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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ミリダ国とカルート国

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ハビテ、サイリスの力を使う

 ◇◇ ハビテ ◇◇


 いつもの教会病院最上階の屋根裏部屋で、イツキは寝かされていた。

 サイリス(教導神父)である俺は、イツキの右手を握り、懸命に感情を落ち着かせながら神に祈っていた。


 それは30分前のこと、イツキの従者パル君とロームズ邸で働いているレクス君が、馬車で病院に駆け込んできた。

 パル院長から知らせを受け駆け付けると、死にそうになっているイツキの姿が診察ベッドの上にあった。

 外傷は見当たらないのに、イツキの右手にはベッタリと血がついており、まるで何処かを斬られたか刺されたかのように、息は絶え絶えだし意識もない。顔色は言うに及ばず完全に血の気が引いていた。


 ロームズ邸でイツキの仕事を手伝っているレクス君は、まだ所属は王宮警備隊であり、今日も王宮で行われた警備隊の会議に出席していたらしい。


「私は会議中に突然呼び出され、倒れたイツキ様を背負って馬車に乗せました。王宮の医務室で医官に診察させるよう秘書官は勧められましたが、私は1分でも早く王宮を立ち去らねばと……そればかり考えていました。イツキ様を早く浄化しなくてはと、何故かそう思えたんです」


昨年カルート国で悪人を尋問した際、禁忌の術を使って倒れた時と同じ感じがしたと、体を恐怖で震わせながらレクス君は付け加えた。

 それを聞いた俺は、直ぐに神に捧げる祈りを捧げ、イツキの全身に纏わり付いていた黒いものを浄化した。

 付き添いの2人に事情を聞いたが、2人は秘書官から、王様との謁見中に突然倒れたとしか説明を受けていなかった。


「ハビテ様、私はもう我慢できません。この症状の原因は分かりませんが、右手に付いていた血は、イツキ様のもので間違いないでしょう。国王との謁見中に倒れたということは、原因は王宮内……いえ、王様と秘書官にあると思います。それなのに、イツキ様を自ら運んでも来ない!イツキ様をリース(聖人)であると知っているというのに、従者に運ばせるなど、教会を……リース(聖人)様を軽く考えているとしか思えません!」


パル院長は怒りで拳を震わせながら、レガート国のために命懸けで尽くしているのに、あまりの扱いだと腹を立てる。

 ウム、確かに失礼を通り越し、無礼と言っても過言ではないだろう。

 おそらく王宮に行ったのは、ミリダ国の件だと思われる。そうだとしたら、戦争を未然に防ぎ、ミリダ国に女王を誕生させる切っ掛けを作ったイツキが、これ程の状態に追い込まれるのは納得できない。


 そもそもイツキは、ロームズ辺境伯としてではなく、教会の人間として動いたはずだ。確かにリバード王子を連れ出したのは問題だったかもしれない。

 しかし、一国の王子であるリバード様が、自国の危機に立ち上がり動くことは、当然のことのように思える。

 ここはひとつ、王宮を完全に無視してみよう。

 もちろんイツキが目覚めて、倒れた原因が判明するまでの間だが。




 午後になり、王宮から使いがやって来た。

 ミリダ国の状況で知っていることがあれば教えて欲しいと頼まれたが、イツキの安否を尋ねることもなかったので、教会から話せることは何もないと回答しておいた。

 夕方になり、エントン秘書官がイツキの見舞いに来たが、イツキの様子も伝えず当然面会も断った。

 対応させたのはファリス(高位神父)でもなく、モーリス(中位神父)でもなく一般神父だった。


 どうやらレガート国は、ブルーノア教会やリース(聖人)であるイツキが、無償で協力するのが当たり前、ケガをしようと倒れようと、好きでやっているとでも思っているのだろう。

 そういうことであれば、こちらの対応も考え直さねばならない。


 夕べの祈りが終わった頃、国王から王宮へ来て欲しいと使いが来たが、サイリス(教導神父)は忙しくて行けないと伝えた。

 リースであるイツキが意識不明で倒れている状態で、イツキの下に仕えている自分が、国王を優先する必要などない。むしろこれ迄の己の態度や、国王や秘書官に対する態度を改めるべきかもしれない。

 教会としては、もっと怒るべきだった。大切な大切なイツキが苦しんでいるのに、教会は抗議してこなかった。

 イツキの好きにさせてやることがベストだと考え、教会としてすべきことを完全に怠っていた。それは明らかに自分の怠慢である。


 これが前のサイリス(教導神父)のジューダ様だったら、国王に厳しく抗議し、イツキの行動にもっと注意を払われたに違いない。

 俺がイツキに甘過ぎた・・・

 何よりも大事な存在なのに、好きにさせ過ぎた。

 そしてバルファー王とエントン秘書官は、父親や伯父のフリをして、偽の仮面を着けイツキに甘え過ぎた。



 次の日も目覚めず、呼吸は普通に戻っていたが、表情は変わらず苦痛に歪んでいた。

 8日午後、調査に向かっていた王宮警備隊のレクス君が戻ってきた。

 


「それで、何か判ったかな?」


「はいサイリス(教導神父)様。

 あの日イツキ様は、先ず財務部に立ち寄られました。

 そこで財務副大臣に、今回ミリダ国で起こったクーデター返しと、新しく女王が誕生したと伝えられ、世話を掛けた財務部にお礼と、もしかしたら自分が責任を問われることになるかもしれないと、言葉を詰まらせながら語られたそうです。

 話を聞いた財務副大臣は、戦争を未然に防いだロームズ辺境伯が、責任を問われるのは納得できないと激怒し、王様の執務室に一緒に行かれたそうです。

 その途中、お2人はサイモス王子とデルモント副司令官に呼び止められ、信じられない暴言を吐かれたそうです」


レクス君は怒りの表情を隠そうともせず、直接財務副大臣から聞いた話をしていく。

 話がサイモス王子とデルモント副司令官の暴言に移ったところで、従者のパル君もデルモント副司令官の暴言や横柄な態度について付け加えた。


「穢らわしい?・・・神の子であるイツキ様を穢らわしいだと!」


一緒に事情を聞いてたブルーノア教会情報部隊のダルトンは、仕事柄感情を表に出すことなどないのだが、焦げ茶の瞳は怒りで見開かれていた。

 温厚な性格だと自負しているつもりだが、信じられない妄言と暴言に、流石の俺も思わず奥歯を噛み締めた。

 まあ、サイモス王子もデルモント副司令官も、ギラ新教徒の可能性がある。

 そうだとしても、国の中枢に位置する立場の人間が、これ程に常識知らずでは、あまりにイツキが可哀想だ。

 全てはバルファー王と秘書官の失策が招いたことだ。



 4月8日夕刻、イツキが大変なことになっていると知ったエルビス(エンター)君と、その上司である警備隊のヨム指揮官が見舞いに来た。


「ハビテ様、イツキ様は大丈夫でしょうか?」


エルビス君はイツキの手を握りながら、泣きそうな顔で心配しながら聞いてきた。

 彼はイツキを守りたいという意識が強く、神の啓示と一緒に神剣も授かっていた。


「今回は特別な力を使った訳ではなさそうだ。ただ、イツキにとって耐えられない何かが起こったことは確かだ。呼吸は落ち着いたので、間もなく目覚めるだろうが、ハッキリとは分からない」


残念そうに俺が言うと、エルビス君は自分の頬にイツキの手を当て、唇を噛み締める。


「サイリス様、レクスから当日のことを聞き、財務副大臣から聞き取りをしました。

 イツキ様は倒れる直前に、やめろサイモス……と呟かれたようです。

 あの日の夕方、クーデター返しが起こったと知らないデルモント副司令官は、くだらないポルムゴールやアタックインでの戦いを止め、合意書を破棄し、武力でミリダ国を攻めるべきだと進言したようです。

 その時は自分が全指揮を執り、総指揮官としてサイモス王子を同行したいと申し出たとか……ふぅ。


 それから、先程ギニ司令官が戻ってきました。今頃は詳しい状況を王様に報告していると思います。

 

 私が怒りを覚えたのは、イツキ様が倒れられたことを、王様や秘書官から聞いたのではなく、レクスから聞いたことです。

 きっと、サイモス王子が関わっているので、王様はあの日のことを、闇に葬られるおつもりでしょう。

 はーっ……キシ領に帰っていたアルダスが明日帰ってきたら、王宮に嵐が吹き荒れるでしょう」


ヨム指揮官はそう言って、申し訳ありませんと頭を下げた。

 俺は現在キシ公爵が王宮に居ないと知り、全てのことに合点がいった。

 キシ公爵が王宮に居たら、イツキがこんな扱いを受けることは無かっただろう。




 4月9日朝、バルファー王は秘書官とギニ司令官、数人の護衛を伴い、ラミル正教会へとやって来た。

 最初にイツキの見舞いをしたいと病院の方へ来たのだが、パル院長が不機嫌極まりないという表情で、まだ意識が戻っていないからと、面会をキッパリと断った。

 そこで仕方なく、国王一行は祈りを捧げるという名目で正教会へとやって来て、サイリスである俺との面会を希望した。

 俺は普通に朝の祈りを捧げ、何事もなかったかのように、その場を去ろうとする。


「お待ちくださいサイリス(教導神父)様。あの、イツキ君の容態はどうなんでしょうか?」


立ち去ろうとする俺に声を掛けたのは、ばつの悪そうな顔をした秘書官だった。


「はて、イツキ様のご容態が、貴殿方に何か関係がありましたでしょうか?」


「えっ!・・・・・」


「もしもリース(聖人)であられるイツキ様のことでしたら、神の子であるリース様に対し、その行いを咎めたり陥れようとするレガート国の方は、今後私の許可なく会うことは控えていただきます。

 イツキ様はリバード王子の将来を考え、リースとして教えを実践された。

 それをくだらない悪意や、憎悪の対象として陥れるような者が居る王宮では、尊い存在であるリース様の安全が確保できません。


 リース様を悪意で傷付けたこと、リース様のお力を、当然のことのように利用してきたこと、全て本教会のリーバ(天聖)様に報告いたいます。

 領主としての仕事は、フィリップ様に全て一任致します。

 貴殿方は……ブルーノア教会からの信用を失われた。

 イツキ様が目覚めぬ時は、教会は相応の行動をとります。失礼」


国王とは目も合わせず、呆然とする一行を置いて、俺はさっさとその場を立ち去った。

 これ迄は双方とも、良好な関係を築いてきた。それは教会が大きく譲歩していたのだと、国王や秘書官は知らねばならない。


 イツキの母親であるカシアさんの最後を看取った者として、イツキを守ると約束した神父として、俺は決意を新たにする。

 このままではダメだ!イツキは働き過ぎなんだ。

 当面の危機が回避された今、イツキには休養が必要だ。



 国王の一行が帰った後、俺はレガート軍本部のギニ司令官宛に手紙を書いた。

 イツキは戦争回避作戦の、その後のことがきっと気になっているだろう。だからイツキの意識が戻ったら、ギニ司令官だけ面会を許可すると書いておいた。


 それにしても、今回イツキが倒れた原因は何なのだろうか?

 サイモス王子が関係していることは確かだが、イツキは何かを予知したのかもしれない。もしかして、いや、考えたくはないが、弟であるサイモス王子がイツキを攻撃する可能性がある。

 至急イツキの護衛を強化しなければならない。  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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