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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
最後の仕事

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204/222

合同夏大会(8)

 イツキたちは、湖を囲っている岩壁に到着し、イグモ少佐はつるはしで岩を削っていく。イツキは湖の回りで薬草を採取する。

 イグモ少佐もイツキも、其々の持っていた麻袋2枚が一杯になったところで作業を終了し、一旦テントに戻り荷物を置くと、夕食のための狩りをすることにした。人数が多いので、子どもを連れていないイノブを2頭仕留めて、昼前には皆の所へ戻った。


 イノブの処理を建設部隊に任せて、イツキは上空から皆の様子を確認する。

 緑の高原には大型の獣や魔獣は居ないが、所々にある背の低い木は大きく枝を張っており、渡り鳥や元々根城にしていると思われる鳥がたくさん羽を休めていた。

 高原の数ヵ所には小さな池のようなものが確認できるので、時々雨が降るのは間違いないだろうが、2メートルを越えるような背の高い草は少ないので、やはりあの濃い霧が大地を潤しているのだろうとイツキは思った。

 そして、学生たちがまだ辿り着いていない場所には、沼のようなものが在るのも確認できた。


 上空にモンタンとイツキを発見した学生たちは、元気よく手を振ってくる。ケガや問題もなく薬草採取をしているようで、イツキはホッと安堵の息を吐いた。

 イツキが事前に確認したところでは、皆に持たせた絵に描かれている薬草は、ほぼ生息していると確認していたし、レア物の薬草も確認していた。

 人の手が全く入っていなかったので、ある意味取り放題ではあったが、薬草だと気付かず踏み荒らしてしまう危惧もあった。


 昼食時間に戻ってきた学生たちは、其々の成果をイツキに持ってくる。

 イツキはグループ毎に薬草を確認し、薬草ではない物を取り除くと、薬草の種類毎に並べていく。手伝ってくれるのは、医療コースをとっている学生たちだ。

 グループ半分の薬草を確認したところで昼食時間となり、残りは午後から仕訳することにした。

 イツキは冒険者たちと一緒に昼食を摂りながら、学生たちの様子や意見を聞いた。


「予想以上に弓や剣の腕がいいんで驚いたよ」

「体力のない者は、薬草採取をする余裕がなく、歩くだけで精一杯だな」

「ヤマノ上級学校の学生から、どうしたら冒険者になれるのかと質問されたから、本気で冒険者を目指す気かも知れんが……いいんだろうか伯爵様?」


 いろいろな意見の中に、冒険者に成りたいと思っている学生が居ると知り、イツキはにっこりと微笑んで言った。「大歓迎ですね。ぜひ、レガート大峡谷専属の冒険者として育って欲しいものです」と。


「ところで、これからレガート大峡谷は、冒険者の採取を認めるつもりなのか……いや、つもりなんですか?」


ヤマノ組の冒険者の代表である【岩山の主】のファベリック40歳が、真剣な顔をして質問してきた。

 他の冒険者たちも、身を乗り出すようにしてイツキからの回答に耳をすませる。


「しばらくは、厳選した冒険者だけに立ち入りを許可する予定です。

 薬草は勿論ですが、魔獣にしても獣にしても、その他の有用な資源にしても、まだ調査が必要です。勝手に採取されては困ります。

 ドゴルには、許可証を持った者以外の入場を認めないと通達を出します。

 将来的には、今回使用した入場口の2ヶ所に、検問所とレガート大峡谷専門のドゴルを設置したいと思います。

 それができれば、全ての冒険者の立ち入りを認めたいと思います」


「入場口に検問所とドゴル?・・・確かにそれができれば、密猟はできないな。でも、それまでの間の調査は誰がやるんだ?」


ラミル組の冒険者の代表である【暁の風】のホルベット28歳は、どこか胡散臭そうにイツキを見て問い、そんなことができるのかと疑るような視線を向ける。


「まあ、最低でも2年は必要でしょうね。優先すべきは調査です。しかも、信用できる者に依頼しなければなりません。

 私やヤマノ領主様対して報告の義務を負い、建設部隊と協力し、レガート大峡谷の開発に協力できる者でなければ任せられません。

 2年間は、ドゴルからの税を私に2割、ヤマノ領主様に1割とし、認定許可証を持った冒険者の皆さんからは、特別に報酬から2割徴収します。その2割は、建設部隊に支払うことになります。

 それでも、独占して採取できるのですから、冒険者としては喉から手が出る程に欲しい認定許可証になるでしょう」


イツキは言い終えると微笑みながら、16人の冒険者たちの表情を探るように、一人一人を見ながら視線を移動させていく。


「そ、それで、その認定許可証を発行する条件はどうするんだ?」(ファベリック)

「人数は何人くらいを考えている?」(ホルベット)

「こんなに広い峡谷を調査するなら、相当な人数が必要だろう」(ファベリック)


「そうですね。ドゴルからの信頼が厚く、建設部隊とも上手くやっていけることが最も重要な条件ですね。

 他の冒険者に情報を売ったり、勝手に仲間を増やすようなパーティーは信用できません。ですから、最低限の人数で……まあ始めは、合計で25人くらいは必要ですかね。

 パーティーもたくさんは必要ないので、6つくらいが望ましいでしょう。


 レガート大峡谷の開発は、ヤマノ領の発展だけではなく、レガート国の薬草の未来も担うことになります。

 薬草に関しては、採取して売るのではなく、栽培を主体に考えられる者でなければダメです。もちろん、栽培用に採取を依頼した薬草は、レガート農業技術開発部で一括して買い取ります。

 栽培された薬草は、キシ公爵領に建設中のレガート国立病院で使用されます。

 選ばれた冒険者の皆さんには、レガート国民の健康と、命を救う使命を背負っていただきたいのです」


 イツキの話を聞いた16人の冒険者たちは、ごくりと唾を呑み込み、次第に大きくなっていく話を、真剣に聞き入っていく。

 ただの生活の糧としての仕事ではなく、ヤマノ領の発展のためとか、国民の健康と命を救う使命などという、妙に格好いい言い回しに、災害級の魔獣を退治したり、危険な岩場で顔料を採取したり、稀少な薬草採取に命を懸けている目の前の16人は、次第に心を動かされていく。


 今回参加していた6つのパーティーの内の半分は、緑の高原に到着した時点で、レガート大峡谷の開発に興味を持っていた。

 それは、見たこともない獣や魔獣に遭遇したこと、広大な低地に広がる緑の中で見掛けた薬草、チラリと見ただけでも稀少そうな鉱石等を既に発見していたからである。

 残りの半分のパーティーも、当然興味はあったが、未開故に危険も伴うことを考え慎重になっていた。


「もちろん、薬草栽培だけが目的ではありません。

 薬草・宝石・香木・鉱石・顔料以外は取り放題ですが、鉱石・顔料に関しては、私かヤマノ領主様に届け出て、発見した物の場所を教えることを条件に採取を認め、納入をドゴルではなく新しく立ち上げる管理組合にします。

 2年間は、調査を目的としますので、未開の場所に分け入り、地図や風景画を書いたり、何処で何を発見したのかを報告することが仕事になります。報告内容によって追加報酬をお支払します」


 慎重になっていたパーティーも、鉱石と顔料という言葉にピクリと眉を動かす。

 顔料や鉱石は発見が難しいが、これほど変わった特殊な場所なら、採取できる可能性は高い。そして、報酬も高額なのである。


「でも、皆さんはお忙しそうだし、無理だと思うので……どうしようかなぁ・・・」


イツキはわざと困ったような顔をして、16人から視線を逸らして考える振りをする。


「【峡谷の覇者】3人は、ぜひ、参加したい。駄目だろうか?」

「【神の雷】も、2人とも参加したい」

「【岩山の主】も参加したい。うちは他に初級冒険者を3人連れているから5人だ」


 3つのパーティーが、調査に加わりたいと直ぐに立候補する。

 その様子を見ていた残りのパーティーも、そわそわと落ち着きがなくなる。


「うちはドゴル不死鳥から、常時魔獣退治の依頼を受けてきた。だから、ドゴルとの打ち合わせが必要だ。他にも見習いの初級冒険者が2人居る。合計5人だが……俺は参加したいと思っている」


【暁の風】のリーダーである上級冒険者のホルベットが、隣にいるメンバーの2人に問うような視線を向けながら答える。

「「俺も賛成だ」」とメンバーのエガーリオとバーキスが、頷きながら同意する。


「それならうちも、【森の支配者】の3人、いや、他のメンバー3人も入れて6人で参加したい。だが、うちには鉱石や顔料に詳しいメンバーが居ない」


ずっと考え込んでいた【森の支配者】のリーダーデットンが、メンバーの2人を見ながら参加したいと言いながらも、困ったように下を向いた。


「それなら、詳しい者を仲間に入れるか、他のパーティーと協力するか、調査に入る技術開発部と一緒に行動することもできます。希望があれば、鉱石や顔料の専門家や、薬草の専門家から講義を受ける便宜をはかりましょう」


イツキはにっこりと、天使のような微笑みを【森の支配者】の3人に向け言った。


「講義を受けられるなら【海の王者】も参加したい。うちは薬草の知識があまりないから、勉強させて貰えるなら頑張りたい。俺たち3人は全員ヤマノ出身だから、ヤマノ領の役に立ちたいと思う」


【海の覇者】のリーダートム27歳が、他のメンバー2人と頷き合いながら参加したいと答えた。


「分かりました。それでは皆さんの6つのパーティーを認定冒険者として許可証を発行しましょう。詳しい打ち合わせは、・・・ドゴル不死鳥で行います。今回の報酬を受け取る時で良いでしょう」


イツキはそう言って、16人全員と握手を交わしていった。予定通りである。




 昼食後は薬草の仕訳をし、建設部隊総出で採取した岩を細かく砕いていく。そして、それに水と薬草を混ぜて捏ねていく。すると、細かくなった岩は普通の粘土よりも粘り気が出てきて、なんだか不思議な物体が出来上がってしまった。


「建設部隊の皆さん、これは湿布です。誰か痛いところに貼って試してみませんか?」


イツキは黒く微笑みながら、実験体になってくれる隊員を探して声を掛ける。

 明らかに怪しげな、見たこともない物体に全員がビビって手を上げない。


「今朝、讃美歌を歌っている時に、神様から、頑張っている建設部隊の隊員を癒せとお声が聴こえたのですが・・・私の力が足りなかったようです」


凄く残念そうに、悲しそうな声でイツキは言うと、ゆっくりと俯いていく。

 今朝の讃美歌……という言葉に、全員がハッとしてイツキを見る。

 あれは絶対に神の奇跡だったと思っている隊員たちは、学生と教師だけに神の祝福が与えられたのだとガッカリしていたが、今の話を聞いて俄然元気になった。

 考えてみれば、建設部隊と国境軍の間では、ロームズ辺境伯様のことを【神のお使い様】と、密かに噂されていたではないかと思い出した。


「ぜひ私に湿布をお与えください」とか「俺は打撲もあるから俺だろう!」とか「では私も!」と、あちらこちらから声が飛ぶ。


「それではじゃんけんで勝った15人は今から、残りの希望者は寝る前に貼ってくださいね。見本を見せるので、勝った人は私の回りに集まってください」


イツキはにぱっと笑って指示を出した。イツキの笑顔には、滅法弱い隊員たちである。


 夕方まで湿布を貼った15人から得たデーターから判ったことは、粉にした鉱石には、熱を取る作用がある、又は患部を冷やす作用があり、鎮痛効果のある薬草と混ぜたことで、試した全員が痛みが改善したと答えた。

 どうやら鳥や生き物が寄り付かなかったのは、熱を吸収する岩を嫌ったのだろうとイツキは結論を出した。植物にしても、粘り気のある鉱石に熱が吸いとられたり、根を張ることができなかったのだろうと推察した。

 早速農業技術開発部と技術開発部の両方に、検証実験をしてもらおうと決め、明日もう1度実験用に採取をしようと決めたイツキだった。


 午後はグループ対抗でポルムを使った新しい競技をして、決勝戦はイツキ第2親衛隊隊長のエンド率いるグループと、建設部隊サガン大尉率いる部隊の戦いとなり、僅差でラミル上級学校が勝利した。

 次の朝は霧も出なかったので、予定通り帰路につく。

 本当は、半分の学生の帰りはコースを変えようと思っていたが、今回はそれを見送り、無理しないようゆとりを持って薬草採取しながら帰ることにした。


 

 そんなこんなで大収穫もあったイツキは、早速医療用に使える可能性のある鉱石を発見したことを、モンタンに乗ってヤマノ侯爵屋敷に飛んでいき、領主エルトに伝えた。

 開発に必要な経費を捻出できそうだと、イツキとエルトは手を取り合って喜んだ。 

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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