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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
最後の仕事

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192/222

試乗販売会とファッションショー(1)

 5月10日、予定通りに車輪と馬車(主に緩衝装置)の試乗販売会が開催された。

 この日、商会長であるイツキは出席していなかった。

 車輪と緩衝装置は、レガート軍の技術開発部が一枚噛んでいたので、イツキは表立って活動しないことにした。


 これから先、他国にリース(聖人)を探しに出掛けたりして、ラミルに居ないことが増えてくる。その時に自分が居なくても全てが回るようにするため、そして、ロームズ辺境伯の商会は、国から優遇されているなどと言われないようにするため、イツキは試乗販売会に行かなかった。

 もちろん、ポムを使った商品なので、作ったのはロームズ辺境伯であると、大多数の招待客は知っている。


 今回の馬車の購入をきっかけに、領主であり利を産む学生のイツキを、取り込もうとしたり、お近付きになろうとしたり、強引に見合い話をごり押ししようとする輩から、身を守るためにも必要な措置だった。

 そもそも招待しているのは【丘の上のキニ商会】である。

 招待状の招待主は、代表部長であるカイン(先生)の名前になっている。

 そして、王都ラミルの販売代理店はランカー商会である。


 招待状は、王都ラミルに住む伯爵以上の貴族や、地方の伯爵以上の貴族、そして各領地で辻馬車や乗り合い馬車、チャーター馬車を運営している商会や組合や協会限定で送られていた。

 もちろん、王宮・軍・警備隊等の関係各位にも送付済みである。

 しかし、招待客限定にも拘わらず、招待状のない商会や貴族が押し掛けていた。


 まあ、想定内である。

 それらの者は、入場料として銀貨2枚(2万円くらい)を支払わせ、ご購入頂けた方のみ返金する。

 会場は、ラミル正教会の広場を借りて行われた。

 招待状にも、収益の一部をブルーノア教会に寄付すると書かれており、実際に10%を支払うので、なんの問題もない。

 教会の婦人部が張り切って屋台を出しており、教会にとっても有り難い話だった。


「これは信じられない!これ程だとは思わなかった」(カイ領の伯爵A)

「これは、今日直ぐに購入できるのかね?」(マキ領の伯爵)

「買うので今日から使いたい」(ラミルの大商会)


 馬車を持っていなかったり、購入を考えていた貴族や商会は直ぐに飛び付いた。


「私は侯爵家の関係者だ!当然優先して貰えるだろうな!」

「申し訳ありません、本日ここに有る一般の馬車は、警備隊や王宮に納品が決まっております。どうしてもと仰るのであれば、直接交渉してください」


 侯爵ではなく侯爵家の関係者……そんな得体のはっきりしない者は、相手にしないようイツキから指示が出ていた。

 それでもごねようものなら、警備隊制服組の隊員が何処からともなくやって来る。


 購入希望者の多くは、今持っている馬車の車輪を取り換え、緩衝装置を取り付けることを希望した。

 辻馬車協会のトップたちは、これまでの8人乗りではなく、進行方向に向けて5列の座席を作った、10人乗りの新型辻馬車を新たに購入するかどうかで思案していた。

 この辻馬車の箱物は、カイ領の領主にイツキが直接発注したもので、緩衝装置を装着することを前提に、イツキは設計図を公開し権利を主張しないことにした。


「こちらの10人乗りの辻馬車は、途中下車しないお客様専用とし、特急馬車としてお使い頂くことをお勧めします。料金を高くしても、乗りたいと仰るお客様は多いと思われます」


にっこりと営業スマイルで話すのは、ランカー商会と【丘の上のキニ商会】で修行中の、カルート国産業部のホーエン24歳である。

 ホーエンは【丘の上のキニ商会】の副部長になっており、国のためシルバ王子のため、何よりも借金返済のため頑張っていた。

 3年以内に車輪の製造拠点をカルート国()()置く予定なので、責任は重大だった。



 結局、午前と午後に行った試乗販売会は、大盛況で幕を閉じた。

 これから新しく販売代理店となる商会とは、翌日【丘の上のキニ商会】で本契約を結ぶことになった。

 予想以上に予約が殺到したので、辻馬車だけは【丘の上のキニ商会】が取り扱いし、一般の馬車については、新しく販売代理店契約をした商会から販売すると決定した。


 用意されていた馬車は、全て軍や警備隊が購入し、大きな混乱もなかった。

 辻馬車については、用意されていたもの全てを、王都ラミルの辻馬車協会が購入し、地方の辻馬車協会は、車輪の交換と緩衝装置の設置に1ヶ月から3ヶ月待つことになった。

 一般の馬車の注文は、取り付け工事ができる職人を教育する時間が必要で、3ヶ月以上は待たせることになったが、こちらも大きな問題は起こらなかった。


 後でイツキが聞いた話によると、警備隊本部からヨム指揮官が来ており、部下を引き連れて会場内で睨みを利かせていたらしい。

 警備隊には真っ先に納品させて頂きますと、カイン部長が約束したとか……



 大変なのは製造するエイダモ商会である。

 試乗販売会の様子を見に来ていたエイダモは、自分の予想を遥かに越えた注文数に、かなり顔色を悪くしていたらしい。


「ランカー、お前の苦労が分かったよ」


ランカー商会に泊まっていたエイダモは、友であり幼馴染みのランカーに、疲れ果てた顔をして言った。


「フン、甘いぞエイダモ!これは序章だ。まだ、レガート国内にしか販売をしていない。これから国外へと販路が広がるんだぞ。フハハハ、うちの新型ペンは、来月から国外解禁だ。今はまだ死ねない……」


不吉な言葉を吐きながら、ランカーはもう笑うしかないと自虐的に呟いた。





 5月13日、いよいよ【丘の上のキニ商会】とロームズ辺境伯が開催する、既製服・高級ドレスのファッションショーとお見合いパーティーの日がやって来た。

 前日にリハーサルを終え、モデル、ラミル女学院の楽団、受付、給仕、案内係りとスタッフは、早朝から最終ミーティングを行っていた。

 そして午前9時、イツキは全関係者の前で挨拶をした。


「皆さん、おはようございます。キアフ・ルバ・イツキ・ロームズです。

 昨日のリハーサルでの注意事項に気を付け、最後まで力を合わせて、本日のショーとパーティーを成功させましょう。

 女性による、女性のための今回のイベントで、私はランドル大陸の女性の歴史を変えようと思っています。

 もっとお洒落に、もっと自由に、たくさんの女性を輝かせることが出来るのは、ここに居る皆さんです。


 素敵な出会いのお手伝いも、皆さんの演出が鍵となります。どうか、たくさんのカップルが誕生できるよう応援しましょう。

 そして、町中に【丘の上のキニ商会ブランド】の服を着た、素敵な女性が溢れることを私は期待します。

 どうか皆さん、持てる力を存分に発揮し、役に成りきってください。

 さあ、戦いの時間です!」


独特な言い回しで、イツキは皆の遣る気スイッチを押した。


「はい、頑張ります!」


全員が笑顔で応えて、それぞれの持ち場へと散っていく。


 入場開始は午前9時半。ファッションショーは午前10時に開幕する。

 午前の部の招待客は、その後に行われるお見合いパーティーに参加する、独身女性50人と独身男性50人の合計100人の予定である。

 どこの世界にも無理を承知でごり押ししてくる者はいる。念のため、10人分の席は設置できるようにしてあるが、入場料として金貨1枚(10万円くらい)を徴収する。

 入場券を正規のルートで入手した者は、銀貨2枚(2万円)で酒類なしのチケット代を払っている。


 午後の部にはお見合いパーティーはないが、年齢を18歳以上に限定し、貴族や各地の商会主を中心に、ファッションショーと社交タイムを設けてある。

 ショーは2部構成で、1部終了後にはお酒や軽食を提供し、自由に席を立って交流できる、社交タイムを挟んでいる。そして2部のショーが始まると、また自分の席でショーを楽しんでいただく。


 ちなみに午後の部のチケットは、銀貨5枚である。

 午後の部のチケットは、予め【丘の上のキニ商会】が打診した貴族や商会が殆どで、ガラの悪い商人や、品のない貴族には声さえ掛けていない。

 もちろん、独身の男女も大勢来る予定で、親子でも恋人同士でも参加できる。


 午前、午後、両方のチケットは直ぐに完売しており、かなりの収益が確定していた。

 どちらのチケットも、庶民からしたら信じられない高額である。

 しかし、ランドル大陸で初めて開催されるファッションショーである。話題のためにも参加したいと考える者は多く、決して高い訳でもない。

 

 隣国との開戦は、その危機を脱したものの、戦争という現実を突き付けられた独身者には、独身貴族などを気取っている場合ではないと感じさせたようで、結婚を真剣に考える切っ掛けにもなった。

 だから、入場を待っている午前の部の独身男女は、既に戦闘態勢……いや、ギラギラしていた。

 それでも入場が開始されると、想像以上に広いホール(1階)の豪華さと、女学院の学生の奏でる柔らかい演奏で、次第に緊張も解れていく。


「ショーの開始の前に、皆様にお願いがございます。

 本日のショーの服に、審査員として採点をお願いしたいと思います。

 その採点結果で、女性がステキだと思う服と、男性がステキだと思う服の違いや、好きな色やデザインが判明します。

 また、最高得点を獲得した服は【丘の上のキニ商会】の主力商品として量産されます。

 皆様の採点が、レガート国、延いてはランドル大陸中の既製服や高級ドレスの、流行を生み出すことになります。

 どうぞ皆様、レガート国が大陸一オシャレな国と呼ばれるよう、ご協力をお願いいたします」


いつもよりドレッシーな装いで登場したエミリア婦人服部長は、王宮で鍛えた美しい所作で礼をとり、にっこりと微笑むと、アンケート用紙を手に、書き方の説明を始めた。

 もちろんテーブルの上には、既にアンケート用紙と筆記用具が用意してある。



 開演3分前、イツキは2階からゆっくりと降りてきて、注目を集めながら下から3段目の所で止まった。


「あれはどなた?」とか「ロームズ辺境伯様だわ」と会場中から声が上がる。 

 イツキの今日の服装は、他の領主から、ギラ新教に洗脳されないよう血を流して倒れたお詫びに頂いた、濃い緑の高級式服だった。頂いたからには使わねば勿体ない。


「皆さん、ようこそおいでくださいました。ロームズ辺境伯キアフ・ルバ・イツキ・ロームズです。

 今日は、大陸に先駆けて考え出された働く女性の為の服、そして普段着の数々。いつの日か着てみたいと夢見る高級ドレスを取り揃えたファッションショーです。 


 そして、より多くの皆さんに、幸せな出会いを掴んでいただくための、大切なパーティーの日でもあります。

 今日の日が、皆さんにとって特別な1日となり、忘れられない思いでの1ページとして刻まれるよう、スタッフ一同精一杯勤めさせていただく所存です。


 本日の、ショーやパーティーを、笑顔で楽しんで頂けることを願って、私の挨拶とさせていただきます。

 それでは皆さん、開幕です」


イツキは極上の笑顔で微笑み、楽団の女学生にショーのスタートを告げる、曲の演奏開始の合図を送った。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

【お知らせ】

9月24日13時に、BL(ボーイズラブ)小説を新しくアップします。

前世の僕は、いつまでも君を想う という題名です。

ちょっと腐っている男女の皆さん、よろしければ読んでみてください。


https://novel18.syosetu.com/n3105ft/

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