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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
最後の仕事

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207/222

ヤマノ領での仕事(2)

 翌朝、ドゴルから薬草の代金が届き、薬学部の学生3人に渡すと泣いて喜んだ。1人金貨2枚以上になったので、来年も絶対に行きたいと言いながら、其々の実家に辻馬車で帰っていった。

 教え子を送り出した後は、領主屋敷でエルト様と、風紀部2年部隊長のホリーの父親ドラス男爵との打合せに出掛ける。


「おはようございますエルト様、ドラス男爵」

「おはようイツキくん」

「おはようございます、イツキ伯爵」


ヤマノ侯爵の屋敷の中でも、一番綺麗に海が見える部屋に案内され、イツキは笑顔で挨拶を交わした。

 夏の海はキラキラと青く輝き、本当に素晴らしい眺めである。

 ヤマノ領は、北が北海、西は西海に面しており、南にカワノ領、東はマキ領、東南に王都ラミル、内陸にレガート大峡谷がある。多様な地形を持つ領地である。


「今日は新しく立ち上げる、レガート大峡谷管理組合についての話で良かったんだよねイツキくん?」


「はい、エルト様。私は夏休みから暫くの間、ロームズから離れられません。学校にも戻れないでしょう。なので、申し訳ないのですが、正式に組合が稼働する2年間の立ち上げの期間、責任者をドラス男爵に引き受けていただきたいのです」


イツキはそう前置きをして、これからの予定を2人に説明していく。

 将来はドラス男爵の子息ホリーに自分の屋敷を預けて、組合の運営を任せる。

 職員は、ヤマノ上級学校とラミル上級学校から、5人を採用する予定で、人選は自分で直接口説いて回り、卒業と同時に確保する。


 それまでは、農業技術開発部、レガート軍の建設部隊と国境軍、技術開発部、認定冒険者と連携し、調査を中心に準備をする。

 ドラス男爵に任せるのは組合長で、一番重要な任務は、新しく発見された【レガート冷鉱石】の採掘と管理。

 鉱脈はレガート大峡谷の中心部にあり、辿り着くのも大変だから、本格的な採掘は来年からになると思う。


 利益配分は、レガート大峡谷の領主である自分に3割、ヤマノ侯爵様に3割、レガート国に3割(税分を含む)、医学大学に1割と決定している。販売については、医療用ということもあり、自分が全権を任されている。

 国は開発に軍の人員を提供し、ヤマノ領主は建物を建築する。自分が得る3割の利益全額は、出資金として今年度の組合の運営費に充てる。

 これらの利益配分は、【レガート冷鉱石】についてのみ適用される。

 今年の取引先はロームズ医学大学と、ブルーノア教会病院に限定。

 2年目から他国との取引も始まり【レガート冷鉱石】は大陸中に広がる予定。


「そのような大役、私や愚息に務まるのでしょうか?」


ドラス男爵はまさかの大役に驚き、領主エルトに不安そうな顔を向ける。


「他に思い当たる者も居ない。折角チャンスを与えた4人は、学生の夏大会についていけなかった。しかも失態もあったようだ。イツキ伯爵の派閥に入ったのだから覚悟を決めよ。組合の建物は私が用意する。イツキくん、建物の大きさはどのくらいが良いだろう?」


エルトはドラス男爵に覚悟を決めて、組合長を引き受けろと命令する。


「昨夜設計図を描きました。広い倉庫の横に事務所を作り、2階建ての事務所の2階は、職員が寝泊まりできるスペースとします。敷地内に、警備の者が寝泊まりする建物も必要です。ああそれから、採掘が始まるまでに、鉱石を運搬する特殊な運搬具を作る予定です」


イツキは徹夜で作った設計図を広げて、組合の建物の説明をし、敷地の配置図も出して見せながら指示を出す。ついでに鉱石の運搬について、おまけのように付け加えた。


 会合後は昼食をご馳走になり、少し大きくなったヤマノ領の次期当主イエンを抱っこし、和んだところでラミル上級学校に戻ることにした。

 ここのところハヤマ(通信鳥)のミムも、空飛ぶ最強魔獣ビッグバラディスのモンタンも、毎日のように大活躍である。

 イツキとしては申し訳ない気持ちで、早く休息を与えたいと思っているのだが、当の2羽は、大好きな主に毎日構って貰って喜んでいた。



 

 上級学校に戻ったイツキは、夏休み以降のことを考えて、受け持っていた講義を前期で終了することを校長に告げた。

 後期からは、本来教えるはずの教師が担当することになるので、講義内容を担当教師と打合せし、自分が居なくなっても困らないように調節をしていく。

 医療コースと開発コースの教師からは全力で引き留められたが、ロームズ医学大学と付属病院を運営するためには、領主である自分が現地に居ないことの弊害が大きいという理由で納得してもらった。

 経済コースの農業ギルドについては、他の教師にそのまま引き継いでもらい、今後も協力し合う体制でいくことを約束した。


 平日の午前中は、ラミルの屋敷に戻り溜まった仕事をこなし、商会長として【丘の上のキニ商会】で重要な採決にサインをする。

【丘の上のキニ商会】は予想を越えて軌道に乗り、車輪は国内の販売だけでも年内は予約でいっぱいだし、女性の既製服も嬉しい悲鳴が上がる程に忙しかった。

 意外にも評判が良かったのが、ウエディングドレスのベールの販売だった。

 本来は高級ドレスとのセット販売だったのだが、領主の姫が着るような高級ドレスには手が出せなくても、ベールだけでもワンランク……いやツーランクは豪華に見える演出として、王都ラミルの結婚式で大流行し始めたのだ。


「違うの!こんなはずではなかったのよー!」と、高級ドレス担当のエリザベス32歳は嘆き、ドレスよりベールの注文が殺到したことに納得がいかない。

「売れれば良いのよ!ベールだって私たちが流行を生み出していることに変わりないわ!」と、現実主義のエミリア部長31歳が、腰に手をあて作業の手を休めようとするエリザベスに指導を入れる。


 普段着の既製服は、商家の令嬢や、下級貴族の令嬢に大人気で、特にラミル女学院の学生は、まるで制服のように普段使いし、歩く広告塔のように競ってお買い求めいただけるお得意様である。

 ファッションショーで楽団として参加していた学生が、キシ公爵様とカイ領の姫様との恋物語を、熱く熱く語り、ショーに参加した男性モデルが、どれ程格好良かったのかを自慢したので、素敵な恋を夢見るお嬢様方の心をがっしりと掴んだ。




 そしてイツキ、忙しくて死にそうなはずなのに、【丘の上のキニ商会】の新しい店を、6月20日にオープンする。

 その名も【アタック・イン】・・・イツキの命名だから仕方ない。

 流行の発信と、レガート国の結婚率を上げるため、使える人物を使い、利用できる物は使い倒すという事務長ティーラと、侍女長リリスの発案により開店することになった店である。

 ティーラとリリスは、拒否しても断ってもシツコクやって来る見合いの斡旋依頼に辟易し、ファッションショーに参加できなかった貴族からの苦情にブチ……いやちょっとキレて、出会いのための社交場を作ることにしたのだ。


 バックに、カルート国から帰ってきたばかりでお疲れの、マキ公爵を持ってきた。

「アタックインと言えばマキ公爵様ですわね」と、使える側室のエバ様に一言頂き、国の結婚率を上げるためと言って協力させた。

 コンセプトは【出会い】と【格好いい男】を作り出す、大人のための社交場である。

 ここに全てを丸投げすることで、見合い話を一掃し、漁夫の利を狙う貴族や豪商を、屋敷に寄せ付けないようにするのである。


 そして、当然のことながら、がっぽりと稼がせていただく。


「でも、本当にタダ同然で備品を揃え、今後見合い話を一切受け付けないなんて、……文句は出ないのでしょうか?」


新しくオープンする店の中を見回しながら、イツキは恐縮しながら問う。

 元々貴族の屋敷だった店内には、それなりの家具や調度品も置いてあり、ほとんど改装することもなく、20日もあれば準備が整う予定である。


「当たり前ですわご主人様。1階は小金持ちでも利用できるスペース、2階は貴族専用スペース。女性はセミフォーマルか【丘の上のキニ商会】の服を着ていれば、どちらにも出入り可能にしたのですから、ご自分で相手を見付ければ良いのです」


「これで軍からも警備隊からも、王宮の男性からも泣き付かれなくなるわね。

 アタックイン6台は、マキ公爵様が格安の半額で。ワインはマサキ公爵様が30本無料で。キュー20本はカイ領主様が感謝の気持ちとして。グラスや高級食器はヤマノ侯爵様が、接収した貴族の中古だからと無料で。高級テーブルや椅子はキシ公爵家からお礼として頂きました。


 もちろん、ロームズ辺境伯は代金をお支払すると伝えましたのよ。でも、皆さんが()()()()と仰るのですから、新参者の領主が強引に、折角のご厚意をお断りする訳にはまいりません。

 ホン領主様が、取り潰した貴族のラミルの屋敷を、やはりお礼だと言われてポンとご提供頂いたのには驚きましたが、戦争を回避できたことを考えれば、なんということも御座いません。

 キシ公爵家とカイ領主家は、御婚約が整われたお礼だと、両家の執事さんが涙を流しながら、大変感謝されて目録を置いていかれました。

 全ては、イツキ様のお導き、いえ、神様からの贈り物だと私は考えますわ。


 従業員は、以前面接した上級学校の教師の家族や、女学院の卒業生に声を掛けたら直ぐに集まりました。

 新しい社交場として、また、アタックインの練習場として、先ずは1号店です。

 アタックインの開発者として、他の方には譲れませんから。フフフ」


にっこりと黒く微笑みながら、ティーラは満足そうに説明を終える。

 何か相当ストレスが溜まっていたようで、苦労させてるなぁ……とイツキは申し訳なく感じながらも、スッキリしている感じのティーラとリリスを見て、まあいいかと思うことにした。

 ちなみに、【丘の上のキニ商会】の店に、領主のイツキが顔を出すことはない。

 だからオープンの日にも行かないし、面倒な社交をする必要もなかった。

 可哀想なのは、代表者のカイン先生37歳と、修行中のホーエン24歳(カルート国産業部副部長)の2人だった。


 男性従業員4人の内2人は、【破壊部隊】のレン指揮官から送り込まれた潜入調査員であり、残りの2人はキシ公爵が送り込んできた【王の目】の新人である。

 貴族や商人の社交場である。どんな有用な情報が得られるか分からない。

 イツキが声を掛けたら、2人は喜んで従業員を無償で出してくれた。




 6月15日、イツキは夏大会の特典として、また課題として出されていた、【レガート大峡谷を観光地にするアイデアや問題点のレポート】の採点結果を発表する。

 ラミル上級学校では昼休みに掲示板で、またヤマノ上級学校にはイツキが直接行って発表する。


◎最優秀賞 (ラミル)ホリー2年 金貨1枚 ◎優秀賞 (ヤマノ)エイガー3年、レンブラント3年 銀貨5枚 ◎入選 (ヤマノ)サーチス3年、ダートイ2年、マーチェット1年 (ラミル)ヨシノリ3年、ザク3年 銀貨1枚


 ラミル上級学校が3人、ヤマノ上級学校は5人が入賞していた。

 優秀賞は1人の予定だったが、良いレポートだったので、特別に2人を優秀とした。


 土曜日の昼食時間前にヤマノ上級学校にモンタンで到着したイツキは、いつものように校長室に通され、夏大会についての意見を聞いていた。

 今日のイツキは学生ではなく、ヤマノ領の伯爵として私服で来ていた。


「今回の夏大会における最大の収穫は、学生が自分の領地に興味を抱き、発展させようという意思を持ち始めたことです。これ迄は、王都ラミルで働くことが憧れであり、優秀なら当然中央で働くべきだという考え方でしたが、ヤマノ領の発展のために働く場があるのなら、役に立ちたいという声を聞くようになりました」


「それは有り難いことですね校長。私も提案したかいがありました。

 王様からレガート大峡谷管理組合発足の正式な許可を頂きました。今年の卒業生から数人、採用したいと思います。

 2年間は調査が中心になりますが、新しく【レガート冷鉱石】という医療用の鉱石を発見できましたので、これからヤマノ領の新しい産業の柱になるでしょう。

 他にも宝は眠っているでしょうが、【レガート冷鉱石】の鉱脈ですら、辿り着くのは困難を極めます。

 開発は決して簡単ではありません。挫けない心と、ヤマノ領とレガート国の発展のために尽くしたいと思う熱意のある者に、ぜひ管理組合で働いて欲しいと思います」


イツキは伯爵の顔で微笑み、学生に新たな就職の道を開きに来たと伝えた。

 昼食時間に入賞者を発表し、優秀なレポートを全員が読めるように、3日間開示すると校長に告げ、入賞者を組合への就職に誘いたいのだがと言って許可をとった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

体調を崩し、更新が遅れました。

無理せず更新していくので、これからも応援お願いします。

リース探しの旅に出るまで、あと少しです。

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