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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
最後の仕事

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205/222

医学生とドゴル

 イツキは夏大会後半、農業技術開発部のポート先生と薬剤師のベントンを、レガート大峡谷に連れていき、これから開発する場所や、今回採取した薬草の場所につけられている目印、緑の高原や緑の低地で確認されている薬草について説明した。

 イツキが栽培能力を認めたベントンには、認定冒険者と一緒に、時々薬草採取に出掛けるよう指示を出した。

 栽培するには、生息環境にできるだけ近付ける必要があり、稀少な薬草については、採取場所の土を持ち帰ることも義務付けた。



 28日午前、2校合同夏大会は、大きなケガ人を出すことなく、予想以上の収穫を得て、全員無事に入口まで戻ることができた。

 明日中には学校に到着し、学生たちは、グループ毎に大会の報告書を書き、イツキが賞金を出す、レガート大峡谷の開発についてのレポートを、個人やグループで作成する予定である。


 今日は小さな森から王都ラミルに帰るだけなので、イツキは技術開発部の3人を、レガート大峡谷に連れて行く。

 お宝が眠っていそうな大峡谷に、興味津々の研究者たちは、特別チームを組んで調査することを決めた。

 イツキが発見した鉱石は、直ぐに国王にも報告された。

【ヤマノ冷鉱石】と名付けられ、久し振りに発見された有用な鉱石に、建設部隊と国境軍の一部を、採掘のため国が出してくれることになった。


 利益配分は、レガート大峡谷の領主であるイツキに3割、ヤマノ侯爵に3割、レガート国に3割、医学大学に1割と決定し、販売については医療用ということもあり、イツキが全権を任された。

 これにより、レガート大峡谷管理組合の発足が正式決定した。



 同日、ロームズ辺境伯枠で入学した、パルテノン(マサキ領出身)、ダン(キシ領出身)、ヤスト(カワノ領出身)の3人と、薬草園勤務をしている4人の内、女性のピアラを除くエディオン(キシ領出身)、ガイ(ラミル出身)、レグル(ラミル出身)の3人が、ロームズからラミルに在る農業技術開発部に到着した。


 薬草園勤務の3人は2週間、レガート大峡谷で採取した薬草について学び、一部をロームズ医学大学に持ち帰るための準備をする。

 レガート大峡谷で過酷に薬草採取をさせられると思っていた3人は、まさか農業技術開発部で学べるとは思っておらず、ベントンから栽培方法の指導を受け喜んでいた。

 これからも、ロームズ医学大学の薬草園と薬学部は、農業技術開発部と共に研究し協力しあうことになる。




 29日、イツキはロームズ辺境伯枠の3人を連れて、レガート大峡谷に薬草採取に出掛けた。もちろん行きはモンタンで2往復半する。モンタン大活躍である。

 今回の目的は、緑の低地で1泊、湖で2泊し、薬草と【ヤマノ冷鉱石】を持ち帰ることである。


「これが発見された【ヤマノ冷鉱石】の鉱山だ。

 この鉱石の特徴は、砕くと普通の砂よりも粒子が小さくなり、容易に粉にできること、そして最も重要な特長は、熱を吸収することだ。

 粉にした【ヤマノ冷鉱石】と薬草を水で混ぜ合わせると、粘り気のある物体ができあがる。それを痛みのある患部に湿布すると、痛みや熱が軽減する。


 昨日の鉱石採取で、そろそろ腕や腰が痛くなってくる頃だろう。今日は薬草採取で中腰になる。今夜寝る前に湿布しておけば、その効果を実感することができるだろ」


 3日目の湖の畔で、イツキは昨日削った鉱石の説明をし、その効能について教えた。

 3人は、何故薬草とは関係ない岩山の岩を削って持ち帰るのか、不思議に、いや、どうしてこんな肉体労働をさせられるのか、納得できないと思いながらも、教授であるイツキの指示に従っていたので、ようやくその謎が解けて納得した。


「まあ効果は、先日の夏大会の時に、建設部隊全員を実験体にして証明されている」

「凄い大発見ですよね!」(イツキの知識を尊敬しているヤスト)

「既に効果が証明されているとは、流石です」(文武両道であるイツキファンのダン)

「レガート軍の兵士を、実験体にしたんですか?」


建設部隊の兵士たちに同情的なパルテノンは、使えるものは何でも使うイツキの遣り口というか手法に、それはどうなんだ?と思いながら質問する。


「医学の進歩には、たくさんの人や生き物の協力は不可欠だ。これからもっと改良を重ねて、この成果を秋の学会で発表する。この湿布の研究を、ロームズ医学大学薬学部の目玉とする。頑張れよ!」


イツキは3人に視線を向けてニッコリと笑った。


「えっ?私たちが研究するのですか?」

「当たり前だろうダン。何のためにロームズ辺境伯枠で入学したんだ?」

「そ、それでは、学会用の論文を書くんですか?」

「当然だろうヤスト。きっとイントラ高学院も、ブルーノア教会病院の教授たちもびっくりするだろう。それだけの大発見なのだから」


何を今更……という顔をして、イツキは教え子たちに視線を向ける。


「学会って、秋休みの10月1日~14日に行われるんですよね?確かうちの大学で。

 えぇ~っと、責任者はムッター教授でしょうか?それとも、シルビア助教授でしょうか?……私たち3人は、普通に勉強しながら論文も書けということでしょうか?」


「研究者を目指す者は、早くから研究実績を作り、それを纏め、そして発表する経験を積まねばならない。新しい事実や成果を、広く大陸中に知らせ、医療に貢献することができる人材を、私は育てているつもりだが、違ったかなパルテノンくん?」


教授モードの時は、パルテノンを教え子扱いし、教育者として厳しくなる。

 全ては、これまでランドル大陸に無かった教育概念を定着させるためであり、その為に、この3人を選んだイツキである。


「責任者はムッター教授にお願いしよう。君たちも助手として学会に参加し、質問に答え実演し、そして販売する。他の学生のようにバイトをしていないのだから、当然の義務であり、そして、自分たちが得られる、最大の特典だ」


イツキは大きなチャンスを与えているのだと、3人に向かって言う。

 面倒な仕事を押し付けられたかのよに感じていた3人は、イツキの言葉にハッとして、改めてロームズ辺境伯枠で入学した意味を思い直す。


「分かりました。ロームズに帰ったら、大学病院に来る患者に湿布を使い、多くの症例を集めて資料を作り、学会でバーンと発表します。絶対にイントラ高学院をアッと言わせてみせます!」


「それでこそロームズ辺境伯枠の学生ですパルテノンくん。3人に期待しましょう。さあ、これからは、ドゴルで換金する薬草の採取をします。家族にヤマノのお土産を買って帰りましょう」


イツキは極上の笑顔を見せて、お約束だった薬草採取をするぞと皆に気合いを入れる。

 ドゴルで換金するという言葉は、効果てきめんだった。特に平民で貧乏なダンは、気合いに気合いを入れて、イツキの描いた薬草図を参考に探していく。



 ◇ ◇ ◇ 


 イツキは教え子の3人を連れて、ヤマノ領内で一番大きなドゴルにやって来た。

 ドゴルの名は【ヤマノ本店】。ヤマノ領には大小7つのドゴルが在るが、その内5店が同じ系列の店だった。

 領都にある本店が一番大きく、総合的に品物を扱っていた。王都に在るドゴル【不死鳥】の半分くらいの大きさだが、地方のドゴルは大体こんなものである。


 初めて入るドゴルの様子を探るため、イツキは3人を連れて掲示板に向かった。

 店内は夕方ということもあり、依頼品をカウンターで換金していたり、多くの冒険者が休憩スペースで一杯やりながら情報交換などをしている。

 イツキたち若い冒険者4人を、店内の冒険者たちがジロリと睨んで値踏みする。

 見たことがない4人を、どうやら新人冒険者で、ヤマノ領の冒険者ではなさそうだと見て、ニヤリとほくそ笑む者数人・・・


 イツキは小声で、掲示板に貼られていた薬草の依頼を外し、3人に換金してくるように指示を出す。


「ああ、パーティーの名前は【薬草の覇者】でお願いしますね」

「はあ?そんな大仰な名前なんですか?」(ヤスト)

「願いをこめての命名です。パーティーの名前なんて、どこもこんな感じです」


イツキは笑いながら3人のパーティー名を決め、早く換金するよう視線で急かす。


「すみません。依頼票の薬草です。それ以外の買い取りもお願いします」と、3人は冒険者証を提示して、ドゴルで初めての換金に挑戦する。

 イツキは空いていた椅子に腰掛け、3人の様子を窺いながら、自分をじろじろと見ている数人の冒険者に向かって、にっこりと余裕で微笑んでおく。

 まあ、イツキにしても学生にしても、苦労している冒険者には見えない。どこか学がありそうな面構えだし、ちょっと育ちが良そうな雰囲気も漂っている。

 パルテノンはマサキ領の男爵家の長男だし、ヤストもナイトの家の次男である。薬草採取で疲れてはいるが、普通の冒険者とは明らかに違っていた。


 薬草買い取りカウンターの担当者は、冒険者証を見て「う~ん、貴族で初級冒険者」と唸り、依頼票と薬草を見て、また唸ってしまった。

 最近ヤマノ領では、貴族たちが冒険者登録をするという珍事があり、貴族に冒険者なんて務まる訳がないと話題になっていた。案の定、最近レガート大峡谷に採取に向かった貴族の4人が、ヘマをやらかしたらしいと噂になっていたのだ。

 そして目の前に現れた3人の内2人の身分が貴族だったので、受付の男は面倒臭そうに質問する。


「この薬草は、何処で採取したんだろう?まさか、レガート大峡谷じゃないよな?」

「えーっと、レガート大峡谷です。ああ、これ、認定証です。領主様から許可が出ています」と、リーダー的な役割の、平民であるダンが許可証を取り出して見せた。


 その途端、ドゴル内の空気が変わった。

 今、ヤマノ領の冒険者の話題は、レガート大峡谷に関することだった。

 現在採取の許可は、中級冒険者か上級冒険者が所属しているパーティーで、認定冒険者にしか出されておらず、勝手に採取することも入ることも禁止されていた。

 だから、自分たちも参加したいと思って、初級冒険者やドゴルからの信用がない者たちは、どうしたら認定されるのかと受付で質問するが、いくら質問をしたところで答えてはもらえない。

 当然、ドゴルの掲示板にも、デカデカとレガート大峡谷についての注意事項が貼り出されている。 


 そんな話題のレガート大峡谷の認定冒険者が目の前に現れたので、全員の視線が集まるのは当然のことだった。

 しかし受付の男には、その認定証が本物かどうかが分からなかった。

 直ぐに店長を呼んできて、カウンターで冒険者証と認定証を確認してもらう。


「ドゴル不死鳥発行の冒険者証だ。間違いないだろう」


店長は、持ち込まれていたカウンター上の薬草を見て、凄く高価な薬草ではないが、滅多に採取されない薬草であるとことを確認し、間違いないだろうと言った。


「いや、なんだよそれ、こんなガキが認定冒険者だと?おかしいだろう!」

「コイツら初級冒険者だろう?なんでだ!」

「おい、お前ら!どうやって認定冒険者になった。金か?それとも身分か?」


納得できない冒険者たちが、文句を言いながらダンたち3人に詰め寄っていく。


「レガート大峡谷に入れるのは、愛国心・正義感・責任感、そして専門の知識を有する者だけだ。

 そこの3人は、ロームズ医学大学薬学部の学生だ。この3人よりも、薬草の知識がある者がこの中に居たら、私が領主様にお願いして認定してやろう。

 3人がカウンターの上に出している薬草全ての名前と効能、そして、私がこれから出す薬草の名前を答えられたら、その冒険者のパーティーは、全員レガート大峡谷で行う調査に参加させると約束しよう」


イツキは椅子に座ったまま、よく通る声でドゴル中に居る冒険者に宣言する。


「お前は何者だ!あいつらの仲間だな?初級冒険者が、随分とデカイ口を叩くんだな」


この中に居る冒険者の中でも、一際目を引くガタイの大きさと、見るからに鍛えられている体躯に、鋭い目付きの30代くらいのベテラン冒険者が、ガタンと派手な音を立てて立ち上がり、大きな槍を携えてイツキの前に立つ。


「おいブリードル!ベテラン中級冒険者のお前が騒ぎを起こすな!」


ドゴルの店長が睨みながら、イツキの前に立った男に向かって大声で注意する。

 元上級冒険者だったと噂の店長は、ジロリと他の冒険者にも睨みを効かす。


「こう見えて私は、中級冒険者なんだ。さあ、挑戦者は居ないのか?カウンターの上の薬草の名前を答えられる者は。医学生よりも知識がある者は居ないのか?」


イツキはゆっくりと立ち上がると、挑むように全員に視線を向けていく。 

 その様は、到底初級冒険者とは思えず、目の前に立ちはだかる大槍を持っている男など、全く眼中に入っていないが如く、一切の恐れも怯みもない堂々たるものだった。

 それでも、その様に異様さを感じ取れない凡人は、生意気なひよっこのガキに腹を立て、同じように立ち上がりカウンターの方へ移動し始める。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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