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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
最後の仕事

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200/222

合同夏大会(4)

気付けば200話目になっていました。

ここまで頑張れたのは、読者の皆様のお陰です。ありがとうございます。


 ヤマノ組の夜営地に到着したイツキは、直ぐにグループリーダーと教師を集めて会議を始めた。


「今回の夏大会の特典として、毎日2人、モンタンに乗って空中散歩を5分間できるというものがありましたが、公平を期すため、グループリーダーがじゃんけんをして順番を決め、どのグループにも特典を与えることに変更しました。

 それから、毎日というのが難しいので、来れなかった日の分は、目的地の緑の高原でまとめて行うことにします。

 今からグループ順を決め、今日に決定したグループは直ぐに2人選出してください。

 選出法方は各グループに任せます。できれば今年で卒業する3年にしてあげてください。1・2年は来年もレガート大峡谷に来るかも知れないので。

 さあ、時間がないのでじゃんけんしてください」


イツキは問答無用でじゃんけんを急かす。そして今日に決まったグループリーダーは、急いで自分のグループに戻り2人を選出した。

 今日の空中散歩に決定した内の1人は、ヤマノ上級学校執行部書記のエイガーだった。

 イツキファンのエイガーは、本当に嬉しそうにイツキの後ろに乗り、初めての空からの景色に絶句していた。

 興奮して大騒ぎするかと心配していたイツキは、夕陽に染まる景色の素晴らしさに、言葉は要らないのだろうと納得した。

 2人目の学生も、始めに「わーっ!」と声を上げたが「なんて美しいんだ」と呟いてからは無言だった。


 夕食時間はラミル上級学校の2つのグループに合流して、今日の様子を興奮しながら語るエンドやパルの話に耳を傾け、執行部部長として両校の調節役をしているヨシノリから状況を聞いた。

 早目に夕食を済ませたイツキは、各グループを回りながら、声を掛けていく。

 引率の教師10人からも意見や要望等を聞き、薬草の採取については、乾燥させても大丈夫な薬草のみを採取して、株ごと採取しなければならない栽培用の薬草については、目印をつけておき、帰りに採取することを徹底させるようお願いした。



 次にイツキは冒険者が集まっている焚き火の所に向かった。


「ご苦労様です。ヤマノ領の伯爵でイツキと言います。今回は難しい依頼を受けてくださり、ありがとうございます」


イツキはいつもの笑顔プラス明るい声で、8人の冒険者たちに声を掛ける。


「これは伯爵様はじめまして。今回は冒険者に護衛の依頼をくださり、ありがとうございます。

 私は今回、こちらの団体の冒険者のリーダーを勤めることになった、ドゴル不死鳥所属の【岩山の主】を率いるファベリック40歳、上級冒険者です。こいつが弟のドレファン39歳、中級冒険者です。

 それから、【海の王者】が3人、【峡谷の覇者】も3人で、全員中級冒険者です。

 よろしくお願いします」


 リーダーのファベリックは、上級冒険者らしい貫禄があり、過酷な地形に生息する薬草や魔獣を専門としているだけあって、それはもう逞しい風貌をしていた。

 ファベリックの挨拶に合わせて、他の7人も順に、依頼主である伯爵様に緊張しながら挨拶をする。

 冒険者が貴族と接するのは護衛依頼くらいで、伯爵様ともなると自前の護衛が居るので、殆どお目にかかる機会もない。


「こちらこそお願いします。私はレガート大峡谷の領主であり伯爵ですが、今回はラミル上級学校の学生として参加しています。それに……私もドゴル不死鳥に所属する冒険者です。まだまだ勉強不足なので、いろいろとご指導くださいね先輩方。【峡谷の覇者】の皆さんは、レガート大峡谷を活動場所にされているのですか?」


イツキは自分の冒険者証を取り出して、リーダーのファベリックに渡しながら、【渓谷の覇者】の3人に質問する。

 当然伯爵様が冒険者だと聞いたメンバーは目を点にしながら、冒険者証を覗き込む。


「まあそうなんですが、殆どカワノ領からの侵入路を使っているので、ヤマノ領から入ることは滅多とありません。こっちは崖が多くて、これまで侵入できなかったんです。今回の同行で、大きく活動の場が開けます」


【渓谷の覇者】のリーダーであるヨルク32歳は、今回この依頼を受けて本当に良かったと、感謝しながら頭を下げた。


「おい、こ、これ、中級冒険者になってるじゃないか!登録が去年で、今年の4月に昇級してる……なんで?」


【岩山の主】のリーダーファベリックが、イツキの冒険者証を見て驚きの声を上げた。

 イツキはいろいろと面倒臭いので、ラミル組の冒険者たちにした説明を、ファベリックたちにも同じようにしていく。中級魔獣を倒したこと、高額の薬草を採取した話が中心である。

 それでも信じられないという顔をしている8人を置いて、忙しいイツキは、直ぐ隣のレガート軍の建設部隊に挨拶するために移動する。

 ここの夜営地は狭いので、楕円形にそれぞれのテントを設置し、中心に2ヶ所、外側に4ヶ所の焚き火をして、獣の侵入を防いでいた。




「お疲れさま。サガン大尉(36歳)は、確かレン指揮官と一緒にロームズに来てましたよね?」


焚き火の回りでイツキが来るのを待っていた隊員の中から、見覚えのあるサガンを見付けイツキは声を掛けた。


「これは作戦参謀。ご、ご苦労様です。はい、私はロームズでもホン領でも、作戦参謀の指揮下におりました。此処に居る全員が、ロームズかホン領で作戦参謀の指揮下で働いた経験のある者ばかりです」


サガン大尉がそう言うと、全員がキラキラした瞳をイツキに向けて「お疲れさまです作戦参謀」と挨拶をする。


 う~ん、ここでは作戦参謀呼びかぁ……まあ、イツキ君呼びは無理そうだなと諦めて、こちらでは作戦参謀と呼ばれることにした。


「ああ、そう言えば、ホン領での対戦結果はどうだったんですか?」


「あれ、作戦参謀は聞いていらっしゃらないんですか?同点だったんです。ですから、両国とも領土は、いえ、橋の境界線は中央のままです」


「そうなんですね。同盟国としては、良い結果だったと思います。今年のロームズ辺境伯杯が楽しみですね。昨年は決勝戦でレガート軍に勝たせて頂きましたが……今年もラミル上級学校が優勝旗を頂きたいものです」


イツキはいたずらっぽく微笑みながら、何気にケンカを売っておく。


「いえいえ、昨年は選手の選抜を間違えましたが、今年は建設部隊を中心としたメンバーで、絶対に優勝してみせます。なあ、みんな!」

「オオーッ!レガート軍が勝つ!」


サガン大尉の話を聞いていた隊員たちが、元気よく雄叫びをあげて勝利宣言をする。


「ラミル上級学校では、また新たなスポーツを考えました。今度は足でポルムを蹴るスポーツです。近い内に・・・いえ、この任務中に、皆さんにお教えしましょう。緑の高原で合流する楽しみが増えました」


 危険と隣り合わせであり、大量の物資を運んで疲れている若い隊員たちに、イツキはわざと煽りながら活力を与えていく。建設部隊は粘り強く、負けん気の強い隊員が多いことを、イツキはよく心得ていた。

 道路の補修や整備は、地味な仕事であり体力も使う。でも、国民の生活を守るために懸命に汗を流している姿を知っているイツキは、いつも感謝していた。




 軍のテントを後にし、少し離れた場所でテントを張っている貴族の団体に、一応イツキは挨拶をしておくことにした。


「こんばんは。慣れない旅で大変ではありませんか?まだ初日ですから、しっかりと睡眠をとってくださいね。何か問題があれば声を掛けてください。ただ、私は1日おきに移動しますので、ゆっくり話す機会はあまりないと思いますが」


どう見てもお疲れのご様子である。貴族の当主や子息が、徒歩で長距離を歩くことなどないので、きっと足腰が痛いだろう。

 でもまあ、自分の陞爵と開発利益のおこぼれを得るための旅なので、泣き言を言う訳にはいかない。しかもイツキは、その利益を分配する側の人間である。


「これはイツキ伯爵、先日はどうも。何も問題ないですよ。今日のために鍛えましたから。護衛も冒険者も揃えていますので、魔獣に襲われても大丈夫です」


ヤマノ領のイスマン男爵は、頑張った笑顔を見せてイツキに元気さをアピールする。

 他にも3組貴族が参加していたが、軽く挨拶を交わすだけにしておく。

 だいたいどの貴族も、家臣の護衛を2人、雇った冒険者を2人連れていて、1組が5人のパーティーになっていた。これならば安全だろう。

 貴族は貴族で協力しあっているようなので、大怪我でもしない限り放っておいても大丈夫だろうとイツキは考えて、さっさとその場を離れた。



 翌朝早く、イツキは冒険者のリーダーであるファベリックと、建設部隊を率いているサガン大尉をモンタンに乗せて、目的地の緑の高原でまで飛んだ。

 2人にはしっかりと地図を頭に入れてもらい、獣や魔獣が現れそうなポイントに印を付けさせた。


「いやー、こうしてビッグバラディスを操っている姿を見れば、中級冒険者なのも頷ける。それに、軍の連中が作戦参謀って呼んでたから、伯爵様は軍の関係者なんですね」


ファベリックはモンタンの頬を撫でながら、中級冒険者なのを疑っていたことを詫びる。そして、建設部隊の者たちに上官のような口振りで話す姿を見て、軍関係者なのだと勝手に理解していた。

 

「明日の朝、採取した物をラミルに運ぶので、獣の毛皮等はきちん処理しておいてください。薬草の代金は払えませんが、獣や魔獣に関しては、ヤマノ上級学校と折半になります。任務完了後に8等分した金額を、ドゴル不死鳥で支払います。頑張ってくださいね」


イツキは2人に後のことを頼み、学生たちと朝食をとってから、再びモンタンと飛び立っていった。




 今日はこれから1人で、大きな湖に薬草採取に行く予定である。

 どんな手練れの冒険者でも、あの湖まで到達するのは難しい。いや、困難だと思われる。それならば、自分が採取するしかない。

 隔絶された世界でも、上空を鳥が飛んでいたし、鳥が水を飲みにくれば、フンから種が芽を出す可能性もある。

 特に渡り鳥が通過すれば、他国やランドル山脈、レガートの森に生息している薬草だって夢じゃない。

 問題があるとすれば、大きな鳥がとまる木がないことだろう。止まり木の代わりに、あの絶壁の途中や天辺に止まる可能性もあるかもしれないと、つらつら考えているうちに目的地の上空に到着した。


 モンタンが高度を下げていくと、湖の回りには多くの鳥の姿が確認できた。

 鳥たちは1番大きな湖ではなく、少し離れた池の周辺で休んでおり、モンタンの羽音に気付くと、大型の鳥は慌てて飛び立っていく。

 小さな鳥は花の蜜を吸ったり種を食べたりして、中型の鳥は池の魚を食べている。

 やっぱり魔獣や獣の姿は見当たらず、イツキは首を傾げた。

 獣が入ってこれない何かがあるのではないか?いくら絶壁に囲まれていても、跳躍できる獣なら入れそうなのに……と思案する。


 薬草採取よりも、その方が気になり始めたイツキは、暫く辺りを観察することにして、湖の中の様子、昆虫、植物の種類等を、歩きながら見て回る。

 足を止めて上空を見上げ鳥の飛行ルートを見ていた時、ある一定の決まりがあることに気付いた。それは、湖を囲む絶壁の中でも、目に見えて低い岩山の上を、決して鳥が飛行していないということだった。

 もしも人がこの湖を目指すなら、一番侵入しやすい高さの場所なのだが、その低い岩山だけ草木が殆ど生えておらず、岩の色も他の絶壁の場所とは違っていた。


『もしかして、燃料鉱石?いや、毒を含む臭気か?』


イツキは嫌な予感と、良い予感とのどちらも持ったまま、その岩山へと歩きだした。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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