イツキ組集合(1)
4月5日、今日から20日まで春休みである。
ロームズに帰るのは13日の予定だが、ミリダ国からの知らせが届くまで、イツキはぎりぎりラミルで待つことにした。
そして本日は、今年度最初のイツキ組正式会合である。
新メンバーがラミルの屋敷に集合するのは始めてだし、卒業したメンバーとの顔合わせも始めてである。
ロームズに居るクレタ、パルテノン、モンサンは欠席だが、警備隊のエンター、軍のインカとピドルの3人は、在校生より早い時間に集合を掛けていた。
「いらっしゃい、3人揃って来たんだね」
「久し振りイツキ君。いや、ロームズ辺境伯様」(ピドル)
「久し振りイツキ君。いろいろ父がお世話になったようだね」(インカ)
「イツキ君、ヨム指揮官が泣いてたぞ……何やったんだ?」(エンター)
「嫌だなあエンター先輩……人聞きの悪い……とにかく入ってくれ」
イツキは久し振りの友との再会に、満面の笑みでエントランスに招き入れる。
久し振りのメンバーに、事務長のティーラも笑顔で出迎えてくれた。
新しく働き始めたリリス22歳がお茶の用意をしてくれたので、全員が揃うまでダイニングでゆっくり話すことにした。
「なあイツキ君、ミリダ国との戦争はどうなるんだろう?増員要請も来ないし死傷者の報告も聞かない。父上からもカイ領の国境は大丈夫だとしか言ってこないんだが……」
軍の人事部に配属になったインカは、開戦後5日は忙しかったが、その後は全く動きがないのが不思議で、イツキなら何か知っているのではと質問する。
「その件は、そろそろ解決する気がするんだが、僕も知らせを待っている状態だよ」
「イツキ君、今度は何をしたんだ?」
「エンター先輩……僕が何かをしたと前提ですか?」
「違うのか?」
「どうでしょう・・・」
完全に疑っているエンターの視線を、意味あり気な笑みを浮かべてイツキは逸らす。
「それよりも、卒業後の先輩方の仕事や生活の話を聞かせてください」
瞳をキラキラさせ、イツキは興味津々なんですという感じで3人にお願いする。
その眩しい笑顔に、イツキ第2親衛隊の隊長だったピドルが勝てるはずもなく、新人教育部隊での体育指導の様子を嬉しそうに話し始める。
「俺は人事の仕事をしながら、新しく発足した【破壊工作対抗部隊】の勉強会に参加している」
「えっ?インカも?俺は今月、【破壊部隊】の訓練に参加した。訓練と言っても、ギラ新教の特徴を学び、偵察時の注意などを先輩から指導を受けただけだが」
エンターは驚いたようにインカを見ながら、自分の体験を話し始める。当然ここだけの話だと付け加えて。
全員が集合する午前11時が近付いて来たところで、イツキはピドルに向かってアドバイスを始めた。
「ピドル先輩、先輩はホン領の子爵家長男でしたよね?」
「そうだよイツキ君。ホン領の貴族なのに軍に居るのは、肩身が狭いよ。それが?」
突然自分の身分を聴いてきたイツキに、少し不安そうに視線を向ける。
「これからホン領は、本気で国境の護りに力を入れるでしょう。しかし、ホン領の貴族は軍閥が少ない……いえ、居ないに等しい。だからこそのチャンスです。弟や親族を軍に引っ張ってください。ホン領主は、これから騎士の爵位を増やすはずです。そして、軍閥の貴族を重用するでしょう。先輩は、頑張って軍学校の教官を目指してください」
「・・・軍学校の教官」
これ迄イツキは、貴族の派閥や力関係に興味が無かったので、こういう話をしたことが無かった。なので、言われたピドルも驚いたが、エンターとインカも真剣な表情でイツキの話を聞く。
「俺になれるだろうか?」
「しっかりしろピドル!俺は軍の人事に居るんだ。パルの父親は軍学校の主任教官だ。それに、此処に現役の軍学校教師……いや、研究者が居る。使えるコネを駆使してでも上がっていけ!俺だって、いつまでも少尉でいるつもりはないぞ」
自信なさ気なピドルに顔を向けて、インカは友に活を入れる。
せっかくイツキが、いや、ロームズ辺境伯様がチャンスを与えようとしてくれているのだ。絶対その期待に応えるべきだと背中を叩く。
ちょうどその時、在校生組のリバード王子とケンを伴って、パルが馬車で帰ってきた。2分後には、辻馬車を使った残りの在校生が、ワイワイ騒ぎながら到着する。
在校生組がリビングに通された時、1台の馬車がロームズ邸の前に到着した。
その馬車は、ブルーノア教会のファリス専用の馬車で、どうやら待ちに待った知らせが届いたようだった。
イツキとティーラは急いで玄関の前まで移動し、ファリスを出迎える。
「イツキ様、ミリダ国のヤギ正教会から、イツキ様宛の手紙が届きました。1通はサイリス様から、もう1通はミリダ軍総司令官ラテス様からです」
ファリスのグラープ45歳は、神妙な表情で2通の手紙を差し出す。
◆◆ リース イツキ様 ◆◆
ミリダ国の破滅を止めていただき、本当にありがとうございます。
ムルギス皇太子は、暗殺やギラ新教からの奪還を考え、ヤギ正教会の地下にて保護しています。
対外的には自刃とされていますが、暫く洗脳を解く努力をいたします。
1099年 3月30日 ヤギ正教会 サイリス エルタミル
◆◆ イツキ様 ◆◆
3月26日、王妃、王子、王女を保護。
3月28日、ムルギス皇太子を反逆罪で捕縛。(皇太子の側近2人、高位貴族4名と交戦。全てギラ新教徒)
3月29日、王子が成人するまで、王女を女王とし即位させることを議会にて可決。
3月30日、現王妃が、国民に皇太子の自刃を発表し、王女の即位を宣言。
ありがとうございました。必ず御礼に参ります。
1099年3月30日 ミリダ軍総司令官 ラテス
「グラープさん、どうやら戦争は回避され、ミリダ国の危機は去ったようです」
「本当ですかイツキ様!良かった。それで、国王様にお知らせすべきでしょうか?」
「いいえ、僕宛の手紙ですから、軍からの報せでいいでしょう・・・あぁ、今うちにリバード王子が来てるから、伝言しておきます」
イツキは本当に嬉しそうに微笑み、その場でブルーノア様に感謝の礼をとった。
イツキの屋敷に初めて来た者は緊張し、きょろきょろとリビングの中を見回す。
特にイツキ親衛隊副隊長であり植物部部長のリョウガは、準男爵家の子息であり、高位貴族の友人の家に遊びに行ったことなどなかったので、緊張で喉がカラカラである。
「それでは、新しいメンバーも居るので、卒業生と新メンバーは自己紹介をしてください。先ずは先輩から」
本日の進行は執行部部長のヨシノリである。
自己紹介が終わると在校生のリクエストで、卒業生3人の現在の様子を皆に話すことになった。
新人教育をしているピドルの失敗談は、大いに皆の笑いを誘い盛り上がった。
ちなみに本日のリバード王子は、イツキ親衛隊1年部代表として来ているので、完全無礼講として話をする。呼び方もリバード君だった。
時刻が昼になったので、ダイニングに料理が用意されていく。
本日は、侍女長推薦の王宮メイド(料理担当)が3人、応援に来てくれている。
侍女長の話では、今日はリバード王子の誕生日なのだが、後宮で誕生会をするのは、第1王子のサイモスだけにしろと、昨年王妃が勝手に決めたらしく、納得がいかないリバード王子付きのメイドたちが、大喜びで休暇を取って来てくれたらしい。
全員ダイニングに移動し、豪勢に並んだ料理の前で、イツキは挨拶を始める。
本来なら有り得ないが、手伝いに来てくれた後宮メイドさんにも集まってもらう。
「本年度最初のイツキ組の会合を、無事に開催できることを神に感謝します。そして、僕たちのために素晴らしい料理を用意してくださった王宮メイドの皆さん、ありがとうございます。また、偶然ですが、本日はリバード君の誕生日です。折角ですから、一緒にお祝いしましょう」
イツキの挨拶を受けて、メイドさんやリンダやロームズ邸の侍女長リリスが、全員にワインとジュースを注いで回る。ジュースは1年生の3人の分である。
「それではイツキ君のご指名により、乾杯の音頭を取らせてもらう。我々はこれからもイツキ君を支える友であり、ランドル大陸に平和を取り戻すため、共に戦う戦友である。時代はますます混迷の色を深めているが、ラミル上級学校の学生、卒業生としての誇りを忘れず、これからも団結を強めていこう。それでは、我らのリーダーイツキ君に!そして、リバード君に!乾杯!」
「「「イツキ君に、リバード君に、乾杯!」」」
インカ先輩の乾杯の挨拶に続き、全員がイツキとリバードの名を呼びグラスを掲げる。
王子や領主様たちと一緒に乾杯できたメイドさんたちは、嬉しそうにワインに口を付けると、直ぐに料理を取り分けていく。
楽しそうに笑っているリバード王子を見て、手伝いに来て本当に良かったと3人のメイドは心から思った。
先月まで後宮で働いていたリリスも、嬉しそうに新しいワインの栓を抜く。
各自が自分の皿に料理を盛ってもらい、リビングへと移動していく。後は、皿が空になれば自分で料理を取りに行く。
女性陣はスイーツ多めのメニューで、キッチンの休憩室でお祝いするらしい。
食事が始まって10分が経過し、少しお腹が落ち着いて来たところで、イツキは立ち上がり、皆に吉報を伝えることにした。
「先程知らせがあり、ミリダ国のクーデターは制圧され、新国王は、バルファー王の姉上であり、王妃エルファ様がお産みになられた王女ノリエ様と決まった。
ノリエ王女18歳は、弟であるエイモス王子7歳が成人されるまで、8年の間を繋ぐ女王となられる。
ギラ新教に洗脳され、クーデターを起こしたムルギス皇太子は自刃された。
ミリダ国とレガート国は、これからも同盟国となるだろう。
リバード君、これで遠慮なく、モンタンに乗ってホン領に行ったことを話しても大丈夫ですよ」
「イツキ先輩やりましたね!本当に、あ時の会談が成功したのですね!」
イツキの話を聞いたリバードは、皿を持ったまま立ち上がり嬉しそうに叫んだ。
「「「なんだってー!」」」
少し遅れて、事情が呑み込めた者が叫び、まだ理解できない者は、どういうこと?と首を捻りながら叫んだ者に説明を求めた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




