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予言の紅星6 疾風の時  作者: 杵築しゅん
ミリダ国とカルート国

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春期試験と春期武術大会

 ミリダ国から帰った翌日の18日は、本来なら1日職場体験の予定だったが、突然の第1級警戒体制のため延期となった。

 そして心配していた通り、4月8日から開催される予定だった上級学校対抗武術大会も、開催地であるカワノ領主がカルート国に行ったこともあり延期と決まった。

 夏休みが始まる7月1日から7月30日までの間に開催されるだろうが、戦況によっては中止も有り得るだろうと校長は学生たちに説明した。


 学生にとって大きなイベントが2つも延期され、学生も学校も予定の組み直しに頭が痛いところである。

 イツキにしたら夏休みは、ロームズ医学大学で講義の予定を組んでいるので、モンタンで乗りつけるか、どちらか欠席する可能性も視野に入れねばならない。


 その前に、3月26日から春期試験が始まり、4月2・3日は校内の春期武術大会がある。

 既に卒業扱いとなっているイツキは、春期試験は受ける必要がなく、今年から教師の真似事もしているので、学生に試験勉強を教えることは遠慮した。

 当てにされていた発明部の後輩からは、涙目でうるうるされたが、自力で頑張れと肩を叩いたイツキである。



 ようやく薬学担当の新しい教師が赴任し、午後が週2日空いたので、イツキは夏大会の準備のため、農業開発部に行き、これからの打ち合わせをすることにした。

 カルート国やミリダ国の問題は解決していないが、遣ることはやったので、暫くは学生としてだんまりを決め込むことにした。


「やあ、いらっしゃいイツキ君。夏大会の要項見たよ。今年は本格的に薬草採取をするんだね。それから、女学院の香水はどうすればいいのかな?」


久し振りに会う教え子に、農業開発部に出向したポート先生が嬉しそうに問う。

 現在農業開発部は、野菜や果物の品種改良課に4人、生産性を上げるための栽培研究課に4人、ポート先生が担当している薬草課には7人が配属されていた。

 ポート先生が担当する薬草栽培は、即お金を産む事業として、卒業したばかりの学生3人と、薬草園を造る予定のキシ領とカイ領の担当者が其々1人ずつ、そして講師としてブルーノア教会の薬草栽培担当者の1人を含む、合計7人が居る。


「ロームズ辺境伯様、カイ領は大丈夫でしょうか?」


ミリダ国との戦況の情報が全く入ってこないカイ領の担当者は、会話の途中で申し訳なさそうに割り込んできた。

 イツキは恐らく大丈夫だと思うと告げ、自分の予想では、来月にはミリダ軍は退くだろうと、予言のように笑いながら言った。


 イツキは夏大会の要項を片手に、これからの予定と段取りと見通しについて説明していく。


「素人の学生に、どれだけ採取できるのか分からないので、キシとカイの薬草園が一杯になることはないでしょう。それに、無事に育つとは限りません。本来なら、自生している場所で栽培するのが好ましいのですが、先ずは欲張らず栽培し易い薬草からでもいいと思います」


薬草栽培は難しいので、コツコツ経験を積むしかないとイツキが言うと、ポート先生や他の研究員たちは、ちょっと安堵したような表情で頷いた。


「そうだな。行商人も特産品目当てにレガート国にやって来るようになったから、焦らずやっていこう。それで、香水についてはどうなんだイツキ君?」


「はいポート先生、もしも良い製品が出来たら、農業開発部に新しく特産品課を作ろうと思います。そして、女学院の卒業生や女性の雇用を増やしたいと思います。ロームズの中級学校は専門コースがあって、農業の専門で学ぶ生徒もいます。今年立ち上げた農業ギルドで、即戦力で働いてくれるでしょう」


 実際はロームズの職員に丸投げしているイツキだが、なんとか食材を確保できていると報告を受けていた。働き手の確保も抜かりないイツキである。


「ああ、カイン先生から聞いているよ。農業ギルドを作るという発想がすごいよね。成功したら我々も参考にしたいので、時々情報交換をさせて欲しいんだが、いいかな?」


「はい勿論です。今ロームズ医学大学の薬学部と農業ギルドは、協力して肥料を作っています。まだまだ改良が必要ですが、2年を目処に商品化したいと思ってます」


「イツキ君……商魂逞しいなあ……」


 イツキは久し振りに楽しい時間を過ごした。同じ目標を持つ者と話すのは、とても充実した気持ちになれる。

 夏大会までに採取させる薬草のリストを持ってくると約束して、イツキは学校に戻った。





 春期試験は何事もなく終了し、4月2日、武術大会の日がやって来た。

 イツキは剣術と体術をとっていたが、槍術のカイン先生を【丘の上のキニ商会】に引っ張ったので、槍術の審判もしていた。

 剣術も体術も指導者リストに入っていたイツキは、午前中に槍術の審判をやり、2日の午後は体術決勝戦に参加し、3日の午後は剣術決勝戦に参加する。


「イツキ君、やっと対戦できて嬉しいよ。体術部部長として、絶対に負けない」


現在イツキの前に立っている、ヨシノリ執行部部長の親衛隊長であり体術部部長のオーランドは、イツキと対戦できるのが嬉しくて仕方ないのだが、負けるわけにはいかないと、真剣な眼差しで勝利宣言をする。


「僕も全力で戦うよオーランド。君が勝ったら、夏大会の先陣を任せる」

「おう、任せてくれ!」


 まさか決勝まで勝ち上がると思っていなかったイツキは、練習不足がたたって少し足首にきていたが、にっこりと微笑むと夏大会の話をする。

 そして多くの声援を受けながら中央に立つと、悔いを残さないよう全力で戦うため気合いを入れる。

 年に3回ある武術大会に、昨年は1回しか参加できなかった。今年もどうなるか分からないイツキは、これが最後のつもりで集中する。


 開始の掛け声とともに、オーランドはイツキの腕をとりに来た。

 イツキはスルリとかわしオーランドの後ろに回る。そして後ろから攻めようと試みるが、如何せん体重差が30キロあるオーランドを持ち上げるのは困難だった。

 お互い上手く組み合えないまま時間が過ぎるが、足を攻め始めたオーランドの足技のスピードに、イツキは一瞬攻めるか避けるか迷ってしまった。

 体術部の部長であるオーランドは、その一瞬の迷いを見逃さなかった。

 気付いた時にはオーランドの全体重がかぶさり、イツキの体はオーランドの下にあった。


「それまで!オーランドの勝ち!」


体術の審判である副教頭のダリルが、オーランドに向かって右手を上げた。

 緊迫した戦いに手に汗握っていた応援団から、歓声と拍手がおくられる。


「夏大会の先陣は任せてくれ!」


オーランドはイツキの右手を引いて体を起こしながら立ち上がらせ、嬉しそうにイツキに約束する。


「任せた。小型魔獣は見掛けより獰猛だが、オーランドの蹴りに期待する」

「えっ、小型魔獣?ちょっとイツキ君?本当に魔獣が居るの?」

「もちろんさ。先陣は頼もしい体術部に任せて、僕は空から指示を出すよ」


イツキはオーランドと握手を交わしながら、嬉しそうに黒く微笑んだ。

 せっかく優勝したというのに、凄く微妙な表情のオーランドが、大喜びで手を振っている体術部の仲間に、泣きそうな顔を向けたのは仕方のないことである。




 3日の午後は剣の決勝である。

 剣の決勝は、A級が体育館の前方で、B級後方で行われる。

 決勝に進んだ8人は、全員がイツキ組のメンバーである。

 イツキの最初の対戦相手は1年生のデイルだった。

 ミリダ国との開戦が分かった次の日、イツキはデイルと公開対戦する予定だったが、戦争についての勉強会になってしまい延期されていた。

 話題の2人の試合を観ようと、体育館の前方は場所取りでケンカ騒ぎが起き、校長が渋々ステージの上からの観戦を許可する事態となった。


「イツキ先輩、真偽も判らないイツキ伝説は今日で終わりです。僕は貴方のファンではありませんから、ヤン先輩たちみたいに手加減など出来ません」


デイルは審判の待つ場所まで歩きながら、小声ということもなく普通の声の大きさで、イツキに勝利宣言をする。

 デイルの話を聞いた1年生は「負けるなデイル」とか「優勝しろ!」等と叫びながら応援する。

 2・3年生は生意気なデイルに顔をしかめるが、直ぐに余裕の表情に戻ると、何故か偉そうに腕を組みニヤリと笑う。


「デイル、3分以上僕と戦えたら、いいことを教えてやる。そして、3分以内に僕を倒したら、君に大事な人を会わせてやろう」


イツキはデイルにだけ聞こえる大きさの声で囁き、なんだか嬉しそうな顔をして審判の前まで歩いていく。


「決勝トーナメント1回戦、1年デイル対3年イツキ。・・・始め!」


よく通る男らしい声で、イツキの担任のフォースが試合開始を告げた。


 2人の戦いは、積極的に攻めるデイルの攻撃を、イツキが防戦する形で始まった。

 一見すると完全にデイルが攻めているように見えるが、イツキはほとんど息も上がっておらず、なんだか嬉しそうに微笑んでいるようにも見える。

 審判であり剣術の主任顧問であるフォースは、そう感じながら、また一段とイツキが腕を上げたのだと気付いた。


『いったい何時練習をしているのだろうか?』と、教え子の強さに舌を巻きながら、ゆらりと揺れるイツキの剣気に、ゾクッと背中に悪寒が走った。


 2分が過ぎた頃、デイルの剣はイツキに届かなくなった。

 踏み込んでも横からなぎ払っても、僅か3センチ届かない。剣ではらわれることさえ減り、完全に動きを見切られたのだとデイルは気付いた。

 信じられないという思いと、信じたくないという思いを抱きながら、デイルは一旦下がり距離を取った。

 そして、落ち着け!と自分に言い聞かせながら呼吸を整えると、正面の敵を睨むように視線を向けた。


『笑っている……?』とイツキの顔をみて思った瞬間、イツキの剣が自分の眼前に迫ってきた。まるで瞬間移動でもしたのかと思う程に、信じられない早さで、気付けば剣先が自分の首に突き付けられていた。

 しかし、その剣は直ぐに視界から消え、手首に何か衝撃を感じたと思ったら、カン……カシャンと音が響いた。


 何が起こったのだろうかと混乱しながらも、「落ち着け!落ち着くんだ!」と声に出したつもりが実際は声にならず、剣を構えなければと強く柄を握る。

 握ろうとして、そこにいつもの感触が無い・・・


「なんだ?」と今度はきちんと声になったが、目の前に在るはずの剣の姿がない。


「勝者、3年イツキ!」と、フォース先生の声が体育館に響いた。


 呆然とするデイルは剣を探して視線をさ迷わせ、足元に視線を向けたところで、ようやく自分の剣を見付け、全てを理解した。


「イツキ君、あれはヤりすぎだ!本来なら危険行為としてペナルティーを与えるところだが、気付いたのは数人だろう。明日からデイルは、剣を握れるだろうか・・・」


「フォース先生、デイルはそんな柔な奴じゃありませんよ」


イツキはデイルの首に剣を突き付けたことを叱られながら、肩をすぼめるふりを少しして、悪びれもせず愉しそうに笑った。


「容赦ねーなイツキのヤツ」(親友のナスカ)

「はあ……また先に行ってる……」(風紀部隊長ヤン)

「あれはない!真剣だったら死んでる」(風紀部副隊長ミノル)

「良かった……俺あたらなくて……」(2年ホリー)

「まあ、あのくらい当たり前です。むしろ甘過ぎです」(従者パル)


次の試合の準備で体を解していたパルは、対戦相手であるナスカに向かって、誇らしそうに断言した。


 結局A級トーナメントの決勝は、イツキとヤンの対戦となり、足首の痛みが気になったイツキが、開始後40秒で勝利した。 

何時もお読みいただき、ありがとうございます。

暫く更新が3日おきになりそうです。

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