合同夏大会(1)
更新が遅くなり申し訳ありません。
5月15日、いよいよ夏大会が始まる。
ヤマノ上級学校の学生と一緒に行動するグループが、早朝から先発して旅立った。
翌16日、残りの学生たちはキャンプの指導を受けるため、軍の研修施設に向かう。
研修内容はキャンプの基本と、獣や蛇などに出会った時の危険回避の方法、食事の準備についてである。当然食料は現地調達することになるので、調理係は獣の解体やさばき方を学ばなければ、全員が肉を食べることができないのだ。
「調理係が1番楽だと思っていたのに、なんでこんなことに……」と、貴族のお坊っちゃまである学生たちは、半分涙目で毛皮を剥いでいく。
テントの張り方も慣れてはいない。軍コース以外の学生は全てが初めての経験であることが多く、初歩の初歩から教えられ、秘境に行くということは、どういうことなのかを体験し、軽くピクニック気分でいた者は、早くも後悔し始めていた。
今回学生たちを引率してくれるのは、ドゴル不死鳥推薦の中級クラス以上の冒険者である。そして、今後の開発を視野に入れて、レガート軍の建設部隊が50人随行する。
建設部隊の仕事は学生を守ることではなく、観光開発や薬草栽培の為に、安全な通路を確保するためであるが、教育も引き受けてくれていた。
他国では、道路建設や橋の工事は軍ではなく、官僚や役人が実権を握り民間に仕事を発注していることの方が多い。その場合、国の資金の多くが使われ、料金も受注した商会の言い値である。
また、国が少ない金額を提示した場合、商会は金額に見合った仕事しかしない。
カルート国などがよい例で、道路整備は進まず、国策であるべき優先事項にも拘わらず、穴だらけの道路は、専ら応急処置を施されるだけである。
役人も商会も誰も工事に責任を持たず、資金の多くはいつの間にか何処かへ消えることも多かった。
以前のレガート国も似たような状況だった。しかし、6代くらい前の王が、平和が続くレガート国に於いて、軍備よりも国力向上を掲げたことにより、道路整備は軍の仕事になっていた。
そして大国として恥ずかしくないよう整備され始めたのは、ここ14年の間である。
それは、建設に関わる技術が飛躍的に改良され技術力を上げたからであり、その原動力となったのが【奇跡の世代】である。
キシ公爵アルダス率いる【奇跡の世代】が、新設された建設部隊の礎を作ったのだ。
そんな【奇跡の世代】は、現在建設部隊の上官として多数が勤めており、皆がイツキのファンである。
今回のミリダ国との戦争に於いて建設部隊は、いち早く国境に駆け付け国を守ったとして、国王から褒美を貰っていた。
上官である【奇跡の世代】たちは、それがイツキの指示であったと知っていたので、活躍の場を与えられ、階級も上がったことで、イツキの指揮者としての能力に益々惚れ込んでいた。
そんなこんなで建設部隊の殆どの者は、ロームズでオリ王子との戦争か、ホン領国境に於けるミリダ国との戦争のどちらか、又は両方に参加していて、直接ロームズ辺境伯であるイツキの指揮下に入った経験があった。
だから本来なら、貴族の子息であるラミル上級学校の学生のお守りなど、真っ平ごめんと断るところだが、誰が参加するかで喧嘩になるほど希望者がでた。
当然イツキがリーダーとして参加しているからである。
特にイツキの軍学校時代の教え子や、ロームズ組の者は張り切って参加を勝ち取っていた。
そんなロームズ辺境伯大好きな建設部隊の皆さんは、嬉々として学生たちを指導してくれる。
今回の責任者に指名されたのは、国境軍のヤマギ副指揮官(隊長から昇格した)の元直属の部下であり、ロームズに共に行った、現在建設部隊に移動しているイグモ少佐(大尉から昇格した)である。それはそれは嬉しそうに厳しく、全くの手加減なしで指導を行っていた。
残念ながら引率する教師も全員、今回の軍のキャンプに参加し、同じ訓練をさせられていた。指導すべき教師が無知では、学生に指導などできないのだから。
軍での研修を終え、すっかり疲れた一行は17日の早朝、馬車でヤマノ領の小さな森へと向かう。
夕方には冒険者たちと、森の入口で合流する予定である。
午後4時、ヤマノ領の小さな森の入口で、ドゴル不死鳥の依頼で集まった3つのパーティーが雑談をしていた。
午後5時頃には、ラミル上級学校の代表者が到着する予定で、他の学生たちが到着するまでに打ち合わせを行うことになっている。
「今回の引率で、各グループに1つポム弾をタダでくれるらしい。引率の報酬は1人金貨3枚だから普通だが、ポム弾はなかなか手に入らないから助かるな」
今回の護衛任務の総責任者として、ドゴル不死鳥から指名された【暁の風】のリーダーであるホルベットが、他のグループの責任者たちに話し掛ける。
ポム弾が発売された頃、【暁の風】はランドル山脈で魔獣と戦っていて、王都ラミルに居なかった。
帰ってきた時には、2度目の発売の予約も締め切られており、悔しい思いをしていた。
ホルベットは28歳とまだ若いが、数少ない上級冒険者であり、中級魔獣を倒した経験が多いことから、赤髪の狩人と呼ばれている。メインの武器は槍で、頭を正確に狙ってひと突きで魔獣を倒す凄腕の持ち主である。
鍛え抜かれた体躯は逞しく、腕はまるで太股のような太さだった。
しかし、短く切り揃えられている赤髪は特徴のひとつだが、瞳は焦げ茶色で人懐っこそうな優しい感じであり、決して眼光鋭く人を威圧したりなんかしないし、どちらかというと気のいいお兄さんである。
彼を赤髪の狩人と見分ける方法として、右目の横の傷をあげる者は多い。なんでも獰猛な中級魔獣ベアトンと戦った時に付けられた傷らしい。傷だけ見れば気のいいお兄さんには見えない。
「そうだな、俺たちは中級冒険者が2人のパーティーだから、なかなか購入の順番が回ってこなかった。正直助かるよ」
【神の雷】の代表であるガース35歳は中級冒険者で、まだ持っていないポム弾がタダで支給されると聞き、今回の護衛を引き受けていた。
ガースは珍しい薬草専門の冒険者で、もう1人は攻撃型の冒険者である。
ドゴル不死鳥はポム弾の特徴を考え、初級冒険者が多くいるパーティーを優先してポム弾を販売していたので、中級冒険者のガースは、まだ購入の順番が回ってきていなかったのだ。
「俺たち【森の支配者】は、既にポム弾を入手したが、小動物や鳥の採取には凄く役立っている。魔獣の目を狙うのにもいい。魔獣は顔を攻撃されるのを嫌がるから、初動で役立つ」
【森の支配者】の代表であるデットン27才は、魔獣専門の攻撃型冒険者である。パーティーの3人が上級に近い中級冒険者という実力者揃いのパーティーで、レガート国内ではかなり有名だった。
そんな有名なパーティーを率いているデットンは、イツキがヤンとエンターを連れ、初めてドゴル不死鳥に冒険者登録しに行った時、偶然ドゴルの中に居たひとりである。
貴族の坊っちゃんが大嫌いだったデットンは、イツキたちの貧乏ぶりに驚き、上級学校に通いながら、生きるために冒険者に成ろうとしている3人を見て、貴族も大変なんだと考え方を変えた。
そして、既にピンクホビックを3匹も狩っていた3人の学生を見て、貴族に対する偏見を砕かれた。
貴族なんて学校で武術を習っても、所詮は役にも立たず、狩りさえできない甘ちゃんだと思っていたのに、小型とはいえ獰猛な魔獣をあっさりと狩ったことで、実力は本物であると認めざるを得なかった。
だからデットンは、今回の護衛に参加すれば、あの時の学生に会えるのではないかと期待していたのだ。
「おい、あ、あれは何だ!あの巨大な鳥、いや魔獣は?」
【暁の風】のエガーリオ32歳が上空を指差しながら、リーダーのホルベットたちの方に向かって大声で叫んだ。
「あれは、ビッグバラディス?いや、まさか、そんなはず……あれはレガートの森の番人のはずだ!どうしてこんな所に・・・レガート大峡谷にも居るのか?」
リーダーのホルベットはあんぐりと口を開け、信じられないものを見たという驚きで固まった。
「俺は最近ラミルで見たぞ。3月に国王が国内全土に緊急告示を出しただろう。確かあれはブルーノア正教会の聖獣で、決して攻撃してはならないと書かれていたぞ!」
薬草採取を主な生業としている【神の雷】のリーダーであるガースが、ラミルの上空を飛んでいるのを目撃した時の話をし始める。初めてラミルに飛来した時は、ドゴルの中でも大きな話題になっていたと。
【暁の風】はその頃ラミルに居なかったので、目撃するのは初めてだった。
「俺たち、随分と時代に取り残されてるな……今回の仕事が終わったら、暫くラミルで休むことにしよう」
【暁の風】は危険な魔獣退治を依頼されることが多く、ミノス領やカイ領辺りの森や山に居ることが多いため、ポム弾のことも聖獣のことも、情報が遅れて入ってくる。
しかもドゴルから名指しで直接依頼を受けているため、掲示板をゆっくり見ることが少ない。ドゴル不死鳥の掲示板にはしっかりと、聖獣を攻撃してはならないと注意書が貼り出されているのだが。
「おい、直ぐ近くに降りたぞ!時間があるから行ってみよう。2人くらい残していればいいだろう。まだ時間はある」
【森の支配者】リーダーのデットンは、強い魔獣を見ると本能的に対峙したくなるタイプである。過去に2回ほどレガートの森の上空を悠々と飛んでいるビッグバラディスを見たことはあったが、近くで見たことなどなかった。
今にも走り出しそうにウズウズしている様子のリーダーを見て、他のメンバー2人が笑いながら行ってもいいぞと許可を出した。
【森の支配者】は5人のパーティーだが、今日は3人が依頼を受けていた。残りの2人は初級冒険者なので参加できなかったのだ。
デットンの珍しい魔獣や強い魔獣に対する好奇心の強さを知っているメンバーは、止めても行くと分かっているので留守番役を買って出てくれた。
小さな森である。大人が少し走れば20分で聖獣が降りたと思われる場所に到達した。
そこは観光客も訪れる美しい滝がある場所で、きちんと道も整備されていて【深淵の泉】【深淵の滝】と書かれた案内板も出ていた。
目的の聖獣の姿を見る前に、一人の青年?少年?が歩いて自分達の方へ歩いて向かってくるのが見えた。
「お疲れ様です。ドゴル不死鳥から派遣された冒険者の皆さんでしょうか?」
剣を携帯したイツキが冒険者に近い服装で、極上の笑顔を6人の冒険者たちに向ける。
今回上級学校の学生は、汚れてもよい私服で全員が参加している。だから6人の冒険者たちは、目の前の少年が上級学校の学生なのか分からなかった。
「ああ、そうだ。君はラミル上級学校の学生か?」
「はい、そうです。皆さんと事前打ち合わせをするために来ました。ラミル上級学校執行部副部長のイツキと言います。どうぞよろしくお願いします」
冒険者の代表であるホルベットの質問に、イツキは丁寧に答えて挨拶をする。
「お前は、あの時の坊主!やっぱりそうだ。ラミル上級学校の学生のくせして、不死鳥で冒険者登録をした貧乏学生だろ?俺はお前たちが登録に来た時、偶然不死鳥の中に居たんだ。確か、貴族だけどノートを買う金がないと言っていたよな?」
会えるかもと期待はしていたが、まさか打ち合わせの代表者として現れるとは思っていなかったので、【森の支配者】リーダーのデットンは、思わず大きな声で話し掛けた。
「はい、そうです。あれは昨年の4月でした」
「何だと!貴族の坊っちゃんが冒険者登録しただと?あの店長や副店長が本当に許可したのか?信じられん」
ホルベットは信じられないとばかりに目を見張り、デットンとイツキの両方に確認する視線を向けた。
「ああ、間違いない。あの時ちゃっかりと小型魔獣と、信じられないレアな薬草をカウンターに出してたぞ。お前、冒険者証を持ってきたか?」
「もちろんです」と言って、イツキはドゴル不死鳥の刻印を押してある黒革の冒険者証を、ホルベットに笑顔で差し出す。
どれどれと、残りの5人もホルベットの回りに集まり、一緒にイツキの冒険者証を覗き込み確認する。
「「「はあ?中級冒険者だと!」」」(デットン、ホルベット、ガース)
「いやいや、中級冒険者になるには、中級クラス以上の獣や、初級クラスの魔獣を多く討伐するか、相当レアな依頼を達成するか、年間金貨50枚以上の報酬を得なければならないはず」
【暁の風】のホルベットは、またまた信じられないと目を見開く。
「お前、いったい何をやらかしたんだ・・・?」
昨年登録したばかりのイツキを知っているデットンは、胡散臭い者を見るように目を細めて、低い声で言いながらイツキを睨んだ。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
2週連続の出張で更新が遅くなりました。
今月はもう少し忙しそうなので、更新は3~4日おきになると思います。
まだまだ頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。
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