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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
最後の仕事

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203/222

合同夏大会(7)

更新、遅くなりました。

 霧で行方不明になった者に場所を示すため、そして、学生たちを落ち着かせるための歌合戦は、16グループによる対抗戦に突入していた。

 曲目は何でもいいとしたので、流行りの歌や応援歌、古くから歌われている歌劇の曲、お祝いなどで踊る曲、子守唄に至るまで、様々な曲が披露されていく。

 半分の8グループが歌い終ったところで、イツキは全員に新しい指示を出した。


「霧が引いていく時、風の流れが起こる。その流れが強いとテントが飛ばされる。至急簡単でいいので畳んでくれ!きちんと片付けるのは霧が晴れてからにする。だから、飛ばされない程度に下に降ろせ!絶対に出歩くな!下に降ろせたら点呼をして、リーダーは報告するように。点呼が済み次第、歌合戦の続きを始める」


イツキはよく通る声で、テントを降ろせと命令した。

 まだ風が吹きそうな気配はないし、息苦しさを感じる程に霧は濃いままだった。

 目覚めてからどれくらいの時間が経ったのか、学生たちのグループ戦も終了し、次は両校の教師の番になり、偶然にも両方が国歌を歌った。

 冒険者の皆さんは、よく酒場で歌う曲を楽しそうに歌ってくれた。

 客観的に聴いた限りでは、ヤマノ上級学校の方が歌は上手いような気がする。

 でも、群を抜いて上手いのは建設部隊の50人だった。25人の2つに分かれていたが、どちらも毎日練習しているかのように美声だった。


「これまでのところ、建設部隊の皆さんがリードしているようです。さあ、これからは個人戦です。我こそはと思う方は、所属と名前を大きな声で言ってから、歌い始めてください。もちろん、推薦もありです」


イツキがそう言うと、「それじゃあ、ラミル上級学校執行部副部長のイツキ君を推薦します!」と、イツキの親友であり、親衛隊の隊長でもあるナスカが叫んだ。

 すると、ほぼ全員から「ワーッ!」と歓声が上がった。

「イツキ様頑張ってください!」とか「イツキ君しっかり!」と、あちらこちらから声が掛かる。

 イツキはナスカの声がした方を睨みながら、言い出しっぺの自分が拒否することはできないとあきらめて、霧が晴れることを願いながら、讃美歌を歌うことにした。


「それでは、皆さんの健康と、夏大会の成功と、早く霧が晴れることを祈って、讃美歌を歌いましょう」


イツキは中央の焚き火に向かって歩きながら、歌う曲は讃美歌であると告げた。



*** 空に太陽が輝き、命の息吹が満ちる大地、水は清く風は歌う・・・


 イツキはスウッと息を大きく吸い込んで、透き通るソプラノで歌い始めた。

 全員と言っても過言ではないと思うが、普通の上級学校の学生は声変わりが終わっている。だから、いきなりのソプラノの声に皆は驚いた。

 そして、あまりの美声に『なにこれ?』とか『天使の声か?』等と思いながら、その清らかな歌声に心が洗われていく。


 歌詞が、***我、神の声をききて祈る時、光射し道は開かれる・・・という場面に差し掛かった途端、それは突然始まった。

 イツキの周りに1センチくらいの光の球体が無数に現れ、イツキの周りをクルクルと回りながら飛び始めた。

 はじめは濃い霧のせいで、イツキの声がする付近から、何かキラキラと光るものが見える程度だったが、イツキの声が一段と響き始めると、その光の球体は一層眩しく輝きを放ち、『あれはなんだ?』と、皆はその不思議な光景を注視する。


 そして、何となく風の流れを感じ始めたと思った瞬間、自分達の居る場所だけ突然霧が晴れた。

 後方もイツキが居る中央もまだ霧は濃いままである。いきなり限られた空間だけが視界良好になったので、何が起こったのだろうかと皆は視線をさ迷わせる。

 イツキの讃美歌は、まだ続いていた。


 開けた視界の先の中央で、1人で立って歌っているイツキに向かって目を凝らすと、少しずつ薄くなり始めたイツキの周りの霧の中を、無数の光が渦を巻くように乱舞していた。

 それは、言葉では表現できないくらい、この世のものとは思えない美しい光景で、半数の学生や建設部隊の兵士たちは、無意識のうちにひざまずき、両手を胸の前で合わせて祈りのポーズをとってしまう。


***・・・導きの声を聞きて祈る。命の限り生きて努めを果たし、神の子であると誓う ***


 イツキの讃美歌が終ったと同時に、光の球体が空へと登っていく。

 その不思議な光景を、全員が無言のまま目で追いながら見ていた。

 そして、クルクルと回る光が空へと消えると、皆は感動したまま視線をイツキに向けた。そこには、一筋の太陽の光を浴びて光輝くイツキの姿があった。


 イツキは両手を胸の前で合わせ、ひざまずいて祈っており、ゆっくりと立ち上がると、両手を高く空に向けて上げていく。

 手の動きを追うように視線を空に向けると、ブルーノア語で【開け】と言って、まるで何かを払うように両手を素早くパッと開いた。

 すると、急に風が吹いてきて、霧が動き始める。

 何故か自分達の居る場所を避けて、どんどん霧は流れていく。

 ただ呆然と、皆は奇跡のようなその光景というか現象を見ていた。

 空から太陽の光が届き始め、辺りの霧が晴れてくる頃には、何事もなかったかのように、テントを畳んでいるイツキを見て、『なんで普通にしてるんだー!』と、全員心の中で盛大に叫んでいた。


「あ、あの、イツキ君・・・さっきの、あ、あれはいったい……」と、皆の視線を一身に浴びているイツキに向かって、勇気を出して質問した者が居た。イツキの担任のフォースである。

 当然全員がその答えを聞こうとして耳を済ます。


「ああ、ありがたいことですね。どうやら皆さんの祈りが神様に届いたようです。讃美歌を歌って良かったなー。さあ、行方不明の2人を探しましょう先生」


イツキはいつもの極上の笑顔でさらりと答えて、行方不明者の捜索に行きましょうとフォースに言った。


「そ、そうか、あれは、イツキ君の讃美歌に、神様が答えてくださった……んだね?」


常日頃冷静なフォースも、他に返す言葉が見付からず、最後は疑問文みたいになってしまった。

『なんじゃそりゃ!』と大半の者は突っ込みを入れたが、声には出していなかった。

 あれほどの神秘的な光景を、神の存在を感じた出来事を、さらりと神様のおかげのように言うイツキの言葉に、皆は益々混乱していった。


「よーし!霧も晴れてきた。朝食の準備を急げ!」


パンパンと大きな音で手を叩き、執行部部長のヨシノリが叫んだ。

 朝食という言葉に、全員が現実の世界に戻っていく。そう言えばお腹が空いたなあと腹を擦りながら、全員が係りの仕事を開始していく。さすがヨシノリである。


「ちょっとイツキ君、あれ、大丈夫?」


皆に指示を出したヨシノリは、急いでイツキの元に走り寄り、イツキの耳元で訊く。

 イツキの従者であるパルも走ってきて、心配そうにイツキを見る。

 イツキがリース(聖人)であると知っている2人は、正直この場をどうやって収拾したらいいものかと、真剣に考えて胃が痛くなっていた。


 実はイツキ、狙って起こした現象ではなかった。

 自分でも、こんなことになるとは思っていなかったのだ。

 昨年12月の領主会議の時、ギラ新教に洗脳されていたミノス領主の記憶を消し、国王や領主たちを洗脳されないようにするため、禁忌の祈りを捧げたことがあった。あの時、イツキは新しい能力(ちから)を神より授かっていたのだが、本人は全く気付いていなかった。

 その能力(ちから)は、自然を味方にする能力で、自然を操るのではなく、自然が勝手に味方してくれる……という感じの能力で、意図して発動できるものではなかった。


「実は、勝手に言葉が出てきて、意図せず力が発動してしまったんだ。ここは、何もなかったかのように振る舞い、不思議なことがあるものだ……で、誤魔化しましょう」


「意図せず・・・?それはそれで困る……のか?」


イツキの答えを聞いたヨシノリも、どうしたものかと首を捻るが、もうこれは神の領域なので、これ以上どうすることもできないと諦めることにした。

 パルは自分の主が起こした奇跡に感動し、これからも必ず御守りせねばと、心新たに固く誓っていた。


「さあ、今朝のスープは薬膳スープです。疲れがとれるように薬草を入れましょう」


イツキは何事も無かったかのように微笑みながら、スープの準備を始めていく。

 調理係りの学生たちは、チラチラとイツキを見るが声が掛けられない。なんだか畏れ多くて、今でも体が光輝いているかのように見えてしまうのだ。


「あれ、そう言えば、起きた時はあれほど痛かった足が……痛くない」

「えっ?そう言えば俺も痛くないぞ・・・」

「あっ!俺も、足も肩も痛くない。昨夜まで腕が上がらなかったのに、普通に上がる。なんでだ?」


調理係りの学生たちが、痛みが無くなったと言いながら視線をイツキに向ける。

 その声につられたように、他の学生たちも「俺も痛くない」と声を上げていく。


「不思議ですね。きっと皆の歌が神様に届いたのでしょう。今日はいい日になりそうだね。そう思うだろう?」


これでもかという程の極上の微笑みを向けて、そう思うだろう?とその場に居た学生たちにイツキは問う。


「そ、そうだよな。きっとこれは、神様の祝福なんだ。やった!」


イツキの極上の微笑みに、勝てる者などこの場には居ない。調理係り責任者であるヤマノ組のサーチス(夏大会実行委員)は、ふにゃりと顔をゆるめて、自分の身に起きた奇跡を、神様の祝福だと思い喜びの声をあげた。

 不思議なもので、【神様の祝福】という言葉がザザザーと広がっていくと、皆は何となくそれで納得していく。


 スープが出来上がる頃には、行方不明だった2人がケガもなく見付かり、皆は安堵し神様に感謝した。急に信心深くなる一同だった。

 そして、朝食中に分かったのだが、痛みが消えていたのは学生と教師だけだった。

 まあ、冒険者や建設部隊の者たちは、日頃から鍛えているので、それほどでもないのだが、それでも妙に落胆していて、イツキはちょっと申し訳ない気持ちになった。


「みんな聞いてくれ!今日は高原で薬草採取をするが、見付けた薬草の株は半分以上残すこと。そして、目印として棒を立てておくこと。出来るだけ高原の端には行かないこと。それから、モンタンで空中散歩をする予定の8人は、夕食の前に飛ぶので係りの仕事の段取りをしておいてくれ」


イツキは朝食が終るタイミングで、今日の注意事項を伝える。

 この後は、グループ毎に分かれて薬草採取に向かう。昼食時はまた集合して、食後はイツキが持参した少し小さいポルムで、足を使った新しいスポーツをする。

 緑の高原は横に10キロ、中央に向かって7キロ近く続いている。ポルムが落ちる心配などない。



「イグモ少佐、すみませんが少し付き合ってもらえますか?」

「はい作戦参謀。何か問題でも?」

「いえ、そうではありませんが、つるはしと麻袋を4枚持ってきてください。これから、湖までモンタンで飛びます」

「了解しました。あの……体調は大丈夫ですか?今回は倒れたりとかは・・・」

「はは、心配を掛けたようですね。今回は大丈夫そうです」


 昨年一緒にロームズに行ったイグモは、イツキの特異性を知っていた。何者かは知らなくても、教会の偉い神父様であることは知っている。そして、奇跡を起こして倒れていたこともよく知っていた。


 イツキはモンタンを呼び、イグモと一緒に皆とは別行動をとる。湖を囲んでいる岩壁の、一部だけ違う岩というか未知の素材を採取しに行く。

 実は先程、讃美歌を歌っている最中に、あの岩を砕き水で溶き、それをある薬草と一緒に混ぜて粘土状にした物を、湿布として使っている光景が視えた。

 あの粘土のような岩は、どうやら薬剤として使用できるようだと分かったので、早速試してみようと思ったのだ。

 運よく?建設部隊の者たちは、足腰の痛みが消えてなかった。きっと、あの素材で湿布を作って試せということなのだろうと、イツキは勝手に解釈していた。

 気の毒な隊員たちである・・・


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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