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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
最後の仕事

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196/222

試乗販売会とファッションショー(5)

少し短いです。

 2階の商会長の執務室には、なんとも言えない顔をしたキシ公爵と、嬉しくて堪らないという笑顔のアイリーンが隣同士で座り、対面にはイツキとインカが座っていた。

 4人にお茶を淹れているのは、【丘の上のキニ商会】の事務部長であり神父のクロノス20歳である。


 ショーの最後でお互いの正体と身分と本名を知った2人は、とても驚いてはいたものの、全てに合点がいった気がして、ただ可笑しくてクスクスと笑っていた。

 執務室に到着した時には大笑いになっていて、変わり者同士が意気投合したようだと、イツキとインカは安堵し握手を交わした。


「お2人とも、午後の部も残っていますので、今から直ぐに教会へ行くのはやめてくださいね。どうしてもと急ぐようでしたら、私かクロノスが祈りを捧げますが?」


ここぞとばかりに、満面の笑顔でイツキはアルダスをからかう。


「可愛くないぞイツキ君。よくもあれだけの人前で……」


「何を言っているのです?あれだけの人前だからこそ、逃げられなかったのでしょう?勇気を出して会いに来られた、アイリーン様のことをお考えください」


アルダスの文句をあっさりと遮って、イツキはアイリーンを見ながら、神父の顔をしてアルダスに意見する。

 アルダスはぐうの音も出ず、悔しそうにイツキを睨むが、確かに人前でなければ、あの台詞は言わなかっただろうと思った。


「インカ先輩、アルダス様は約束を果たされるようですので、我々は退散しましょう。後程軽食をお持ちしますので、どうぞごゆっくり。着替えができるよう女性を呼びますね。それでは失礼いたします」


イツキは商人のような雰囲気で、置いてあったトレイを持って執務室を退出していく。


 午前の部のファッションショーは大成功で幕を閉じ、お見合いパーティーも無事に終了した。

 モデルやスタッフは隣の建物で軽く昼食をとると、直ぐに午後の部の準備を開始する。





「間もなく午後の部が始まります。このファッションショーが毎年開催され、大陸中の人々の耳に届く頃には、第1回目のショーのモデルとして、スタッフとしてその場に居たのだと、家族や友人に自慢できるようになっていると、私は自信を持って言えます。

 皆さんが最善を尽くし、必ず午後の部も成功させてくださると私は信じています。

 さあ、笑顔で頑張りましょう!」


「はい、必ず期待に応えます!」(全員)


イツキの挨拶と激励を受けて、全員が新たに気合いを入れ直していく。午前の部よりも、もっと頑張ろうと心に誓う。


 午後の部は、午前のようなギラギラキラキラした若い客は少なかったが、大人の余裕でショーを観るつもりでいた女性客が多かった。

 が、後半はお酒が入ったこともあり、むしろ興奮状態となり「は~っ素敵」とか「もうダメ~」と、吐息の嵐で凄いことになった。

 音楽やその他の演出も、大人の貴族や大商人の心をガッツリと捉えた。

 


 極めつけが教会の鐘の音付きの、最後のウエディングドレスだった。

 

 ()()難攻不落のキシ公爵様が、あろうことかモデルとして登場したのだ。

 独身女性のみならず既婚女性までもが、憧れのキシ公爵様に「キャー!」と声をあげるのは、お決まりのようなものである。

 そして午前の部とは違い、ウエディングドレスを着ている女性に向けて、嫉妬と羨望の眼差しが向けられた。

 それでも、これはお芝居だから、ただのモデル役だからと、平常心を保とうとする。


 午前と同じように階段下まで降りてきた2人は、お互い見つめ合い微笑んでいた。

 アイリーンは華美を嫌い、領地外の社交の場には殆ど出席していなかった。当然王宮のパーティーにも出席したことがなかった。だから客席の者たちは、アイリーンを見たことがないし、誰なのか見当もつかなかった。

 分かっているのは、()()キシ公爵様と、笑顔で見つめ合っているということだった。


「誰なのあの女はー!」と声に出しては叫ばないけど、アイリーンに向けられている視線の多くは敵意だった。


 しかし、そんな回りの喧騒など、今の2人にはどうでもいいことだった。

 元々似た者同士のこの2人は、他人にあまり興味がなかった。なので観客などオールスルーである。

 そんな当人以外の者が息を呑むような緊迫?した状況の中、キシ公爵アルダスはやってくれた。

 

 アイリーンの前でスッとひざまずくと、全く予定外の行動をとったのである。


「お茶の約束は果たした。これからは、結婚を前提に付き合って欲しい」


「えっ?そ、それは、本日のショーの台詞でしょうか?」


アイリーンは驚き、目をパチパチさせながら困惑する。女としてはとても大事なこと(申し込み)である。思わず質問するのは当然のことかもしれない。 


「まさか……結婚を前提とする付き合いの申し込みを、演技でできる男ではありませんよ、私は。……どうか私のために、もう1度そのドレスを、ラミル正教会でその身に纏ってください」


アルダスは真剣な表情で、アイリーンの目を真っ直ぐ見て言った。


「はい、……よ、喜んでお受けいたします」


そう返事を返したアイリーンは、大粒の涙をポロポロと零し始めた。

 その涙を見たアルダスはぎょっとして慌てた。

 こんな可愛い大事な女性(ひと)の涙を、他の男なんかに見せることなどできない。いや見せるもんかと。


 会場は異常なほど静寂に包まれていた。

 全ての視線が、自分ではなくアイリーンに向けられていると考えた(思い込んだ)アルダスの、行動は早かった。

 アイリーンの手を掴んで握ると、ウエディングドレス姿のままのアイリーンを、強引に会場の外に連れ出してしまったのだ。



 えっと今のは・・・?と、状況が呑み込めない鈍い男を除いて、女性陣は全員が理解した。

 今のは、今のはプロポーズだったと。しかも、公開プロポーズであったと。

 数十秒の沈黙のあと「キャー!」とか「ギャー!」とか「イヤー!」という声が上がり、失神者が続出した。

 まるで物語のような、いやそれ以上のラブロマンスを目撃し、観客もスタッフも熱い吐息を漏らさずにはいられなかった。


「えーっ皆様、後世まで語り継がれるであろう、素敵なプロポーズを見せてくださり、ショーを盛り上げてくださいましたのは、キシ公爵様とカイ領主ラシード侯爵家ご令嬢アイリーン様でございます。

 お2人の末長いお幸せを祈りながら、【丘の上のキニ商会】主催のファッションショーを終了いたします。本日はありがとうございました」


婦人服部門の部長エミリアは、極上の笑顔で締めくくった。

 心の中では、客席の女性同様に叫びたかったが、ぐっと堪えて最後まで役目を果たし頑張った。




 その頃、イツキの指示で呼び出され、【丘の上のキニ商会】の前で待っていたヨム指揮官は、大きな溜め息をついていた。

 キシ公爵家の豪華な馬車の御者台で待っていたヨム指揮官は、いくらイツキ君でも、()()アルダスが易々とイツキ君の罠……いや作戦に乗っかるとは思えなかった。

 そんな奇跡のような物語が本当にあり、それがハッピーエンドになるのなら、臣下として友として、嬉しい限り()()ある。あるのだが……成功する可能性は低いと思いあきらめていた。


 は~っと再び溜め息をつき、そろそろ馬車を移動すべきだろうかと思ったその時、視線の先の大きな扉が突然開かれた。

 走るようにして出てきたのは、ウエディングドレス姿の女性と手を繋いでいる、アルダスの姿であった。


「さすが奇跡の人だ……」とヨムは首を振りながら呟き、急いで御者台から飛び降りる。


 黙って馬車の扉を開け、なんでお前がここに?という顔で困惑しているアルダスに、にっこりと笑顔で言った。


「大切な方のドレスが汚れてしまいます。ちゃんとエスコートしてください」と。


 もう少しで通路は、石畳から地面へと変わってしまう。確実に純白のドレスは汚れてしまいそうである。

 アルダスはどこか悔しそうな顔をしたが、フウッと短く息を吐くと、いきなりアイリーンをお姫さま抱っこした。

 突然抱き上げられたアイリーンは「きゃっ」と短く声を上げたが、恥ずかしそうにしながらも、両腕を伸ばしてアルダスに抱きついた。


「お久し振りですアイリーン様。キシ公爵家にようこそ」


日頃絶対に女性の前では見せない、超絶美男子の微笑みで、ヨムはアイリーンに軽く頭を下げ挨拶をした。

 そして2人が馬車に乗り込むと、何事もなかったかのように御者台に飛び乗り、馬に鞭を当てると、ヨムはキシ公爵屋敷に向かって出発した。


「ありがとうイツキ君」と呟きながら。 


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ずっと書きたかったキシ公爵のエピソードを書けて良かった。

イツキのレガート国での仕事も、残り少なくなってきました。次話から夏大会です。

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