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イツキ、医学大学の準備をする(1)

突然ギラ新教徒の話題に変えたイツキは、真剣な顔をして注意を促す。


「それはどういう意味でしょうかロームズ辺境伯?」


イツキの話に顔色を変えたのは、タスクの従者ノランである。2人の従者は、主の後ろに立って控えていた。


「ギラ新教徒を纏めて操ろうとする者が現れたようです。これまでは各領地で活動していたギラ新教徒が、リーダーの元で組織的に動き出そうとしています。その手始めに、今回の事件が起きたのだと思います」


「それは何処からの情報でしょうか?」


「先日私の屋敷にエントン秘書官、フィリップ秘書官補佐、ヨム指揮官、ラミル正教会のサイリス(教導神父)ハビテ様がお見えになり、色々な情報を統合して出した結論です」


イツキはノランの問いに正直に話しながら、タスクに厳しい視線を向ける。


「サイリス様?サイリス様が何故ロームズ辺境伯邸に?秘書官もですか?」


タスクはあまりにも高位の重要人物の名に、信じられないと言う表情になる。


「はいタスク様、サイリスのハビテ様は、赤ん坊の時から僕を育ててくれた父親のような存在です。僕は教会の養い子ですから。それから、僕は領主になる前から治安部隊指揮官補佐として動いています。上級学校には半分任務で潜入しています」


「……治安部隊指揮官補佐」(タスク)

「な、なんだって!それは本当なのかパル君」


ノランはイツキの話が真実かどうかを確認しようと、パルに視線を向ける。


「間違いありません。イツキ様は常に指揮官やフィリップ様と連絡を取られています。学校内に居るギラ新教徒とも戦っておられます。ヨシノリ様もイツキ様の仲間として戦っておられます」


パルは少し誇らし気に真実を語る。そして親が洗脳されている場合、子も洗脳されている可能性が高いことや、仲間であるマサキ領のパルテノンが、大師ドリルに洗脳されそうになったことも付け加え話した。


「これからは、身を守る為にも戦う為にも情報の共有が大切になります。僕が治安部隊指揮官補佐に任命されている理由の1つは、ブルーノア教会が掴んでいる情報を、レガート国に伝える役目を担っているからです。僕は今でも教会の人間です。領主である前に神父として活動しています。このことは限られた一部の者しか知りません。ヨシノリ先輩は、そのことを知る数少ない仲間です。勿論このことは口外しないとお約束ください」


「教会の人間……では、そのことも含めて、王様はイツキ君をロームズの領主に任命されたと考えていいのだな?」


まだ半分信じられないという顔をして、タスクはイツキに確認する。


「はいそうです。タスク様、何か困ったことや……緊急の事態が起こった時は、ラミル正教会に逃げてください。ギラ新教徒は、王や王子を殺すことさえ悪だとは思っていません。ですから領主やその子息を殺すことに戸惑いなどありません。決して油断されてはいけません」


 イツキは思っていた。このままギラ新教徒が何もしてこない筈がないと。1度狙われたマサキ公爵邸は、必ずまた狙われるだろうと。





◇  ◇  ◇


 夕方馬車で学校の前まで送って貰ったイツキとパルは、なんとか夕食時間に間に合い遅めの食事をとった。

 食堂内を見ると、珍しくパルテノン先輩が1人で食事をしていた。そこでイツキはそっと近付き、パルテノンを寮の部屋に呼び出した。


「イツキ君どうしたの?僕だけが呼び出されたってことは、植物部で何かあった?」


初めてイツキと2人きりで話すパルテノンは緊張していた。部員の誰かが何か仕出かしたのだろか?それとも自分が何かしてしまったのだろうかと不安になる。


「パルテノン先輩お願いがあります。これから話すことは僕の願いであって、決して強要するつもりもありませんし、断っていただいても構いません。ですから返事も急ぎません。次の領主会議の前までに……出来れば8月15日までにお返事ください」


「なんだか怖いなあ……それは俺個人に関することなんだな?」


「そうですパルテノン先輩。限られた一部の者しか知らないことですが、来年ロームズ領にレガート国立医学大学が開校します」


イツキは少し難しい顔をして医学大学のことを打ち明ける。


「何だって!医学大学?」


初めて聞く話に驚き、パルテノンは思わず革張りの椅子から立ち上がった。

 イツキは医学大学のこれからと、受験について話し始める。


(1)オリ王子の別邸として建てられていた建物を、医学大学にする。

(2)学長は王様の従兄弟であるハキル様に決まっていて、既にロームズで準備を始めている。

(3)まだ建物も完成していないが、来年から第1期生を受け入る。

(4)初年度は医学・薬学・看護学共に少人数になる予定。

(5)9つある上級学校と4つの女学院から、校長推薦として医学部13名、看護学部4名の合計17名が、国費留学できるように王様にお願いする予定。試験は面接と論文だけを予定。

(6)一般試験は12月初旬に、ラミルで自分が行う。

(7)薬学部に関しては、レガート国全学生の中から3名だけ、ロームズ辺境伯が学費を出す枠を作る。試験はロームズ辺境伯が11月末にラミルで行う予定。(この試験に落ちても、12月の一般試験は受験出来る)

(8)他国からの受験者は、ロームズにてハキル学長が12月初旬に行う。



「パルテノン先輩、新設の大学で不便なことも多いと思いますが、レガート国立医学大学の、ロームズ辺境伯枠の薬学部にチャレンジしませんか?ロームズ辺境伯枠の学生は、当分の間ロームズ辺境伯の屋敷で生活出来る特典が付きます」


イツキはにっこりと笑いながらパルテノンに提案した。


「イツキ君は、僕を医学部より薬学部の方に進学させたいんだね?新しくできる農業開発部に就職させたいから?それとも技術開発部?」


 パルテノンの夢は医者になることだった。だが、イツキと出会って薬剤師もありかな……と思うようになっていた。親友のクレタと一緒に技術開発部に行ってから、研究者になる道も良いなぁと考えていた。

 憧れのイントラ高学院を受験する為に、これまで必死に頑張ってきたので、伝統のあるイントラ高学院に行きたい気持ちは強い。しかしそれは、他に医学系の学校が無かったからだ。それが突然、レガート国立医学大学が出来ると聞き、嬉しい筈だが頭の中は混乱していく。

 そして考える。イツキ君はどうして自分をそんなに薬剤師にさせたいのだろうかと。


「僕は先輩に、レガート国で薬草の第一人者になって欲しいんです。ブルーノア教会も頑張って薬草を探していますが、なかなか研究は進んでいません。そして薬草の栽培もなかなか進んでいません。内科医は病気を突き止めますが、病気を治すのは薬です。外科医はケガの治療や手術をしますが、必ず薬が必要なのです。僕は医師と薬剤師の資格の両方を持っていますが、結局絶対に必要なのは薬なのです。薬が無くては……診断が出来ても患者を治すことが出来ないのです」


イツキは必死な表情で、現在のランドル大陸の状況を語る。そしていつの間にかパルテノンの両手を握って、じっと瞳を見詰めて薬の必要性を訴える。


『ぎゃ~っイツキ君、顔が近い近い、心臓に悪いよ!』とパルテノンは心の中で叫ぶ。


「わ、分かった。か、考えておくよ。ロームズ辺境伯枠なら、イツキ君の屋敷で生活出来るんだね?しかも学費はタダ……う~ん……魅力的な話だけど、3日時間をくれ」


「勿論ですパルテノン先輩。あぁ、でも教授はイントラ高学院からも連れてくるので、イントラ連合国語も必要です。きっと僕も教壇に立つと思います」


イツキはにっこりと天使のような笑顔で、残念な話と楽しそうな話の両方をした。





8月5日、執行部と風紀部選挙の立候補の締切日になった。

 夕方の締め切り時間になっても、現役員とエンドとイースター以外の立候補者は現れなかった。その結果、新しい候補の2人を含む全員が、立候補者として掲示板に張り出され、7日までに不信任の申し立てが全校生徒の30%以上出されなければ、無投票で当選が確定することになった。





 8月6日午後、技術開発部のシュノー部長がやって来た。

 今日までにアタックインとポルムの指導を終了する予定になっていたが、上級学校に来ていた4人の研究員から泣きが入ったのだ。


「イツキ君、難しい……アタックインの玉は完璧だが、ポルムがなあ……完全な球体にならないんだが、どうすればいいんだ?」


今日来ていたコウヤが、疲れた顔をして質問してくる。その表情は、本当にこれで球体になるのかぁ?という疑いの表情である。


「ええっ?教えた通りに遣りましたか?」


イツキは面倒臭そうに、出来上がったポルムをどれどれと言いながら見る。


「う~ん、これは空気圧が足らないんですね。それと……つなぎ部分が弱いので空気が漏れているのかも知れません。僕達も完璧に近い球体にするために、何日も徹夜しましたから……あぁ、あの時は本当に辛かったな。そのせいで視えなかったものが視えるようになったりして……フ~っ」


出てない汗を拭きながら苦労の日々を思い出し、たった3日で音を上げる技術開発部の4人に、珍しく嫌味を言うイツキである。


「まあイツキ君、そこをなんとか頼むよ。ポルムが高い技術で製作されたことは我々でも分かる。でも時間がないからもう1度見本を頼むよ」


「分かりましたシュノーさん。その代わり僕のお願いを1つ聞いてください」


イツキはそう言って、ポルムの原料の流し込み作業から始める。そのやり取りを側で見聞きしていた発明部5人と、植物部と化学部の部長・副部長は、イツキの態度に今日もヒヤヒヤしてしまう。技術開発部の部長に対して失礼過ぎる言動に加え、とうとうシュノー部長ではなくシュノーさんと呼び始めた。


「イツキ君、義兄(あに)に向かって容赦なさ過ぎだろう!」

「ええっ?こんな時に義兄さん風を吹かすんですか?コウヤさんやベルムさんや他の独身組に、いい女性(ひと)を紹介する(つて)を見付けたのに……がっかりだなぁ」


イツキはシュノーではなく、上級学校に来ていた独身研究員4人にチラリと視線を向ける。そしてフイと視線を逸らした。


「部長!弱音を吐いて申し訳ありませんでした。我々の心掛けが間違っていました」

「すまないイツキ君。今度こそ成功させて見せるよ」

「そうだ!今日から泊まり込みでも構わない」

「技術開発部の本気を見せる時が来た……だから……ほら、頼むよイツキ君」


4人の研究員は死んだような虚ろな瞳から、急にキラキラした瞳に変わり、希望を胸にキューピットイツキ様に深く頭を下げてお願いする。もう泣き言は言わないだろう。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

昼のニュースで台風が直撃しそうです( ̄▽ ̄;)

どうぞ皆様もお気をつけくださいませ。

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