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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
最後の仕事

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198/222

合同夏大会(2)

 6人の先輩冒険者たちから、たった1年で中級冒険者になったことを、疑られることになったイツキは、信頼関係を築くためにも本当のことを言うことにした。

 ウソをついたところで、ドゴル不死鳥に行けば、ある程度調べられるのだから。


「そうですねぇ……特殊な依頼をクリアしたとすれば、ソボエの町の黒い悪魔と呼ばれていた、中級魔獣のドンプラーを退治したことですかね。

 初級冒険者は戦ってはならないと店長に叱られましたが、突然襲われたので仕方なかったんです。死にそうな目に遭ったけど、運が良かったんですねきっと。

 他には、稀少な薬草をそれなりに納品したので、薬草だけで金貨50枚(500万円)は越えてますね。

 でも私は、学生もしてるし他の仕事もあって、あまり活動ができなかったんです」


「はあ?なんだと!あの黒い悪魔を退治したというのか?学生のお前たちが?」


【暁の風】のリーダーのホルベットは、信じられないと首を横に何度も振る。

 運が良かったくらいで退治できる魔獣ではないし、何人かの冒険者が帰って来なかったと聞いている。そもそも軍に要請を出すほど狂暴な人食い魔獣だったはずである。信じられないのも当然だった。


「薬草で金貨50枚を越えるって、お前のパーティーは何を納品したんだ?薬草専門の俺たちは、ずっと働いているが年間で金貨50枚を超えるようになったのは、中級冒険者に成ってからだぞ!」


【神の(いかずち)】のガースは、怒りのこもった声で問い質してくる。

 2人の、いや、皆の見解は無理からぬことであるが、常識知らずのイツキは、冒険者の平均月収や、年収を知らなかったのだ。しかも、イツキは自分が稼いだ金額の話をしているが、皆はパーティーで稼いだ金額の話をしているのだ。

 上級学校を卒業したエリートの役人でさえ、月収は金貨2枚である。年収にすれば金貨24枚なのだが、それはエリートの給料である。そう考えれば分かりそうなものだが、イツキは常に自分が貧乏だと思っているし、金策に追われているので、かなり感覚がずれていた。


「これから話すことは絶対に秘密にしてくださいね。店長に叱られますから。え~っ、眠りの香木とか、水紫草とか、1番高額だったのは……子宝ダケですかね」


「「「な、なんだとー!子宝ダケ!」」」

「「「眠りの香木!」」」


驚きのポイントは2つに分かれていたが、仲良くハモって目を見開いて固まる。


「そう言えば昨年、そんな噂が流れたことがある。貴族がこぞってドゴルに買い物に来ていたと」


薬草専門のガースは、昨年の11月頃のことを思い出しながら、じ~っとイツキに視線を向ける。

 他の者の瞳も怪しく光り、まるで獲物を見付けたように、いい笑顔になった。


「卒業したら、冒険者に成るんだろう?」(ガース)

「いいえ」(イツキ)

「そんなに稼げるのなら、王宮で働くより冒険者になれよ!」(ホルベット)

「無理ですねぇ」(イツキ)

「じゃあ、冒険者を辞めるのか?」(デットン)

「いいえ、辞めませんよ。でも、他の仕事が忙しいので……」(イツキ)


 考えてみれば、ドゴルの昇級はとても厳しい審査があるんだったと全員が思い出した。ということは、目の前の学生は本物の中級冒険者なのだ。

 こんな美味しそうな……いや、こんな優良物件など見たことがない6人は、何がなんでも自分のパーティーに誘わねばと、ギラギラした目付きに変わっていく。

 この瞬間、3つのパーティーはライバルとなった。


「「「俺のパーティーに入らないか?」」」


3つのパーティーのリーダーが、またまた仲良くハモりながらイツキを勧誘する。


「私の話を聞いてませんでしたか?他の仕事が忙しいんです。まだ学生をしていますが、貴族として領地の開発をしなくちゃいけないし、他にもいろいろあって無理なんです。これから向かうレガート大峡谷は、私の領地ですから」


「な、なんだって!レガート大峡谷が私の領地!!!」


体は標準より小さめで、笑顔が可愛い目の前の学生が領主?それもこんな広大な領地を治める領主なのか?……と、6人は驚きを通り越して担がれているのではと、仲良くハモりながら怪訝そうな視線をイツキに向ける。 

 しかし、視線を向けながら6人は思い出していた。

 ドゴル不死鳥の店長から、今回の依頼は、レガート大峡谷の領主である伯爵様から、直々に出された依頼だと説明された時のことを。そして、その依頼内容が上級学校の学生を引率することであったと。


「お前、貧乏だって言ってたよな?」(デットン)


「ええ、そうですよ。だって、レガート大峡谷には住民が居ないので、税収が無いでしょう?収入がないのに、こうやって皆さんに依頼料だって払わなくちゃいけない。そもそも私は教会の養い子なので、親だっていないんです。家族みたいなハヤマ(通信鳥)とビッグバラディスのモンタンはいますが、人ではありませんし」


「あーっ!ビッグバラディス!!」


全員が大事なことを思い出し大声を上げた。この時点でイツキの貧乏領主の話より、空飛ぶ最強魔獣の方が、冒険者たちには重要な話となった。


「私のモンタンは教会の聖獣で、とても優しくて愛嬌があって、とにかく可愛いんです。紹介するので滝の所まで行きましょう。ぜひ皆さんも、頬を撫でてやってくださいね。とても喜ぶので」


イツキはニコニコと上機嫌で、モンタンの自慢をする。そして、6人を引率して【深淵の滝】へと向かう。

 6人は歩きながら、空飛ぶ最強魔獣を可愛いと笑顔で話す冒険者を、ホントかよ?と疑いながら、信じていいものかと迷ってしまう。

 困惑した顔の6人を引率して、イツキはモンタンが待っている【深淵の滝】に鼻唄を歌いながら向かった。





 午後5時過ぎ、ラミル上級学校の学生とレガート軍の建設部隊25人が、ヤマノ領の小さな森に到着した。

 他の建設部隊の25人は。先発した執行部部長ヨシノリ率いる2グループと一緒に、今頃はヤマノ上級学校の一団と合流しているはずである。


 森の中にある休憩所とその周辺で、一斉にテントを張る。その間にも調理係りは夕食の準備をする。軍での教えを思い出しながら全員が作業に取り掛かる。

 初めてのキャンプ、初めての森を経験する学生たちは、テンションが上がっていた。中には魔獣や獣に襲われるのではないかと、びくびくする者もいたが、これ程の大人数がいれば、獣の方が恐れて寄り付かないだろう。


 先ずは責任者会議である。

 責任者会議のメンバーは、学生代表として風紀部隊長のヤン、教師の責任者としてフォース、冒険者代表の【暁の風】のホルベット、軍の代表が建設部隊のイグモ少佐、そして総責任者のイツキを入れて5人である。

 イツキは今回、学生と領主の2つの顔で夏大会に臨むことにしている。


「明日の進路については、先程冒険者のリーダー3人を、モンタンに乗せて確認済みです。明日の出発前に、フォース先生と、イグモ少佐にもモンタンに乗って確認していただきます。

 冒険者が先導する形になるので、グループリーダーと進行係りは、必ずよく打ち合わせをしてください。

 夕食時間に、各グループの担当冒険者を発表するので、食事後は8つのグループ毎に、冒険者の方から注意事項や明日の段取りの説明を受けてください。

 私は皆が出発したら直ぐ、ヤマノ上級学校の様子を上空から見てきます。

 明日の私の仕事は、皆がコースを外さないか確認することと、重傷のケガ人が出た場合に病院に搬送することです。

 昼前には、私も皆と合流します」


イツキは代表者会議で、明日からの段取りを説明していく。

 質問はその場で受けて、不明な点や不安なことがないよう、忌憚なく意見を出し合うよう心掛けた。

 夏大会が成功できるよう、連絡方法や緊急時の避難方法等を確認し、協力し合うことを全員で約束した。

 夕食後は、グループに分かれてミーティングである。冒険者に自己紹介したり、明日からの段取りを聞きながら親睦を深めていく。




 イツキは少し離れた場所にテントを張っている、建設部隊に顔を覗けた。


「お疲れ様です。今回はお世話になります。キャンプ指導もありがとうございました皆さん。よろしくお願いしますイグモ少佐」

「お疲れ様です……えーっとイツキ伯爵?って呼ぶんでしたっけ?」

「いえいえ、イツキ君でいいですよ」

「いやー、辺境伯様をイツキ様でもなくイツキ君と呼ぶのは……ちょっとどうなんでしょう?まだ前の副指揮官の方が呼びやすいですね」


イグモの言葉に、隊員たちの多くはウンウンと頷いている。

 これまで上官として皆の前に立っていたイツキを、急に学生扱いするには、上下関係がはっきりしている軍の皆には抵抗があった。

 しかもである。先日開催されたお見合いパーティーに参加した建設部隊の少尉クラスの隊員が、全員彼女を作ったらしく、違った意味で()イツキの人気は鰻登りだった。


 あの強面のヤマギ副指揮官を、若くて可愛い男爵家の跡取り娘と結婚させ、逆玉にのせた上に子供まで授かったときては、期待しないはずがない。

 極めつきだったのは、キシ公爵アルダスにプロポーズさせたことである。

 当然その場には軍関係者も居たのだから、噂は翌日にはラミル中に轟いていた。

 最近では貴族ばかりではなく、普通の隊員たちにもご縁を結んでもらおうと、平民の娘とのお見合いパーティーを開催して欲しいとの熱い声が上がっているとか。

 だから、少しでも頑張ってイツキに顔を覚えてもらいたいと、独身の隊員たちは気合いに気合いを入れて今回参加していた。


 そんなこととは露知らず、イツキは明日からの行程を説明していく。

 基本的に軍の一行は、学生の後ろを付いていく。

 建設部隊の役目は道を作ることなので、学生が安全に通過した場所はそのままでよいが、危険な箇所があればその場で改良し、大掛かりに手を加える必要がある場所は、後日工事をするため目印をつけておく。

 もちろん学生の行く手が危険で、手詰まりになってしまった時は、建設部隊が岩を退かしたり、簡易の橋を作ったり、道を固めたりする予定である。




 翌朝イツキは、フォース先生とイグモ少佐を順にモンタンに乗せて、朝焼けの空を緑の高原まで飛んで行き、ルートを確認させた。

 昨日イツキは、コース上空を数回飛んで、簡易的な地図を作成していた。その地図を見ながらコースを確認した2人は、モンタンがいなければ、決して地図を作成することも、ルートを前以て確認することも不可能な地形であると理解した。

 そして、モンタンを操ることができるイツキに、改めて畏敬の念を抱いた。


 出発に先立ち、学生代表としてヤンが挨拶をし、昨日決まった順に3列で【深淵の滝】に歩いて向かう。

 先頭を行くのはヤンのグループである。

 昨年ヤンは、イツキとエンター先輩と一緒にこの森に来ていた。

 そこでギラ新教徒だったドエルたちと対戦したのだが、まるで昔の出来事のように感じた。まだ1年しか経っていないのだが、他にもいろいろなことがあったので、すっかり記憶の片隅に追いやっていたのだ。

 再会したイツキが言っていたように、時代は今、激動の時代に突入しているのだと、改めて感じるヤンだった。



イツキは皆が出発したのを確認し、モンタンに乗ってヤマノ上級学校一行の様子を見に向かった。

 ヤマノ上級学校の学生は120人で、6つのグループを作っており、執行部部長ヨシノリが率いる2つのグループと合わせて、グループの数はラミル上級学校の一行と同じ8つになっている。

 こちらの冒険者は、ドゴル不死鳥から1組2人と、ヤマノのドゴルから2組6人の合計8人が引率していた。


 学生の後ろを建設部隊の25人が続き、その後ろを見ると、ヤマノ領の貴族の一団が4組付いているのが分かった。

 一応護衛も自前で用意しているようなので、学生たちの足を引っ張らなければ問題ないだろうとイツキは思った。

 が、しかし、2日目にはこの一団が結構お荷物になっていく。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次回は26日投稿予定です。

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