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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ミリダ国とカルート国

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イツキ組集合(2)

 イツキとリバード王子の爆弾発言を聞いた仲間たちは、初めから説明を求めた。

 そこで、リバード王子がきちんと説明していくことになった。


「あれは3月16日のことでした。僕はイツキ先輩とパル先輩に連れられて、ギニ司令官の領地ソボエに行きました。ソボエの森に少し入ったら、イツキ先輩がブルーノア教会の聖獣モンタンを呼び、体長5メートルくらいの空飛ぶ最強魔獣ビッグバラディスが、突風を巻き起こしながら降りてきました」


そこまで話したところで、リバード王子はジュースを飲み、また興奮した感じで続きを話し始めた。

 モンタンの背中は乗り心地が良かったとか、上空から見る景色は最高で、雲の切れ間からランドル山脈が見えた時は、感動のあまり泣きそうだったとか、身振り手振りも含めて、リバード王子の語りは上手かった。

 皆はリバード王子の話を、ワクワクしながら聞き入っていく。


 寡黙な王は強い騎士や強い人間からは好かれるが、やはり人を惹き付ける話術を持つ王の方が、万民に好かれるだろう。そう考えると、リバード王子は王の資質を充分に持っていると、イツキは嬉しそうに微笑みながら話を聞いていた。

 リバード王子の話が、カイ領の国境上空に差し掛かったところで、インカが立ち上がった。


「ちょっと待て!イツキ君、もしかして……リバード王子に何も説明しないまま、学校から連れ出したのか?王様の許可も校長の許可も取ってないとか?」


「フフ、さすがインカ先輩、そこ、気付いちゃいました?」


「「 はあ?無許可? 」」(エンター、ヨシノリ)

「「「しかもビッグバラディスに乗せて?」」」(他の皆さん)

「だから言ったじゃないですか!後で叱られるって」(従者パル)


パルがやっぱり……という顔をして、は~っとため息をつく。


「よし、話を聞き終わったら全て忘れろ!俺たちは何も聞かなかったことにする!全員分かったな!」


「はいインカ先輩!俺たちは何も聞きませんでした!」(全員)


 王様の許可も取らずに勝手に王子を連れ出す・・・しかも戦争が勃発した国境にだ。信じられない!……というか、知られたら大変なことになる。

 にこにこしているイツキを見て、何やっちゃたんだよ!と皆は青くなる。


 昼食を食べ終わり、食後のお茶を2回おかわりした頃、ようやくリバード王子の話は終った。

 リバード王子は、イツキがミリダ軍のテントで行ったことは何も知らないが、軍の日頃の様子を聴いたり、苦労話を聞いたりと、大変聞き出し上手だったので、山のように話のネタがあったのだ。


「それでは本当に、両軍はポルムゴールとアタックインをしていたのか?国境をゲームの勝敗で1メートルずつ侵攻するという、訳の分からない戦い方で?」


信じられないと頭を抱えながら、エンターは確認する。


「訳が分からないことはないですよエンター先輩。立派な戦い方です。まあ、命は懸けていませんが、国の誇りと名誉と意地は懸かってます」


別に特別なことでも、不思議なことでもないとイツキはさらりと言う。


「それを通せるところが理解できない。レガート軍の指揮官は、異議を唱えなかったのか?それに、なんでミリダ軍の指揮官も同意するんだ?」


「それはですねインカ先輩、レガート軍の指揮を執っていたトップの2人が、【奇跡の世代】だったからです。そしてミリダ軍には、医師としてケガ人の治療をしたり、魔獣ゼノの対処法を教えたりしたから、信用して貰えたんだと思います」


 イツキが【奇跡の世代】という名前を出したところで、エンターとヤンはお互いの顔を見る。この2人は昨年ヤマノ領で行われた上級学校対抗武術大会の帰りに、当時秘書官補佐だったフィリップから、【奇跡の世代】を指揮しているのがイツキであると聞いていた。


「イツキ君、もしかしてまだ・・・」


まだ【奇跡の世代】を指揮しているのか?と訊きかけて、ヤンは口をつぐんだ。


「まだ何なんですかヤン先輩?……もしかして、まだイツキは【治安部隊】に籍があるんですか?」


 イツキの親友であり、イツキの親衛隊長であるナスカは、自分の知らないイツキの何かが、まだあるに違いないとずっと感じていた。だが、イツキから話さない限り、自分からは聞くべきではないと我慢していた。

 何だか部屋の空気が急に重くなり、イツキの持つ秘密をあまり知らない者たちは、どうしたらいいのか分からず、何処に視線を向けるべきか戸惑う。


「ナスカ、僕は昨年ヤマノ領でギラ新教徒を捕らえるため……そして、王様とリバード王子の命をギラ新教から守るため、キシ公爵アルダス様から【奇跡の世代】を任された。【奇跡の世代】は今、僕の指揮下にある」


「「「「えっ!?」」」」


イツキが【奇跡の世代】を任された理由を知らなかったエンターとヤンを含む全員が、目を大きく見開き口を開けたまま固まる。


「それも含めて、王様はイツキ君をロームズの領主に任命されたということか……」


カイ領主の子息であり、今は軍の中枢で働いているインカは、いろいろと納得したように頷く。

 昨年はロームズで、オリ王子軍との戦争で圧勝し、今回のミリダ国との戦争を未然に防げる・・・そんなことが出来たのは、【奇跡の世代】という圧倒的力を持つ組織を、指揮していたからなんだと全てに合点がいった。

 そして、圧倒的力と機動力を持つ【奇跡の世代】が、イツキに従っているという事実に、違った意味でショックを受けたインカである。

 それは、軍や警備隊の隊員の憧れである【奇跡の世代】のメンバーが、イツキをリーダーだと認めたということである。


 あまりに大きな話……国の機密事項であると思われる情報というか事実に、軍や警備隊を目指していない3年リョウガとインダス、2年のイースター、トロイ、ルビンは、もはや話についてゆけない。

【奇跡の世代】がなんたるかを知っている、卒業生のピドル、3年エンドとミノル、2年のホリーとナスカでさえ、信じられないという顔をしてイツキを見る。

 1年生の3人に至っては、昨年のイツキを知らない上に、ギラ新教や軍や警備隊のことを深く学んでおらず、リアクションの取り方が分からない。


「パンパン、よし、この瞬間から、我らイツキ組のメンバーは、イツキ君とリバード君の話を忘れる。分かったな!少しでも漏らすと、2人の命が危険に曝されるぞ!」


エンターは大きな音で手を叩き、全員の意識を正常に戻すと、しっかり脅しを掛けながら、1人1人に睨みを利かす。


 初めてのイツキ組の正式会合で、イツキというリーダーがどういう立場の人間で、常識外の行動をする領主であると知った新メンバーは、自分なんかがこの場に居ていいのかと、本気で迷い始める。

 イツキを敵視していた1年のデイルに至っては、神を見るような視線をイツキに向け、瞳をキラキラと輝かせている。

 先日、圧倒的な力の差を武術大会で見せつけられた時から、デイルはイツキの崇拝者になっていた。彼は絶対的な強さというものに憧れる少年だったのだ。



 3時のお茶の時間になり、侍女長のリリスがケーキを出してくれた。

 ここからイツキは、夏大会の話をしていく。

 リバード王子とレガート大峡谷に行った時にスケッチした、十数枚の絵を鞄から取り出し皆に広げて見せる。

 あの日帰ってから、記憶にある範囲でイツキは絵に色を着けていた。


「イツキ君って、絵も上手いよね。薬草学の講義の時の絵が、本当に上手くて驚いたけど、これはもう画家になれそうな域だね」


医療コースをとっているイースターが、ため息交じりに言う。


「開発コースの講義でも、本当にきっちりした図を描くよな」


発明部の部長でもあるインダスが、ウンウンと頷きながら付け加えた。


「イツキ君、とうとう教師までやってるの?」(ピドル)

「はあ、何だか断れなくて……入学時に軍に所属していたから、本当は2年生か3年生から始めるべきだったそうで、成績を考慮し、既に卒業資格を貰いましたので」

「う~ん、それはご苦労様。やっぱりイツキ君は仕事のし過ぎだな」


相変わらず忙しそうだとインカは同情するが、もう性格なのだろうと思うことにする。


 夏大会の段取りやグループ決めについて、皆でいろいろと意見を出し合う。

 ようやく学生らしい?話になり、イースターやトロイもいきいきと話し始める。




 午後5時、泊まる所がない(ラミルに家がない)メンバーは残り、他の者は帰る時間になった。

 ナスカは久し振りにインカ先輩の屋敷に泊まるので、迎えの馬車を待つ。

 イースターは、親友のトロイ(ランカー商会)の家に泊まる。

 ミノルはヤンの家に泊まり、明日キシ領の実家に、ヤンを連れて帰るらしい。

 リバード王子は王宮の馬車が迎えに来て、ヨシノリとケンも屋敷から迎えが来る。

 仕事があるピドルは、渋々軍の宿舎に戻る。

 

 本日ロームズ邸に泊まるのは、3年がインダスとエンドとリョウガ、2年がルビンとホリー、1年がデイル。そしてエンターはイツキに引き留められ泊まることにした。

 こういう時のことを考えて、広目の書斎は本棚で区切られ、タダで貰った2段ベッドが置いてあり、2ベッドの客室には豪華で大きな長椅子が置いてある。

 書斎がルビンとホリー、客室に3年の3人、デイルはパルの従者部屋で、エンターとパルはイツキの寝室で寝る。




 夕食前、イツキはデイルを執務室に呼び出した。


「デイル、君にいいことを教えてやろう。ただし、これから話すことは国家機密だ。親であっても決して話してはならない。約束できるか?」


「はいイツキ先輩。約束いたします」


デイルは初めて敬意を込めてイツキ先輩と呼び、素直に頭を下げ約束する。


「僕が【奇跡の世代】を率いるようになってから、まだ、誰も欠けていない。49人全員が生きている。フィリップはロームズの伯爵になり、現在カルート国で仕事をしている。ソウタ指揮官は、下半身を動かせないが、ロームズで住民と軍の軍事演習の指揮を執っている」


「えっ!ソウタ叔父さんは生きているのですか?下半身が動かせないって……」


イツキの話を神妙に聞いていたデイルは、椅子から立ち上がり、大声で叫びそうになるのを堪え、何とか小声でイツキに問う。


「ああ、ロームズには医学大学の優秀な医者がいる。僕はソウタ指揮官が歩けるようになると本気で信じている。他の医者が無理だと言っても、僕は絶対に諦めない。そして、歩けるようになったら、ロームズの子爵位を授けると約束した」


イツキは優しく微笑みながら、頑なだったデイルの心を解していく。


「だったら何故、何故死んだと……王様は発表されたのですか?」


デイルはぽろぽろと涙を溢しながら、どうして?何故?と質問する。


「ギラ新教の殺し屋から、命を守るためだ。奴等にとってキシ組は、最も抹殺したい人間だからな。アルダス様とフィリップは、30人の殺し屋に狙われた。ソウタ指揮官は軍本部で殺し屋に後ろから刺された。僕はその殺し屋と2度戦ったが、1度目は死にかけ、2度目は逃げられた。あいつは強い!僕の腕では……まだ勝てない」


「えっ!イツキ先輩が勝てない・・・神業を持つ先輩が?」


 デイルは混乱する。

 叔父の死の真相と、ギラ新教が殺し屋を雇っていること、そしてキシ組やイツキ先輩が、命懸けの戦いをしていたと知りショックを受けた。

 絶対に認めたくないと嫌っていた目の前の先輩が、実は大好きな叔父を守ってくれていた。神業の腕の持つ先輩が、勝てないと断言する殺し屋がいるという事実に恐怖し、己の無知と無力を思い知った。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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