動いていることをエバ様に告げ、強力な協力体制をとることを約束し合った。

 

 先ず始めに、後宮の侍女やメイドを数人入れ替え、侍女長とティーラが信用できる者を王妃付きにする。

 食事は完全に別々に分け、毒味役には王宮薬師を持ってくる。

 王妃の日頃の行動をチェックし、面会者については、詳しくその身元を調べる。

 王妃の日頃の異常な言動や行いを記録し、メイドや侍女に対する暴力行為などがあった場合は、「王妃として相応しくない」と王宮内で噂を流すことにより、王宮で働く者の視線を王妃に向けるようにする。

 侍女長は怪しまれないよう、これまで通りの中立の態度をとり続ける。


 エバ様は、リバード王子の味方ができたことを心から喜ばれ、よろしくお願いしますと3人に頭を下げられた。

 この日の協力体制が、後に何度もリバード王子の命を救うことになる。   

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話から新章がスタートしますが、確定申告等で忙しくなるので、次回の更新は3月からの予定です。

すみませんが、暫くお待ちください。


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