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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
怒濤の後期スタート
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イツキ、不死鳥に行く

 ランカー親子は、任命書とイツキの顔を何度も交互に見て、3人共拳をギュッと握りプルプルと腕を震わせ、突然立ち上がり「やったー!ランカー家の長年の夢が叶った!」と、仲良くハモりながら叫んで万歳をする。


「イツキ君ありがとう!うちの、ランカー商会の夢は、いつか領主様御用達の店に成ることだったんだ!ああ、ご先祖様遂にやりました!」(トロイ)


「イツキ様、心を込めてワイングラスに家紋をお入れいたします。ご挨拶のお品は私が責任を持ってご用意いたします。数は……王様を含めて他の領主様が8人、合計9つでございますね。あ~腕がなります!」(アトス)


「ロームズがハキ神国と戦争になり、勝ったという話はつい先日聞きました。それも圧勝したとか。そんな話題のロームズのご領主様がうちの店とお付き合いくださるなんて……感激です!他に必要な物のリストを至急用意いたします。それからご予算はどのくらいでしょうか?」(ランカー)


凄い勢いでグイグイくる3人に、少し押されて呆気に取られていたイツキだが、お金の話になりポム弾のことを思い出した。


「その件ですが、僕は今、本当にお金を持っていません。なにせ医学大学の建設費、運営費、防衛費の半額を負担せねばなりませんし、他にも色々あって稼いだ3,000万エバーも、直ぐに無くなってしまうでしょう」


イツキはなんだか身内みたいに感じたランカー家の皆さんに、色々暴露しながら事情を説明する。


「ちょっと待ったー!今、今、3,000万エバー稼いだと聞こえたが、ど、ど、どうやって稼いだんだ?」


今度は赤い顔で上気したトロイが、イツキの服の袖を掴んでフルフルしながら訊いてくる。他の2人もちょっと目が血走っているのが怖い。


「ええ~っと……絶対に誰にも言わない?」


イツキはしまったという顔をしながら、軽く裁きの能力(ちから)【銀色のオーラ】を放ちながら問う。

 3人はイツキの【銀色のオーラ】など物ともせず、コクコクと真剣な顔をして頷く。


「それはね、戦争でハキ神国軍の総司令と兵士を捕虜にし、僕が領主として、侵略戦争の賠償金をハキ神国に払わせたからだよ」


「「「ええぇ~っ!賠償金?」」」

「そ、それじゃあイツキ君は、学校を休んでロームズに行っていたのか?」


トロイはイツキの話に驚いた顔のまんまで、俺のルームメートは何をしていたんだ?と、想像もできない戦争の話に、生きている世界の違いを感じる。


「これも絶対に秘密!これも国家機密だから……分かるよね?」


イツキは左手の人指し指を口に当て、厳しい表情で念を押す。3人は再びコクコクと何度も頷く。


「僕は上級学校の学生をしながら、【治安部隊】で働いている。夏大会の途中で、ロームズの危機を知り駆け付けた。そしてロームズを悪人から取り戻し、戦争に勝った」


「「「・・・・・」」」


平和なレガート国で商売をしているランカー家の皆さんには、刺激が強いと言うかピンとこない話の内容だった。が、そこはあまり関係ないようで、とにかく、いや多分その働きで、目の前のイツキ君は領主になったのだと考えることにした。


「そこでこれです!これをドゴルに売って、お金を稼ごうと思います」


そう言ってイツキは、テーブルの上にポム弾を置きにっこりと笑った。


「これは何ですか?ドゴルということは、武器ですね。これはどうされたのです?」


ランカーはポム弾を手に取り、まじまじと見ながら質問してくる。


「僕が作りました。何せロームズは領民が8,000人の小さな町です。税収もあまり見込めないので、領主が稼ぐしかありません」


そこからイツキは、ポム弾をレガート国中のドゴルに売り、そのお金の一部をロームズ辺境伯の身仕度に当てようと思っていると話した。そしてポム弾のこれからの予定も打合せする。


「しかし、それなら直接ドゴルに売り込んだ方がいいんじゃないか?」


「トロイ、お前はまだ世の中が分かっていない。こんな見たこともない凄い物を、まだ成人もしていないイツキ様が持ち込んだら大騒動になる。出所を調べられ、旨い汁を吸おうと思っている奴等に狙われる。このポム弾はイツキ様の所有権が付いているから、イツキ様が好きに売っていい。だからこそ、信用できる店とドゴルに独占させることにより、安全性を高めようとされているのだ。イツキ様、ランカー商会でよろしいのですか?」


「ええ、トロイを信じている僕は、ランカー商会を信じようと思います」


イツキは天使の微笑みでそう言いながら、立ち上がりランカーさんに右手を差し出した。

 ランカーさんはドアの前まで下がり正式な礼をとった後、イツキと握手を交わした。勿論アトスもトロイも礼をとり握手する。

 それから4人は、ロームズ出店の話やラミルに支店を出す話で盛り上り、是非とも泊まって欲しいと頼まれたイツキは、もう1人一緒でいいならと了承した。夕方やって来たフィリップの身分と役職を聞き、トロイ以外は腰を抜かしそうになった。

 しかし、それほどイツキが重要人物なのだと考え、夢を叶えてくれたイツキと神に感謝するランカーだった。



◇◇ ドゴル不死鳥 ◇◇


 7月24日にクラスメートであるトロイの実家ランカー商会に泊めて貰い、翌朝ラミルに向け出発したイツキ、フィリップ、ランカーは、途中の町で1泊し、26日午後王都ラミルに到着した。途中キシ公爵の屋敷の前でフィリップを馬車から下ろし、イツキとランカーは約束通り、王都ラミルで1番大きなドゴル(冒険者が依頼を受けたり、採取した物を持ち込んだり、売ったりする店)不死鳥にやって来た。


 イツキはランカーを休憩スペースで待たせておき、冒険者証を取り出し受付2の、依頼受付・確認・案内係りのカウンター前に立った。


「すみません。店長さんか副店長さんにお会いしたいのですが?」


イツキはにっこりと営業スマイルで、受付のお姉さんに冒険者証を提出しながらお願いする。

 すると受付のお姉さんは、イツキと冒険者証をまじまじと見て挙動不審になりながら、「少々お待ちください」と言って奥の部屋に走っていった。

『あれ?何かあったのかな?』とイツキが首を捻っていると、夏大会でお世話になった薬草担当のホームズさんに、「何をしとるんじゃ、ちょっと来い」と後ろから声を掛けられた。そして引き摺られるように、奥の別室に連れていかれる。

 そこには微妙な表情の副店長ノートンさんと店長が居て、薬草担当のホームズさんに、無理矢理向かいの椅子に一緒に座らされた。


「イツキ君、先ずは5月に魔獣ドンプラーを退治した件だが、本来新人冒険者は中級魔獣を退治することは禁じられている。まあ今回は突然襲われたらしいから仕方ないが、今後は魔獣退治ではなく薬草採取に専念してくれ」


「店長、そこじゃないでしょう!ほら、ギニ司令官からの報奨金と、上級学校長が受け取りを拒否した素材料を渡してください」


渋い顔をした店長に、副店長のノートンがせっつくように言う。


「仕方ないのう……ワシから渡してやろう。ほれ、こっちがドゴルに出ていた依頼料の金貨15枚、こっちが素材の買い取り料の金貨15枚じゃ。本当はもっと出せたが、お前さん達は新人冒険者だから、解体料や手数料が割高で、半分はドゴルの取り分になった。それからこれは、ドンプラーを退治した報奨金として、領主のギニ司令官から頂いた金貨6枚じゃ。締めて合計、金貨36枚じゃ。3人のパーティーだ。話し合って分けろ!」


ドゴル不死鳥で働く者の中で1番年長であり、店長も頭が上がらないホームズが、店長に代わって用件を伝え金を渡す。


「えっ?僕達お金が頂けるんですか?」

「当たり前だ!冒険者が魔獣をタダで退治する訳がない。は~っ……やれやれ」


店長は疲れたように深く息を吐き、常識を知らない新人に頭を抱える。どうりで待てど暮らせど金を取りに来ないはずだと。


「それで、金を取りに来たのでないなら、いったい店長になんの用で来たんじゃ?」

「はい、ホームズさん。実はドゴル不死鳥で、是非売って欲しい物があるんです。冒険者用の武器なんですが……その件で、会っていただきたい人がいるんです」


イツキはそう言うと、その武器を実際に見て貰ってから話をするので、ドゴルの中庭で待っていて欲しいと頼む。ドゴル不死鳥の建物の裏には解体場や倉庫があり、やや広い中庭に冒険者達が解体処理を待つ休憩所もあった。 

 イツキは先にランカーさんを紹介する。2人はしっかりと打ち合わせ済みである。


「はじめまして、ランカー商会のランカーと申します。この度、この世にない新しい武器を取り扱うことになりました。入手先はこちらのイツキ様です。あまりにも特殊な武器ですので、私が仲介させていただき、レガート国では、こちらのドゴル不死鳥様だけに販売権をと希望されています」


ランカーは物腰柔らかく丁寧に挨拶をして、お土産ですと言ってマキ領特産の魚の燻製を店長に渡す。酒呑みには堪らない土産である。


「これからお見せする武器は、恐らく軍や警備隊にも納品することになりますが、そちらは別ルートでの納入になります。先ずは実物を見てください。主に小動物や鳥の狩猟、危険回避時に使用することになるでしょう。射程距離は15メートルくらいです」


そう言ってイツキは、中庭に置いてあった古い板を木に立て掛けた。そしてリュックからポム弾を取り出し、中庭に落ちていた小石を拾うと狙いを定めて撃つ。

〈〈 パンッ 〉〉と音がして小石は板に当たった。石は板に食い込んでいる。

 次にイツキは先程の小石の倍はある石を拾うと再び撃った。〈〈 バンッ 〉〉と音がして板は真っ二つに割れる。


「「「なんだそれはー!!!」」」


店長、副店長、ホームズの3人は仲良くハモりながら叫んだ。そしてイツキに向かって走り寄ってくる。

「ちょっと見せろ!」とか「俺に貸せ!」とか「俺は店長だぞ!」とポム弾を手に取ろうと揉め始める。イツキは笑いながら、鞄の中からあと2つポム弾を取り出した。



「皆さん!いつまで遊んでるんですか。商談しないなら僕は他の店に行きますよ!」


あれから30分。色々と的になる物を見付けてきては、まるで子供のように夢中でポム弾を撃っている3人に、イツキは最後通告をする。10分毎にそろそろ商談をと言ったのだが、もう少しあと少しと言って30分が経過し、忙しいイツキはランカーさんと帰ろうとする。


「えっ、すまないイツキ君、待ってくれ何処に行くんだー!おーい、ちょっとー」

「店長のせいですよ!何やってるんです!」

「ノートンお前だって同罪じゃないかー!」


店長と副店長は、慌ててイツキとランカーの後を追い掛ける。

 薬草担当のホームズだけは、そのまま暫く試し撃ちを続ける。中庭に来た冒険者達は、その見たこともない斬新な武器にギラギラした目を向け釘付けになる。



「現在卸せるのは300です。多いなら200でも構いません」


「何を言う、300では足らんだろうが、こりゃあ1パーティーに1つと限定せねばなるまい。国内の武器を扱うドゴルの数は70を越える。大きなドゴルだけでも30あるんだ。うちが30、いや50取ったら、他に廻せるのは250。う~ん……困った」


「店長、僕は忙しいんです!値段ですが1つ15,000エバーで、僕が10,000(金貨1枚)、不死鳥が3,000(銀貨3枚)、ランカー商会が2,000(銀貨2枚)、それでいいですね!他のドゴルで売る時も、決して17,000エバーを越えないように設定させてください。守れないドゴルが出たら、不死鳥にも卸しません」


「分かった。でも、金貨2枚でも売れるぞ。本当に金貨1枚の取り分でいいんだな?」


「それでいいです。ただし、耐用年数は半年~1年くらいだと思います。しっかりと説明してくださいね。それでは、この場所にポム弾を取りに来てください」


イツキはそう言い残して、王宮へ向かうため馬車に飛び乗った。

 残されたランカー、店長、副店長は、イツキに言われた通りの契約を結び、やれやれと安堵し店長室から出ると、ポム弾を見た冒険者達が「早く売ってくれ」「いくらだ?」と騒ぎ始めていて、これは間違いなく完売すると確信した3人である。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 商談の軽妙さと数字で銭勘定も忘れない感じ、商魂もしっかりあるのは、こういう世界で生き抜くには必須な能力だなあと。
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