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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
最後の仕事

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試乗販売会とファッションショー(2)

「さあ皆さん、頑張ってくださいね。表情が固いですよ。そのようなお顔では、女性が怖がります。うっすらと微笑んでください」


階段の下から女性をエスコートしに向かう、男性モデル14人に向かって、モデル担当になっている事務長のティーらが、にっこり?と脅して……いや、指導している。

【丘の上のキニ商会】のデザイナーや針子の女性社員から、服装チェックと身嗜みチェックを受け、姿勢や立ち居振舞い、エスコートの仕方を、早朝から鬼のように厳しく指導され、ちょっとお疲れ気味ではあったが、いざ本番ということで、どの顔も緊張で固くなっていた。


 1階の控え室で待機しているのは、警備隊と軍、王宮と上級学校から選ばれたイケメン男性モデルたちで、希望者と推薦者(上司命令を含む)の中から、厳選した貴族家の子息ばかりであった。

 一つ隣の控え室には、2人の高位貴族モデルが、居心地悪そうに座っていた。

 その内の1人は、部屋の室温を下げながら超不機嫌な顔であり、もう1人は困った顔をしていた。



 それは1週間前の夜のことである。


「ご無沙汰しておりますアルダス様。本日は、これまでの貸しを少し返して頂きたいと思いまして、とあるお願いを持ってまいりました」


通されたキシ公爵のラミル屋敷の豪華な客間で、開口一番イツキは言った。

 考えてみれば、名誉貴族に近いキシ領の子爵とは言え、ラミルのキシ公爵屋敷には入ったことがなかったイツキである。

 名門中の名門と言われるだけあり、屋敷の中は豪華ではあるが、代々軍閥系の家なので、マキ公爵やホン領主屋敷のようなきらびやかさはない。


「初めて屋敷に寄ったと思ったら、いきなりそれか。フウ、確かに数えきれない借りはあるな」


アルダスはフウと疲れたように息を吐きながら、イツキを自分の対面の椅子に座るよう促す。

 どうやら今日は、リース(聖人)様ではなく、領主として来訪して来たようだと安堵したアルダスだが、イツキの嬉しそうな黒い微笑みを見て、嫌な予感しかしなかった。


「お願い話を聞く前に、報告しておこう。

 3日前にミリダ国と正式な同盟関係の回復及び、講和条約を締結した。

 使者として現女王の母親でありバルファー王の姉上であるエルファ様と、イツキ君が知っているミリダ軍総司令官ラテス殿が来られた。

 ミリダ国を救ってくれたイツキ君に、ぜひ会って御礼をしたいと王様に願い出られたようだが……」


「リースである私と面会をご希望のようでしたので、教会から断らせて頂きました。リースとしての私は、国王の要請に応える必要などありませんから」


イツキはアルダスの言葉を遮って、今の自分の立ち位置をはっきりと告げる。

 きっぱりと自分の立ち位置を断言するイツキの言葉に、アルダスはゴクリと唾を飲み込んだ。


「そ、そうですね。それから、今回の停戦及び条約の締結は、【破壊部隊】の手柄として決定しました。

 今後、ギラ新教に関する事件や、今回のように敵がギラ新教だと決定している戦争についても、指揮権はレガート軍ではなく【破壊部隊】が持つよう、大臣・副大臣及び上官会議で決定されました。

 ギニ司令官の辞職は否決され、軍は大きく改革するよう王命が下りました」


やはりイツキ君は、今後王様と本気で距離をおくようだと考えながら、アルダスは必要な報告事項を伝えていく。

 いつの間にかアルダスの話し方は敬語になっていた。リースという名前を出されると、無意識のうちにイツキを上に置いてしまう。


「そうですか……それでは私もお願いの前に報告を。

 ソウタ師匠は、足が動くようになりました。今後は夏までに立てるようにし、秋には歩けるようにしたいと、うちの優秀な医師団が張り切っています。

 馬に乗れるようになったら、ロームズ領の子爵位を授けると約束しました。


 それから、ロームズ辺境伯である私は、ロームズの隣に位置している、カルート国のカラギの領主であるフィリップさんにお金を貸します。

 そのお金は、フィリップさんがカルート国に貸します。その借金の担保としてカラギを頂き、フィリップさんに領地を付けて、カルート国から返していただきます。


 私が望んでカルート国に出したのですが、カルート王や臣下たちは、フィリップさんをカルート国の侯爵に迎えたいようです。

 たった2ヶ月で、カルート国の土台を作り直したんですから、当然のことでしょうが、……私は決してフィリップさんを渡したくない。

 自分でも驚きましたが、私は結構……欲張りだったようです。

 私は……アルダス様から、フィリップさんとソウタ師匠を奪ってしまいました……」


イツキは下を向いていた。申し訳ありませんと言いたかったが、涙が零れそうになり言葉が続けられなかった。

 アルダスの側近であり、アルダスを支えてきた幼馴染みである2人を、死んだことにしてロームズへ移動させた。それは2人の命を守るためだったのだが、最近になってイツキは、それは自分の欲のためでもあったと気付いてしまった。

 だから顔が上げられない。


 アルダスは、意外なことを言い出したイツキに驚いた。

 2人を奪われたなんて思ってもいなかったが、確かに2人が居なくなってから仕事量は倍増した。しかし、【王の目】を【破壊部隊】に組み込んだことで、寧ろ余裕ができたくらいだ。

 確かに寂しいと思うことはある。だが、生きてくれているだけで充分だと心から思える。

 領地でも王宮でも、能力のある部下はたくさんいる。慣れれば不自由も感じなくなった。


 だが、眼前で申し訳なさそうにしている辺境伯には、力のある側近など居なかったではないか!

 留守中の防衛を指揮できる部下も、自由に動いてくれる側近も居なかったのだ。

 3人の教え子だって、軍や警備隊に所属している。イツキ君の本当の部下ではない。

 そう思うと我々大人は、なんて酷いことを、なんて無責任なことをしてしまったのだろう。たった1人のその肩に、どれだけの重荷を背負わせてしまったのだろう。


「イツキ君……それは、あの2人が選んだことだ。それに、フィリップを次の辺境伯に指名し、ロームズの名を与えたと、つい先日王様から聞いた。フィリップは……泣いて喜んだだろう?ソウタだって、イツキ君の役に立てると喜んでいるさ。だから顔をあげてくれ。……俺の方こそすまなかった。2人を頼む」


奪ったと思わせてしまうこと自体が間違っている。申し訳ないと詫びるのは自分の方であると気付いたアルダスは、多くを語らず謝りながら、2人を頼むと頭を下げた。

 目の前の領主は、大人に甘えたり頼ったりしない。いや、できない性格なのだ。

 これからは、もっと自分に甘えられるよう、もっと頼りにされるよう、積極的に声を掛けることが大切だ。そうだ、俺は寄親だったじゃないか!と、心を入れ替えるアルダスだった。


 アルダスに謝られたイツキは一瞬きょとんとしたが、自分を甘えさせてくれる大人のアルダスに、泣きそうな顔のまま微笑んだ。




 が、しかし、イツキのお願いを聞いた途端、先程入れ替えたはずの決心が吹き飛んだ。


「はっ?ファッションショーのモデル?キシ公爵である私が?」


「はい、そうですよ。貸しの10分の1くらいしか取り戻せませんが、どうしてもアルダス様でなければ……という事情がございます」


「いったいどんな事情だ?当然、俺を納得させるだけの事情なのだろうな!」


真剣に怒っているというか文句を言っているアルダスだが、イツキは高級そうなカップを持ち、優雅にお茶を飲みなが余裕で話す。


「事情は・・・当日になったら分かります。きちんと正装でお願いします。できれば……そうですねぇ……台詞もお願いします。当日紙に書いてお渡ししますね。心配要りません。たった1行の台詞ですから」




 キシ公爵アルダスはショーの控え室で、先日の出来事を思い出しながら顔をしかめる。そして渋々、先程イツキに渡された台詞の書かれた紙を開いて見る。


「なんじゃこりゃあ!!!」


「キシ公爵様、声が大きいです。ショーが始まっています」


同じ控え室で待機させられていたカイ領主の子息であるインカは、慌ててアルダスに声を掛けた。凄く申し訳なさそうな顔をして。





 それは4月25日のこと、インカは急遽イツキに面会を申し込み、とある相談をするため、ロームズ辺境伯邸に行っていた。


「イツキ君、本当に申し訳ないが、ある人物を探して欲しいんだ。

 俺の、いや……正式には姉のアイリーン24歳が探しているのだが……その相手が……なんというか、【王の目】か【治安部隊】の者のようで、いくら軍で人事の仕事をしていても、【王の目】と【治安部隊】は、調査官であるアルダス様の管轄だから探せない。

 しかも昨年、ロームズを乗っ取った、カイ領のギラ新教徒の貴族の家族、偽王時代生き残りだった子爵一派を、捕らえるためにカイ領で動いていたメンバーのようで、どうしても会いたいと……その……今、ラミルに来ていて……」


なんだか歯切れの悪いインカは、困った顔をして事情を話し始める。


「領主の姫である姉上は、いったい何時、【治安部隊】の人間と知り合う機会があったんだろう?屋敷内か?」


「俺の姉は変わり者……いや、凄い変わり者で、花嫁修業よりも剣の稽古を好み、化粧もしない。とても領主の娘とは思えない服装で領都を動き回っている。

 その時も、父上から事情を聞いて、いや違う。父上と兄の話を盗み聞き、カイ領を貶めた逆賊に腹を立て、勝手に調査を始めてしまった……らしい。フゥーッ。

 その調査をしている時に、町の居酒屋で出会ったようだ。


 なんでも、正義感が強そうで、仕事ができて、常に2人で行動していたらしい。

 姉は自分の護衛の女性と一緒だったらしく、お互い腹を探っているうちに、どうやら同じ目的の者同士であると分かり、3日間だけ一緒に行動したと……」


出されたお茶を一気に飲み、自分も聞いた話だから要領を得ないのだと、イツキの顔を見てインカは愚痴った。


「顔を見たら分かるんだろうか?」


「いや、少し変装をしていたそうだ。服装は商人風で、1人は背があまり高くなく、もう1人は、その背の高くない男の部下のようだったと。髪の色も染めていたようで、名前も偽名らしい。泊まっていたと思われる宿の宿帳には、マース兄弟と書かれていたようだ」


「マース?・・・成る程。それで、姉上は、その尋ね人に会って、どうされたいのだろう?」


イツキは会いたい理由が分からなければ、迂闊に引き合わせるのは難しいと思い質問する。なにせ領主の姫である。その後の展開を予想しておかねばならない。 

 マースという名前の人物に、イツキは心当たりがあった。軍学校で先生をしていた時、卒業生の名簿を見たのだが、そこには、偽名で入学した5人の名前が載っていた。


「う~ん、これまで全ての見合いを断り、一生涯独身でいると言っていたのだが、その、恋をしたとかなんとか……はあ……姉が言うには、また今度お茶を飲もうと誘われていたらしく、約束を果たして貰いたいのだそうだ」


「成る程、成る程。ちょっと確認してみます。そうだ!探し出せたら、姉上にはお願いごとをしてもいいだろうか?5月14日まで時間をください。絶対にラミルに引き留めておいてください」


イツキはそう言うと、頭をフル稼働させて、それはそれは楽しそうにニヤリと笑った。

   

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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